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「何から読めばいいか」がわかる 
全方位読書案内』

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No.1146

 

 『「何から読めばいいか」がわかる 全方位読書案内』齋藤孝著(ウェッジ)を読みました。

 この読書館でも紹介した『読書のチカラ』『古典が最強のビジネスエリートをつくる』『教養力』、そして『大人のための読書の全技術』の著者による読書指南書です。

 

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   著者の写真入りの本書の帯


 

 本書の帯には本を持った著者の写真とともに、「必要なのは、知識の量ではなく、『現実の世界』と『教養の世界』をどうつなげるか。教養を完全に自分のものにしていくための、大人のための読書案内。」「317冊の書籍リスト付」と書かれています。

 

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   本書の帯の裏


 

本書には巻頭カラー写真のページがあります。そこに、現代日本を代表する読書家としても有名な齋藤氏は、読書に欠かせないアイテムとして30分砂時計を愛用しているとして、その写真を掲載しています。この写真を見て、わたしは「そうだ、自分は読書というよりもブログの執筆用にこの30分砂時計を使おう!」と思い、早速アマゾンで購入しました。詳しくは、わたしのブログ記事「30分砂時計」をお読み下さい。

 

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   『全方位的読書案内』の巻頭カラー写真より(左下に注目!)


 

 本書の「目次」は、以下のような構成になっています。


はじめに「教養の世界に飛び込め!」
第1章 歴史観
  1. 日本史
  2. 世界史
第2章 思想観
  1. 思想へのアプローチ
  2. 関係主義的なモノの見方とは?
  3. 構造主義
第3章 日本文化観
  1. 日本の伝統文化
  2. 身体感覚を取り戻す
  3. 奥深い日本語
第4章 仕事観
  1. 経済学
  2. 経営学
  3. 仕事への心構え
第5章 科学観
  1. 苦手意識を払拭する
  2. 生物学
  3. 化学・物理
おわりに「使いこなしてこそ、教養は役立つ」
「本書に登場する書籍リスト」

 

 「はじめに」で、著者はまず教養について以下のように述べています。


「教養というのは、範囲が膨大です。特定の分野の知識を持つことを『教養がある』とは言いません。そうではなく全体的に、あるいは全方位的に向かっていく。とにかくいろいろなものを知ってみたいと思う気持ちが大切です。しかも教養とは、雑学ではなく、豆知識でもありません。本質をとらえて理解するのが教養です。雑学や豆知識は、知っていても知らなくても どちらでもよいこと。雑学のようにバラバラと覚えることと、教養として自分の中に身につけていくことはまったく違うのです」


 教養とは「知識が多い」ということでもありますが、著者は「統一した視点を持つことが、教養の柱です」と述べています。至言ですね。

 

 また、著者は情報についても以下のように述べています。


「現代は情報の時代で、あらゆる情報がどんどん入ってきます。若者たちはSNSに夢中です。その中で1週間を過ごし、1か月を過ごしていると、すべての情報が流れていき、友人とのコミュニケーションだけで終わっていく。新しい知見がまったくないまま1か月が過ぎてしまうことがあり得ます。しかし、1冊の本によってモノの見方が180度変わることもあります。本というのは、それほどの力を持つものです」

 

 さて、本書を読み進んでいたら、第1章「歴史観」の2「世界史」の中にある「イスラム教を知る」という項に拙著『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教』(だいわ文庫)が紹介されていて驚きました。

 

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   『「何から読めばいいか」がわかる全方位読書案内』より


 

 本書の38ページから39ページにかけて、著者は書いています。


「イスラム教の神と、キリスト教の神と、ユダヤ教の神は、基本的には同じ神様です。『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教~「宗教衝突」の深層』(一条真也、だいわ文庫)は、三者の関係を、長女がユダヤ教で、次女がキリスト教で、三女がイスラム教、というように表現し、なぜ彼女たちが行き違ってしまったのか、なぜこんなに衝突するのかをストーリー仕立てで語っていてわかりやすい。私たちがいちばん理解しにくいのはイスラム世界ですが、この本の内容は、心に入ってきやすいと思います。世界を広く理解するためにはイスラムだけではなく、宗教についての理解を深めたいものです」


 わたしは、これを読んで大変感激しました。あの本は、アマゾンの「イスラム教」カテゴリで長らく1位をキープした思い出の本です。2006年に刊行されましたが、今でも内容はさほど古くなっていないと思います。しかし一般的には「イスラム国」の名前で呼ばれている過激派組織「IS」の登場によって、これまでの「イスラム教」および「世界宗教」についての本の内容は一新される必要があります。今や、人類にとって「イスラム」は最大のキーワードとなりました。読者にとっても「イスラムをもっと知らなければ」という学習意欲が非常に高まっています。わたしも「イスラム国」を視野に入れた世界宗教の入門書を書き直したいと思っています。
 今月13日に起こったパリ同時多発テロは「イスラム国」の犯行でしたが、「13日の金曜日」というキリスト教における厄日を選んだところに「イスラム国」の強い憎悪を感じました。その背景には十字軍以来の怨恨がありますが、キリスト教とイスラム教の根深い対立の構造を理解するためにも拙著『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教』は最適のテキストだと思います。 

 

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   わが書斎の『世界の名著』の棚


 

 第2章「思想観」の1「思想へのアプローチ」では、「まずは名著本から始める」として、著者は以下のように述べています。


「読書の大きな目的は、知らない世界を知ることです。私は大学時代、『思想』という言葉に憧れ、思想そのものを網羅したいという野望に燃えていました。そのとき役に立ったのが、『日本の名著』(全50巻、中公バックス)と、『世界の名著』(全78巻、中公バックス)でした。日本と世界の思想の根幹となる名著が、要旨付きでまとめられています。大変便利に使わせてもらいました」


 『日本の名著』も『世界の名著』も全巻、わたしの書斎に並んでいます。
 わたしも、これらのシリーズには大変お世話になりました。

 

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   愛読した『日本の名著』『世界の名著』


 

 また、著者は続いて以下のようにも述べています。


「より読みやすいものとして、『日本の名著―近代の思想』(桑原武夫編、中公新書)と『世界の名著―マキアヴェリからサルトルまで』(河野健二編、中公新書)があります。新書ですので、読みやすい。『この本に取り上げられている名著を読破したい』という憧れを抱きました」


 これまた、なつかしい本が登場しました。この2冊の中公新書をわたしはボロボロになるほど読み返しました。今も書斎にあります。

 

 さらに「基礎知識は高校の教科書で」として、著者は「教科書のすばらしいところは、『押さえるべきことを網羅して押さえてある』こと。そして『間違ったことは書いていない』ことです。しかも文章に無駄がなく、きっぱりと説明しています」と述べています。
 教科書についても、著者は次のようにも述べています。


「ものすごく大事な問題を、ひとつの段落で説明しきってしまう。教科書というのはいかにも落ち着いた本のように見えますが、じつは荒業に次ぐ荒業と言うことができます。ほかの考え方はもちろんあるでしょうけれど、ここに書かれていることが違うかというと、大体妥当なところで記述がまとめられている。その点では、専門家の人たちが寄り集まり、練りに練って作り上げた要約の塊のような作品です」

 

 著者は弁証法を思想の基本と見ており、次のように述べます。


「互いに意見が違って矛盾があるから、新しいものが生まれていく。これが西洋の議論の伝統です。ところが日本では、とかく『和を以て尊し』とするため、反論することを失礼に感じ、議論の楽しさがなかなか身につかない。しかし、弁証法という考え方を知っておくと、西洋人の思考様式がすっきりとわかるようになります。私は、弁証法を押さえておくことは、思想や哲学の基本だと思っています」

 

 また「概念」というものについて、著者は次のように述べます。


「私は、読書というのは、概念を自分のものにしていくことだと考えています。最終的には、その本にある概念を使いこなせるようになるといい。そして本書では、本を1冊読むごとにひとつずつ概念が増えていくことを目標にしています。概念が増えるというのは、『物事を考える道具や武器や技』が増えていくということです」


 著者は関係主義的な視点や視座を技にしようと提案しますが、この源流の1つにソシュールの構造主義があります。ソシュールはスイスの言語学者ですが、「言葉とは、差異の体系だ」と言いました。著者は構造主義について次のように解説します。


「たとえば虹が出たとします。私たち日本人は『7色の虹だ』と言いますが、虹は文化によっては必ずしも7色ではありません。『赤橙黄緑青藍紫』というスペクトルの間に線が引かれているわけではないからです。線を引いているのは言語です。『分節化』と言いますが、『赤橙黄緑青藍紫』の7つに定めれば、7色に見える。つまり色鉛筆と同じで、7色の色鉛筆もあるかもしれないけれど、それが12色や24色になることもある。民族によっては3色や4色の場合もあります」


 構造主義といえば、人類学者のレヴィ=ストロースに触れないわけにはいきません。著者は、以下のように述べています。


「レヴィ=ストロースは『悲しき熱帯』(上下巻、レヴィ=ストロース、川田順造訳、中公クラシックス)という旅行記を残しています。アマゾンの未開民族の中に入り、その集団の風習を記録したもので、あまり難しくはなく読みやすい本です。この部族には様々な風習がありますが、人が亡くなると狩りに出かけて自然のほうから負債を返してもらうという考え方がある。狩りにみんなで出かけるため、葬儀は何か月も続きます」

 

 ここで葬儀の話が出てきました。じつは、わたしは葬儀というものに関心があります(笑)。続けて著者は次のように述べています。


「何か月もお葬式を続けるのはおかしな話に思えますが、その部族の文化と自然の関係においては、『貸し借り』という形があるのです。人が死ぬと、自然のほうに『ひとつ取られた』感覚がある。だから、獲物で取り返します。私たちにはわかりにくい感覚ですが、そもそも婚礼や葬儀は、どこの民族でもしきたりが多いもの。日本の結婚式やお葬式でも『なぜ、これをやるのか』と聞かれたら意味がわからないものがあるでしょう。人は、そういう文化の中に生きているのです」


第3章「日本文化観」の1「日本の伝統文化」には、いきなり「儒教を知る」という項が登場して、わたしは狂喜しました。しかも、わたしの愛読書が以下のように紹介されています。


「日本文化を語るとき、仏教や儒教の話を欠かすことはできません。しかし仏教はともかく、儒教は身近ではないと感じる人も多いでしょう。『儒教とは何か』(加地伸行、中公新書)や『沈黙の宗教―儒教』(加地伸行、ちくま学芸文庫)を読むと、それが理解できるようになります。私たちがなぜ葬式をし、祖先を敬うのか。その根本は、儒教にあるとされます。『孝』の概念は、先祖からつながる生命の一体感が永続性を基盤としている。私たちが『日本的』と思っている考え方を、東アジア全体でとらえ直す視座を与えてくれるものです。『日本独自の』とか『日本固有の』といったとらえ方にこだわりすぎると、かえって日本の文化の広がりを見失います。
 また、『孔子伝』(白川静、中公文庫BIBLIO)のような本から儒教を知るのもよいと思います。『論語』の背景に横たわる儒教というものが描かれていて、とても興味深い内容です」


 日本文化観では、著者は「死のふちで何を語るか」として、「死」に対してどのような態度を取るかが日本文化の神髄であると言います。そして、「死は人間にとって最大のストレスであり、それを受け止めなおかつ歌にして表現する。多くの人の辞世の歌を眺めていくと、日本人の精神史が読み取れます」と述べます。これもまた、わが持論ですので、嬉しくなりました。


 第4章「仕事観」では、2「経営観」でドラッカーまで登場します。

 「ドラッカーを読む」の項で、著者は次のように述べます。


「経営学の本で人気があるのは、なんといってもドラッカーです。日本人は世界でいちばんドラッカーが好き。ドラッカー自身が日本の経営者と非常に親しかったという理由もありますが、彼の本はとても売れています」


 これはまあ常識的な話であり、誰でも知っている話です。
 しかし、ここからが著者の真骨頂で、以下のように述べています。


「一方で、『世界の経営学者は、ドラッカーなんて誰も読んでいない』という内容の本もあります。『世界の経営学者はいま何を考えているのか―知られざるビジネスの知のフロンティア』(入山章栄、英治出版)がそれです。
 特にアメリカの経営学者では、ほとんどがドラッカーを読まないと言います。『正直なところ、日本のドラッカー・ブームは私にとっては驚き以外のなにものでもありません。』(13ページ)と、著者の入山章栄さんは書いています。でも、ドラッカーに名言が多いことは認めています。『名言ではあっても、科学ではない』が、彼のドラッカー評。世界の経営学は科学を目指しているというのです」


 わたしは、この『世界の経営学者はいま何を考えているのか』のことは知りませんでした。早速アマゾンで注文して読んだことは言うまでもありません。


 というわけで、これまでの著者の本と同様に、本書も大変勉強になる一冊でした。著者の齋藤孝氏は1960年生まれですが、わたしの尊敬する教養人の1人であります。ちなみに佐藤優氏も1960年生まれです。63年生まれのわたしにとって2人とも人生の先輩ですが、いずれも現代日本随一の「本読み」であり、「知」のフロントランナーです。少なくとも、50代ではこの2人が読書界では最強であると思います。そんな齋藤氏に拙著を評価していただき、光栄でした。いつか齋藤氏に直接お会いし、読書談義したいです。