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リゾートの思想
Title

リゾートの思想』

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No.0882

 

 1991年2月に上梓した本です。当時のわたしは1989年10月に設立した(株)ハートピア計画(東京都港区西麻布)の代表取締役として、リゾート開発のコンセプト・プランニングなどの業務を行っていました。

 

リゾートの思想.jpg

   『リゾートの思想』(1991年2月15日刊行)


 

 『リゾートの思想』にはフランス語のタイトルが添えられ、さらに「幸福の空間を求めて」というサブタイトルがつけられています。そして帯には「『千年リゾート』をつくるために」と大書され、続いて「古今東西の"至福の空間"を渉猟し、『万遊同根』の普遍に立脚しつつ、究極の『理想土(リゾート)』を実現するための思想を提示する」「ハード先行のリゾート開発に対する批判の書!」と書かれています。


 ちょっとエロティックな表紙の写真について、担当編集者だった小池三子男さんが「良い写真だけど、ちょっとナチスみたいな本だと思われないかなあ」と言われたことを記憶しています。小池さんを紹介して下さったのは「出版寅さん」こと内海準二さんでした。小池さんは、当時、中沢新一さんや鎌田東二さん、それに上野千鶴子さんらの本を編集されていました。『リゾートの思想』の目次構成は、以下の通りです。


序説 「千年リゾート」に向けて

 

第1部 理想郷について

ユートピア
パラダイス
ハートピア・ゼア
ハートピア・ヒア

 

第2部 リゾートのキーワード=20

1.ガーデン
2.ホスピタリティ
3.アメニティ
4.ラブ
5.マザー
6.ピース
7.レジャー
8.スポーツ
9.アート
10.ウーマン
11.ファンタジー
12.リッチ
13.ライフ
14.ネイチャー
15.ヘルス
16.リラックス
17.ゆとり
18.気
19.感動
20.遊び

 

第3部 日本的リゾートのヒント=12       

1.隠れ里      
2.洞穴      
3.渡し舟      
4.塔      
5.方丈     
6.茶室
7.座
8.見立て
9.細道
10.巡礼
11.七福神
12.ふるさと
「あとがき」
「参考文献」


 『リゾートの思想』が書かれた当時、日本は史上空前のリゾート開発ブームに沸いていました。同書の序章「『千年リゾート』に向けて」の冒頭で、わたしは「この本は、リゾートとは何か。なぜ人間にとってリゾートが必要なのか、これからの時代においてリゾートとはどのような意味をもつのか、さらには、究極のリゾートをつくるためにはどうすべきか、といったような問題について考えていく本である」と書きました。


 また、当時のリゾート開発ブームについて、次のように述べています。


 「現在、数多くのリゾート開発がこの日本で計画され、中には実施されているものもある。計画のすべてが実現すれば、実に日本の国土の3分の1がリゾートになってしまうという。巨大開発プロジェクトだけでも1000件近くあるというから、おそらく、そのほとんどは構想倒れに終わるだろう。それにしても、世はまさにリゾート・ブームであることを痛感させられる」

 

 そういった異様なまでのリゾート・フィーバーに対して、批判的な声も大きくなっていました。リゾート反対派の人々は乱開発を糾弾し、自然保護を訴えていました。そんな声が連日のように新聞やテレビに出て、ブームの中でリゾートはすっかり悪役になってしまった観さえあったのです。わたしは「考えてみれば、田や畑をつくることだって、立派な環境破壊のはずである。でも、人間にとってどうしても必要なものだから、人間は田や畑をつくらねばならなかった」とした上で、以下のように述べました。


 「結論を言おう。リゾートは人間にとって必要なものである。現代人にとって必要欠くべからざるものである。高度情報化、国際化、都市化、といった社会のトレンドは、人間という生物から見ればストレス化にほかならず、それらが生み出す負のエントロピーを消す場所が必要なのだ」


 また、わたしは次のようにも述べました。


 「経済的にはある程度豊かになった日本人は、心の底に満たされない渇きを感じている。それを潤し、遊ばせることによって幸福にさせる場所が必要である。そんな場所が、リゾートなのである。すなわち、かつて田や畑を必要としたように、現代人はリゾートを必要としている。田や畑が人間の身体を飢えを満たすための装置であるなら、リゾートは人間の心の飢えを満たすための装置なのだ」


 この田や畑と比較してリゾートの必要性を論じた部分はかなりの反響を呼び、多くのリゾート開発のコンセプト企画書に引用されたようです。


 そして、この『リゾートの思想』には、類書にはない大きな特徴がありました。ロマン主義的でスピリチュアルな側面を持っていたことです。わたしは、ひたすらディズニーランドの陳腐なコピーでしかないリゾート計画など百年も続かない「十年リゾート」になるであろうことを予言し、次のように述べました。


 「われわれは百年はおろか、千年続くリゾートをつくらなければならない。千年王国ならぬ『千年リゾート』である。そのためには、どうすべきか。実は、われわれの脳の中には、すでに『千年リゾート』、究極のリゾートのイメージがインプットされているのである。人類は古来から憧れの場所のイメージを抱いてきた。理想郷と呼ばれるものが、それである。天国とか楽園といった理想郷は、人類が古今東西にわたって憧れ続けた幸福の空間そのものなのである。その幸福の空間のイメージが、われわれの遺伝子の中に眠っている。『千年リゾート』をつくるためには、遺伝子の中にあるリゾートの記憶を引っぱりださなければならない」


 そして、わたしは、さまざまな「千年リゾート」創造のためのコンセプトやキーワードを提示しながら、最後は「日本人のためのリゾート」について言及します。もともと日本には「まほろば」という言葉がありました。「すぐれて良い場所」という意味ですが、わたしはこの「まほろば」にこそ日本人にとっての心のリゾートのイメージが集約されていると考えました。


 また、これも本書で有名になったのですが、空海・利休・芭蕉を「日本の三大リゾートプランナー」として捉えました。まずは、空海が開いたといわれる四国八十八ヵ所の霊場。全部を巡り終わった時には大いなる達成感があり、真の精神的満足が生まれます。次に、千利休が完成させた茶室。現在のリゾートはやたら空間を広く取りたがるけれども、むしろ日本人には狭い空間のほうがリラックスできるという部分があることを指摘しました。そして、松尾芭蕉が旅した奥の細道。日本人にとってリゾートに行くことはセンチメンタルな旅であり、道とは極楽浄土へと続く道です。このように、日本にはハードに頼らなくても素晴らしいリゾートを楽しむノウハウが伝統的に存在していたことを示したのです。


 「リゾートについて、ここまで深読みするとは!」と、読者は驚いたようです。まさに良く言えば「談論風発」、悪く言えば「ハチャメチャ」な本が生まれました。「あとがき」の冒頭で、わたしは次のように書いています。


 「ふりかえれば、ずいぶんと奇妙な本を書いてしまったなという気がする。リゾートの問題を語るのに、神話から古今東西の思想家まで引っ張り出した。しかも、コールリッジの詩を丸ごと引用したりしている。おそらく読者はとまどったことだろう。しかし、リゾートをつくる上での私の思想、および、日本に『千年リゾート』をつくるためのヒントは、ある程度書くことができたのではないかと思う」

 

 当時、わたしは「ニューアカの旗手」と呼ばれた浅田彰さんが「1冊の本を書くためには、最低でのそのテーマの本を200冊は読まなければならない」というコメントを発しているのを雑誌で読んで、「それなら」と300冊以上のリゾート関係の本を読んだ記憶があります。怒涛のインプットの習慣が身につきました。


 たしかにハチャメチャな若書きの本ではありますが、今読み返してみると、異様な熱気に溢れており、それなりに面白く読めます。なお、テーマの枠を超越した「奇妙な本」を書くというわたしの癖はそれ以降も直っていないようです。(苦笑)