No.1919 ホラー・ファンタジー 『サイレンス』 秋吉理香子著(文春文庫)

2020.07.22

 『サイレンス』秋吉理香子著(文春文庫)を読みました。最近話題になったホラー小説が読みたくなって、一条真也の読書館『小説シライサン』『禁じられた遊び』で紹介した本と一緒にアマゾンで購入したのですが、面白くて一気に読了!
 著者は、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。ロヨラ・メリーマウント大学大学院にて、映画・TV製作修士号取得。2008年、「雪の花」で第3回Yahoo!JAPAN文学賞受賞。09年、同作を含む短編集『雪の花』でデビュー。その後、図書館司書として勤務するかたわら、『暗黒女子』を発表。この作品を数々のイヤミス作品を生み出し、今や「イヤミス界の新旗手」と呼ばれています。ちなみに、イヤミスとは、後味が悪く、嫌な気持ちで終わるミステリー作品のことだとか。殺人犯側のゾッとする心理描写や悲しい結末を描き、謎が解けてスッキリすることはなく、むしろ不快感を味わう作品のことだそうです。初めて知りました!

本書の帯

 本書の表紙カバーには、美しい女性の顔が描かれ、帯には「一気読み必至の偏愛サスペンス」「最もゾッとしたし、最も好みである――澤村伊智(解説)」「婚約者が雪深い孤島で突然失踪……故郷の島には恐ろしい‟秘密”があった」と書かれています。

本書の帯の裏

 帯の裏には、以下の内容紹介があります。
「深雪は婚約者の俊亜貴を連れ故郷の雪之島を訪れる。結婚をしてありふれた幸せを手にいれるはずだった。ところが祝宴の席で深雪は思いもよらないことを島民たちから知らされ、状況は一変する。やがて俊亜貴は行方不明に……。この島、何かがおかしい―――。人間の奥底にある執着心と狂気を描いた傑作サスペンス」

 また、アマゾンの内容紹介には、こう書かれています。
「《舞台は雪深い孤島。島の護り神である「しまたまさん」は願い事を叶え、護ってくれるという……》島一番の美人で、かつてはアイドルを目指していた深雪。現在は夢を諦め東京の芸能プロダクションでマネージャーをしている。婚約者である俊亜貴と三年ぶりに故郷の島を訪れるが、彼には深雪に言えない秘密があった……。その秘密が明らかになった時、深雪の運命が狂い始める。イヤミス界の新旗手による、一気読み必至のサスペンス小説。細かく散りばめられた伏線の意味に気づいたとき、思わず背筋が凍ります」

 主人公の深雪は中学生時代にはトップアイドルになれる素質を持っていたものの、住んでいた島を離れて東京に移住することを父親から許されず、芸能人になるという夢を諦めました。彼女は、自分の夢を奪った島に対して複雑な感情を抱いています。その島に住む人々は、「しまたまさん」という島の守護神を信仰しています。「しまたまさん」とは何か。漢字で「島霊様」と書き、深雪の言葉を借りれば、「島と海を護る神様のこと。元日には島の子供たちが『しまたまさん』として、一年の豊漁と安全を祈願するの。船着き場から出発して、お寺までの道のりを、お囃子をしながら練り歩く。そうやって、島全体をお清めする」そうです。離島によく見られる土俗信仰であることがわかります。
 わたしは、こういう場所がけっこう好きなので、「GoToトラベル」で旅するなら、こんな島に行ってみたい!

 ホラー小説には、辺鄙な地方に伝わる奇怪な風習を描いた作品で、民俗学的興味にあふれた「奇習もの」とでも呼べるジャンルがあります。「フォークホラー」などと呼ばれます。たとえば石原慎太郎氏の『秘祭』などもその1つです。沖縄の離島とか、中国地方の山奥(横溝正史の世界がまさにそう!)とかに伝わる異常な怪奇習俗をテーマにしたものが多く、過疎地に対する悪質な偏見であると批判する見方もあるようです。宗教哲学者の鎌田東二先生も、明らかに八重山諸島を舞台とした『秘祭』には離島に対する差別意識があると憤慨されていました。この『サイレンス』には、特定の祝祭や儀式は登場しません。ただ、島に根付いている「しまたまさん」信仰の存在がほのめかされているだけです。しかし、結局は島に住む人々が前近代性と排他性の塊であるように描かれていることは間違いありません。ミステリーとして面白いのですが、その舞台である孤島の描き方にどうしても偏見が感じられて残念でした。

 あと、深雪の婚約者である俊亜貴のクズぶりは、よく描けていました。東京生まれの彼は大手の広告代理店に勤務し、芸能界にも顔が広いイケメンです。深雪の幼馴染である達也という青年は、初めて会った俊亜貴が浮気相手と電話している場面に遭遇します。じつは、その相手とは深雪がマネージャーを務めるアイドルタレントだったのですが、それを知った達也は「深雪は純粋で一途な島の女だ。裏切られても、きっと赦して一緒になる。そして仕事も信用も失った男を、一生懸命支えるこういう男が一番たちが悪い。女にだらしなく金にもルーズで、けれども母性本能をくすぐることに天才的に長けている。そしてほとばりが冷めたら、また同じことを繰り返す」と思うのでした。

 わたしは、この俊亜貴についての描写を読むにつれ、アンジャッシュの渡部健を連想しました。そういえば、彼の妻である佐々木希も、雪のように白い肌を持つ雪国生まれの美女ということで深雪のイメージそのものです。俊亜貴は知識が豊富で、説明が的確でわかりやすいという設定で、そこに深雪は惹かれたことになっています。これも、もろに渡部健と佐々木希に重なります。週刊誌などの報道によれば、佐々木希は「グルメ王」と呼ばれ、各種の検定資格を持っている渡部の知識の豊富さと説明の上手さに惚れたようで、今でもベタ惚れで「離婚しない」と言っているそうです。わたしぐらいのトシになると、彼女の父親の心境で、「この男は、たちが悪い。必ずまた過ちを繰り返すタイプだから別れたほうがいいのになあ」などと思ってしまいます。

「週刊文春」6月25日号より 

 もっとも二人のあいだには1歳になる息子さんもいるそうなので、「離婚する、しない」は本人同士の問題です。わたしなどが心配するのは完全に大きなお節介なのですが、「それでも」と思わずにはいられません。そんなこんなで、ネタバレにならないように慎重に書くと、『サイレンス』では最後に俊亜貴が悲惨な目に遭います。正直、わたしは「ざまあみろ!」と思ってしまいました。ということで、この物語を読み終えて、非常にスカッとしました。わたしにとっては「イヤミス」ではなく、「スカミス」だったようです。(笑)

Archives