No.1998 オカルト・陰謀 『超能力事件クロニクル』 ASIOS著(彩図社)

2021.02.03

 『超能力事件クロニクル』ASIOS著(彩図社)を読みました。一条真也の読書館『UFO事件クロニクル』『UMA事件クロニクル』で紹介した本の続編です。著者のASIOSとは、2007年に日本で設立された超常現象などを懐疑的に調査していく団体で、名称は「Association for Skeptical Investigation of Supernatural」(超常現象の懐疑的調査のための会)の略です。海外の団体とも交流を持ち、英語圏への情報発信も行うそうです。メンバーは超常現象の話題が好きで、事実や真相に強い興味があり、手間をかけた懐疑的な調査を行える少数の人材によって構成されているとか。

本書の帯

 本書のカバー表紙には何らかの超能力を発揮しようとしているとおぼしき女性の写真が使われていますが、背後には両手を広げた不気味な影が写っています。帯には、「透視、念写、予言、スプーン曲げ、テレパシー、ヒーリング……」「超能力は実在するか」「『謎解き超常現象』のASIOSが古今東西の‟能力者”を徹底検証!」とあります。

オカルト事件クロニクル三部作が完成!

 アマゾンの「内容紹介」には、「『UFO事件クロニクル』、『UMA事件クロニクル』につづく、シリーズ第三弾! 本来見えないはずのものが見えてしまう〝透視〟、未来の出来事を見事に言い当てる〝予言〟、そこにないはずのものを出現させる〝アポーツ〟……。この世には、その正体は科学的に解明されていないものの、常識を超えた能力を持つとされる者たちがいる。はたしてその能力は、本物なのか。本当に、超能力は存在するのか」とあります。 

本書の表紙カバー裏

 本書の「目次」は、以下の通りです。
【はじめに】「リアル神様」を検証した話
【第一章】1940年代以前の超能力事件
長南年恵
女生神(藤野七穂)
御船千鶴子
伝説の千里眼(本城達也)
クレバー・ハンス 
超能力動物の先駆け(蒲田典弘)
長尾郁子 
日本初の念写能力者(原田実)
高橋貞子 
実在した『リング』のモデル(本城達也)
三田光一 
月の裏側を念写した男(本城達也)
出口王仁三郎 
弾圧を受けたカリスマ(原田実)
ルドルフ・シュタイナー 
神秘思想家(ナカイサヤカ)
エドガー・ケイシー 
眠れる予言者(ナカイサヤカ)
【コラム】宗教者の超能力伝説(原田実)
【第二章】1950、60年代の超能力事件
L・ロン・ハバード 
サイエントロジーの創設者(ナカイサヤカ)
ブルーノ・グレーニング 
奇跡のヒーラー(小山田浩史)
ジーン・ディクソン 
20世紀最高の予言者(山津寿丸)
ピーター・フルコス 
レーダーの頭脳を持つ男(皆神龍太郎)
テッド・セリオス 
念写の先駆者(皆神龍太郎)
藤田小女姫 
奇跡の天才少女(羽仁礼)
クリーブ・バクスター 
バクスター効果の提唱者(ナカイサヤカ)
【コラム】超心理学における超能力者の扱い
     (石川幹人)
【第三章】1970年代の超能力事件
ニーナ・クラギーナ 
最強のサイコキネシス(羽仁礼)
ユリ・ゲラー 
不世出の超能力者(本城達也)
関口淳 
スプーン曲げ少年の元祖(本城達也)
清田益章 
スプーン曲げと念写の第一人者(本城達也)
山下裕人 
現代日本唯一の透視能力者(本城達也)
ノストラダムス 
世界一の大予言者(山津寿丸)
ジェラルド・クロワゼット 
サイコメトラー(皆神龍太郎)
【コラム】米軍の超能力開発計画
     スターゲイト計画とは?(皆神龍太郎)
【特別企画】超能力者はつらいよ? 
     秋山眞人氏インタビュー(皆神龍太郎)
【第四章】1980、90年代の超能力事件
桐山靖雄 
阿含宗の開祖(原田実)
外気功 
中国からやってきた神秘の力(皆神龍太郎)
麻原彰晃 
オウム真理教の開祖(原田実)
サティヤ・サイ・ババ 
アフロの聖人(皆神龍太郎)
関英男 
日本サイ科学会の創設者(ナカイサヤカ)
【第五章】2000年代の超能力事件
ジョー・マクモニーグル 
最強の千里眼(本城達也)
ナターシャ・デムキナ 
X線の目を持つ少女(皆神龍太郎)
ババ・ヴァンガ 
バルカン半島のノストラダムス(羽仁礼)
ジュセリーノ 
的中率90%を誇る予言者(本城達也)
松原照子 
新型コロナウイルスの流行を的中させた予言者
               (本城達也)
【コラム】企業や官庁の超能力研究(羽仁礼)
「巻末付録」
「超能力用語集」
「超能力事件年表」
「執筆者紹介」

 本書には、古今東西な有名な超能力者が取り上げられていますが、トップバッターを飾るのは、「国が認めた超能力者」として知られる長南年恵です。明治時代に活躍した彼女は、山形県鶴岡市出身。「20歳のころからほとんど食事をとらず、口にするものは生水程度であった」「空気中から神水などの様々な物を取り出すなど、多くの不思議な現象を起こしていた」などと言われています。空気中からとりだす神水は、密封した空の一升瓶の中に人々の目の前で満たしたといいます。この神水は万病に効いたそうですが、赤、青、黄など様々な色があったとか。無罪となった裁判所での公判でも出現させましたが、その時は茶褐色でした。

 当然ながら、長南年恵が出現させた神水の正体は彼女の尿であったと推察できます。このことは当時から噂されていました。しかし、偽史ウォッチャーの藤野七穂氏は「1日40本分も排尿できただろうか。仮に360cc入りのビンに300cc入れたとすると、12000cc(12ℓ)にもなる。成人1日の総排尿量は牛乳パック1~2本(1~2ℓ)程度というデータもある(「排泄の基礎知識(排尿編(1)):数字で見る排尿の基本」)。これにさまざまな色の水も出させたという話を加味するなら、突発的な神戸地裁のような場合、『尿』を使い、ルーティンワークとしてはもっと効率のよい方法を採っていた可能性を示唆しているのだろう」と述べています。年恵を取材した新聞記者は、彼女が常用の腹巻中に各種の薬水の入った袋(たとえば管つきのゴム袋)を入れていて、腹を押して薬水を出す、といった仕掛けを想定していたそうです。しかし、公判では全裸の状態でも神水を出したことがありました。藤野氏は、「年恵はときに使い分けて、”神水湧出”をおこなっていたのだろう。既存の資料からはこれ以上の分析や断定は難しい。さらなる資料の発掘を期待したい」と述べています。

 次に、御船千鶴子。明治19年7月17日生まれ。15歳ごろから「千里眼」の透視能力で評判になる。超心理学を研究していた東京帝大助教授の福来友吉に注目され,明治43年東京で数度の公開実験が行われました。同年9月14日には、上京した千鶴子たちと福来らによって、当代の諸科学者たち、ジャーナリストらを集めた公開実験が行なわれましたが、その結果は、試験物のスリ替え事件によって、「千里眼」能力の真偽に対する答えを出せないままに、話題性だけが一人歩きする形で幕を引くこととなりました。本書で、ウェブサイト「超常現象の謎解き」の運営者である本城達也氏は「近年のメディアで千鶴子が取り上げられる際は、この東京での実験で同席した学者たちが千鶴子を責め立て、険悪なかたちで終わったかのように紹介しているものが多いが、そのような事実はない」と書いています。

 御船千鶴子に次に福来友吉が注目したのが長尾郁子でした。愛媛県丸亀在住の能力者でしたが、文字を念ずると写真乾板にその文字を焼き付けることができるという念写を得意としました。古代史・偽史研究家の原田実氏は、「福来が郁子の実験に最初に立ち会った時、福来が喜んだのは郁子が報告者の方に顔を向けて透視を行ったということだった。千鶴子は、観察者に背を向けて透視を行っていたため、彼女が自分の体の陰で実験装置を隠しながら細工をしたのではないかという疑念を払拭することができなかった。ところが郁子は、正面を向きながら観察者との間に実験装置を置いて透視を行う。これなら疑念の生じようはない、というわけである。テーブルマジックを見慣れた者なら、観察者の眼の前でもトリックを仕掛けることは容易だと気づくだろうが、残念ながら福来の態度はトリックに対して無紡備すぎた」と書いています。

 さらに、福来は岡山県和気郡和気町出身の高橋貞子に注目します。貞子は、透視・念写能力を持つ超能力者として福来に協力し、超能力実験の被験者となりました。ホラー小説および映画作品『リング』シリーズに登場する架空の人物・山村貞子の名の由来、または山村貞子のモデルとの説もありますが、本城達也氏は「もともと福来博士は能力者に対して警戒感がなさすぎた。実は1回目の実験が失敗に終わってから、高橋夫妻は福来博士の自宅の近所へ引っ越している。それ以来、貞子は毎日のように福来宅を訪問するようになっていたという。そうなれば、生活習慣や家の間取りなどが把握されてしまい、実験者としては致命的である。しかし警戒感がない福来博士は、貞子の言うように実験の段取りを決め、筒抜け状態の自宅を実験場所として選んでしまう。そのような状況では、残念ながら、いくら実験を重ねても意味がない。福来博士の熱意は尊敬に値するものの、科学者として取るべき冷静な対応が取れなかったことは返す返すも残念である」と述べています。わたしも同感です。

 本書には、日本オカルト史に燦然と輝く超大物も取り上げられています。大本教の聖師であった出口王仁三郎です。彼は大著『霊界物語』を著し、数々の予言を的中させたことでも知られますが、初対面の相手の財布の中身を小銭の枚数に至るまで正確に当てたそうです。しかし、この行為について、原田実氏は「王仁三郎にとって、小銭の数当ては上田喜三郎時代からの得意な出し物だったのではないか。余談ながらヨガ指導者の沖正弘はインドでヨガ行者を称する老人に財布の中身を当てられたことがあったという。日常的な空間での小銭の数当ては相手を驚かせるのに効果的なパフォーマンスなのである。出口王仁三郎の超能力なるものは、予言も含め、超自然的なものというよりトリックの産物とみなした方が妥当である」と述べます。

 世界オカルト史に燦然と輝く超大物も登場します。人智学の創設者であるルドルフ・シュタイナーです。バルカン半島のクラリェヴェクで生まれ、オーストリアやドイツで活動した神秘思想家、哲学者、教育者ですが、霊界を見ることができる能力者としても知られ、『いかにして超感覚的世界の認識を獲得するか』という著作も残しています。しかし、翻訳者のナカイサカヤ氏は「シュタイナーの時代から120年。現代では脳の誤作動で幻視が起こる仕組みが明らかになりつつある。皮肉なことにシュタイナーが影響を受けた神智学、そして彼が構築した人智学の大きな影響を受けて世界を席巻したニューエイジの担い手たちが、シュタイナーと同じように超感覚の世界を認識しようと、薬物、瞑想、感覚遮断などの手段を用いて幻覚を見たことで、脳が幻覚を産む仕組みについての研究が急速に進歩したのだ。シュタイナーは肉体の感覚を意識しないように瞑想するように努めることで、精神を肉体から自由にする方法を説いているが、刺激を減らし感覚を遮断すると幻覚が起こりやすくなることがわかってきている。幻視は決して超能力ではなく、条件が整えば誰にでも起こり得る現象なのである」と述べます。

 「眠れる予言者」として有名なエドガー・ケーシーも登場します。アメリカを代表する予言者、心霊診断家です。彼の思想は神智学協会に始まる近代の神智学の影響が濃い。ニューエイジの思想に大きな影響を与えました。ナカイサカヤ氏は「エドガーもシュタイナーと同様に生まれ変わりの過去生として、エジプトでの記憶を語っているが、これに感銘を受けたマイク・レーナーという名の高校生が1973年に財団の援助でカイロ・アメリカン大学に留学して考古学を学び始めた。本物の考古学とエドガーのリーディングの違いに驚いたマイクは、ピラミッド周辺を地道にかつ丹念に調査する最初のエジプト考古学者となり、何もないと思われていた場所に巨大な都市遺構である、ピラミッドタウンを発見し、それまでのエジプト古代史の常識を覆した。エドガー・ケイシー財団はあまり喜んでいないようだが、エドガーが生きていればどう思っただろう?」と書いています。

 アメリカを代表する新興宗教サイエントロジーの創設者であるL・ロン・ハバードも取り上げられています。人間の無意識の構造をはじめて解き明かし、1950年には、著書『ダイアネティックス:心の健康のための現代科学』を著しました。さらなる探究の末、1954年には独自の宗教哲学を展開しましたが、これもナカイサカヤ氏が「マダム・ブラヴァツキーの神智学、シュタイナーの人智学はいずれも秘儀を継承することで超能力を身に付けられると説いており、シュタイナーはそのための瞑想法などを解説している。エドガー・ケイシー財団もトレーニングでケイシーのような透視能力を開発できると主張し、センターの訪問者はESPカードを使ったトレーニングも体験できる。それらに比べると、サイエントロジーの提供するシステムは修行でもオカルトでも訓練でもないという点で現代的でユニークだ。ハバードは自分はクロウリーの魔術をマスターして魔術師になったと述べており、不死のセイタンが記憶する宇宙史を書いているが、彼自身がセイタンの本来の力を得て超能力者となったかどうかは不明である」と論じています。

 そして、20世紀の後半にその名を世界に轟かせたサティヤ・サイ・ババも登場します。インドのスピリチュアルリーダーで、インド国内では多くの要人も聖者として認める霊的指導者ですが、疑似科学ウォッチャーの皆神龍太郎氏は、サイ・ババは生前、「自分は2020年まで生き、2023年に3度目の転生を果たす」と確約していたことを紹介します。次なるサイ・ババの名は、プレマ・サイ・ババ。その出現する場所には諸説ありましたが、インドのカルナータカ州のグナパルティ村とも、ドッグマルール村だとも言われていました。しかし実際は、2020年を待つことなく2011年4月24日、サイ・ババは心不全で死去してしまったのです。皆神氏は、「サイ・ババは自らのことを、1918年に没したインドの聖者シルディ・サイ・ババの生まれ変わりだと名乗っていたことが、彼を聖人としてインドで正当化する大きな理由のひとつとなっていた。サイ・ババにとって、自らの輪廻転生は最重要課題のひとつのはずであったが、死期を10年近く読み間違え、早く亡くなってしまった」と述べています。

 しかし、サイ・ババは生前に活動本拠地としてインドのいくつかのアシュラム、病院、学校があるほか、国内外に数百万もの信奉者を獲得し、世界126カ国に1200のサティヤ・サイ・ババ・センターを作りました。皆神氏は、「結局、インド南部の片田舎だった生まれ故郷プッタバルティに自らの巨大教団を構えることで、大学や無料の総合病院、長さ2200メートルの滑走路を備えた私有飛行場までを創り上げた。彼がこの世に残していった「遺産」は、4000億ルピー(約5800億円)とも、1兆5000億ルピー(約2兆2000億円)ともいわれている。サイ・ババに対する科学的な実験は1度も行われることがなく、彼が本当に超能力者であったかどうかはかなり疑問が残る。だが、インドの社会福祉事業家としては、一流の人物であったことは間違いないと言えるだろう」と述べています。空中から金粉などを出すよりも、こっちの方がよっぽど超能力ではないかと思うのは、わたしだけではありますまい。実際、一代で巨大事業を成し遂げるような人物は、願望という強い想念によって現実を変容させる一種の超能力者であると、わたしは思っています。

Archives