No.1987 心理・自己啓発 『勉強が死ぬほど面白くなる独学の教科書』 中田敦彦著(SBクリエイティブ)

2021.01.06

 吉本興業がお笑いコンビ「オリエンタルラジオ」の中田敦彦(38)、藤森慎吾(37)とのマネジメント契約を昨年12月31日をもって終了しました。今年から2人は独立して活動します。
 その中田敦彦の著書『勉強が死ぬほど面白くなる独学の教科書』(SBクリエイティブ)を読みました。YouTuberとして大活躍の著者ですが、『鬼滅の刃』と「新選組」の解説動画が非常にわかりやすかったので、感銘を受けました。著者は、1982年生まれ。慶應義塾大学在学中に藤森慎吾とオリエンタルラジオを結成し、2004年にNSC(吉本総合芸能学院)へ。同年、リズムネタ「武勇伝」で『M-1グランプリ』準決勝に進出して話題となり、2005年に『エンタの神様』(日本テレビ系)などでブレイク。バラエティ番組を中心に活躍。2016年、音楽ユニットRADIO FISHによる楽曲『PERFECT  HUMAN』を大ヒットに導き、NHK紅白歌合戦にも出場。2018年には、自身のオンラインサロン「PROGRESS」を開設。アパレルブランド「幸福洗脳」を立ち上げ、経営者としての手腕も注目されている。2019年、YouTubeチャンネル「YouTube大学」を開設し、歴史や文学、政治経済などの授業動画の配信をスタート。開設からわずか4か月でチャンネル登録者数が120万人を突破するほどの爆発的な人気を得ています。現在の登録者は、なんと330万人以上です。 

本書のカバー表紙の下部

 本書のカバー表紙には著者の顔写真とともに、「中田敦彦式 勉強ノウハウ40を一挙公開!」「日本史」「世界史」「文学」「政治」「経済」「英語」「YouTubeチャンネル登録者数 最速で100万人突破」と書かれています。また、帯の裏には、「あなたは、勉強が楽しいですか? それとも、つまらないですか? 断言します。勉強はめちゃくちゃ面白い! ほんの少し『やり方』を変えると、勉強は”最高”のエンターテインメントに変わるのです」と書かれています。

本書のカバー裏表紙の下部

 さらに、カバー前そでには、「死ぬほど面白く学びながら、大人の教養を身に付けられる中田式独学勉強法6つのルールと、歴史、文学、政治、経済、英語などジャンル別40のコツを教えます!」とあります。

 本書の「目次」は、以下の構成になっています。
序章 勉強の「面白さ」を伝えたい
1章 中田敦彦式、独学勉強法6つのルール
2章 「歴史」の独学勉強法19
【特別対談】「歴史」の勉強に革命を起こせ!!
      (中田敦彦×ムンディ先生)
3章 中田式「文学作品」の読み方 7
4章 「政治・経済」の独学勉強法 9
5章 「英語」の独学勉強法 5
【特別対談】「数学」の勉強に革命を起こせ!
      (中田敦彦×ヨビノリたくみ)
【巻末付録】中田敦彦の「大人の学び直し」
      オススメ本リスト 

 序章「勉強の『面白さ』を伝えたい」では、「僕が教育系YouTuberになった理由」として、著者は「2019年春、僕はYouTubeで教育系の動画配信をスタートしました。題して、『中田敦彦のYouTube大学』。チャンネルで扱っているテーマは、日本史、世界史、文学、現代社会などです。チャンネル登録者数は、開始5か月で100万人を突破。学び直しの大人だけでなく、高校生や大学生も視聴してくださっているようです」と述べています。 

 また、「『これまで誰も受けたことがない授業』を目指す!」として、著者は「学ぶことによって、人生が豊かになり、知識欲や好奇心を満たすことができる。そして、何より自分を成長させてくれる肥になる。このような勉強をしている瞬間は、僕にとって一種の”快楽”であり、エンターテインメントです」と述べます。この言葉は、つねづね「学びこそ楽しみ」と考えているわたしも大いに共感できました。 

 第1章「中田敦彦式 独学勉強法6つのルール」では、「これから、『独学』は必須スキルになる!」として、著者は「僕にとって教養は、『大人の必須アイテム』です。なぜ、必須かというと、教養は自分を『アップグレード』させるために欠かせないものだからです」と述べ、さらに「今、世界がこれまで人類が経験したことがないほどの大きな変化を迎えようとしています。そんな時代に、自分が持っている経験と知識だけで立ち向かおうとするのは、冷静に考えて、かなり無理があります。だから、『新時代を生き抜くための教養』が、大人が生きていく上での必須アイテムなのです」と述べます。

 これまでの学びの手段は、「学校に通う」か「本を読む」くらいしかありませんでしたが、今はインターネットがあるとして、著者は「YouTubeが生まれ、教育系YouTuberが登場したことにより、好きな時間に、無料で、しかも質の高い講義が受け放題です。現在、『学びたい』という欲求さえあれば、いくらでも自分で学べる環境が揃っているのです。これからの時代、『独学ができる人』と『独学ができない人』の間にかなり大きな差が生まれる。僕はそう考えています」と述べるのでした。 

 中田式独学のルール2「情報収集は『1冊の本』を軸にする」では、ネット記事を読んだだけで満足してはダメだとして、著者は「ネットで入手できるのは、あくまでも『単発の情報』だからです。ネット記事は散文的で、テーマを立体的に理解するには不十分なのです。ネットの有料ニュースサイトなどで主要な記事をチェックした上で、情報を補完することが大切です。そこで有効なのが、読書。情報収集において、本は最も効率のよいツールです」と述べています。 

 著者の場合、読みやすそうな本を2~3冊まとめて購入し、その足で喫茶店に入り、読み比べるそうです。そのうち1冊を軸にして、残りは補完的に参考にするのだとか。著者は、「僕は同じ本を2回読みます。1回目はザっと読み、2回目で気になった箇所に線を引くのです。僕の読書のポイントは、本文を読む前に目次を読み込むことです。目次から内容を想像した上で本文を読むと、内容の理解がグンと深まるのでオススメです。そして、本を読んでいて気になったキーワードはネットで調べる。この流れが、情報収集法としては、現時点でベストです」と述べています。 

 著者の勉強法の神髄を知るために、「文学」のページを開いてみましょう。
 第3章「『文学作品』の読み方」の6「『こころ』から読み解く日本人の精神の変化」では、夏目漱石の『こころ』には「明治の精神」が色濃く反映されているとして、著者は「そもそも明治維新以降、政府は国家を神道でまとめようとしました。神道を中心に国家をイチからつくり直そうと試みたわけです。『こころ』という作品で描かれる殉死は、国家神道を軸とする明治の考え方と、江戸時代以来の儒教の考え方の終着点を象徴しています」と述べています。 

 乃木希典は、国家と明治天皇を生きる支えとしていました。それが失われたから殉じるというのは、彼の中で理屈が通っているとして、著者は「しかし、乃木希典の殉死については、当時も賛否が分かれました。旧世代の新渡戸稲造や森鴎外は賛意を表し、新世代の志賀直哉や芥川龍之介は疑問を表明しています。忠義を重んじる『封建的道徳主義』と、それを無価値とする『西洋的個人主義』との間で人々が揺れていたことを示しています。つまり、夏目漱石は、明治時代を総括するという意思で『こころ』という作品に取り組んだことが推測できます」と述べます。 

 また、文学の読み方7「自分のアイデンティティを見直すきっかけにする」では、太宰治の『人間失格』を取り上げ、著者は「『人間失格』の最大のメッセージは『私たち日本人はいったい何を信じればいいのか?』という問いかけであり、「日本人には、もはや信じるものの軸がない」ということを提示している物語だと思うのです。日本人の多くが、初詣は神社に行き、お葬式はお寺で、結婚式は教会であげます。それにもかかわらず『あなたの宗教は何ですか?』と問われると、明確に答えることができません。そんな『信じるものがない』日本人の精神について、『人間失格』は僕たちに問いかけてきます」と述べます。 

 「おわりに」では、著者はこう述べています。
「今はM-1グランプリで優勝しても、必ずしもテレビで売れて活躍できるとは限りません。キングオブコントやR-1ぐらんぷりで優勝したにもかかわらず、生活に苦労している芸人さんもいるくらいです。僕は、2016年にダンス&ボーカルユニット・RADIO FISHとして紅白歌合戦に出場を果たしました。同じ事務所の先輩芸人である又吉直樹さんは、執筆した小説『火花』で芥川賞を受賞しています。ひと昔前なら、そういった実績を残した人は、当たり前のように冠番組を持ち、まったく食うに困らない生活をしていたはずです。でも、今は違います。紅白歌合戦に出場しても、芥川賞を獲っても、テレビに出られる保証はないのです」 

 なぜ、こんな状況になっているのかというと、著者いわく、明らかにテレビというメディアがスケールダウンしているからです。端的にいえば、視聴率が恐ろしい勢いで下がっているとして、著者は「要するに、今の自分はタイタニック号に乗っているのと同じ。タイタニックの乗員が同じ乗員と話し合ったところで、船の全貌が見えず、埒があかないのは明白です。僕は、違う船に乗っている人たちのところに話を聞きに行き、『どの船に乗るべきか?』を真剣に模索し始めました。ビジネスの世界で成功している経営者、教育者、若手のYouTuberなどと議論を繰り返し、自分の新しい船をつくる必要性を認識しました」と述べるのでした。

 わたしが感銘を受けたように、著者の「YouTube大学」は、本当にわかりやすくて面白いです。このような動画で学ぶことができる現代の子どもたち、いや大人たちも本当に恵まれていると思います。わたしも大学の教壇に立って講義をする身なので、動画での著者のレクチャーぶりはとても勉強になりました。拙著『「鬼滅の刃」に学ぶ』(現代書林)を書くときにも参考にさせていただきました。

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