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殉愛』

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 No.1019

 

 衆議院選挙も終わりましたね。予想通り、自民党の圧勝でした。安倍晋三首相も、ひと安心でしょう。安倍首相といえば、この読書館でも紹介した『日本よ、世界の真ん中で咲き誇れ』で、作家の百田尚樹氏と対談しています。その百田氏の最新刊である『殉愛』(幻冬舎)がネットで大騒ぎになっていますね。今や日本を代表するベストセラー作家が、今年の1月に食道ガンで亡くなった歌手やしきたかじんの最後の日々を描いた作品です。

 

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    やしきたかじん夫妻の写真入りの帯


 

 やしきたかじんには、死の3ヵ月前に結婚した「さくら」という名の31歳下の妻がいました。本書の帯には、夫妻のツーショット写真とともに「誰も知らなかった、やしきたかじん最後の741日」と大書されています。続いて、帯には以下のように書かれています。


 「2014年1月3日、ひとりの歌手が食道がんで亡くなった。
 『関西の視聴率王』やしきたかじん。
 ベールに包まれた2年間の闘病生活には、
 その看病に人生のすべてを捧げた、かけがえのない女性がいた。
 夜ごとに訪れる幻覚と、死の淵を彷徨った合併症の苦しみ。
 奇跡の番組復帰の喜びと、直後に知らされた再発の絶望。
 そして、今わの際で振り絞るように発した、最後の言葉とは―。
 この物語は、愛を知らなかった男が、本当の愛を知る物語である。
 『永遠の0』『海賊とよばれた男』の百田尚樹が、
 故人の遺志を継いで記す、かつてない純愛ノンフィクション」

 

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    本書の帯の裏


 

 「週刊文春」12月11日号で、作家の林真理子氏が連載エッセイ「夜ふけのなわとび」の中で以下のように書いています。


 「このあいだ百田尚樹氏が『殉愛』というノンフィクションを書いて、大きな話題となった。なにしろ発売の当日に、TBS『金スマ』でえんえん2時間再現する大プロモーション! 大阪のカリスマ芸人、やしきたかじん氏の闘病の日々と、彼を献身的に介護する奥さんとの日々を描いたものである。この本はたちまち大ベストセラーとなった。私もさっそく読んだが、『殉愛』はとても面白かった。途中でやめられなくなり、半徹夜したぐらいである」


 わたしも、林氏と同じで、『殉愛』を一気に読了しました。「さすがにベストセラー作家の筆力は凄いな!」と感心しながら・・・・・・。連載している書評コラム「ハートフル・ブックス」で取り上げようとも思っていました。ところが、その後、いざ書評を書こうと思って、アマゾンで『殉愛』を検索したところ、星1つがズラリと並ぶという異常事態を目撃し、仰天した次第です。なんでも、この献身妻がじつはイタリア人と結婚していて、重婚ではないかというのです。つまり、やしきたかじんは悪い女に騙されていたというわけです。


 その後、『殉愛』でプライバシーを侵害され、名誉を傷付けられたとして、たかじんさんの長女(41)が11月21日、発行元の幻冬舎に対して出版差し止めと1100万円の損害賠償などを求める訴訟を東京地裁に起こしました。長女側は「再婚した妻側の話を無批判に受け入れた内容で、親族らに取材していない」と主張し、長女がやしきさんに金を無心するなど、確執があったように書かれているとして「事実に反した内容で父親への思いや名誉を傷つけられた」と訴えています。


 わたしは、この問題に強い関心を抱きました。というのも、「これは終活の問題だ!」と思ったからです。それからというものは、わたしは自身のブログにおいて、映画「トワイライト ささらさや」、 映画「インターステラ―」映画「想いのこし」に関する記事を書いたのですが、その中にすべて『殉愛』の話題が出てくるように、当時のわたしは何を見ても聞いても『殉愛』を連想してしまうぐらい、この問題にハマっていました。


 訴訟中であるこの本について賛否両論どちらに付くかは置いておきます。しかしながら、わたしは、未亡人がたかじんの死を彼の実母や実弟にも知らせず、参列者5人だけの火葬で済ませたことには違和感が残ります。生前のたかじんは、じつの親とも実の娘とも縁を切っていたそうです。でも、切っても切っても切れないのが血縁です。たかじんが本当に親や子と絶縁したのだとしたら、「かわいそうな人だ」と思うほかはありません。やしきたかじんが自分の一人娘と絶縁関係にあり、その娘さんは父たかじんの死に目にも会えなかったと書かれています。でも、死の瞬間まで娘を憎む父親など絶対にいないと思います。また、やしきたかじんが自分の実母と絶縁関係にあり、その母親は息子たかじんの死に目にも遭えなかったと書かれています。でも、死の瞬間まで憎しみ合う母子など絶対にいないと思います。


 それにしても、『ダディ』以来の幻冬舎商法には疑問が残ります。まあ、『葬式は、要らない』(このタイトルは著者の島田氏によるものではなく、幻冬舎サイドが命名したとか)は置いておくとしても、『逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録』など、「なぜ、こんな本を出版する必要があるのか?」と首を傾げました。わたしは、炎上商法というのは認めません。そんな下らないことをするぐらいなら、商売なんかしないほうがいいです!


 幻冬舎の創業社長である見城徹氏は、出版界の風雲児だとは思います。安倍晋三首相や石原慎太郎氏などとも親しいそうなので、かなり強大な人脈もお持ちなのでしょう。それだけに、圧倒的な自信家でもあります。自身のツイッターである「─圧倒的努力─ 見城徹の言葉」では、12月6日に「売れた本は、いい本である。しかし、いい本が売れるとは限らない。それだけが真実なのだ。そのことを常に自分に言い聞かせていなければならない。本だけでなく、商品やサービスを提供するすべてのビジネスマンに通じることだ。そしてヒットした製品には、他社のものであろうと、敬意を払うべきだ」という言葉がつぶやかれていますが、まさに見城氏の考えを要約したものでしょう。でも、わたしはそうは思いません。「売れた本は、いい本である」などとは絶対に思えません。まあ、見城氏から「そんな甘いことを言っているから、おまえの本は売れないんだよ」と言われるかもしれませんが・・・・・・。


 しかしながら「─圧倒的努力─ 見城徹の言葉」では、11月25日に「時代の空気も、大衆のニーズも、日々動いている。今日成功したものも、明日にはもう通じないと思ったほうがいい」、さらには12月7日に「人は成功し始めると、自我を肥大させ、自分がスーパーマンであるような気になってしまうものだ」という言葉もつぶやかれています。出版差し止め訴訟を受け、ネットで幻冬舎商法に対する大バッシングが展開されている中、出版界の風雲児は今何を考えているのでしょうか。


 しかし、ネット住人の凄さ、怖さを今回は改めて知りました。「【随時更新】百田尚樹「殉愛」は嘘だらけ! 次々と暴かれる真実。たかじん未亡人さくらの正体とは?」などを読むと、もう戦慄してしまいます。「出版寅さん」こと内海準二さんの著書に『インターネットは名探偵』(フォア文庫)という本がありますが、まさにその書名を大声で叫びたい思いに駆られます。ちなみに、内海さんは「百田尚樹は、日本のシド二ィ・シェルダンだね」と言っていましたが、至言かもしれませんね。


 百田氏は関西のテレビ放送作家ですが、テレビというのは「感動の美談」を強引に作りだすところがあります。しかし、「感動はつくれる」と思うことの危うさを知る必要があります。わたしの生業である冠婚葬祭の世界においても「感動」は重要な要素ですが、くれぐれも無理に「感動のセレモニー」などを目指すべきではないと痛感しました。世の中には「サプライズ」と「ホスピタリティ」を同一視する馬鹿もいますが、そんな薄っぺらいものは真の「感動」とは最も遠いところにあります。いま、『決定版 おもてなし入門』(仮題、実業之日本社)という本を書いているのですが、「力づくのホスピタリティは、おもてなしとは違う」ということを訴えたいと思います。


 それにしても、ここまでネットによる『殉愛』バッシングが過熱するのは、テレビも週刊誌も一向に騒動を取り上げないという言論統制にも原因があります。その意味で、「この言論統制は何なんだ!」と堂々と書いた林真理子氏は勇気ある書き手ですし、その掲載を拒否しなかった「週刊文春」の編集部も立派だと思います。林氏は「自分のところにとって都合の悪いことは徹底的に知らんぷりを決め込むなんて、誰が朝日新聞のことを叩けるであろうか」とも書いていますが、まったく同感です。林さん、あなたの本は処女作『ルンルンを買っておうちに帰ろう』 (角川文庫)ぐらいしか読んでいませんが、あなたは偉い!


 本書は、「すべて真実、完全なノン フィクション」と謳っています。しかし、さくら夫人の結婚歴など、いくつかは内容と違う事実が発覚し、著者の百田氏もそれをツイッターで認めています。本当は「すべて真実、完全なノン フィクション」などと謳わなければ何の問題もなかったのですが、これは著書自身も言うように「明らかなミス」です。せめて、『海賊とよばれた男』で出光佐三を「国岡鐵造」という仮名で登場させた手法を取れば良かったですね。


 わたしは、『空手バカ一代』を連想しました。この物語、主人公が柔道家はもちろん、プロレスラー、プロボクサー、キックボクサー、フランスのサファーデのチャンピオン、ブラジルのカポエラの達人といった世界中の格闘技の猛者たちをことごとく空手で倒しまくりました。果ては「剣道三倍段(笑)」を乗り越えて、剣の達人までを倒します。まさに、地上最強のカラテ!です。

 

 この他にも、若い頃に乱暴な男を誤って殺めてしまい、正当防衛が認められたにしろ、遺族に償いをした・・・・・といったエピソードを、わたしは大山倍達の人生における実話だと思っていました。そう、完全にノンフィクションだと信じていたのです。その後、「空手バカ一代」のエピソードの多くはフィクションというよりファンタジーであるということを知ったのですが、あの頃は完全に信じていましたねぇ。なにしろ、物語の冒頭に、「この物語は実話であり、この男は実在する」という言葉が出てくるのですから。もう、梶原一騎はすごすぎます。「荒業」というより「夢業」と呼びたいですね!


 「夢」といえば、百田尚樹氏には『夢を売る男』という名作もあります。この『殉愛』も「男なら、最期はこのように若い女性に介護されて看取られたい」という終活ファンタジーであると考えれば、じつに良く書かれた感動の名作として洛陽の紙価を高めたことでしょう。その意味では、かえすがえすも残念なことです。