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多動力』

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No.1472

 

  『多動力』堀江貴文著(幻冬舎)を読みました。

 出版不況もどこ吹く風で、大ベストセラーになった本です。

 「全産業の"タテの壁"が溶けたこの時代の必須スキル」というサブタイトルがついています。著者は1972年福岡県生まれ。事業家として、現在は宇宙ロケット開発や、スマホアプリ「TERIYAKI」「755」「マンガ新聞」のプロデュースを手掛けるなど幅広く活動を展開しているとか。
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    本書の帯

 


 表紙カバーには著者の顔が大写しの写真が使われ、帯には「何万の仕事を同時に動かす『究極の力』」「大反響!12万部突破!!」と書かれています。また帯の裏には、「『多動力』とは、『自分の生き方』を1秒残らず使い切る生き方のことだ」と書かれています。

 さらにアマゾンの「内容紹介」には、「堀江貴文のビジネス書の決定版!!」として、以下のように書かれています。

 

「1つのことをコツコツとやる時代は終わった。これからは、全てのモノがインターネットに繋がり、全産業の"タテの壁"が溶ける。このかつてない時代の必須スキルが、あらゆる業界の壁を軽やかに飛び越える『多動力』だ」
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    本書の帯の裏

 


 本書の「目次」は、以下のような構成になっています。

 

「はじめに」

第1章 1つの仕事をコツコツとやる時代は終わった

第2章 バカ真面目の洗脳を解け

第3章 サルのようにハマり、鳩のように飽きよ

第4章 「自分の時間」を取り戻そう

第5章 自分の分身に働かせる裏技

第6章 世界最速仕事術

第7章 最強メンタルの育て方

第8章 人生に目的なんていらない

「あとがき」
  
 正直言って、以前のわたしは著者に良い印象を持っていませんでした。その理由はいくつかあるのですが、何よりも例の「金で買えないものはない」という有名すぎる一言に集約されます。その言葉を知ってから、「とんでもない奴だ」と思っていたわけです。しかし、旧ライブドアの元社長であった著者が2011年に証券取引法違反罪で実刑が確定し、服役してからは、その見方が変わりました。刑務所の中で1000冊もの本を読破したという著者の発言に深みが出てきたからです。詳しくは、この読書館でも紹介した『刑務所なう。』『刑務所なう。シーズン2』をお読み下さい。いろいろあっても、やはり頭脳明晰であり、未来を読む力のある才人だと、今では思っています。
  
 さて、本書のタイトルにもなっている「多動力」とは何か。

 それは、「いくつもの異なることを同時にこなす力のこと」だそうです。

 じつは、わたしも多くのことを同時にこなす毎日を送っていますので、「多動力」には興味が湧きました。まあ、なんでも「力」をつければいいという旧態依然の出版業界のパワー・ゲームは苦手ですけれども・・・・・・。
  
 著者は若くして起業した頃から、いずれはインターネットがすべての産業を横串で刺し、あらゆる仕事の基幹システムになるだろうと確信していたそうですが、その理由はインターネットが「水平分業型モデル」だからでした。「はじめに」で、著者は以下のように述べています。

 

「『水平分業型』の反対は、『垂直統合型モデル』で、その代表としては、テレビ業界がわかりやすい。テレビ業界は各局が番組制作から電波の送信まであらゆるレイヤーの業務を垂直に統合している。また、リモコンを観ればわかるように、限られたチャンネルによる寡占状態なのでイノベーションは起きにくい。反対に、インターネットは『水平分業型モデル』だ。電話もフェイスブックも、動画もゲームも電子書籍も、すべてスマホ上のアプリという1つのレイヤーの中に並べられる」
  
 最近、ニュースなどで「IoT」という言葉をよく耳にします。 これは、ありとあらゆる「モノ」がインターネットとつながっていくことを意味します。調査会社ガートナーによれば、2014年の時点でネットにつながっているデバイスの数は38億個ですが、2020年になると200億個を超えると予想されているといいます。このことを踏まえて、著者は「つまり、テレビなどの家電はもちろん、自動車も、家も、ありとあらゆる『モノ』がインターネットにつながるということだ。すべての産業が『水平分業型モデル』となり、結果"タテの壁"が溶けていく」と述べています。

 たとえば、テレビとインターネットがつながると、テレビはスマホアプリの1つとなり、電話やフェイスブックと同じレイヤーで競争することになります。また自動車がインターネットにつながって自動運転が進めば、自動車はもはや移動する「イス」となり、インテリア業界とのタテの壁がなくなります。

 著者は、「この、かつてない時代に求められるのは、各業界を軽やかに越えていく『越境者』だ。そして、『越境者』に最も必要な能力が、次から次に自分が好きなことをハシゴしまくる『多動力』なのだ」と述べています。

 第1章 「1つの仕事をコツコツとやる時代は終わった」では、「三つの肩書き をもてばあなたの価値は1万倍になる」というのが興味深かったです。著者は、元リクルートの藤原和博氏が唱えている「レアカードになる方法」を以下のように紹介します。

 

「まず、1つのことに1万時間取り組めば誰でも『100人に1人』の人材にはなれる。1万時間というのは、1日6時間やったと考えて5年。5年間1つの仕事を集中してやれば、その分野に長けた人材になれる」
  
 ここで軸足を変えて、著者は「別の分野に1万時間取り組めば何が起きるか」として、以下のように述べます。

 

「『100人に1人』×『100人に1人』の掛け算により、『1万人に1人』の人材になれる。これだけでも貴重な人材だ。さらに飽き足らずまったく別の分野にもう1万時間取り組めば、『100人に1人』×『100人に1人』×『100人に1人』×『100人に1人』=『100万人に1人』の人材が誕生する。ここまですれば、あなたの価値と給料は驚くほど上がる」

 また、著者は「肩書きを掛け算することであなたはレアな存在になり、結果的に価値が上がる。仕事を掛け算するとき、似通ったワラジ同士より遠く離れたワラジを掛け合わせたほうが、その希少性は高まる」とも述べます。

 著者の場合、仕事と遊びの境界線など関係なく、ワクワクすることに次から次へと飛びついていった結果、無数のワラジを同時に履く生き方になっていたそうです。これには、肩書の多いわたしにも思い当たる節はあるのですが、あくまでもわたしの場合は 天下布礼という大きな目的に向かった結果であると自分では思っています。

 第2章「バカ真面目の洗脳を解け」では、「手作り弁当より冷凍食品のほうがうまい」という項が印象的でした、ここには著者の仕事観が明確に示されています。たとえば、次のように述べています。

 

「緩急を使いこなすことこそ仕事の本質だ。

 僕は毎週のメルマガを一度も欠かしたことがない。メルマガを書く時間を十分に取れないこともある。しかし、隙間時間に冷蔵庫のありものの食材で料理するかのごとく、過去に書いた自分の記事のエッセンスを抽出し、組み合せるなど、やり方を工夫する。

 メルマガの中には発行者の都合で遅延をしたり配信がなくなったりするものもある。そのメルマガの発行者はできるだけクオリティが高いものをと思っているのかもしれないが、読者にとっては毎週必ず届くことの方が大事だ」

 これには大いに納得、共感しました。わたしも本業の経営業務の他に、作家として本を執筆し続け、多くの連載も抱えています。ついには週刊誌の連載コラムまで引き受けてしまいましたが、これまで締め切りに遅れたことは一度もありません。どんなメディアの連載でも、必ず締め切りの前日までには入稿してきました。著者は以下のように述べています。

 

「『完璧主義者』は、何度もやり直し、1つの仕事にアリ地獄のようにハマってしまう。目指すべきは、完璧ではなく、完了だ。目の前の仕事をサクサク終わらせ、次に行く。そして前の仕事には戻らない。『完了主義者』こそ、大量のプロジェクトを動かすことができる」

 

 本書の内容で最も共感したのは、第5章「自分の分身に働かせる裏技」の「教養なき者は奴隷になる」でした。今や読書家となった著者は、この読書館でも紹介した『サピエンス全史』を取り上げ、「教養を体系的に身につけるための格好の良書」と絶賛しています。そして以下のように述べています。

 

「教養なき者は、『今』という時代の変化に振り回され、目の前の仕事をこなす歯車で終わってしまう。反対に『教養』があれば、ジャンルを横断する『原液』となるものを生み出すことができる。急がば回れ。表面的な情報やノウハウだけを身につけるのではなく、気になった物事があれば歴史の奥まで深く掘って、本質を理解しよう」

 

 『サピエンス全史』もそうですが、わたしは時々、「宇宙」や「歴史」をテーマとしたスケールの大きな本を読むことにしています。日常の生活や仕事で狭くなりがちな視野を一気に拡大してくれるからです。そして、そこで得た教養は必ず新しい見方や発想をもたらしてくれます。

 

 とまあ、わたしが著者の意見に共感ばかりしているようですが、やはり最後の最後で共感できませんでした。本書の最終章である第8章「人生に目的なんていらない」の最後に、著者は「今がすべてであり、『将来の夢』や『目標』なんて必要ない。『想定の範囲外』の新しいプロジェクトが次から次へと頭に浮かび、毎日がおもしろくてたまらない。僕はそんな人生を送っていきたい」と書いています。これには大いに違和感を覚えました。拙著『孔子とドラッカー 新装版』(三五館)に詳しく書きましたが、仕事をする上で「夢」や「目標」はやはり大切です。ひいては「使命」と「志」が必要だと確信します。

 著者はかつてニッポン放送などの買収を企む「M&A」の人でしたが、経営者や事業家には「Mission(使命)」と「Ambition(志)」の「M&A」が必要なのではないでしょうか。それがあってこそ、ワクワクする人生が送れるのではないでしょうか。著者が絶賛した『サピエンス全史』には「文明の構造と人類の幸福」というサブタイトルがついていますが、やはり社会を変えようとするのならば、「人類の幸福」というものを視野に入れないといけません。著者は、この名著から一体何を学んだのでしょうか?

 著者は、本書『多動力』を渾身の力で書いたそうです。

 「多動力」を身につければ、仕事は楽しくなり、人生は充実すると確信しているという考えには基本的に賛成です。ただし、そこには「使命」と「志」が不可欠ですが・・・・・・。本書を読了して、わたし自身も「多動力」と関係の深い人生を送っていると思いました。そして、多くの仕事を同時にこなしていくには「スピード」よりも「リズム」が大切ではないかと思いました。リズムさえつかんでいれば、レアカードになれる可能性が高まるのでしょう。