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本を読んだら、自分を読め』

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No.0708

 

 『本を読んだら、自分を読め』小飼弾著(朝日新聞出版)を読みました。

 著者は、株式会社オン・ザ・エッヂ(現ライブドア)の取締役最高技術責任者(CTO)を務め、同社の上場に貢献した経歴の持ち主です。現在は書評ブロガーとして知られていますが、この読書館で著者の本を取り上げるのは『新書がベスト』に続いて2冊目です。


 本書には「年間1000000ページを血肉にする"読自"の技術」というサブタイトルがつけられています。また、鮮やかなオレンジ色のカバーには洋書を手にして微笑む著者の写真と「「読んだら終わり」はもうおしまい! 膨大な知識を"本当のチカラ"にする方法」「年に5000冊を読破するDanが教える、20代の教養の身につけ方」と書かれています。


 この人、年に5000冊も本を読むの! そのことにまずビックリ。これまで『キラー・リーディング』(実業之日本社)などの著者である中島孝志氏が年間3000冊読むと豪語されていましたが、上には上がいるものですね。いずれ「年間10000冊読破」の超人も現れるのでしょうか。なんだか読書量や冊数のインフレ現象が起こる予感がしますね。さらにエスカレートすれば「白髪三千丈」みたいな人も出てくるかもしれません。そうなると、もう読書がファンタジー化してしまいますね。わたしにとっては、『考える生き方』の著者であるfinalvent氏の「1日1冊のペースで読む読書を30年以上続けている」というほうがリアルであり、しっくりきます。


 さて、本書のカバーの前そでには「中卒、家庭内暴力、家も燃えた。そんな自分を押し上げてくれたのは、いつも本だった。」と書かれています。どうやら本書は単なる読書論ではなく、人生論の要素も含んでいるようです。

 サブタイトルにある"読自"という言葉が気になりますが、著者はこの言葉に以下の2つの思いを込めているとか。


 1.自分を読む。すなわち、本を通して、今まで気づかなかった自分の可能性(あるいは限界)を発見し、突破していく鍵を握ること。


 2.そして、その方法は、きみ自身が見つけ出す、"読自"のものでなければならない。

 著者によれば、この「読自の技術」を身につける前と後では、本との付き合い方が180度変わり、書店に行くことが楽しくて楽しくて仕方なくなるそうです。


 本書の構成は、以下のようになっています。


CHAPTER1:だから、僕は本で強くなれた
CHAPTER2:本の読み方を変えれば、自分が変わる
CHAPTER3:本屋を歩けば、見える世界が変わる
CHAPTER4:アウトプットすれば知恵はもっと身につく
CHAPTER5:本当の教養は人生を豊かにする


 CHAPTER1「だから、僕は本で強くなれた」には、「ビジネス書ばかり読むのは寂しい」という項目があります。そこで著者は最近はあまり本が売れないけれどもビジネス書だけは比較的よく売れていると指摘します。そこには、一流企業に勤めていても安泰とはいえない現在、ビジネス書を読んで勉強しなければ生き残れないという背景があるようです。著者は、次のように述べます。


 「このようなビジネスマンは、本を読むという点では実によく本を読みます。それこそ、年に50万円から100万円くらい本につぎ込む人も珍しくありません。
 しかしこういう人たちが、ビジネス書以外の本を読むかというと、あまり読まない人が多いのが残念です。仕事が忙しいというのがいちばんの理由でしょうが、話を聞くと『小説などのフィクションを読んでもそのまま自分の利益にならないから』という理由で、他の本を一切読まない人が多いようです。
 これは貧しい。何が貧しいといって、何が自分の利益になるのかということを、自分は全部知ったつもりでいるというのが貧しい」


 わたしは、この著者の意見に全面的に賛成です。
 わたしの周囲にはかなりの数の読書家の方がいますが、小説は読まないという人がけっこういるのです。それと、小説が苦手でどうしても読めないという人もいます。多いのはビジネス書あるいは自己啓発書の類を読み漁っている人です。だいたい面接のマニュアル本の延長みたいな自己啓発書をたくさん読む人というのは、成功へのショートカットの指南を著者に求めているというか、自分の頭で物を考える癖が身についていない人が多いように思います。あるいは「今の自分はこのままでいいんだ」と著者に肯定してもらって、慰めてほしい人なのかもしれません。


 本書の著者は、「小説などのフィクションを読んでもそのまま自分の利益にならないから」という理由で他の本を一切読まない人について述べます。


 「『この世にお金で買えないものはあるか』という議論があります。その論点に立って考えると、物語とは、まさにお金で買えないものです。誰かの手によって書かれて売りに出て、初めてその物語は買えるものになります。
 逆にいえば、本来であれば価値がつけられないものである物語を、お金を出すくらいのことで手に入れられるというのは、とんでもない僥倖だともいえます」


 この言葉にも、わたしは深く共感しました。


 著者は、それほど価値のある物語の選び方についても次のように述べます。


 「物語を選ぶときに大事なのは、好みと直感です。
 実用書を選ぶときよりも、自分の好みを大事にして選んでいい。というより、『たかが絵空事になぜ自分を合わせなければいけないのか』というくらい自分の好みがすべてです。どんなにアマゾンのレビューで絶賛されていて、星が5つついていようが、映画化されていようが、関係ありません」

 これも「その通り!」だと膝を叩きたくなる言葉ですね。


 さて、わたしは小説などのフィクションを読まない人は貧しいと思うのですが、反対に小説しか読まない人も残念な人だと思います。このタイプも周囲に多いので書きにくいのですが、物語の世界に遊ぶことは人生を豊かにしますが、それだけではやはり偏ってしまいます。というか、現実の諸問題に対応する思考が育ちません。ここは「貧しい」というよりも「もったいない」と言ったほうが適切ではないかと思います。そう、小説しか読まない人は、もったいない。哲学書も宗教書も社会学や自然科学の本もエッセイも、そしてビジネス書もそれぞれに広くて深くて豊かな世界を教えてくれます。


 ちなみに、わたしは意識的に小説とそれ以外の本を交互に固め読みしています。


 さて、著者はSFにも造詣が深いことで知られます。「自分の世界を構築する力をつける」という項目では、以下のようにあえて現実逃避としての読書を肯定します。


 「現実から目を背けたいとき、本は、一時の現実逃避になります。現実逃避というと、ネガティブなように聞こえてしまうかもしれませんが、現実逃避をしようにも、想像力のない人はうまくいきません。その逃避先の現実を妄想できる能力が必要になります。特に字で書かれた物語をいきなり読んで、はじめからその物語の世界を頭の中に構築できる人はいないと思います」


 著者のいう「逃避先の現実を妄想できる能力」とは「想像力」のことでしょう。CHAPTER2「本の読み方を変えれば、自分が変わる」の「本に実利を求めすぎるとかえって損をする」でも、著者は想像力について次のように述べます。


 「自分の頭の中にも思い描けないものには、おそらくなれません。僕もいろいろな自分になってみたことがありますが、今程度の自分くらいは余裕で思い描いていたものです。そういう意味でも、想像力ほど役に立つものはないのですが、こういう実利第一主義の人は、もし自分の子どもが空想にふけっていたら、残念なことに『ボーッとしてないで、宿題をやりなさい』というのかもしれない」


 著者の言うことに、いちいち「ごもっとも」と頷いてしまいますね。


 著者は、本書で「想像力」の他に「空想力」という言葉も使っています。CHAPTER5「本当の教養は人生を豊かにする」の「空想力ほど、役に立つものはない」で次のように述べています。


 「空想とは、思考の源です。現実の世界と別の世界を頭の中に思い描くということは、創造力の原点です。それすらなく何かを思いつくということは、あり得ない。ビジネスすらあり得ないはずです」


 「人間は自分の器におさまる発想しかできません。大きな発想ができるようになりたかったら、器を広げるしかない。脳のリミッターをはずして思考するための訓練は、空想することしかありません」


 これは、ディズニーの名言である"If you can dream it,you can do it."という言葉そのものです。


 その他、本書には読書についてのさまざまな考え方や方法論などと書かれていますが、馴染みのある内容が多かったです。CHAPTER3「本屋を歩けば、見える世界が変わる」やCHAPTER4「アウトプットすれば知恵はもっと身につく」なども、特に新しい発見はありませんでした。それよりも、わたしが感心したのはCHAPTER5の「本にも載っていないデータを読み解く力を持つ」に出てくる以下のようなくだりでした。


 「問題です。今、日本の国民所得は約350兆円ですが、では僕たちが国なり地方なりに支払うお金は、いくらあり、何のために使われているのでしょう。考えてみてください。ちなみに去年の国税の税収は約42兆円です。それなのに、国家予算は税収をはるかに、上回り90兆円を超えています。
 実は税金以上に、我々が多く支払っているものがあります。社会保険料です。それが60兆円ぐらいあります。社会保険料に国税、地方税などを全部足すと、140兆円にものぼりますが、でも我々にしてみれば、それほど取られている感じはしない。
 1つの理由は、社会保険料と税金を『別腹』として扱っているためです。
 もう1つの理由は、我々が支払ったお金は、再配分、つまり国から支給される年金や医療費などに回されているからです」


 もちろん、わたしは、ここに書かれていることを知っています。でも、このように改めて指摘されると、新しい気づきがありました。これは企業経営やビジネスにおけるお金の心理学を考える上でも、非常に考えさせられました。


 新しい気づきを与えられた箇所がもう1つあります。同じくCHAPTER5の「自分の中に教師の人格を持て」で、著者は「警察に110番の電話をかけたことがありますか?」と読者に問いかけます。ひったくりとか、自動車で当て逃げされたとか、いろんなケースが想定できますが、とにかく何か緊急の用事があって110番したとします。そのとき、最初に電話に出た警察の担当者は何と言うか?


「どうしました?」、それとも「今、どこにますか?」


 どちらも違います。正解は、「事件ですか、事故ですか」と言うのです。著者は、これを知って感心し、これこそが知恵だと思ったそうです。そして、次のように書いています。


 「『もしもし』ではダメなのはいわずもがな。
 相手は気が動転している。人生で110番通報する機会なんて、滅多にない。どういうふうに話を進めていいのか、わからない。
 でも自然と落ち着くのをじっと待っている余裕はない。何しろ事は急を要する。これは110番を受けたほうがリードしなければいけない。
 そこで『事件ですか。事故ですか』です。その次に、相手がいる場所を訊ねます。
 このような導き方は素晴らしいと思います。こう聞かれれば、慌てている人も、『そうか、これは事故だ』というように客観的に出来事を捉え直すことができる。
 導くということは、素晴らしいことです。うまく導いてもらえれば、人間にはかなりの可能性が拓ける」

 

 わたしも、これを読んで感心し、これこそが知恵だと思いました。一般の人にとって、110番通報も滅多にない機会ですが、葬儀を依頼する電話をかけるというのも似た部分があります。混乱している相手を落ち着かせて良い方向に導くという点では同じです。


 このように本書は非常に使える本なのです。1500円でこんな知恵が買えるのですから、たしかに本ほど安いものはありませんね。ほんとに。