No.1779 人生・仕事 | 哲学・思想・科学 | 幸福・ハートフル 『心。』 稲盛和夫著(サンマーク出版)

2019.10.25

 『心。』稲盛和夫著(サンマーク出版)を読みました。
 「人生を意のままにする力」というサブタイトルがついています。著者は1932年、鹿児島生まれ。鹿児島大学工学部卒業。59年、京都セラミック株式会社(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長。また、84年に第二電電(現KDDI)を設立、会長に就任。2001年より最高顧問。10年には日本航空会長に就任。代表取締役会長、名誉会長を経て、15年より名誉顧問。1984年には稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった人々を顕彰しています。著書多数。

本書の帯

 本書の帯には「すべては〝心〟に始まり、〝心〟に終わる。」と大書され、「当代随一の経営者がたどりついた、究極の地平。」「ミリオンセラー『生き方』続編!」と書かれています。

本書の帯の裏

 帯の裏には「よりよき人生を送るための、究極の極意。」として、こう書かれています。
「人の心のもっとも深いところにある『真我』にまで到達すると、万物の根源ともいえる宇宙の心と同じところに行き着く。したがって、そこから発した『利他の心』は現実を変える力を有し、おのずとラッキーな出来事を呼び込み、成功へと導かれるのです。――プロローグより――」

 カバー前そでには、以下のように書かれています。
「人生で起こってくるあらゆる出来事は、自らの心が引き寄せたものです。それらはまるで映写機がスクリーンに映像を映し出すように、心が描いたものを忠実に再現しています」

 また、アマゾンの「内容紹介」には、こう書かれています。
「京セラとKDDIという2つの世界的大企業を立ち上げ、JAL(日本航空)を〝奇跡の再生〟へと導いた、当代随一の経営者がたどりついた、究極の地平とは? これまで歩んできた80余年の人生を振り返り、また半世紀を超える経営者としての経験を通じて、著者がいま伝えたいメッセージ――それは、『心がすべてを決めている』ということ。人生で起こってくるあらゆる出来事は自らの心が引き寄せたものであり、すべては心が描いたものの反映である。それを著者は、この世を動かす絶対法則だという。だから、どんな心で生きるか、心に何を抱くかが、人生を大きく変えていく。それは人生に幸せをもたらす鍵であるとともに、物事を成功へと導く極意でもあるという。つねに経営の第一線を歩きつづけた著者が、心のありようと、人としてのあるべき姿を語り尽くした決定版。よりよい生き方を希求するすべての人たちに送る、『稲盛哲学』の到達点」

 本書の「目次」は、以下の構成になっています。
プロローグ
第1章 人生の礎を築く。
第2章 善なる動機をもつ。
第3章 強き心で成し遂げる。
第4章 正しきを貫く。
第5章 美しき心根を育てる。

 プロローグの冒頭を、著者は「人生のすべては自分の心が映し出す」として、以下のように書きだしています。
「これまで歩んできた80余年の人生を振り返るとき、そして半世紀を超える経営者としての歩みを思い返すとき、いま多くの人たちに伝え、残していきたいのは、おおむね1つのことしかありません。それは、『心がすべてを決めている』ということです」

 続けて、著者は以下のように述べています。
「人生で起こってくるあらゆる出来事は、自らの心が引き寄せたものです。それらはまるで映写機がスクリーンに映像を映し出すように、心が描いたものを忠実に再現しています。それは、この世を動かしている絶対法則であり、あらゆることに例外なく働く真理なのです。したがって、心に何を描くのか。どんな思いをもち、どんな姿勢で生きるのか。それこそが、人生を決めるもっとも大切なファクターとなる。これは机上の精神論でもなければ、単なる人生訓でもありません。心が現実をつくり、動かしていくのです」

 また、「善なる動機をもてば、成功へと導かれる」として、著者はこう述べています。
「人がもちうる、もっとも崇高で美しい心――それは、他者を思いやるやさしい心、ときに自らを犠牲にしても他のために尽くそうと願う心です。そんな心のありようを、仏教の言葉で『利他』といいます。利他の動機として始めた行為は、そうでないものより成功する確率が高く、ときに予想をはるかに超えためざましい成果を生み出してくれます。事業を興すときでも、新しい仕事に携わるときでも、私は、それが人のためになるか、他を利するものであるかをまず考えます。そして、たしかに利他に基づいた『善なる動機』から発していると確信できたことは、かならずやよい結果へと導くことができたのです」

 さらに、「燃える闘魂もまた、『善なる動機』から生まれる」として、著者は以下のように述べます。
「日本航空の会長に就任した際、私はすべての従業員に向けて、次のような言葉を紹介しました。
――新しき計画の成就は、ただ不屈不撓の一心にあり。さらばひたむきにただ想え、気高く、強く、一筋に――
これはインドでヨガの修行をして悟りをひらき、日本でその思想と実践に基づく生き方を伝えた哲人・中村天風の言葉で、かつて成長を続けていた京セラにおいて掲げたスローガンでもあります。私はこの言葉をあらためて、日本航空の全社員に向けて紹介したのです」 

 この中でも大切なのは、「気高く」という言葉であるとして、著者は述べます。
「美しい気高い心を根幹にもっているからこそ、ひたすらに強く揺るぎのない『思い』をもつことができる。何が何でも成し遂げるという強烈な思い、どんな苦境にも負けずに進もうという揺るぎない意志が、事を貫徹するためには必要です。そういう思いのもと、かかわる人たちが一丸となって最大限の努力をなしたときに、事は成就する」
 その根幹となるのも、美しき利他の思いなのだといいます。

 そして著者は、「人生の目的は心を磨き、他に尽くすこと」として、こう述べます。
「人生の目的とは、まず1つに心を高めること。いいかえれば魂を磨くことにほかなりません。ともすると私たちは、富を手に入れたり、地位や名誉を求めたりすることに執着し、日々自らの欲得を満たすために奔走してしまいがちです。しかし、そうしたことは人生のゴールでもなければ目標でもありません。生涯の体験を通して、生まれたときよりもいくばくかでも魂が美しくなったか、わずかなりとも人間性が高まったか。そのことのほうが、はるかに大切なのです」

 続けて、著者は以下のように述べるのでした。
「そのためには、日々の仕事に真摯に取り組み、懸命に努力を重ねること。それによって心はおのずと研鑽され、人格は高められて、より立派な魂へと成長を遂げる。まずはそのことに私たちが生きる意味があります。そしてもう1つ、人生の目的をあげるとすれば、人のため、世の中のために尽くすこと。すなわち『利他の心』で生きることです」

 第2章「善なる動機をもつ。」では、「利他という土台の上にこそ、成功という家が建つ」として、著者は以下のように述べています。
「ベンチャー企業の創業者のなかには、自らが財産を築きたい、名声を得たいという思いから事業をスタートさせる人も多いでしょう。しかし、経営をするときの『エンジン』となるものが経営者の私利私欲、功名心や名誉心のみにとどまっていたら、一時はうまくいっても、永続的に会社を発展させつづけることはできません」

 続けて、著者は以下のように述べています。
「動機とは、いわば物事を進めるときの『土台』ともいうべきもので、揺るぎない強固な土台があれば、そこには立派な建物を建てることができる。一方、貧弱な土台にはいくら豪奢な家を建てようとしてもかなわないように、動機が不純なものであれば、何事もうまくいきません」

 鹿児島出身の著者は、郷里の英雄である西郷隆盛を深く敬愛し、西郷の「敬天愛人」という言葉を座右の銘にしていることで知られますが、本書でも西郷のエピソードを紹介しています。「欲を減らし、思いやりを礎にした文明を築く」として、以下のように述べています。
「西郷隆盛が藩主の怒りを買って南海の小島に流刑され、その島で子どもらに学問を教えていたとき、一人の子が『一家が仲睦まじく暮らすにはどうしたらいいか』と質問した。西郷はその問いに対してこう答えたといいます。『みながそれぞれ、少しずつ欲を減らすことだ』」

 著者は、この西郷の言葉について、「おいしいものがあれば、独り占めするのではなく、みなでいただく。楽しいことがあれば、みなでその楽しみを共有する。悲しいことがあったならば、みなで悲しんで慰め合い、支え合う。仲睦まじい家庭をつくるには、このひと言がわかっていないとできません」と説明しています。

 著者は、同じく西郷が「おのれを愛するは善からぬことの第一なり」という言葉で、自己愛を強く戒めてもいることを紹介します。この言葉については、「人間の過ち、驕りや高ぶり、事の不成功、みんな自分を愛する心が生み出す弊害である。自己愛、私心、利己といった、おのれへのこだわりこそが人間の欲望の正体であり、したがって、その欲望を減らしたぶんだけ心から自我が削られ、代わりに真我の領分が広がってくるのです」と説明しています。

 第5章「強気心根を育てる」では、「どんなときでも、心の手入れを怠らない」として、著者は「運命とは、その人の性格の中にある」という芥川龍之介が次のような言葉を紹介します。また、文芸評論家の小林秀雄の「人の性格に合ったような事件にしかでくわさない」も紹介し、「人格が変われば、心に抱く思いも変わってくる。すると、その思いが生み出す出来事も、自然に変わってくるのです」と説明しています。

 「人生を拓く心のあり方を説いた哲人」として、著者は以下のように述べています。
「心こそが人生をつくるもっとも大切なファクターであるということを教えてくれた『師』の1人に、中村天風という方がいます。師とはいっても、実際にお目にかかったことはありません。おもに書物を読み解きながら、また生前に親交のあった方々を通して、いわば私淑しながらその思想を学び、糧としてきたのです」

 その天風の哲学について、著者はこう述べています。
「心次第で人生は限りなく拓けていく、というのが天風の教えでした。宇宙はどんな人にでも、すばらしい人生が拓けることを保障している。だから、いまどんな境遇にあろうとも、心を明るく保ち、暗い気持ちをもったりマイナスな言葉を口にすることなく、すばらしい未来が訪れることを信じることだといいます」

 天風の師は、西郷隆盛の弟子で玄洋社の創立者であった頭山満でした。この師弟の信じられないようなエピソードを著者は紹介しています。
「イタリアから有名な猛獣使いが来日したときのこと。当時天風の面倒を見ていた頭山満にひと目会いたいと訪ねてきたそうです。猛獣使いは頭山満の顔をひと目見ると『この人は猛獣の檻に入っても何事もない』という。そして同席していた天風のほうを見やると、『ああ、この人も大丈夫だ』といったといいます。そしてまだ訓練もしていない虎が3頭入った檻の前に来ると、頭山が天風に向かって『おまえ、檻の中に入ってみろ』といった。天風が檻の中に入っても、3頭の虎は立っている彼を取り囲んでおとなしくうずくまっていたそうです」

 「それほどまでの奇跡的な話ではありませんが」と断った上で、著者は自身が周囲の人にいつも驚かされることの1つに「天気」があるとして、以下のように述べています。
「私が仕事で地方や外国に行くとき、たいていは晴天に恵まれるのです。仕事の所用で海外に赴くと、私が着く寸前まで荒天だったのが一転して雲ひとつない青空になる。私が滞在している数日間はよい天気に恵まれ、私が空港から飛行機に乗り込んでその地を発つと、そのとたんに暗雲がたちこめ、にわかに雪が降り出す。その類いのことが、これまでに幾度となくありました」
 「天皇晴れ」という言葉を連想するような不思議なエピソードですね。

 続けて、著者は以下のようにも述べています。
「私のまわりにいる人たちはたびたびこのような出来事があるので、すっかり慣れて当たり前のように思われていて、私はよく『太陽を背負って歩いている』などといわれたものです。ただ、この『魔法』は仕事のときに限って効くようで、旅行やゴルフのようなプライベートのときは、からきし効果がないのです。また、同じような例で、私が乗り込んだ車は、どんなに道路が混んでいるときでも、不思議と渋滞に巻き込まれず、すいすいと目的地まで到着する。そんなことも多々あります」

 じつは、わたしも「晴れ男」と呼ばれ続けていることを告白しておきます。わたしが関わる会社や業界の行事のときは、どんなに雨が降っていても、わたしが現地入りするとピタリと雨が止むのです。著者とわたしは2012年に「孔子文化賞」を受賞していますが、じつは孔子が追求した「礼」の力は天気をコントロールする力でもありました。というのも、孔子の母親は雨乞いと葬儀を司るシャーマンだったとされています。雨を降らすことも、葬儀をあげることも同じことだったのです。なぜなら、雨乞いとは天の「雲」を地に下ろすこと、葬儀とは地の「霊」を天に上げることだからです。その上下のベクトルが違うだけで、天と地に路をつくる点では同じなのです。

 さらに、「すべては心に始まり、心に終わる」として、著者は述べます。
「人生は心のありようですべてが決まっていきます。それは実に明確で厳然とした宇宙の法則です。どんな人であっても、与えられているのはいまこの瞬間という時間しかありません。そのいまをどんな心で生きるかが人生を決めていきます。幸運が訪れることもあるし、逆境に沈まざるをえないこともあるのが人生で、すべては自然がもたらしてくれたものです。ですから、いまどんなにつらい境遇にあるとしても、それにめげることなく、気負うこともなく、ただ前向きに歩んでいってほしいのです」

 続けて、著者は最後にこう述べるのでした。
「そう考えれば、人生とは実にシンプルなものといえます。利他の心をベースに、日々の生活の中で、できうるかぎりの努力を重ねていく。そうすればかならずや運命は好転し、幸福な人生が訪れます。そして、いかなるときも自分の心を美しく、純粋なものに保っておくということが大切です。それこそが自分の可能性を大きく花開かせる秘訣であり、幸福な人生への扉を開く鍵なのです」

 本書は著者の思索の集大成とでもいうべき内容ですが、正直、経営者が書いた本というよりも、宗教家が書いた本のようです。同じ版元から刊行されているジェームズ・アレンの著書『「原因」と「結果」の法則』が何度も引用されていますし、本書はいわゆる「引き寄せの法則」を説いた本であるとも言えます。拙著『法則の法則』(三五館)で詳しく述べたように、「引き寄せの法則」とはニュートンが発見した「万有引力の法則」の精神版で、「思考は現実化する」という考え方です。もともとはアメリカの宗教思想である「ニューソート」から生まれ、日本では「生長の家」などに受け継がれました。

 それにしても、ここまでスピリチュアルな内容をストレートに書けるのは、現実のビジネスの世界で圧倒的な成功を収めた著者にしか許されない特権であると思いました。他の経営者、たとえばわたしのような小僧が本書のような本を書いても、「この著者は宗教がかっているな」と思われて終わりでしょう。さすがに著者はすごいというか、「稲盛和夫の前に稲盛和夫なく、稲盛和夫の後に稲盛和夫なし」といった印象です。そんな偉大な哲人経営者である著者と「孔子文化賞」を同時受賞させていただいたことは、わが人生でも最高の名誉な出来事でした。

著者と名刺交換させていただきました

今夜、孔健会長と再会しました

 ちょうど今夜、わたしは本書の書評ブログをUPしようと思っていたのですが、稲盛氏と同時受賞させていただいた「孔子文化賞」を認定する一般社団法人・世界孔子好協会の孔健会長とバッタリ再会して驚きました。一条真也の新ハートフル・ブログ「孔健会長に再会しました!」にも書きましたが、シンクロ二シティというか、不思議なご縁を感じました。これも「心」のなせる作用なのでしょうか?

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