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ママがおばけになっちゃった!』

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No.1297

 

 『ママがおばけになっちゃった!』のぶみ著(講談社)を読みました。
 交通事故で死んでしまった若い母親と4歳になる息子の心の交流を描いた絵本です。昨年末、「出版寅さん」こと内海準二さんからプレゼントされたのですが、それからバタバタして読めずにいました。今月に入って書斎を整理していたら、この本が出てきて、ようやく読むことができました。

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   本書の帯


 カバー表紙には、小さな男を抱いたお母さんの幽霊が描かれており、二人の目には涙が光っています。帯には「このこ、わたしがいなくなったらどうなっちゃうの?」というママのセリフとともに、「日本中のママが、思わず子どもを抱きしめた感動の絵本」「大ヒット重版 メディアでも話題!」と書かれています。

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   本書の帯の裏


 アマゾン「内容紹介」には、以下のように書かれています。


「ママは、くるまに ぶつかって、おばけに なりました。『あたし、しんじゃったの? もう! しぬ ときまで おっちょこちょいなんだから!』
とつぜん、"おばけ"になってしまったママ。
いちばん心配なのは、4歳になる息子のかんたろうのことです。
よる、12時をすぎると、かんたろうの部屋に現れて・・・・・・。
生まれてきてよかったこと。いいところも、ダメなところも、かぞえきれないくらいの『好き』でいっぱい。ママは、これから生きていくかんたろうを励ましながら、じっくりと話をします。
かんたろうも、ママへの思いを伝えながら、ちゃんと前を向いていきます。
おもわずクスッとわらってしまう、でも、ホロリときてしまう。
『このこ、わたしがいなくなったら、どうなっちゃうの?』
親子なら誰でも抱いている大切な気持ちが、ぎゅっと詰まった絵本です」

 毎年お盆の時期、死者との交流を描いた絵本や童話を読みます。
 2010年には『おじいちゃんがおばけになったわけ』、2011年には『盆まねき』を当読書館でも紹介しました。今年は『ママがおばけになっちゃった!』を読んだわけですが、一読して、この本が『おじいちゃんがおばけになったわけ』を意識して書かれたことがわかりました。『おじいちゃんがおばけになったわけ』2005年の絵本ランキングで、海外翻訳絵本の第1位に輝いた名作です。著者のオーカソンは、アンデルセンを生んだ童話王国デンマークの出身で、同書は良質なファンタジーとして世界中の人々に愛されています。

 小さな子どもにとって、おじいちゃんとの死別はよくあることでしょうが、母親との死別というのはなかなか体験しないことです。それだけに悲しみの大きさも桁違いに大きいと言えます。それだけに『ママがおばけになっちゃった!』はショッキングな内容とも言えますが、本書のアマゾン・レビューを見てみると、1点の低評価が多いことに驚きました。
 たとえば、「予想はしていましたが」(Amazon カスタマー)というレビューでは、「何故このコンセプトで絵本を書いたんだろうと不思議に思うくらい、親目線な本。お母さんがお母さんに感情移入する本なのですかね、絵本はお母さんの心の代弁者ではないのですが・・・」と書かれています。また、「死が軽すぎる」(womi)というレビューでは、「こんな絵本が『良い本』として紹介されているのが怖いです。死を軽く扱いすぎています。大人に涙を出させようとして、子どもの立場に立っていない。もっともっといい絵本はたくさんあります。夢のある絵本を子どもたちに・・・」と書かれています。

 どちらの意見にも共感できますが、さらに「どうか、内容を見てから購入を決めてください」(おはなママ)という1点レビューには、小さな子を持つ母親の正直な気持ちが以下のように述べられています。


「我が家では、朝起きたとき、保育園に送るとき、迎えに行ったとき、寝るとき・・・いつもぎゅっと抱きしめています。甘えるとき、まだたまに、おっぱいを触ります。さみしい時や不安なとき、ママがそばにいるのが当たり前なんです。そんなママがいなくなったら・・・この年齢の子どもは、架空のお化けや鬼を本気で恐がって泣くなど、とても想像力が豊かです。その子どもにママの死を想像させるのは・・・。ただの恐怖だと思いました。例えばひとりぼっちで知らない場所に置き去りにされるようなものかと思いました。かわいそうなことをさせてしまったと思いました。『うん、このお話はもうおしまいね。ママはずっといるから大丈夫よ。大丈夫』と声かけをしました」

 わたしは、基本的にアマゾンの1点レビューというのを参考にしません。
 『あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)という本を書いたわたしにとって、1点をつけるような価値のない本というのは存在しないからです。
 もっとも、この世には有害な本というのはありますから、そういう本は死ぬ気で批判しなければなりません。わたしはアマゾンにレビューは書かかないので、ブログの書評記事で「なぜ、この本は有害なのか」をなるべく理論的に書くことにしています。そして、どうしてもそれだけで収まらない場合は、反論本を書き下ろします。具体的な書名を挙げなくても、「有害な本」というのは何なのか、もう当読書館をお読みのみなさんにはおわかりですね。
 話を戻すと、それぐらいアマゾンの1点レビューを軽視(無視?)しているわたしですが、この『ママがおばけになっちゃった!』の1点レビューには説得力のある意見が多いと感じました。それだけ、本書を有害であると感じたお母さんが多かったのでしょう。

 結論から言うと、『おじいちゃんがおばけになったわけ』は間違いなく名著ですが、正直に言って、『ママがおばけになっちゃった!』は微妙というか、どちらかというと失敗作ではないかと思いました。
 それは「子どもに読ませる絵本としては」という条件つきですが・・・。
 もちろん、子どもたちが「死」を学ぶ機会を得ることは、とても大切です。
 俳優の哀川翔さんは大量のカブトムシを飼育して、知り合いの子どもたちに配っているそうです。その理由として、哀川さんは「カブトムシはひと夏で死ぬ生き物。カブトムシを飼うことによって、生き物は死ぬんだってことを子どもに知ってほしいんだ」と言っていました。ゲームなどの「バーチャル」な世界に偏りがちな子どもたちに生き物の死を通じて「リアル」な世界を知ってほしいという哀川さんの考えに感銘を受けました。
 わたしが経営する冠婚葬祭会社でも、各地のセレモニーホールで子ども向けの模擬葬儀を行う「いのちの教室」の開催を計画しています。

 「子どもに読ませる絵本としては」、なぜ本書は失敗作なのでしょうか。
 それは「おばけ」になる人がおじいちゃんでなく、ママだというのが最大の原因だと思います。幼い子どもにとって母親は世界のすべてであり、母親を失うことは世界の崩壊にも等しいこと。もちろん、この世には幼くして母を亡くしても、立派に生きている方々が多いことは知っています。しかし、物の道理もわからない幼児に、母親の死を考えさせることは「恐怖」以外の何物でもないと思います。思うに、この本、『おじいちゃんがおばけになったわけ』の日本版というコンセプトで作られたのでしょうが、変に業界ズレしているというか、おばけになったママと息子の会話が過度にマンガチックなのも気になります。また、力づくで笑わせて、力づくで泣かせるところも違和感があります。もっと、『おじいちゃんがおばけになったわけ』のように直球勝負をしてほしかったですね。

 しかし、この本、いわゆる「コンセプト倒れ」だったわけでもないようです。
 なぜなら、ベストセラーになって重版を繰り返し、メディアでも話題になったからです。それは、「「子どもに読ませる絵本としては」失敗でも、「母親に読ませる本としては」成功したからでしょう。批判レビューにもありましたが、この本は「親目線な本。お母さんがお母さんに感情移入する本」なのです。
 絵本そのものが母親の心の代弁者となっているわけですが、こういう本があってもいいと思います。なぜなら、幼い子どもを育てている母親ほど大変な人はいないからです。世の中の多くのお母さんは、たくさんの不安や悩みを抱えながら子育てしているからです。

 この絵本を読み終えて、わたしは1本の映画を思い出しました。
 2003年のカナダ・スペイン合作映画「死ぬまでにしたい10のこと」です。
 この映画の日本語予告版を観たい方は、こちらをクリックして下さい
 「死ぬまでにしたい10のこと」は、スペイン出身のイザベル・コイシェが監督・脚本を担当した作品で、ナンシー・キンケイドの短編を原作とします。舞台はカナダのバンクーバーで、幼い2人の娘と失業中の夫と共に暮らすアンは、ある日腹痛のために病院に運ばれ、検査を受けます。その結果、癌であることが分かり、23歳にして余命2ヶ月の宣告を受けるのでした。その事実を誰にも告げないことを決めたアンは、「死ぬまでにしたい10のこと」をノートに書き出し、1つずつ実行してゆくというストーリーです。わたしは、この映画を最初に観たとき、非常に衝撃を受けました。

 23歳という若さで、しかも幼い2人の娘を残して死んでゆく「死ぬまでにしたい10のこと」は、残酷な映画だったかもしれません。特に、病院で癌の宣告を受けたにもかかわらず、直後に幼稚園に娘を迎えに行かなければならない若い母親の孤独な姿には泣けました。『ママがおばけになっちゃった!』にも、死んだママが息子に「ようちえんの おむかえも ママ、いけないわ」と言った後、母子で号泣するシーンがあるのですが、わたしも貰い泣きしました。この世で母親の恩ほど深く、ありがたいものはありません。この本も、ある程度大きくなってから読み、母への感謝を思い起こすにはいいかもしれませんね。 

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   母への感謝を思い起こす絵本