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むすびびと~こころの仕事』

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No.1727


 38冊目の「一条真也による一条本」は、編著の『むすびびと~こころの仕事』(三五館)で、2009年10月4日に刊行されました。わたしが経営する冠婚葬祭業サンレーグループの冠婚部門のスタッフによる実話集です。

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むすびびと~こころの仕事
(2009年10月4日刊行)

 

 本書の帯には「涙しながら仕事する人たち」として、こう書かれています。
「ウエディングプランナーという、人気上昇中の仕事がある。年齢も男女の不問。求められるのは仕事魂だけ。晴れの日の華麗なる裏方の彼らが魅入られてしまったテーマとは何なのか、ぜひあなたに味わってほしい!」

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本書の帯

 

 また帯の裏には、以下のように書かれています。
「本書では、さまざまな『家族』の姿が見えてきます。平凡であるがゆえに、しかしどなたの人生もひとつとして平坦な道はないからこそ、あたたかく、思いやりにあふれ、強い絆で結ばれた美しい家族なのです。日本人もまだまだ捨てたものではありませんね。――『まえがき』より
 サービス業こそはこころに残る仕事にほかなりません。お客様のこころに自分の顔が浮かんでくる仕事、こんな贅沢なことはありません。
――『あとがき』より」

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本書の帯の裏

 

 本書の「目次」は、以下のようになっています。
「まえがき」

スタッフ全員の祝福を受けた新婦

新婦から両親への手紙

母のふるさと

園児たちのおめでとう

新郎、入場!

代読した手紙

おばあちゃんの祝辞

二人の父に

天が仕組んだ2つの縁

母と三人の息子

やっぱり会いたい

娘はやらん!

赤い糸の特徴は......

仲間に入れてよ

ご予約金

お母様!

再会した友へ

見てほしかった花嫁姿

30年目の花嫁

「あとがき」

 

「むすびびと」というのは、わたしの造語です。わたしは、全国各地で冠婚葬祭業を展開する会社を経営しています。映画『おくりびと」が世界中の人々を感動させましたが、冠婚葬祭とは「愛」と「死」のセレモニーです。そこには、思いやり、感謝、感動、癒し......さまざまな人間の「こころ」が込められています。

 

 お葬式のお世話をする「おくりびと」は故人の魂を送るお手伝いをする人ですが、わたしは結婚式のお世話をする人を「むすびびと」と呼んでいます。新郎新婦の魂を結ぶお手伝いをするからです。「むすびびと」は、人間関係の絆、とくに家族の絆をも結びます。わたしは日々、わが社の「むすびびと」たちから魂を揺さぶられるような話を直接聞き、そのたびに目頭を熱くしています。そんな実話をもとに、二十五のエピソードを集めたのが本書です。

 

 すべて、わが社が運営するホテルや結婚式場で「むすびびと」たちが仕事を果たす中で生まれた生のドラマです。ただし、お客様のプライバシーを保護するために、固有名詞や土地などを変えてあるものもあります。本書に登場する「スタッフ全員の祝福を受けた花嫁」や「天が仕組んだ2つの縁」など、わが社のスタッフの中では伝説になっているほど有名なエピソードがいっぱいです。もっと特徴のあるエピソードも多く、それらもご紹介したかったのですが、それはあまりにも個人が特定されやすいので掲載を断念したほどです。

 

 本書のエピソードは、どなたも聞いたことがあるような、よくある話ばかりです。でも、それらの話はつねに人の心に訴えてきます。おそらく、各エピソードに出てくるさまざまな「家族」の姿に感じるものがあるからでしょう。 
 現在では、新郎新婦お2人の名前で披露宴が行われるケースがほとんどですが、少し以前までは「○○家、△△家、結婚披露宴」というふうに、両家の結びつきが結婚式、披露宴のメインテーマでした。

 

 本書を刊行したとき、わたしが結婚してから20年が経っていましたが、この20年で日本人の結婚式や披露宴は大きく変化しました。仲人、結納、金屏風といったものがどんどん消え、和装を着る花嫁さんも減るいっぽうです。結婚式や披露宴のキーワードも「自由」「個人主義」「合理主義」に集約されてきました。その結果、30万組を超えるほど離婚が増加しました。

 

 この20年間で日本人の離婚は2倍になったのです。
 どんなに時代が変わろうとも、わたしは結婚式や披露宴のキーワードは「家族」であると思います。昔の日本の婚礼は「家」がキーワードでしたが、それはなくなりました。でも、今でも「家族」はキーワードです「家」ではなく「家族」、さらには「家族愛」。これこそ普遍の価値を持つのではないでしょうか。

 

 最近、社会がどんどん悪くなってきているような気がします。凶悪犯罪はさらに増加し、より残虐になっています。親が子を殺し、子が親を殺すような事件も多くなっています。まさに「ありえないことなどありえない」状況ですが、日本の家族というものがドロドロに溶け出していることが最大の原因であるように思います。未曾有の不況による貧困社会を迎えた現代の日本。日本人の心はますます荒廃するばかりです。その心を救うものは、やはり家族しかないのではないでしょうか。

 

 もちろん、結婚式は新郎新婦が永遠の愛を誓い合うセレモニーです。そして、それと同時に結婚式は家族のセレモニーです。新郎新婦からすれば、結婚式や披露宴とは、これまで育ってきた家族からの卒業式です。そして同時に、これからともに生きてゆく新しい家族の結成式でもあるのです。家族のセレモニーという本質は結婚式に限りません。それは、七五三、成人式、葬儀、法事......冠婚葬祭すべてに言えることです。 

 

 日本映画界の巨匠・小津安二郎の作品には必ず結婚式か葬儀のシーンが出てきました。小津ほど「家族」のあるべき姿を描き続けた監督はいないと世界中から評価されていますが、彼はきっと、冠婚葬祭こそが「家族」の姿をくっきりと浮かび上がらせる最高の舞台であることを知っていたのでしょう。本書に登場する多くのエピソードから、さまざまな日本の「家族」の姿が見えてきます。

 

 たとえば、本書の「あとがき」には、ある結婚式のエピソードが紹介されています。新郎新婦は2人とも両親を知りません。身内と呼べる人も誰ひとりいません。同じ児童福祉施設で育った2人は兄妹のように育ち、そして次第にお互いを意識するようになり、愛を育んで結婚へと至りました。
 施設の園長さんは親代わりとなり、2人を温かく見守ってきました。また、同じ境遇の子供たちの世話をしたいという新婦の夢を叶えるため、新婦が資格を取得できるように短大までの学費を工面しました。

 

 その結果、新婦は資格を取得することができ、現在、自分が育った学園で子どもたちのお世話をしています。ただ1人の親族もいない2人でしたが、友人、施設の職員、施設の弟や妹が多数出席し、手作りのアットホームな披露宴となりました。最後の両親への花束贈呈のシーンで、2人は園長夫妻に向かって「お父さん、お母さん、今まで本当にありがとうございました」と泣きながら花束を渡しました。夫妻の目にも涙が光っていました。幼い弟や妹たちは泣いている大人たちを見て不思議そうな顔をしながらも、やはり嬉しそうでした。

 

 その結婚式をお世話した「むすびびと」は「今まで家族がいなかった2人だけど、今日から新しい家族ができたんだ」と思いました。しかし、その後ですぐに、「いや、この2人には家族がいなかったのではない。じつは、こんなにたくさんの家族がいたんだ!」と思い直したそうです。そして、たくさんの温かい愛に包まれて夫婦となった2人の幸せを心から願わずにはいられなかったのでした。

 

「幸せのセレモニー」である結婚式や披露宴は、ほとんど土曜日か日曜日に行われます。そのお世話をするのが「むすびびと」です。彼らは、非常におめでたい場面で仕事をしながらも、毎週毎週、仕事しながら涙しています。本書にも、そんな「むすびびと」たちから集められた、おめでたいのに泣けてくる話がたくさん紹介されています。もちろん、その涙とは悲しい涙でも悔し涙でもありません。一瞬の幸せな風景に人間愛を感じた感動の涙であり、自分が担当したお客様の幸せな姿を見た嬉し涙です。

 

「むすびびと」の職場は、ホテルや結婚式場です。そう、彼らの仕事は一般的に「サービス業」と呼ばれる職種です。
 サービス業とはいったい何でしょうか。学生の就職活動では、好不況にかかわらず、サービス業の人気が低いとされています。わが社の面接でも、「わたしは人間が好きなので、ぜひサービス業に就きたいです」とか「学生時代に接客業のアルバイトをしていて、その魅力に取りつかれました」などと言うのですが、銀行や製造業の内定を受けると、舌の根も乾かないうちにそちらに乗り換える学生さんが確かに存在します。

 

 サービス業が選ばれない理由としては、まず「休みが不規則」などが思い浮かびますが、どうも最大の理由は他にあるようです。すなわち、製造業のように「仕事が形に残らないので不安」というのです。たしかに、サービス業は目に見えない形なきものを売る仕事です。それを知って、わたしは大いに納得するとともに、たいへん悲しい気持ちになりました。なぜかというと、そう考える学生さんの考え方があまりにも寂しいと思ったからです。

 そして、わたしはサンタクロースのことを連想しました。みなさんは、小さなお子さんから「サンタさんは、いるの?」と聞かれたことはありませんか?
 その答えは簡単。サンタクロースはいます。そのことを明らかにした『サンタクロースっているんでしょうか?』(偕成社)という素晴らしい絵本があります。八歳の少女ヴァージニアの問いに対して、アメリカの新聞社が社説として真剣に答えたという百年以上前の実話です。

 

 著者である新聞社の記者は、少女に対して「見たことがないということは、いないということではないのです」と、やさしく語りかけます。愛、思いやり、まごころ、信頼......この世には、目に見えなくても存在する大切なものがたくさんある。逆に本当に大切なものは目に見えないのだと記者は説きます。サンタクロースは、それらのシンボルだというのです。

 わたしは、現代ほどサンタクロースの存在が求められる時代はないと思います。今度、子どもから「サンタさんはいるの?」と聞かれたら、「もちろん、いるよ!」と答えてあげてくださいと、わたしは多くの方々に呼びかけています。新聞のコラムにも書きました。なお、フランスの作家サン=テグジュぺリの名作『星の王子さま』を一貫して流れているテーマは、「本当に大切なものは目に見えない」というものです。 

 

 まさに、サービス業の価値はここにあるのではないでしょうか。思いやり、感謝、感動、癒し、夢、希望など、この世には目には見えないけれども存在する大切なものがたくさんある。逆に本当に大切なものは目に見えない。そして、その本当に大切なものを売る仕事がサービス業なのですね。サービス業こそは心に残る仕事に他なりません。愛用している自動車やパソコン、またビルや橋を見ても、それに関わった人たちの顔は浮かんできません。でも、サービス業は違います。サービス業とは、サービスしてくれた人の顔が浮かんでくる仕事です。お客様の心に自分の顔が浮かんでくる仕事、こんな贅沢なことはありませんね。まさに、「こころの仕事」です。

 人間の「こころ」を扱う仕事の中でも、さらに「むすびびと」たちは、とても大切なものを売っています。彼らの本当の商品とは何か。それは、なんと「平和」です。わたしたちは、結婚式のお世話をさせていただくにあたって、「結婚は最高の平和である」という言葉を大切にしています。
 トルストイの有名な小説の影響もあってか、「戦争」と「平和」は反対語だと思われています。しかし、「平和」という語を『広辞苑』などの辞書で引くと、意味は「戦争がなくて世が安穏であること」となっています。平和とは戦争がない状態、つまり非戦状態のことなのです。

 

 しかし、戦争というのは状態である前に、何よりもインパクトのある出来事です。単なる非戦状態である「平和」を「戦争」という強烈な出来事の反対概念に持ってくるのは、ちょっと腑に落ちません。
 また、「結婚」の反対は「離婚」と考えられていますが、これも離婚というのは単に法的な夫婦関係が解消されただけのことです。「結婚」は「結婚」は戦争同様、非常にインパクトのある出来事です。

 

 戦争と結婚にともに共通しているのは、別にしなくてもいいのに、好き好んでわざわざ行なう点です。つまり、戦争も結婚も、ともに人間の強い意志をともなう「出来事」であり、「事件」といえます。もともと、結婚とは男女の結びつきだけではありません。太陽と月の結婚、火と水の結婚、東と西の結婚......など、神秘主義における大きなモチーフとなっています。

 結婚には、異なるものと結びつく途方もなく巨大な力が働くのです。ゲーテは、それを「親和力」と呼びました。さらに、「心から深く人を愛しているときに、人は他人を憎むことができない」という言葉を残しています。まさに、ゲーテは結婚の平和性に気づいていたのです。一方で、戦争が起こるときにも、ある力が働きます。それは、異なるものを破壊しようとするマイナスの力です。つまり、「結婚」とは親和の極致であり、「戦争」とは敵対の極致なのです。

 まったくの赤の他人同士であるのもかかわらず、人と人とが認め合い、愛し合い、ともに人生を歩んでいくことを誓い合う。まさに、結婚とは「最高の平和」ではないでしょうか。結婚は最高に平和な「出来事」であり、「戦争」に対しての唯一の反対概念になるのです。わが社では、日々お世話させていただくすべての結婚式が「世界平和」という崇高な理念を実現する営みであるととらえ、「むすびびと」一同が心からのサービスに努めています。

 最後に、本書で魂が震えるようなエピソードを語ってくれた「むすびびと」たちに感謝するとともに、心からの敬意を表したいと思います。どんなに辛いことや苦しいことがあっても、それを絶対に顔に出さず、いつも笑顔でお客様の幸せを願う彼らを、わたしは尊敬しています。彼らこそは、「こころのインテリジェンス」を身につけた「こころのプロフェッショナル」であると思っています。

 わたし自身、彼らの笑顔に触れて、癒されることもしばしばです。そして、わたしは心ゆたかな「むすびびと」たちと志をともにし、同じ道を歩んでいけることを誇りに思います。、日本人の離婚数は非常に多くなってきています。もちろん離婚増には、いろんな背景があるのでしょうが、わたしたちは感動的な結婚式のお世話をすることによって、日本人の離婚を少しでも減らしたいと願っています。また、親が子を殺し、子が親を殺すなど、「世も末」といった観がありますが、結びつきが弱まっている家族の絆を少しでも結びなおすお手伝いをしたいと願っています。

 本書には、「むすびびと」たちがお世話をした素敵な家族がたくさん登場します。あなたのそばにも、いろいろな素敵な家族がいるはずです。何よりも、あなた自身の素敵なご家族がいるはずです。本書を読まれたあなたは、奥さんやご主人、それにご両親、お子さん、すべての大切なあなたのご家族の微笑みを思い浮かべ、家族こそが人生における最高の宝物であることに気づかれるのではないでしょうか。今日も「むすびびと」たちは、幸せな新郎新婦と、温かいご家族のお世話をする、こころの仕事に励んでいます。