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絶望の超高齢社会』

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No.1476

 

 26日、熊本・東京の出張からようやく小倉へ戻りました。

 北九州市では、お年寄りの姿が目立ちます。なんといっても、政令指定都市の中で最も高齢化が進行する「日本一の超高齢都市」ですから。

 『絶望の超高齢社会』中村淳彦著(小学館新書)を読みました。

 「介護業界の生き地獄」というサブタイトルがついています。 ここ数日立て続けに、『未来の年表』『縮小ニッポンの衝撃』『限界国家』と、超高齢社会には絶望的な未来が待っていることを示す本を紹介してきましたが、本書はすでに現在が絶望的な状況であり、特に介護業界が生き地獄となっていることを報告しています。著者は大学卒業後、編集プロダクション、出版社を経て、現在はノンフィクションライターです。主な著書には『名前のない女たち』シリーズなどがありますが、実際に介護事業所を運営した経験があり、きれい事ではない介護の現場を知り尽くしているとのこと。

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    本書の帯

 


 本書の帯には「気鋭のノンフィクションライターが現代の病巣を抉る」「2025年、介護崩壊!」「介護職は100万人不足!」「街中が徘徊老人で溢れる」と書かれています。帯の裏には、「『極道ヘルパー』は、実在していた!」というコピーに続いて、以下のような項目が並んでいます。

 

●暴力団直営介護事業所の収益源は助成金詐欺

●法務省の方針で元受刑者が介護の現場に続々投入

●介護職を徹底的に"洗脳"し、搾取する事業者

●ストレスと貧困から買春相手を探す女性介護職たち

 

 それから、「老人はカネのなる木だ。」と大書され、続いて「魑魅魍魎の悪徳業者があなたの老後をしゃぶり尽くす」と書かれています。

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    本書の帯の裏

 


 またカバー前そでには、以下のような内容紹介があります。

 

「2025年の日本は、団塊の世代が後期高齢者となり、国民の5人に1人が75歳以上、3人に1人が65歳以上となる。これまで人類が経験したことがない超・超高齢社会が到来するのだ。一方で介護職は100万人足りなくなるともいわれている。現在の介護業界は、重労働の上に低賃金ということで人が集まらない。国からの助成金を狙って暴力団が参入し、法務省の方針で元受刑者たちが介護現場に立ち始めている。女性介護職は貧困とストレスから売春に走り、男性介護職は虐待を繰り返すケースも少なくない。まさに崖っぷちの状況なのだ」

 さらにアマゾンの「内容紹介」には「これが介護業界の深すぎる闇の実態だ!」として、以下のように書かれています。

 

「2015年には65歳以上のお年寄りが26.7%を超え、80歳以上の高齢者は1000万人を超えた。他に類を見ない超高齢社会がやってきたのである。団塊世代が後期高齢者となる2025年には現在の介護職を38万~100万人増やさなければ、パンクするとさえいわれているが、低賃金かつ重労働ということもあり、達成することは難しい。現在、介護の現場で何が起きているのか」

 続けて、アマゾンの「内容紹介」には以下のように書かれています。

 

「低賃金で介護職だけでは食べていくことができない女性介護職は風俗や売春を余儀なくされている現実がある。その逆に、稼げなくなった風俗嬢が垣根の低い介護業に続々入職してもいる。介護によって精神を壊された男女が集まる『変態の館』も存在する。また、暴力団がその名を隠して運営して、国から助成金を詐取したりするのは当たり前、法務省が刑期満了者を介護職に送り込むなどもうメチャクチャだ」

さらに続けて、アマゾンの「内容紹介」にはこう書かれています。

 

「国は苦肉の策で、介護を重点配分する外国人技能実習制度が始めるが、途上国から集まるだけに低賃金は絶対に改善されない。長生きは幸せなことである―日本ではずっとそのような価値観が根付いていた。しかし、これからは長生きが幸せとは言えない時代が到来しようとしているのだ」

 本書の「目次」は、以下のような構成になっています。

 

プロローグ 介護業界に人生を壊されたシングルマザー

第1章 真面目な介護福祉士が風俗嬢に堕ちるまで

第2章 貧困の連鎖は止まらない

第3章 絶望の介護事件現場を歩く

第4章 洗脳と搾取

第5章 好色介護職たちが集う狂乱の館

第6章 暴力団と元受刑者が跋扈している

第7章 「地域包括ケアシステム」と「中年童貞」という悪夢

「あとがき」

 プロローグ「介護業界に人生を壊されたシングルマザー」では、さまざまな現在の介護業界にまつわる問題点のルーツは、2000年4月に始まった介護保険制度にあると指摘されます。この制度によって、公的機関が担っていた介護が民間に委譲されました。特に訪問介護、通所介護の在宅分野の認可基準は極めて低く、介護とはまったく関係ない民間零細事業者の参入が激増しました。その結果、介護事業所の数は膨れあがり、訪問介護事業所は平成13年に1万1644事業所(厚生労働省調査)でしたが、14年後の平成27年にはなんと3万4823事業所になりました。高齢者の増加以上に事業所が増えたわけで、これが「様々な問題の原因となっている」と著者は見ています。

 介護業界といえば、介護職の低賃金問題がよく取り上げられます。なぜ、介護職の賃金は低いままなのか。それは、介護職の低賃金問題は、介護保険事業者の収入が介護報酬にほぼ依存しているため、単純に報酬が安いことが原因です。報酬の金額は国によって決められており、介護報酬が上昇しない限り解決しようがありません。措置制度から介護保険制度に転換した最も大きな変化は、民間企業が介護事業に参入したことでしょう。著者は述べます。

 

「基準以上の建物と物品を揃えて、人材雇用して申請すれば認可が下りる。法人の規模や経営者に条件は何もなく、上場企業から街のラーメン店まで、あらゆる業種の法人が介護事業に進出している。介護事業所は高齢者の増加を上回って増えている状態で、飽和状態になっているが、まだ止まる気配はない。それは参入障壁が著しく低いためである」

 第1章「真面目な介護福祉士が風俗嬢に堕ちるまで」では、著者は「現在、女性のカラダとセックスの価格の下落は限界まできている」として、以下のように述べています。

 

「2005年にデリヘルが実質合法化して、全国的に風俗嬢の圧倒的な供給過剰、男性客の需要減というデフレ状態が続く。女性の価値は下がり続け、未経験の一般的な中年女性が裸の世界に足を踏み入れると、まず厳しいデフレに巻き込まれる。現在、女性は覚悟をしてカラダを売っても最低限の生活すらできない」

 

 『デフレ化するセックス』(宝島新書)、『日本の風俗嬢』(新潮新書)などの著書もある著者の言葉だけに重みがあります。本書では、介護職の報酬では生活していけなくなったため、現在は都内の繁華街にある格安熟女デリヘルの風俗嬢に取材をしています。彼女も週4日~5日出勤しても、生活保護基準程度しか稼げていないそうです。著者は「かつての風俗=高給というのは、夢物語となっている」と断言します。

 

 介護業界で働くのは、7~8割が女性です。しかし、男性の平均賃金を100とした場合、女性は70.0(厚生労働省平成28年賃金構造基本統計調査)に過ぎません。介護業界は明らかに女性の貧困、深刻な男女格差を牽引する存在となっている上に、介護は介護業界内でしかキャリアが認められないという現状があります。結果、いくら真面目に介護に取り組もうという女性がいても、性風俗で働かざるを得なくなる構造があるというのです。著者は「女性の経済的貧困は、性風俗産業に直結する。この数年、性風俗産業に女性を最も送り出すのは、低賃金や使い捨てが浸透する介護業界となっている」と述べます。

 

 さらに、風俗業界にも精通する著者は以下のように述べています。

 

「低賃金を筆頭にネガティブな問題を抱える職業に従事する女性は、売春(性風俗、個人売春)に走りやすい。女性たちに『カラダを売るしかない』という選択が思い浮かぶのは、経済的な行き詰まりからが圧倒的に多い。女性介護職で普通の生活ができるのは世帯が共稼ぎか、親元で暮らす未婚女性のみ。高齢者が好き、ありがとうと言われたい、高齢社会に貢献したいとい前向きな気持ちで介護職になっても、低賃金、そして現場の荒廃に心が折れ、性風俗へと逃げ出す女性が続出している」

 本書を読んで最も関心を抱いたのは、第4章「洗脳と搾取」でした。

 

「『現実を見せない』末期的マネジメントと介護甲子園」として、著者は述べます。 「介護には危機的に行き詰まる産業だ。特に介護職を犠牲にしない早急な改善が必要といえる。しかし、介護業界が選択したのは改善の前に、社会貢献ややりがいを煽り、若者や求職者たちが壊れる介護業界に誘導しようとする洗脳だった。現在進行形で利益や社会的名誉を摑みたい民間の経営者層を中心に、現実離れした感情論と精神論が徹底的に煽られている。『現実を見せない』という末期的なマネジメントで、危険な"介護のポエム化"が進行している。ポエム化とは整合性がなく、抽象的な言葉で着飾ること。飲食店や介護を筆頭に、労働集約型の不人気職で広がる傾向がある」

 この「介護のポエム化」を見えるかしたものが「介護甲子園」なるイベントです。NHKの「青年の主張」の介護業界版のような感じですが、もともとは「居酒屋甲子園」というイベントがルーツです。2014年にNHKでは「あふれる"ポエム"?!~不透明な社会を覆うやさしいコトバ」という番組が放送され、居酒屋甲子園は"ブラック起業の温床"とか"やりがい搾取" "若者搾取"と大きな批判を浴びました。

 じつは葬祭業界でも「葬儀甲子園」なるイベントを開催しているグループがあるようですが、やはり"ブラック起業の温床"なのでしょうか?

 それにしても、介護の現場で働く人々の過酷さには胸が痛くなります。

 第7章「『地域包括ケアシステム』と『中年童貞』という悪夢」では、著者は「苦にはケイド要支援高齢者を市区町村に捨てた」として、こう述べます。

 

「団塊世代が後期高齢者となる世界に前例のない、超高齢社会となる2015年に向かって、国を挙げて動いている。介護職が圧倒的に足りないこと、そして介護保険の持続に黄信号が灯ること、介護の質の低下に焦る国は、次々と手を打つが、介護現場や介護保険に関するあらゆる施策は、介護に関わるすべての人々の日常やQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を悪化させて、もはや福祉の理念である『幸せ』や『豊かさ』どころか、生き地獄のような現実がある」

 著者は「今後、介護施設を利用する高齢者は、豊かな介護みたいな幻想は捨てたほうがいい」と述べます。さらには、「中年童貞の攻撃性は弱者に向かう。熱湯をかけられて殺されるとか性的虐待は冗談では済まされないが、苛々する中年童貞にビンタされる、蹴飛ばされる、エロ妄想をされるくらいは覚悟して入居したほうがいいかもしれない」 と述べ、そして、本書の最後を著者は「本来、介護職は介護技術、医療知識などの能力を備えた人にしかできない専門職だ。国が介入する雇用政策によって、その大前提は完全に崩壊しているのだ」という言葉で締め括ります。
  
 「あとがき」の最後では、著者は「高齢者や高齢者の家族たちは、介護職の苦境を知ることだ」として、以下のように述べるのでした。

 

「高齢者たちは右肩あがりの恵まれた時代を生き、現在の若者たちは本当に苦しい。さらに社会問題となる女性の貧困は、介護保険がうまくまわらない介護業界が牽引している。十分に生きた高齢者は、高望みせず諦めることも必要だ。川崎老人ホーム転落死事件はモンスター家族の存在が引き金となったが、ギリギリの状況の中で相手を尊重しない過剰な要求は、すぐに自分たちに返る」

 本書を読んで、わたしは多くのことを学びました。実際に介護業の経営者であった著者だけに、救いようのない現実を見事にレポートしてくれています。特に気になったのは、「介護のポエム化」でした。GグループのO氏、WグループのW氏など、これまで若手経営者を代表するカリスマたちが次々に介護業に手を出し、次々に舞台から退場していきました。彼らはまた美辞麗句を操る「ポエムの達人」でもありました。もともと、サービス業というものは、経営者が社員に対して「仕事の意味」「仕事の価値」「やりがい」「働きがい」のヒントを与えなければなりません。

 サービスという目に見えないものを売る以上、絶対に理念というものが必要です。しかし、それがポエムであってはいけません。フィロソフィーでなければなりません。そこには一貫した論理整合性のある哲学が求められるのです。居酒屋から始まったポエム化の波は介護を経て、冠婚葬祭業にまで来ています。わたしも本を書いたり、講演をしたりと、理念型の経営者と見られているようですが、いつもブレない思想というものを意識しています。

 

 わたしの場合は、孔子やドラッカーをはじめとした偉大な先人たちのフィロソフィーをベースに自分の考えを加えていますが、「自らの言葉と行動には必ず責任を取る」という覚悟は持っています。そして、やはり介護業の経営者には「使命」と「志」が重要だと確信します。本書を読んで、サービス業の経営者としての覚悟を再確認することができました。