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盆まねき』

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No.0416

 

 『盆まねき』富安陽子著(偕成社)を読みました。

 

 児童文学作家である著者が、お盆をテーマに書いたファンタジーです。


 表紙に描かれている大きな満月が印象的ですね。


 物語の主人公は、小学3年生の女の子・なっちゃんです。


 7月の半ば、なっちゃんの家には毎年、笛吹山に住むおじいちゃんから1通の手紙が届きます。なっちゃんのパパとママは、その手紙を「盆まねき」の手紙と読んでいました。


 「盆まねき」というのは、8月のお盆の3日間に、ごちそうを用意して親戚の人たちを家に招待して、みんなでご先祖さまの供養をするという行事です。笛吹山を訪れたなっちゃんは、親戚の人々に囲まれて、いろんな不思議な経験をするのでした。


 本書の目次は、次のようになっています。


「盆まねき」


1章:おじいちゃんの話―八月十二日―ナメクジナメタロウ
2章:フミおばあちゃんの話―八月十三日―月の田んぼ
3章:大ばあちゃんの話―八月十四日―かっぱのふしぎな玉
4章:―八月十五日―盆踊りの夜


「もうひとつの物語―さいごにほんとうのお話をひとつ」


 最後の盆踊りの夜、不思議な男の子に出会います。十五夜の満月の中に入っていく多くの人影を目撃して驚くなっちゃんに、男の子は言います。


「みんな、もう、あの世にかえるんだ。きょうはお盆の十五日だからね」


 なっちゃんが「この人たち、みんな幽霊ってこと?」と質問すると、男の子は「こわがらなくてもだいじょうぶだよ」と答えて、次のように言うのです。


「こわいことなんて、ないんだ。みんな、いつかは、あっち側にいかなくちゃいけないんだからね。この人たちは、ただ、ちょっとなっちゃんより早く、あっちへいった人たちで、盆まねきにまねかれて、こっちにあそびにきてただけなんだよ。
 盆がもうおわるから、あの世へかえるんだ。あそこをとおって、月がしずむころには。
 ずっと西のほうへかえっていくんだよ」


 「あなたも幽霊なの?」とたずねるなっちゃんに、男の子は「人間は、二回死ぬって、知ってる?」とたずねかえし、首を横に振るなっちゃんに「一回目は、心臓がとまったとき。二回目は、みんなにわすれられたとき・・・・・。」と言います。


 男の子は、まだ一回しか死んでいません。


 なぜなら、お盆に自分を思い出して、こっちに招いてくれる人がいるからです。


 「わすれられちゃったら、どうなるの?」


 たずねるなっちゃんに、男の子は静かに次のように答えました。


 「みんなが、ぼくの顔も思いだせなくなって、いつか、ぼくの名前もわすれてしまったら、ぼくの顔はぼやけて、体の輪郭もうすれて、ぼくはすこしずつ消えていくんだ。それで、すっかり、ぼくが消えちゃったら、ぼくは、もうぼくじゃなくて、なっちゃんのご先祖さまになるんだよ。ぼくよりまえにわすれられてしまった人たちとまざりあって、とけあって、ひとつのキラキラした大きなかたまりになるんだ。それも、わるくないよね」


 本書の物語は、柳田國男らの日本民俗学が明らかにした日本人の祖霊観をベースにして描かれています。


 また、男の子の「人間は二回死ぬ」という言葉は、わたしの口癖でもあります。


 この言葉は、ブログ『赤い鯨と白い蛇』で紹介した本の内容にも通じます。


 『赤い鯨と白い蛇』には、終戦の直前に特殊潜航艇に乗り込み帰らぬ人となった青年が登場しますが、この『盆まねき』にも片道だけの燃料を積んで戦闘機に乗り込み、敵機に体当たりをした特攻隊員の青年の話が出てきます。


 物語では、その特攻隊員の青年はなっちゃんの亡くなった親戚である「シュンスケおじさん」でしたが、そのモデルは著者の父の兄である「俊助おじさん」だということが「もうひとつの物語―さいごにほんとうのお話をひとつ」に書かれています。


 本書の最後に、著者は次のように書いています。


「このごろ、『お盆』というのは、一度死んだ人を、心のなかで生きつづけさせるための行事なんだな、と思うようになりました。大勢の親戚や家族がよりあつまって、お仏壇に手を合わせ、遠い日の思い出話に花を咲かせるとき、わすれかけていたなつかしい人の記憶が、みんなの胸のなかによみがえり、そのときたしかに、死んだ人びとの魂は、この世で暮らす人びとのまえに忽然とたちあらわれるのです。戦争の記憶をとどめる人が、たとえ一人もいなくなってしまっても、わたしはわすれないでおこうと思います。
 物語なんかではなく、この国はたしかに戦争をしたんだということを。作り話なんかではなく、俊助おじさんは、その戦争で命を落としたんだということを。おじさんのほかにも、かぞえきれないほどの人たちが戦争で死んでいったんだということを。戦争で死んだ人たちが、もう一度死んでしまわないように、ずっとおぼえておこうと思います」


 本書は、子どもたちにお盆の意味、そして血縁というものの大切さを伝える物語です。


 そして、戦争の悲惨さと平和の素晴らしさを気づかせる物語でもあります。


 日本において、終戦記念日とお盆の最終日が重なっていることの重要性を本書ほど見事に描いている作品は他にないと思います。


 お子さんだけでなく、ぜひ多くの大人たちにも読んでほしい本です。