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リゾートの博物誌』

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No.0889

 

 1991年3月15日に上梓した本です。『リゾートの思想』の上梓からちょうど1ヵ月後に刊行されました。「空間演出のための理想郷カタログ」というサブタイトルがついています。当時のわたしは1989年10月に設立した(株)ハートピア計画(東京都港区西麻布)の代表取締役として、リゾート開発のコンセプト・プランニングなどの業務を行っていました。

 

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   『リゾートの博物誌』(1991年3月15日刊行)

 

 

 『リゾートの博物誌』の表紙はマンダラをイメージしたようなデザインです。帯には「あらゆる理想郷へ旅する 『遊び』のコンセプトを満載」というキャッチコピーに続いて、「天国、極楽浄土、エデンの園、桃源郷、シャンバラなど、古今東西の理想郷を集め、リゾートを中心に空間プランニングのためのアイデアを提供する」と書かれています。『リゾートの博物誌』の目次構成は、以下の通りです。

 

0:はじめに


1:第1部 ユートピア
    ●ユートピアについて
      西欧の夢/対立する都市と農村/宇宙の運行/ユートピアと法
    ●プラトンの『国家』
      理想国家/シラクサの失敗
    ●中世からルネサンスへ
      敵対する千年王国とユートピア/ユートピアンとしての建築家
    ●トマス・モアの『ユートピア』
      ユートピアの社会/ユートピアと宗教
    ●ユートピアの黄金世紀
      太陽の都/ニューアトランティス
    ●啓蒙から社会主義へ
      啓蒙と平等の増大/社会主義へのベクトル/機械文明への態度
    ●SFとディストピア
      SFとユートピア/ディストピアの台頭
    ●ユートピアの現在
      ユートピア思想の死/東京というユートピア/ニューフロンティア構想      
      /アーコサンティ/都市の生物的進化
    ●ユートピアのモデル
      博覧会/テーマパーク/ドーム
      /コンベンションセンター/ホテル/リゾート


2:第2部 パラダイス   
    ●パラダイスについて
      囲われた快適な土地/「中心」の思想/楽園願望
    ●黄金時代
      神への回帰/牧神の国アルカディア
    ●西洋の島の楽園
      西方の死の島/ブリテン島
    ●東洋の島の楽園
      東海の三神山/竜宮/常世とニライカナイ
    ●西洋の山の楽園
      旧約聖書/ギリシア神話のパラダイス
    ●東洋の山の楽園
      須弥山/シャンバラ/隠された谷間の伝説
      /桃源郷/中央アジアのパラダイス/高天原
    ●伝説の国
      ノアの方舟/伝説的遺産/黄金の国/アガルタ
    ●失われた大陸
      文明の輪廻転生/ゴンダアナ大陸/ミュートラム大陸
      /レムリヤ大陸/ムー大陸/アトランティス大陸/文明史の共通点


3:第3部 ハートピア    
    ●ハートピアについて
      死の問題/地獄/天国/霊の住む処/霊界の界層
    ●神話におけるハートピア
      原始宗教のハートピア/アメンテとエリュシオン
      /ワルハラ/崑崙山/常世信仰
    ●宗教におけるハートピア
      聖書における天国/イスラム教とゾロアスター教
      /仏国土と極楽浄土/南方仏教
    ●哲学におけるハートピア
      プラトンのイデア/ライプニッツとカント
      /19世紀における哲学的ハートピア/ジェイムズとベルグソン
    ●科学におけるハートピア
      宇宙輪/生体と魂/心霊科学
    ●ハートピアの実相
      7つの界層/高橋信次のハートピア
      /大川隆法の空間論/丹波哲郎の大霊界
    ●ハートピア・ヒア
      宗教が示すハートピア・ヒア/ハートピアの実現
    ●参考文献
    ●インデックス

 

 「はじめに」の冒頭には、以下のように書かれています。


 「まず最初に言っておきたいことは、この本はどこから読み始めても構わないということである。目次を見て面白そうだと思った部分や、パラパラとページを繰ってみて目についた部分から読んでいただいて結構である。もちろん、最初から最後まで通して読んでいくのもよい。その時、あなたはきっと、スリリングな体験をするはずだ。ちょうどパラマウントや20世紀フォックスの総天然色映画でスクリーン上に次から次にスペクタクル・シーンが繰り広げられるのを手に汗握って観るような。著者である私自身、本書を書くことはスリリングな体験であった。しかし、本書はまた、どこからでもカタログのように読める軽やかな本でもあることを最初に言っておきたいのである」


 久しぶりに読み返してみて、なかなかリズムがあって勢いを感じさせる文章だと思いました。実際、当時27歳であったわたしは乗っていたのでしょう。日本中に理想土(リゾート)を実際に作るのだという気概に燃えていました。


 本書の内容については、「この本は、リゾートに『物語』という魂(ソフト)を入れるための本であり、リゾートのための数多くの『物語』が集められている。それではどのような『物語』かというと、古今東西のありとあらゆる理想郷の物語がコレクションされている。本書は、理想郷のカタログなのだ」。ここで使っている「物語」という言葉は当時のマーケティングのキーワードの1つで、広告業界を中心にやたらと「物語マーケティング」が叫ばれていました。大塚英志氏の『物語消費論』(新曜社)などが話題になっていた頃です。


 人類は古来から理想郷と呼ばれるさまざまな憧れの場所のイメージを抱いてきました。わたしは、その理想郷を3つに区分けしました。ユートピアとパラダイスとハートピアです。まずユートピアは、プラトンやトマス・モアやカンパネルラらが考えた理想都市で、時代が下ってからは社会主義者やSF作家たちが夢想しました。次にパラダイスは、楽園や黄金時代の記憶であり、人類が淡い夢のように大切に心に抱いているものです。さらに、「島の楽園」と「山の楽園」の2つに分かれます。「島の楽園」は、東洋では蓬莱や竜宮、補陀落、西洋では『オデュッセウス』のカリュプソー、西の果てのヘスペリデスの園、シュメールの聖地ディルムンなどです。「山の楽園」は、東洋では須弥山、チベットのシャンバラ、中国の桃源郷、日本の高天原、西洋ではエデンの園、ギリシャ神話のオリュンポスなどが代表だと言えます。


 そして、ハートピア。「心の理想郷」を意味するわたしの造語ですが、人間がこの世に生まれる以前に住んでいた世界であり、死後、再び帰る世界です。そこは平和で美しい魂のふるさとなのです。ユートピアが政治的・経済的理想郷としての「理想都」であるのに対して、ハートピアは精神的・宗教的理想郷としての「理想土」です。つまり、彼岸であり、霊界であり、極楽浄土であり、天国なのです。

 

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   理想郷の図式

 

 

 リゾートをはじめとした地上の空間づくりに関わるとき、最大のヒントになるのは天国などのハートピアのイメージでしょう。なぜなら、ユートピアやパラダイスの豊富なバリエーションとは異なり、世界中の各民族・各宗教における天国観は驚くほど共通性が高く、それゆえイメージが普遍的だからです。心理学者のユングも言うように、神話は民族の夢であり、天国こそは人々が「かく在りたい」という願いの結晶。その夢や願いを地上に投影したものこそ「理想土」なのです。


 ある雑誌に、本書の書評が掲載されたことがあるのですが、そこには「フーコーばりの考古学的手法でリゾートの原型を浮き彫りにしている」と書かれました。

 わたしは、本書でSFや神話や哲学について大いに語りました。最もページを割いたのは宗教の話題です。どうも「リゾート」にかこつけて自分の趣味に走ったきらいもあるにはあるのですが、当時のわたしは宗教こそがリゾート・プランニングの源泉であると考えていました。それは、以下のような文章からもよくわかります。


 「伽藍仏教という考え方がある。人々に壮大な寺院建築を見せ、極楽浄土を連想させることによって信仰心を高めようという思想である。まさに、これからの建築の方向を示しているものと言える。もともと建築という行為は宇宙観の表現だけれども、これからはハートピア・ゼアの実相を知り、それを表現していくことが建築にも空間演出にも必要だろう。ハート化時代においては、より密度の高い幸福の空間が求められるのだ」


 さらに、「リゾート」の本質について、わたしは次のように述べています。


 「ハレの時間というタテ糸と、ハレの空間というヨコ糸を組み合わせて編んだものがハレの生活であり、それがリゾートなのである。リゾートにおいて、我々はハートピア・ゼアでの生活そのものをシミュレーションするのだ。すなわち、美しい眺望があり、光があり、心地よい風があり、妙なる音楽があり、うまい食物と酒があり、暖かいベッドがあり、ありとあらゆる楽しみがある生活、それを物質的な快楽と批判してはいけない。天上のハートピアの幸福をこの三次元世界に移した時、物質的幸福を伴うのは必然である。いたずらに精神だけを追い求めるのも、ある意味では不健康だ。考えてみれば、あの極楽浄土でさえ物質的理想郷ではないか。物質的幸福もまたよいものである。というより、ハートピア・ゼアの界層世界からもわかるように、人間は物質的幸福を経て精神的幸福へと至るのである。リゾートでの楽しい生活から得る個人の幸福感を本物のハートピア・ヒアへと育てていきたいものである。私的幸福と公的幸福の調和にこそ、真の心の理想郷は生まれる」


 もうリゾート・プランニングの本だか、スピリチュアル・ブックなのかわからないような感じですが、当時のわたしはこのようなことを真剣に考えていました。

 

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    「月刊企画情報」1991年9月号より

 

 

 『リゾートの博物誌』は発売直後かた大きな反響を呼び、「月刊企画情報」(ソフト・ネットワーク研究所)という雑誌の1991年9月号で巻頭特集が組まれました。じつに18ページにわたる特集記事に、わたしのリゾートの原型を理想郷に求めるという考え方、またその図式などが紹介されました。

 

 この世にも奇妙な空間コンセプトブックとしての『リゾートの博物誌』の最後に、わたしは次のように書いています。


 「人類の歴史を眺めてみると、様々な時代、様々な地域に、様々な人々によって、様々な文明や文化が生まれてきた。それは人類が理想郷を追い求めた結果である。おそらく、神は地球という球の上に偉大な芸術を創ってきたのだろう。EARTH(地球)という言葉は3つに分解される。
 『E』と『ART』と『H』である。私はEとはEDEN(エデンの園)のことだと思う。HとはHEAVEN(天国)のことだと思う。地上の理想郷から天上の理想郷へ、パラダイスからハートピアへと至る方法がアートなのである。
 パラダイスのような環境に人間を置いて、心をハートピアに遊ばせる。
 そんなリゾートをつくることこそ、我々の最大のアートではないだろうか。
 かつて住んでいた美しい世界の記憶がよみがえってくるような、これから訪れる魂の理増強のイメージが湧いてくるような、そして、この世に生きているという幸福感に浸されるような、そんなリゾートを私はつくりたい」

 

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   本書の裏表紙に浮かび上がる「EARTH」の秘密!

 

 

 この「E」と「ART」と「H」についての自説は、大きな反響を呼びました。本書の裏表紙にはデザインされた「EARTH」とハートピア計画のロゴが印刷されています。特に宗教界からの反響が大きく、わたしは複数の宗教団体から呼ばれ、有名な教祖にもお会いしました。今では、なつかしい思い出です。

そして、ほぼ同時に刊行された、『リゾートの思想』『リゾートの博物誌』の2冊によって、わたしは「ロマン主義プランナー」と呼ばれるようになりました。


 そう、次に書いた本は『ロマンティック・デス~月と死のセレモニー』。わたしのロマン主義がまさに炸裂した本となったのです。