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葛橋』

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No.0348

 

 『葛橋』坂東眞砂子著(角川文庫)を読みました。

 

 『死国』『狗神』では、土俗的な恐怖のみならず男女のエロスも描かれていました。女性作家ならではの繊細な描写でしたが、本書でもその才能が発揮されています。


 本書は、3つの中編からなる小説集です。


 収録作品は「一本樒」、「恵比須」、そして表題の「葛橋」。


 ネタバレになるので詳しいストーリーは書きませんが、3本とも傑作でした。


 最初の「一本樒」を読んで、いきなり衝撃を受けました。


 ひたすら夫に尽くし、真面目に生きてきた人妻の物語です。


 彼女は、DVを振るう夫から逃れてきた実の妹を庇い、家に匿います。


 そこから悲劇が生まれ、物語は破滅へと向っていく。


 読んでいるうちに、話の流れはすぐわかります。


 そこで待っている悲劇的な結末も、想像がつきます。


 しかし、最後のオチだけは予想が外れました。


 すさまじい著者の想像力に圧倒されました。


 「恵比寿」も良質のファンタジー・ホラーで、わたし好みの作品でした。


 海辺に打ち上げられた不思議な物体・・・・・。


 「海から来るものは、すべて恵比寿さまの贈り物」と老人は言う。


 どことなくユーモアも感じられますが、最後にはショッキングな結末が待っています。


 人間の欲というものをテーマにして、じつに良く練られて書かれていると感じました。


 著者の小説は、登場人物たちの特性を随所で見せながら、驚くべきラストへと向わせるストーリーの構成力が非常に卓越しています。


 そして、最後の「葛橋」にも唸らされました。


 東京の証券会社に勤務する青年が、郷里、高知の寒村に帰省します。


 多忙を極める仕事と、半年前に妻を交通事故でなくした心の傷から逃れるためでした。


 彼はそこで、幼なじみで後家の女性と再会し、次第に心惹かれて行きます。


 彼女の家は向こう岸の山の斜面に建っています。


 そこを訪ねるには葛橋を渡らねばなりません。


 『古事記』では、葛とは黄泉の国とこの世をつなぐ存在です。


 その葛で編まれた吊り橋の「あちら」と「こちら」の幻想的な交流が描かれます。


 そこには夢とも現ともつかぬ世界が展開されますが、深い闇から男女の心の亀裂と官能が、浮かび上がってきます。


 「それほど俺を憎んでいたのか」という思いは、男性読者に大きな恐怖を与えます。


 また、改めて著者の文章のうまさに感心しました。


 淡々とした筆運びですが、登場人物の情感がリアルに伝わってきます。


 特に、「あちら」と「こちら」の交流を描いた「葛橋」からは「能」の舞台さえ連想するほど、幽玄の世界が見事に表現されていると思いました。