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ものの見方が変わる 座右の寓話』

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No.1842


 『ものの見方が変わる 座右の寓話』戸田智弘著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を読みました。著者は1960年愛知県生まれ。北海道大学工学部、法政大学社会学部卒業。著書に『働く理由』『続・働く理由』『学び続ける理由』(以上、ディスカヴァー)、『海外リタイア生活術』(平凡社新書)、『元気なNPOの育て方』(NHK生活人新書)、『就活の手帳』(あさ出版)、『「自分を変える」読書』(三笠書房)などがあります。 

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本書の帯

 

 本書の帯には「古今東西語り継がれる人生の教え77。『北風と太陽』『キツネとブドウ』『人間万事塞翁が馬』......寓話は大人の課題図書」「仕事に人生に効く!」と書かれています。

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本書の帯の裏

 

 帯の裏には「スピーチやプレゼン・ブログのネタにも使える!」として、以下のような実例が並びます。
「ナスルディンのカギ」(トルコ民話)●「墨子と占い師」(『墨子』より)●「北風と太陽」(イソップ物語)●「与えられたタラント」(キリスト教寓話)●「効率の悪い畑仕事」(『荘子』より)●「水車小屋の男」(トルストイ『人生論』より)●「狩人と鳥」(ユダヤ民話)●「三つの願い事」(ドイツの昔話)●「三年寝太郎」(日本の昔話)●「人間万事塞翁が馬」(中国古代寓話)●「閻魔王の七人の使者」(グリム童話)●「『死の意味』と『生の意味』」(『論語』より)

 

 アマゾンの「内容紹介」には「古今東西語り継がれてきた迷ったときのヒントが見つかる。イソップ物語から中国古典まで仕事に人生に効く‟深イイ話"77」として以下のように書かれています。
「寓話は人生の教訓や真理を伝えてくれるツールです。 教訓や真理は一見抽象的で分かりにくいものですが、物語のかたちをとることで自然とその教えを受け入れることができます。本書はおなじみのイソップ寓話から世界の民話、古典、逸話など古今東西語り継がれてきた77の寓話を集め、その解説を載せました。 解説には一般的に語られる解釈に加え、通説とは異なる視点や現代的に見直した解釈など多面的に物事をとらえられるようにしました。本書は自らの仕事や人生についての考えを深めるのにはもちろん、スピーチやプレゼンなどの話の材料としても使えます。 そのために、すべての寓話は長くとも2分以内で話せるようにまとめ、表現も聞いて分かるように改めました。 朝礼やブログなどで話のネタに困っている方のネタ帳としても活用できるでしょう。77の寓話はそれぞれ15の章に分類されています。きっと今の悩みや現状に合った寓話が見つかるはずです」
 いやあ、至れり尽くせりの「内容紹介」ですね。

 

 本書の「目次」は、以下の構成になっています。

「はじめに」

第1章 視点と視野と視座

第2章 幅広い認識としなやかな思考

第3章 思慮深さと正しい判断

第4章 聡明さと創造的な仕事

第5章 強い組織の精神

第6章 働く姿勢と働く意味

第7章 正義の心と共同体

第8章 科学技術と社会の関わり

第9章 人生の道理と「有り難う」

第10章 欲望との付き合い方

第11章 学びの心得と学ぶ理由

第12章 挑戦と持続可能性

第13章 自分の物語の描き方

第14章 生と死のつながり

第15章 どんなときでも「ものは考えよう」

  

 「はじめに」冒頭に「寓話」の定義が示されています。
『第六版 新明解国語辞典』(三省堂)で「寓話」という単語を引くと「登場させた動物の対話・行動などに例を借り、深刻な内容を持つ処世訓を印象深く大衆に訴える目的の話」と書かれています。イソップ寓話や仏教寓話、荘子の寓話などが代表的なものです。「本書ではこういう寓話に加えて、聖書で語られるイエスのたとえ話、道話(人の行うべき道を説いた話)、逸話、笑い話、民話、昔話なども取り上げている。何らかの教訓を読みとることができれば、それは広い意味で寓話だと解釈した」と述べられています。

 

 著者いわく、寓話の目的は教訓や真理を伝えることであり、お話そのものはそれらを届けてくれる"運搬手段"だといいます。別の言い方をすると、寓話においては教訓や真理こそがその核であり、お話はそれらを包みこむ"外皮"だというのです。では、なぜそのような二重構造をとるのでしょうか。著者は、「教訓は苦く、真理は激しいので、そのままでは食べられない。ならば、楽しいお話で教訓や真理を包んで読者に届けようというわけだ。教訓や真理は抽象的であるのに対して、お話は具体的で動きを持っている。寓話の読み手や聞き手は登場人物や動物と同化し、お話の中に巻き込まれていく。面白さに気をとられているうちに、いつの間にか人間や世界、人生についての認識が深まっていくのである」と述べています。

  

 アメリカの心理学者にジェローム・ブルーナーという人がいます。一般には教育心理学者として知られていますが、認知心理学の生みの親の1人であり、また文化心理学の育ての親の1人でもあります。その生涯を通して20世紀心理学の歴史を体現した巨人です。そのブルーナー著書『可能世界の心理』(みすず書房)の中で、人間が持っている思考様式として、「論理・科学様式」(理屈で説明する方式)と「物語様式」(物語で説明する方式)の2つがあると述べました。両者はお互いに補い合っており、どちらか一方が他方よりも優れているわけではないといいます。

 

 本書について、著者はこう述べています。
「本は2種類に分かれる。1つは自分に何かを教えてくれる本、もう1つは自分が何かについて考えるための材料を与えてくれる本だ。私は本書をつくり込んでいく過程で、古今東西の寓話の面白さを再発見した。同時に、その寓話を1つの材料としながら、さまざまなことを考えた。お話の後に添えられた文章を読んでいただければ、『著書の私が、その寓話を材料にどんなことを考え、どんなことを連想した』かが分かるだろう」

  

 本書に紹介された77の寓話はいずれも示唆に富んでいますが、わたしは17「大きな岩と小さな岩」が印象に残りました。『会社がなぜ消滅したか』読売新聞社会部著(新潮文庫)に登場するエピソードですが、「まず、大切なことに時間を使う」ことを説いた寓話です。2017年1月9日「朝日新聞」朝刊に掲載された「SNSの時代、格闘は続く」という記事によると、人類が創出した情報量は、2000年に62億GB(ギガバイト)だったものが、2011年には1兆8千億GBに急激に増え、近い将来の2020年には44兆GBになることが推測されているそうです。著者は、「一昔前に比べて私たちはおびただしい量の情報をインプットしている。人によっては、フェイスブックやインスタグラムでさまざまな情報を絶え間なくアウトプットしている。そのどちらも『自分にとって本当に大切な情報である』と胸を張れる人がどのくらいいるのだろうか」と述べます。

  

 31「三人のレンガ職人」では、旅人が、建築現場で作業をしている人に「何をしているのか」と質問したエピソードが紹介されます。1人目の作業員は「レンガを積んでいる」と答えました。2人目の作業員は「壁を造っている」と答えました。3人目の作業員は「大聖堂を造っている。神を讃えるためにね」と答えました。
 経営学者ピーター・ドラッカーの『マネジメント』(ダイヤモンド社)には、これと似たエピソードが登場します。「三人の石工」という話で、「何をしているのか」と質問したところ、1人目は「仕事をしている」と答え、2人目は「石を切っている」と答え、3人目は「教会を造っている」と答えたというものです。ドラッカーはこのエピソードを紹介した後で、「企業が求めるのは3人目の人物である」と喝破するのでした。

  

 著者は、「目の前の仕事の目的を考えてみる」として、「三人のレンガ職人」について、「人間の行為は必ず『何かのために、何かをする』という構造を持っている。1つの行為の目的にはさらにその目的が存在する。『目的と手段の連鎖』と呼んでもいいだろう。寓話を例にとれば、レンガを積む→壁を造る→大聖堂を造る→神を讃えるという構造になっている。上位の目的が下位の目的を決めてコントロールしているのだ」と述べ、この寓話から2つの教訓を読み取ります。第一に、できるだけ広く「目的と手段の連鎖」をイメージして仕事をするのが有益であるということ。「1人目の職人より2人目の職人、2人目の職人よりも3人目の職人の方が有意義な仕事ができることは容易に想像できる」というのです。第二の教訓は、自分の仕事は私の幸福や私たちの幸福とどうつながるのかを考えるということ。「『手段と目的の連鎖』はどこまでも無限に続くのかというとそうではない。哲学者のアリストテレスによれば、『......のために』という目的の連鎖は『なぜなら幸福になりたいから』という目的にすべて帰結する」と、まとめています。

  

 75「堪忍は一つ」はストレスに強い男の話で、『美談逸話辞典』三井晶史・菅原法嶺編纂(高山堂書店)に登場します。著者は、「ストレスは優先順位をつけて解消」として、「ストレスをためやすい人は、ストレスの原因となる問題点を横に並べる傾向を持っている。横に並べるということは、それらを同列に扱うということである。問題が羅列されているだけで、整理整頓されていない状態になっている。こういう状態になっていると、問題を解決していく速度よりも、ストレスがたまっていく速度の方が上回り、どんどんストレスが山積みになっていく」と述べます。それに対して、ストレスをためこまない人は、ストレスの原因となる問題点を縦に並べる傾向にあるというのですが、「大きなストレスの原因となる問題点の中から、小さな労力で解消できそうなものを一番上に、その真逆を一番下にというように配列し、上から順に片付けていく。こうすれば、ストレスがたまっていく速度よりも、問題を解決していく速度が上回るので、ストレスが山積みになることはない」と見事な解説をしています。

 

 本書の77の寓話を1日に1つづつ読むのもいいですし、アトランダムにページをめくってみるのもいいでしょう。そこには、何かしらの仕事や人生の役に立つことが書かれています。それぞれの寓話についての著者の解説もわかりやすく、ふだん読書に慣れていない人でも気軽に読めると思います。読書好きな人なら、巻末に77の寓話の出典が詳しく紹介されていますので、それらの参考文献を読めば、さらに読書がレベルアップされ、教養も深まることと思います。