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シュートマッチ』

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No.1847


 22日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて各種イベントが自粛される中、さいたまスーパーアリーナで「K-1 WORLD GP 2020」が開催されたのには驚きました。さらなる感染拡大につながらないことを祈るばかりですが、格闘技界が日本政府にシュートマッチを仕掛けましたね。
 『シュートマッチ』アントニオ猪木+長州力+前田日明+天龍源一郎ほか著(宝島社)を読みました。「プロレス『因縁』対談10番勝負」というサブタイトルがついています。伝説のレスラーや業界関係者たちが、異色の組み合わせで行った対談が収録されています。K-1創始者の石井和義氏も登場しています。

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本書の帯

 

 本書のカバー表紙には、アントニオ猪木、長州力、前田日明の3人の顔写真が使われ、帯には「予測不能」と大書され、以下の10組の対談リストが並んでいます。

 
アントニオ猪木バル石井和義
藤波辰爾×長州力
天龍源一郎×川田利明
大仁田厚×武藤敬司
安生洋二×坂田亘
谷津嘉章×越中詩郎
安田忠夫×草間政一
大谷晋二郎×橋本大地
藤原喜明×キラー・カーン
前田日明×ジョージ高野

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本書の帯の裏 

  

 カバー裏表紙には猪木の顔写真が使われ、帯の裏には猪木&石井、前田&高野のツーショット写真とともに、「業界騒然のマッチアップ」「アングルなしの『ガチ対談』」「エンディングは、神のみぞ知る!?」と書かれています。

  

 「もう、さすがに昭和プロレス本を振り返る本はいいかな?」と思いましたが、宝島社から新刊が出ると条件反射でアマゾンに注文してしまう自分がいます(笑)。「嗚呼、哀しき昭和プロレスファン世代かな」といったところですが、サブタイトルに「因縁」と謳っている割には、お互いが褒め合う「和気あいあい対談」「ほのぼの対談」ばかりでした。まあ、対談というのはプロレスと一緒で息の合う者同士がスイングしたほうがいいのでしょう。ただし、番外編として最後に収められた「『週刊プロレス』取材拒否の真相」と題するターザン山本×永島勝司の対談だけはまったく馴れ合いがないというか、相手の存在を消し合う殺気に満ちたシュート対談でした(苦笑)。

  

 「はじめに」で、ターザン山本は、「プロレスファンはもともと『いざこざ』『揉め事』『犬猿の仲』というのが好きだ。好奇心をそそられる。根が野次馬根性なので仕方がない。対談をセッティングする編集者の立場からすると冷や冷やものだ。腫れ物に触る思い。誰と誰の企画がボツになったのか。無理だったのか。それを想像してみるのも楽しい。『あれとあれ?』。そのクイズに正答できる人はファンとして相当なマニアだ。『遺恨』『憎しみ』『怒り』で今も妥協しないレスラーは誰なの? そんなこんながあってここに登場した20人のメンバー」と書いています。
 その20人に番外編の2人を加えたメンバーをシャッフルして組み合わせ直すことができるなら、わたしは、長州力×キラー・カーン、前田日明×安生洋二、天龍源一郎×ターザン山本の対談を読みたかったです。もちろん無理とは承知していますが、ターザン風に言えば、それでこそガチの「因縁」対談ですよぉぉぉぉぉぉぉ!! 

 

 アントニオ猪木×石井和義の対談では、2002年8月28日に国立競技場で開催された伝説の格闘技イベント「Dynamite!」の思い出話がなつかしかったです。人気絶頂のK-1とPRIDEが合体したもので、入場者数9万1107人という超スケールの大会でした。わたしも行きましたが、ものすごい熱気に圧倒されました。このとき、猪木は3000メートル上空からパラシュートで国立競技場に舞い降りるという前代未聞のパフォーマンスを見せました。まさに、00年代格闘技ブームを象徴する超弩級の名シーンでした。 

 

 この「Dynamite!」を振り返って、2人は以下のような会話を交わします。

猪木 あれだけの仕事ができたんだけど、残念ながらお互いの参謀がその先のことが考えられない。あの国立競技場以上の何をやればいいの? となったら、藤さんから下りるしかないんだけど(笑)。あの時がピークでしょ。

石井 ピークがひとつ来ましたよね。だからあそこまでいっちゃったら、その次は何をやるかというと、競技化。僕らが目指すものは世界中にアマチュアの組織をつくって、その上にプロがあって、サッカーのワールドカップみたいなものに向かって行かなくちゃいけないのに、そのあともみんなやっぱりイベント、イベントと、これまでと同じようなものの作り方。でも、「Dynamite!」を観ちゃったら、あとはもうないじゃないですか。 

猪木 テレビの視聴率も獲れたことで、欲がでてきちゃったのかな。結局なんだかわからないうちにみんな分かれてしまってね。 

 

 前田日明×ジョージ高野の新日本プロレス元エース候補同士の対談は、お互いをリスペクトし合っているのがよく伝わってきました。ジョージのほうが入門は1年先輩でしたが、2人は同期ようにともに切磋琢磨する関係でした。のちに前田は「新日本プロレス史上、最も素材がよく、最も素質があったのは間違いなくジョージ高野」と語っていますが、ジョージのほうも前田の強さに憧れていたそうで、以下のように語っています。「UWFに誘われてたら行ってたと思う。だって新日本のエリート集団だから。前田日明、髙田(延彦)ってね。UWFっていうのはマーシャルアーツができる唯一の集団でしょ。新日本の隠し玉。彼らがいなくなって他に誰がマーシャルアーツをするんですか? 武藤(敬司)とかしてないじゃないですか。そんな人間が天才ですか? 前田氏と武藤どっちが天才ですか?って」 

 

 また、最近の猪木が「俺の後継者は前田だと思っていた」と言っていることについて、前田は「『嘘つけ!』みたいなさ(笑)。そんなの全然思ってなかったのにさ、あと出しジャンケンで言われたところで全然うれしくないよって」と毒づくのですが、ジョージは「前田日明しかいないんですよ。長州さん、藤波さんっていうのはまた違う形なんですよね。選手にメシを食わせるために先輩として頑張ってるんであって、でも伝承者っていうのは、時代を知ってて魂を注入できる人じゃなきゃダメで、今の誰でもできるプロレスを破壊しなきゃいかん。もう一度バック・トゥ・ザ・ベーシックで、プロレスを本当のプロスポーツにしないと。それには前田氏しかもういないと思うんだよ」と語るのでした。 

 

 藤原喜明×キラー・カーン対談もなかなか面白く、執拗に坂口征二と木村健吾の悪口を繰り返すカーンに対して、「人の悪口はやめなさい」と諫める藤原のやりとりが最高でした(笑)。でも、本書で一番面白かった対談は、安生洋二×坂田亘でした。前田日明と高田延彦が今のような犬猿の仲になった経緯が詳しく語られていて、貴重な情報に溢れています。前田は、PRIDE-1の髙田vsヒクソン戦の前、髙田に連絡してリングスの道場で極秘に指導を行っていた話など初めて知りましたし、安生による前田殴打事件の真相なども興味深く読みました。反対に、一番ショッパかった対談は、安田忠夫×草間政一。選手と社長の立場こそ違えど、ともに新日本プロレスから追われた2人ですが、とにかくカネにまつわる恨み言、愚痴ばかりで、読んでいて虚しくなりました。

  

 ただ、猪木の金銭感覚についてのエピソードは面白かったです。猪木が側近の人々にポンと30万円ぐらいのお金を渡していたという話に続いて、以下の会話が交わされます。

安田 猪木さんは人は悪くないですよね。俺も世話になりました。だって空港に迎えに行くたびに小遣いをもらってましたよ。最初5万円とかだったのが、最終的には10万円とかになって。俺がタダで迎えに行くわけねぇじゃん(笑)。

草間 猪木さんって昔からお金には無頓着なところがある。ホテルに一緒にいる時、『草間さん、悪いけどちょっとタバコを買ってきて』って1万円札を渡されて。買ってきてお釣りを渡したらさ、『俺、小銭はいらねえんだよ』って全部くれるんだよ(笑)。だからどこへ行っても人が寄ってくる。一度、昼メシを食いに行って『いくら払ったんですか?』って聞いたら、540万円。

安田 すごいな(笑)。

草間 高いワインとか飲んでたけどね。あの人はカネがないって言ってたけど、毎日六本木とかで食べたり飲んだりしてたでしょ。日本にいるときはオークラに毎日泊まっていたし、ニューヨークと日本の往復でもファーストクラスだからさ。片道100万円だよ。そんなんだから『無駄なお金を使うな』ってことで前の奥さんにハサミでカードを全部切られちゃったんだよ。『新しくカードを作らなきゃいけない』って焦ってた(笑)。 

 

 どうしようもなく救いのない安田×草間対談でしたが、最後に猪木の金銭エピソードが出て、なんだか救われたような気分になりました。猪木といえば、最近、喜寿を迎えました。77歳の誕生日となる2月20日、「アントニオ猪木の喜寿を祝う会」が都内のホテルで行われました。プロレス関係者や芸能人をはじめ、約300人が集まったそうですが、テレビ朝日「ワールドプロレスリング」の中継で名をはせた古舘伊知郎さんのアナウンス、テーマ曲「炎のファイター」が響く中、猪木が登場したそうです。猪木は、おなじみの「元気ですか!」のあいさつからスタート。 

 

 紫色の蝶タイとマフラーを身につけた猪木は「77歳と紹介されましたが、そんなになっていたかな。きょうからまた新しいスタート」と健在ぶりを示しました。祝福に訪れたプロレス界の後輩、藤波辰爾、長州力、天龍源一郎と檀上に上がった猪木は4人で「1、2、3、ダー」を披露。最後は長州に「闘魂ビンタ」をくらわし、会場を大いに沸かせました。それにしても、猪木の前ではしゃぐ長州を誰か想像したでしょうか。みんなトシを取りましたが、こんな姿を見たら昔の「因縁」など忘れてしまいます。前田や髙田も、いつの日か笑い合えたらいいですね。

  

 2月28日には、武藤敬司が主催する「プロレスリング・マスターズ」後楽園大会が、猪木のデビュー60周年記念大会として開催されました。試合後に猪木がリングに上がり、さらに武藤、蝶野正洋、越中詩郎、藤原喜明、藤波辰爾、木村健悟、前田日明、木戸修、長州力と猪木の弟子にあたるレジェンドらが集結し、師匠をぐるっと囲みました。マイクを持った猪木は「熱い声援をもらったら、人前に出ることは素晴らしいこと」と喜びを語りました。 さらには、武藤、蝶野、長州、そしてなんと前田にビンタで闘魂注入。「がんばっていこうよ。これからのプロレスが世界に向けて勇気と希望を発信できるように」と述べ、「1、2、3、ダー!」のかけ声で大会を締めました。新日本プロレスの黄金時代を知っている者には涙なくして見れない感動シーンの連続でした。