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神(サムシング・グレート)と見えない世界』

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No.0705

 

 『神(サムシング・グレート)と見えない世界』矢作直樹・村上和雄著(祥伝社新書)を読みました。

 東大大学院教授で東大病院部長の矢作氏、筑波大学名誉教授で遺伝子学の権威である村上氏、この2人の科学者が「神」「霊魂」「あの世」をめぐって対談した本です。各方面で大きな話題を呼びました。


 本書の構成は、以下のようになっています。


はじめに―「現場感」を大事にしたい(矢作直樹)
第一章:神の存在
第二章:魂と遺伝子をめぐる論争
第三章:「お迎え現象」を科学する
第四章:見えない世界が医療に入る日
第五章:人間はどこに向かうのか?
おわりに―いかに生きるかとは、以下に死ぬか(村上和雄)


 矢作氏の対談本としては、これまでに『人は、死なない。では、どうする?』『死ぬことが怖くなくなる、たったひとつの方法』という本があります。本書では、新たに遺伝子学の世界的権威である村上和雄氏を迎えています。村上氏といえば、「サムシング・グレート」という言葉の産みの親。最初に、本書では「神」を「サムシング・グレート」「摂理」「大いなるすべて」「人智を超えた大いなる世界」「普遍意識」「元親」と定義しています。


 「はじめに」で矢作氏は、著書『人は死なない』の中で、医療現場における多様な日常、心の問題、さらには霊魂の存在まで幅広く触れたと述べています。現役の東大医学部教授が「見えない世界」について書いたということで大きな話題を呼んだ同書ですが、矢作氏にとっては「観測気球」の意味があったそうです。これくらいの内容で、はたしてどれくらい世間で反応があるのかという意味での観測気球でした。


 結果として、全国の幅広い年代、職業の読者から多くの手紙が届いたそうです。大切な人を亡くした人たちから、いくらかでも心が慰められたというものと、自身のそれまで人に言えなかった霊的体験について話してくれるものとが半々でした。メディア関係者によく尋ねられるという"学内バッシング"などは特になかったそうです。ある人に「10年前なら、反応が違ったでしょう」と言われたとのこと。矢作氏自身もそれを認めながら、これは「時代が変わろうとしている」ことの現われなのかなと思うそうです。そして、それは2011年3月11日に起きた東日本大震災のせいではないかといいます。3・11以来、日本人の意識は明らかに変わったというのです。


 第一章「神の存在」において、矢作氏は自身の宗教についての考えを以下のように明確に示しています。


 「私自身、すべての宗教は同根であると理解しています。
 山に登る際、色々なルートでの登り方がありますが、宗教はまさにそれと同じだと思います。頂上、つまり根源的な存在である「摂理」はたったひとつだけれど、そこに至る方法、これが色々なルートの登山道であり、要するにさまざまな宗教・宗派を指すのですが、方法論が違うというそれだけの話です」


 矢作氏の発言を受けて、村上和雄氏も次のように述べています。


 「要は登り方がちょっとだけ違うために、時間を経るなかで、ちょっとした違いがとんでもない違いへと誤解されてしまったようです。よく考えれば、違いはないことがわかるのに、それが見えないし、わからない。宗教は人を癒すために作られたのに、今では人を壊すための装置になっています」


 これは、いわゆる「万教同根」とか「万教帰一」といった考え方です。大本教の出口王仁三郎などに代表される宗教思想ですね。わたし自身も、以前からこの考え方に共感しています。


 また、第二章「魂と遺伝子をめぐる論争」で、村上氏は「魂」「生命」「死」について次のように持論を展開します。


 「私が魂の存在に惹かれるのは、身体の想像を絶する入れ替わりの仕組みを知り、考察したからです。細胞は毎日、ものすごい勢いで入れ替わっています。では、それらの細胞はどこから来ているのか?
 その組成や発生の順番をひも解くと、細胞は私たちの毎日食べる食事から成り立つことがわかります。食物からさまざまな細胞ができるわけです。地球の無機物を植物が摂取し、それを動物が摂取し、さらに人間が摂取しています。
 つまり、私たちが体に持っている元素は、すべて地球の元素です。では、地球の元素はどこから来ているのかと言えば、もちろん宇宙から来ています。自分の体は自分のものだと思っているかもしれませんが、実は私たちの体はすべて借りもの、要するに"レンタル"なのです。レンタルですので、期限が来れば返さねばなりません。これが『死ぬ』ということです。貸し主は地球、宇宙、そして神です」


 第三章「『お迎え現象』を科学する」では、村上氏は「今の日本人は、死をもっとも恐れている民族のひとつだそうです」と述べます。
 そして、京都大学大学院のカール・ベッカー教授(人間・環境学研究科)と対談した際に、ベッカー教授が「最近の日本人は死というものを見たくない、できるだけ避けて恐れる」と語ったことを明かしています。
 日本人が世界で最も死を恐れているというのは、わたしも同感です。なにしろ、日本人はヒトが亡くなったら「不幸があった」と言うのですから。死は万人に訪れるものですから、日本ではすべての人が最後には必ず不幸になるわけです。わたしは、これほど馬鹿な話はないと思っています。


 村上氏も、むやみに死を恐れるのではいけないとして、次のように述べます。


 「死という問題を解決しなければ、人間は幸せになれません。魂が永遠の命みたいなものであり、肉体的な命はなくなるけれども魂はずっと続く。そう考えると、死がそれほど恐いものではないと理解でき、少し不自由だけれども肉体というものを伴って現世に滞在し、時期が来れば元いた場所に帰って行くという仕組みが腑に落ちます。すると死は、そもそも問題視されるものではないとわかります。だから、少しチクッと言わせていただくと、巷で人気のアンチエイジングはムダなのです。エイジング、つまり加齢という自然法則には勝てません。アンチエイジングは、きわめて不自然です。なぜ、アンチなのかが理解できません。むしろ『見事に死ぬ』『どう老いるか』を論じるほうが、健康的です」


 わたしは、この村上氏の意見に全面的に賛成です。


 ここで、第三章のタイトルにもなっている「お迎え現象」について説明しましょう。
 岡部健(東北大学医学部臨床教授、医療法人爽秋会理事長、2012年9月死去)という在宅緩和医療の第一人者が、医療スタッフや研究者の協力のもとで、10年以上、患者さんの家族にアンケート調査を行なってきたそうです。そのテーマは、なんと「お迎え現象」というものでした。
これは、亡くなる前の人が、死に臨み、先に逝った両親や祖父母などの身内や友人の姿を目撃する現象です。周囲の人間には見えません。
岡部教授の調査によれば、42%の方が何らかのお迎え現象を体験し、体験者の52%がすでに亡くなった家族や知人を見たり、感じたといいます。中には、光や仏といった存在との遭遇も報告されています。


 この調査は、文部科学省の研究助成金を得て実施されたそうです。こうしたテーマに国の助成金がつくのは、きわめて珍しいことでした。さらに、矢作氏は次のように述べています。


 「岡部先生はそれまで、少しでも延命治療をすることが患者さんにとって良いと思っていたが、がん患者さんたちとの多くの交流を通して、次第にそれは患者さんの求めていることではない、それよりも豊かに死んでいくことを望んでいると知り、愕然とされたそうです。そこから在宅緩和ケアという領域に進出され、その道の第一人者になられました。ちなみに、岡部先生がいらっしゃった宮城県内でも、仙台市は在宅看取り率が政令指定都市で第1位だそうです」


 第四章「見えない世界が医療に入る日」では、「手をつなぐことには、特別な意味がある」というくだりが印象的でした。矢作氏は次のように述べています。


 「古来、手をつなぐという行為には特別な意味があります。相手と自分の意思疎通、相手と自分のエネルギー交換という意味です。免疫力が上がるとも言われます。生死の境にいる患者さんのそばにいる近親者に『手を握ってあげてください』と言いますが、これには重要な意味があるのです。『手当て』と言うとオカルトな連想をされる方がいらっしゃいますが、そうではありません。
 お母さんたちが、子どもの痛がる箇所に自然に手を当ててさすりますね。あれは『ハンドヒーリング』の一種です。誰かに教えられなくても、人は手からエネルギーが出ていることを本能で知っています」


 第五章「人間はどこに向かうのか?」では、「なぜ、人は『祈る』のか?」というテーマが興味深かったです。「宗教」について、村上氏は述べます。


 「ブッダもキリストもムハンマドも本物の能力者であり、宗教者だと思いますが、年月が経つにつれて、各教団は教祖や開祖の考えとは違う方向へ進みました。『自分の教団こそ正しい』となるのです。
 人類が創造した宗教というカルチャーは、1000年、2000年、あるいは3000年という時間のなかで、その時代の人間たちが自分のグループの維持や発展のために都合よく改変されていきました。それが今、色々な部分で綻びが出始めた結果、日本でも10年ほど前からスピリチュアルブームが起きました。
 特定の宗教に所属せずとも、各自が心で祈れば、神(内在神)とつながることができるというのがスピリチュアリズムの精神ですが、この思想はこれから強い流れになっていくような気がします」


 そして「おわりに」で、村上氏は「幸せ」の本質に迫り、次のように書いています。


 「長い歴史のなかで、人間は常に幸福を考えてきましたが、現在のような世界的に不安定な時代に入ると、本質的な幸せとは何かを改めて考え始めます。
 その時、幸せを考えるうえで大切な視点があります。それは魂の存在であり、魂は永遠であるという事実です。この現世以外に前世があり、そして来世というステージがあるという、魂と輪廻転生の仕組みを理解しないことには、本当の意味での幸せが何かを知ることはできないと思います。
 魂、無意識(潜在意識)とは、科学的に表現すれば『情報』です。現世の情報だけではなく前世、来世の情報が入っている『情報媒体』だと想像しています。
 この情報という切り口で、『身体の情報(遺伝子)』と『魂の情報』の両方がわからなければ、人間は理解できないし、『命(=いのち)』も理解できないでしょう。現世の幸せだけを考えても、本当の幸せは得られません」


 そして、人間は「死」に大きな恐怖感を抱く必要はないのだと強調した上で、村上氏は次のように述べて本書を締めくくっています。


 「今のアンチエイジング、反加齢という流れは異常です。それとは逆に『いかに老いるか』『いかに死ぬか』を考え、実践するほうが人間にとって幸せです。
 なぜなら、いかに生きるかとは、いかに死ぬかということだからです。死の問題を解決するためにも、魂を理解すると同時に、あの世のことを知らなければ、本質的な幸せは得られないと思います」


 それにしても、本書のような対談本が刊行されるとは良い時代になりました。東大大学院教授と世界的科学者が「神」「霊魂」「あの世」といった壮大なテーマに挑んだ本書は、現代に生きるわたしたちに「本質的な幸せ」についての多くの示唆を与えてくれるでしょう。「死」への恐怖も消えていきます。

 

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   村上和雄氏と

 


 昨年11月、わたしは著者の1人である村上和雄氏とお会いしました。東京のホテルオークラにて「ダライ・ラマ法王と科学者の対話~日本からの発信」というイベントが開催され、わたしは東京大学医学部の矢作直樹教授のご招待で参加し、仏教と現代科学の最先端の話を聴きました。そのイベントの実行委員長を務められたのが村上氏で、その時のレセプション・パーティーでお会いし、いろいろと意見交換させていただきました。

 

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   矢作直樹氏と

 


 もう1人の著者である矢作直樹先生とは、親しくお付き合いさせていただいております。昨年末、矢作先生とわたしは「死」と「グリーフケア」をめぐって対談しました。その内容を収めた対談本が、7月上旬頃にPHP研究所から刊行されます。どうぞ、お楽しみに!