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死にカタログ』

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No.0742

 

 『死にカタログ』寄藤文平著(大和書房)を読みました。

 著者は、1973年生まれのイラストレーター、アートディレクターです。JT広告「大人たばこ養成講座」でおなじみの人ですね。『死にカタログ』という書名から、わたしは『完全自殺マニュアル』鶴見済著(太田出版)のような内容を連想しましたが、一読して、それは誤解とわかりました。「死ぬってなに?」という素朴な疑問を絵で考えた、新しい「死の本」です。


 帯には「あなたにとって、いちばん未来の話じゃないか。」というコピーが大書されていますが、これはコピーライターの岡本欣也氏によるものだそうです。名コピーですが、わたしならば、「あなたにとって、いちばん確実な未来じゃないか。」というコピーが思い浮かびます。

 

 それにしても、「死」をこれほどまでに軽やかに扱った本があるとは驚き! この読書館で紹介した『「死」の博学事典』がハードで、こちらはソフト。
 もっとも、「死」についてのウンチクを集めたところは共通しています。正直言って、著者のイラストはちょっと細かすぎて、わたしの好みではありません。しかし、とかく重くなりがちな「死」という人類の最重要問題をここまでコミカルに描くというアイデアは斬新ですし、その心意気も素晴らしいと思います。


本書の「目次」は、以下のような構成になっています。


「はじめに」
「死の入口」
「死のカタチ」
「死のタイミング」
「死の場所」
「死の理由」
「死のものがたり」
「死のしまい方」


 「はじめに」の冒頭で、著者は次のように書いています。


 「自分の両親は、もしかして宇宙人かもしれない。
 小学校時代、本気で疑っていた時期があります。
 見ているときは人間の姿ですが、目を離すと宇宙人に戻るのです。
 急にふりかえって、父と母が宇宙人のまま、こっちを見ていたらどうしよう。
 考えると怖くて、両親の方を見るときは、『ねえ』とひと声かけていたものです」


 いきなり最初から、もうインパクト満点の文章ですが、さらに著者は書きます。


 「死って何だろう。それを考えようとすると、
 親が宇宙人かもしれないと思っていた、あの頃に戻ってしまう感じがします。
 素早くふりむいたり、いきなりドアを開けてみたり、UFOを探したり。
 この本は、そんな僕が、死を少しでもわかりたいと思ってつくった本です。
 答えは、最初からないのかもしれません。でも、ここに並べた絵や言葉が、
 誰かが死を考えるきっかけになってくれたら、とても嬉しく思います」


 「死のカタチ」には、いろんな民族や宗教などの「死」のイメージが集められています。そこには、さまざまな死後の世界もイラスト入りで紹介されています。
 わたしも『リゾートの博物誌』(日本コンサルタントグループ)や『「天国」と「地獄」がよくわかる本』(PHP文庫)などで人類の死後の世界のイメージを徹底的に検証したので、本書を読んでなつかしかったです。でも、そんなわたしにも知らないことが書かれていました。それは「いなかったことになる」というジプシーの「死のカタチ」で、次のように書かれています。


 「ジプシーはさまざまな旅をする人たちの総称です。昔のジプシーの中には、死ぬとその存在をそもそも『なかったこと』にする人達もいました。死んだ人の名前や思い出を口にしないのはもちろん、遺品も残しません。いってみれば、誰も死なない。生きている人しかいないのです。旅の中で生まれた、とてもめずらしくて厳しい死のカタチ」


 これは知らなかったし、これはどんな地獄よりも怖い!
 自分の存在が「なかったこと」にされる恐怖は、哲学的にいえば「実存的不安」の問題につながります。そして、著者が小学生のときに抱いていたという両親が宇宙人ではないかという疑惑も「実存的不安」の一種だと思います。
 そういえば、かの手塚治虫も、よく「実存的不安」のホラー短編を描きました。こういうのが一番怖いと、わたしは思います。


 本書には、さまざまな「死」にまつわる名コピーも満載です。たとえば、

 
 「平均寿命は、心の支え。」
 「死のイメージは、死ぬまでの物語がつくる。」
 「死はそれまでの人生が、津波のように襲ってくる。」
 「今の自分と、死ぬ自分は同じ。」


 どれも、本質をよく言い表した秀逸なコピーであると思います。


 「人が死なない国では、物語のなかで人が死ぬ。」というコピーもありました。日本の映画配給収入ランキング20位の中で、人が死ぬ物語の比率を調べてみたところ、なんと「およそ9割」だったそうです。これは、子ども向け映画以外のほとんど全部です。
 さらに、その5割は、大量に人が死ぬそうです。このことのついて、著者は次のように述べています。


 「この数字を見るかぎり、みんな、人の死が大好きなんだと思いました。
 日本で目にする物語のほとんどは、いわゆる先進国でつくられています。
 イランやインドのような国の映画で、
 人が大量に死ぬような話は見かけません。
 人が死なない国では、現実の死を考える機会がないかわりに、
 死にまつわる物語を通して、死を考えようとしているのかもしれません」


 「あとがき」で、著者は本書を書く上で、死に関する多くの素晴らしい本に出合ったと述べています。中でも、エリザベス・キューブラー・ロスの『死ぬ瞬間』にとても大きな影響を受けたそうです。そのとき著者が疑問に感じていたことが全部書かれていたそうです。そして著者は、本書『死にカタログ』『死ぬ瞬間』の前書き部分を虫メガネで拡大して絵をつけたといってもいいかもしれないとまで述べています。最後に、著者は次のように書いています。


 「死について語る本やテレビ番組は少なくありません。ただ、どれも、みな深刻な顔をしていて、見終わった後には『死は深刻なものなんだ。』という感想だけが残ることがほとんどです。死を楽しもうとは思いませんが、真剣に考えることは、必ずしも深刻な顔をすることではないと思うのです。ふつうの顔をして読める『死の本』をつくりたい。それが僕の望みでした」
著者の望みは、ほぼ叶ったのではないでしょうか。わたしは、そう思います。


 著者は、この手の絵入り本をたくさん出しています。
 その中に、『ウンココロ~しあわせウンコ生活のススメ』(実業之日本社)という本もあります。タイトルの通りウンコについての本ですが、本書のテーマである「死」にもつながってきます。アマゾンの『死にカタログ』のレビューで、「まやや」さんというレビュアーが次のように書いています。


 「人の生死は、キッチンとトイレの関係と同じ、と聞いたことがある。

 生産があれば消費があり、喜ばれるものがあれば忌み嫌われるものがある。
 でもキッチンだけの家に人が住めるか? 住めない。
 トイレがあるからこそ、安心して楽しく料理出来るんだと」


  うーん、これもまた素晴らしい名言ですね。読者にこんな名言を吐かせるのも、本書が名著である証しでしょう。


 なお、拙著『死が怖くなくなる読書』(現代書林)でも本書を取り上げています。