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ずうのめ人形』

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No.1641


『ずうのめ人形』澤村伊智著(角川ホラー文庫)を読みました。一条真也の読書館『ぼぎわんが、来る』で紹介した小説の続編です。霊能者の比嘉姉妹が活躍する「比嘉姉妹シリーズ」第2弾です。著者は1979年、大阪府生まれ。東京都在住。幼少時より怪談/ホラー作品に慣れ親しみ、岡本綺堂を敬愛するとか。

 カバー裏表紙には、以下の内容紹介があります。
「不審死を遂げたライターが遺した謎の原稿。オカルト雑誌で働く藤間は後輩の岩田からそれを託され、作中の都市伝説『ずうのめ人形』に心惹かれていく。そんな中『早く原稿を読み終えてくれ』と催促してきた岩田が、変死体となって発見される。その直後から、藤間の周辺に現れるようになった喪服の人形。一連の事件と原稿との関連を疑った藤間は、先輩ライターの野崎と彼の婚約者である霊能者・比嘉真琴に助けを求めるが――!?」

 本書は、前作の『ぼぎわんが、来る』以上の傑作で、一気に読了しました。なによりも、わたしの好みにぴったり合うホラーでした。本書には里穂という名の気の毒な身の上の女子中学生が登場しますが、彼女は辛い日常からの現実逃避もあってか、非日常的な怖い話が大好きでした。毎日のように図書館に通う里穂ですが、借りた本のタイトルが『怪奇クラブ』『魔女のかくれ家』『リング』『もっと見たいぞ! ホラー映画祭』『怪奇小説傑作集 1』となっており、もう、わたしのようなホラー好きからすればたまりませんね。創元文庫版の『怪奇クラブ』や『怪奇小説傑作集 1』は、わたしも中学生のときに読みました、おそらく、著者も同じなのではないでしょうか。

 著者の文章からは、数多くの怪奇小説や怪談を読み漁ってきたという匂いがプンプン漂ってきます。本書は、いわゆる「通」が書いたホラーといった趣なのです。里穂が借りた本の中には鈴木光司の名作『リング』も登場しますが、映画化された「リング」を里穂で1人で観に行き、恐怖に打ちのめされます。そんな姿を級友の誰かに目撃された彼女は、「サダコ」という仇名をつけられてイジメの対象になるのでした。

 本書の全篇を通じて、『リング』の話題が出てきますし、本書のストーリー自体も『リング』の物語を踏襲しています。オマージュというのは理解できますが、ここまで先行作品を意識することもないのではないかと思いました。わたしたち読者は、『リング』のストーリーや結末をすでに知っているわけですから、それを踏襲したホラーを怖がることには無理があります。「先が読めない」ことがホラーの条件だとすれば、『リング』への過剰なオマージュが裏目に出た印象を持ちました。

 あと、『リング』における山村貞子の呪い、たとえ超能力や怨念という超常的要素を介したとしても、そのメカニズムを読者は理解できます。しかし、本書『ずうのめ人形』は、「これで、どうして呪いが発動されるのか?」という不条理さで、まったく理解できませんでした。わたしはホラーやファンタジーといった架空の物語ほど、細部にはリアリティが必要であると考えています。その意味では、この物語にはリアリティが決定的に欠けていました。ラストの展開も、やり過ぎというか、リアリティがゼロです。
 これは前作『ぼぎわんが、来る』にも言えることですが、せっかく絶妙な語り口と緻密な構成力で魅力的な物語となっているのに、最後の最後で一気に現実離れしてしまい、すべてが破綻してしまうのは惜しいですね。

 しかしながら、著者の筆力は非凡です。本書の「解説」を担当した作家の朝宮運河氏は、こう述べています。
「それにしても澤村伊智のホラーはなぜ、怖いと評されるのか。それはキャラクターから筋の運び、文体、不気味な響きをもつタイトルにいたるまで作中のあらゆる要素が、読者に『恐怖』を喚起するために配置されているからだ。澤村はこの配置を、内外のホラー小説や怪談を読むことで身につけたのだろう。つまり非常に技巧的に組み立てられた小説世界なのだが、読んでいる間はそんなことを忘れてしまうぐらいに怖い!」
 この朝宮氏の意見、まったく同感です。ホラーの世界に、著者のような優れたストーリー・テラーが現れたことが嬉しくて仕方ありません。
 霊能者の比嘉姉妹も魅力的ですし......。