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脳を創る読書』

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No.1772


 『脳を創る読書』酒井邦嘉著(じっぴコンパクト文庫)を読みました。紙の本が脳に与える「いい影響」を言語脳科学の第一人者である著者がわかりやすく解説した本です。著者は1964年東京生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。同大大学院理学系研究科博士課程修了(理学博士)後、同大医学部第一生理学教室助手、ハーバード大学医学部リサーチフェロー、マサチューセッツ工科大学客員研究員を経て、1997年より東京大学大学院総合文化研究科助教授・准教授。2012年より同教授。同大大学院理学系研究科物理学専攻教授兼任。2014年より日本学術会議連携会員。2002年第56回毎日出版文化賞、2005年第19回塚原仲晃記念賞受賞。専門は、言語脳科学および脳機能イメージング。趣味は、ヴァイオリンとフルートなど。 

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本書の帯

 

 カバー表紙には洋書が並んだ書棚の写真が使われ、帯には「できる人はなぜ『紙の本』を読むのか――?」「言語脳科学の第一人者が説く『考える』ために必要なツールとは!?」と書かれています。

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本書の帯の裏

 

 帯の裏には「脳の不思議と『読書』の関係をひもとく」として、以下の言葉が並んでいます。
●文の構造を見抜く脳のすごい能力
●脳はなぜ行間を読むことができるのか
●読書量が多ければ多いほど、言語能力は鍛えられる
●なぜ画面上で見落とした誤字が紙の上では見つかるのか
●2つの読み方を使い分ければ、「読む力」は鍛えられる

 

 本書の「目次」は、以下の構成になっています。
はじめに......それでも「紙の本」は必要である
第1章 読書は脳の想像力を高める
第2章 脳の特性と不思議を知る
第3章 書く力・読む力はどうすれば鍛えられるのか
第4章 紙の本と電子書籍は何がどう違うか
第5章 紙の本と電子書籍の使い分けが大切

 

 第1章「読書は脳の想像力を高める」では、「伝える『出力』の情報量が多いほど、脳はさらに想像力を高める」として、著者は「脳の想像力を十分に生かすためには、できるだけ少ない入力と豊富な出力を心がけるとよい。もっとわかりやすく言えば、読書と会話を楽しむことが一番だ。これこそがもっとも人間的な言語の使い方であり、創造的な能力を活用する最善の方法だと言えよう」と述べています。

 

 第3章「書く力・読む力はどうすれば鍛えられるのか」では、「読書量が多ければ多いほど、言語能力は鍛えられる」として、著者は以下のように述べています。
「小さいときに想像力を十分身につけずに大人になってしまったら、末恐ろしい。文字通りの意味がとれるならまだしも、思い込みだけで読むようになったら、その間違いは自分では修正できないだろう。自分勝手に書いた文章を、他人がどこまで時間をかけて読んでくれるだろうか。相手は自分の文章をどう受け取るだろうか、という想像力こそが必要なのだ。自分の真意を相手に伝え、相手の心を動かすような文章を書くのは本当に難しい」
 また、著者は「読書を通して想像力を培うことができれば、言語能力も同時に鍛えられる。すると、言語能力に裏打ちされた思考力が確かなものになる。これが本書の『脳を創る』という意味である」とも述べています。

 

 第4章「紙の本と電子書籍は何がどう違うか」では、「紙の本には独自の楽しみがある」として、著者は以下のように述べています。
「紙の本の魅力は、1冊1冊が持つ個性にある。大きさが不揃いで、厚さも違えばカバー(ジャケット)の質感も異なる。表紙のデザインや装丁にも個性があって、上製本では本の背の上下についている『花ぎれ』(ヘッドバンド)や『しおり』(スピン)の配色にまで細かく気が配られている。中を開けば、活字の大きさや種類、そして行間の幅も違う。だから新しい本を手にしたときの喜びや、読む前の気持ちの入り方も違うわけである」

 

 また、「手書きの手紙と共通する紙の本の真のよさとは」として、著者は以下のように述べています。
「21世紀になって、電子書籍で手軽に本が買えて読める文化ができた一方で、初版本が復刻されたり自筆原稿本が出版されて人気を呼んでいるのはなぜだろうか。その背景には、急速に進んだ電子化の方向とは逆に、よりオリジナルに近い素のままの情報への渇望が根強く存在するためではないか。初版本や自筆原稿ファクシミリの価値は、電子書籍との対比によって、これまで以上にはっきりしてくることだろう。紙の本の価値と任務は、このようなきわめて情報量の多い文化遺産を、流されずに継承することにあるのだ。このまま紙の本と電子書籍が共存し続けることが、未来の出版文化の最も理想的な姿だと私は考える」

 

 第5章「紙の本と電子書籍の使い分けが大切」では、「『電子化』で脳が進化することなど、ありえない」として、著者は以下のように述べます。
「人間の脳がデザインされたのは現世人類が誕生した何万年も昔のことだ。それ以来、脳の基本的な設計は何も変わっていない。数十年の時間スケールでは、脳が『進化』することなどあり得ないのである。『電子化で脳が進化する』などといった非科学的な誤解はなくしておきたい。人間の脳は、それ自体変化しなくとも、『考える』という行為をやめない限り、その能力を最大限に生かして文明の変化に対処できることだろう。そして各個人の脳は、一生の中で読書などを通してさらに磨かれ、創られていく」

 

 また、「二つの読み方を使い分ければ、『読む力』が鍛えられる」として、著者は以下のように述べています。
「文章を読む力は読書を通して鍛えられる。ならば、どんな読み方をしたら効果的だろうか。それには、『多読』と『精読』の両方が有効だろう。前者は、あらゆるジャンルの本をとにかくたくさん読むという方法であり、後者は、1つの作品を徹底的に読み込むという方法だ。つまり、広さと深さの両方が、読む力を鍛えるということである。読書についても、その人に合った本を選んで指導するようなインストラクターが貴重である。ワインを勧めるソムリエのように、読書の達人が古今東西の名作を勧めるのだ」

 

 著者は、「明らかな退行現象をこのまま進めてよいか」として、こうも述べます。
「携帯メールでおなじみの『入力予測変換』では、最初の数文字を入力しただけで言葉の候補がどんどん出てくる。履歴や確率的な判断で出てくる言葉の候補から文脈や全体の意味を考えずに受動的に選んでいけば、一応文章らしきものは打てるだろう。しかし、それはもはや人間の言語とは言えないものなのである。日本語入力には必須の『かな漢字変換』もまた、思考とは直接関係ないプロセスだから、思考の中断を生み、集中力を減退させるという負の効果もある。文字を書くほうがはるかに自然な表現方法なのだ」

 

 そして、著者は「電子化された『人工物』を活かすも殺すも、使う側の問題」として、カバー裏表紙にも紹介されている以下の言葉を述べるのでした。
「何でも機械化し電子化できるという表面的な見方に対して、人間が大切で譲れないものは何かと考え、未来にどのように向かうべきか決断することが、あらゆる方面で問われている。そういう過渡期を我々が賢く乗り切るためには、人間とはどういう生き物であって、どこが愚かでどこがすばらしいのかということに我々自身が気づかなくてはならない。そうすれば、人間は人工物に振り回されることなく、古きよきものを大切にしながら新しいものを創り続けることができるに違いない」

 

 本書では、言語脳科学の第一人者が、脳の特性と不思議を説き、読書が脳に与える影響に言及しつつ、実際に「紙の本」と「電子書籍」を使って読書した場合の脳の反応について解説しています。紙の本も電子書籍も、結局は「使う側」の意識がカギを握っているとしながらも、著者が人にとっての「紙の本」の重要性を強調し、加えて、学校教育の1つの提案である「電子教科書」について、その安易な移行に警鐘を鳴らしています。わたしのような「紙の本」の風合い・質感・活字の存在感をこよなく愛する者も、脳と読書の意外な関係はとても興味深かったです。