No.1663 コミュニケーション | マーケティング・イノベーション | 経済・経営 『おもてなし幻想』 マシュー・ディクソン、ニック・トーマン、リック・デリシ共著、安藤貴子訳(実業之日本社)

2019.02.25

 『おもてなし幻想』マシュー・ディクソン、ニック・トーマン、リック・デリシ共著、安藤貴子訳(実業之日本社)を読みました。「デジタル時代の顧客満足と収益の関係」というサブタイトルがついており、神田昌典とリブ・コンサルティングが日本語版を監修しています。本書は、一般社団法人 全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)の山下会長(117社長)のおススメ本です。

本書の帯

 本書の帯には「働き方改革が進まない本当の理由がデータ分析で明らかになった!」「感動サービスは、もう古い。」と書かれています。帯の裏には、「つぎの4つについてYESかNOで答えてください」として、以下のように書かれています。
①サービスが顧客の期待を上回れば、当然ロイヤルティも飛躍的に向上する。
②人はよい製品よりもよいサービス(おもてなし)について人に話したがる。
③サービス・インタラクションの顧客満足が次の購入判断につながる。
④ホームページのカスタマーサービスとコールセンターなどのサービスは独立しているべきである。

本書の帯の裏

 アマゾンの「内容紹介」には、こう書かれています。
「『ウォール・ストリート・ジャーナル』のベストセラー
『チャレンジャー・カスタマー』の著者による待望の新刊!
 一般的に、顧客ロイヤリティを上げるには、感動的な顧客サービスが必要だと思われている。しかし、9万7千人のお客さまに、顧客サービスの対応経験について統計的な調査をしたところ、その結果は私たちの想定とはまったく異なるものだった!
 つまり、『感動的な顧客サービスは、顧客ロイヤリティを上げていくことには関係がなく、ある程度の顧客サービスを行っていれば、顧客ロイヤリティは一定に保たれる』ということだったのだ。
 本書では、『ひとが問題解決のために、顧客対応した場合、顧客ロイヤリティに4倍悪影響を及ぼす』と説く。たとえばその背景理由のひとつに、商品についてポジティブな体験をしても、25%しか周りに伝えないのに対して、顧客サービスでネガティブな経験をしたら、65%が周りに伝えるという。では、私たちはどのような顧客サービスを提供すれば良いのだろうか?……ヒントは、『顧客に努力をさせない』ことだった!
 顧客と長く付き合っていくために必要なサービス・サポートのあり方が、明確になる目から鱗の画期的な一冊。神田昌典、リブ・コンサルティング日本語版監修」

 本書の「目次」は、以下のようになっています。
「監修者まえがき」(神田昌典)
「序文」
はじめに
喜びに目がくらむ
第1章
顧客ロイヤルティを巡る新たな戦場
第2章 
なぜ顧客はあなたと話したがらないのか?
第3章
カスタマーサービス担当者がしがちな最悪の質問
第4章
できることが何もないように思えても、できることは必ずある
第5章
主導権を握るには、主導権を手渡さねばならない
第6章
ディスロイヤルティを見つけ出せ――顧客努力指標V2.0
第7章
努力の軽減を定着させる
第8章
コンタクトセンター以外での努力
「謝辞」
「注釈」
「付録」
「監修者あとがき」(リブ・コンサルティング/権田和士)

 まえがき「日本の『おもてなし』は、単なる『おせっかい』だった?」では、監修者の神田昌典氏が以下のように述べています。
「今までのビジネス常識では、期待以上のサービスを提供すれば、顧客ロイヤルティ――すなわち顧客であり続ける期間や、顧客がもたらす価値は、著しく高まると考えられている。しかし調査結果は、それが幻想だったことを明らかにする。顧客の期待を上回るサービスの提供は、ロイヤルティにとってほとんどメリットがないというのだ」
「誤解をおそれずに言うなら、顧客の期待を超える『おもてなし』は、業績にはほとんど関係がなかったということだ。統計的分析によれば、顧客ロイヤルティを高めるのは、『顧客に手間をかけさせないこと』。それだけが、有意な相関関係を示したという」

 研究結果によれば、顧客サービスはそこそこでよく、顧客に手間をかけさせないことが重要という事実を紹介して、神田氏は述べます。
「『感動サービスよりも、顧客の手間を省くべき』という結論は、おもてなしを誇りとしてきた日本的ビジネス慣習を真っ向から否定するように思える。だから、この分析手法自体に異議を唱える人や、米国とは事情が異なるから、日本には当てはまらないとする見解も現れることだろう。しかしながら、よく読んでみれば、本書はおもてなしを否定するどころか、むしろ今までのおもてなしを、事実に基づく新しい手法で、さらに次のレベルに引き上げていくことがわかるだろう」

 神田氏は、「より一層のおもてなしを積み重ねていくのではなく、どれだけ顧客の足元から不便を取り除けるか? それに目を向けなければ、『おもてなし日本』は、私たちの意図とは逆に、顧客の流出を加速させてしまうことになりかねない」と述べ、さらには「おそらくカスタマーサービスは、攻撃――顧客を喜ばせるために全力を尽くす――よりも防御――イライラや遅延を防止する――に力を入れるべきだろう。サービスの至高の目標が、顧客を喜ばせることではなく、安心させる――問題をすばやくスムーズに処理して、ホッと肩の力を抜いてもらう――ことだとしたら?」とまで言うのでした。

 第1章「顧客ロイヤルティを巡る新たな戦場」では、「結論その1 喜びの戦略は割に合わない」として、以下のように書かれています。
「重要な情報は2つ。まず、企業は単に顧客の期待を満たすことのメリットをひどく過小評価する傾向がある。世間では顧客の期待が著しくふくれ上がり、あたかも高まる一方のように思われているようだが、実は顧客はただ約束されたものが手に入ればそれでとても満足していることがわかった。だから何か問題が起こったら、それをあっさりと迅速に解決すればいい。それ以上でも、以下でもない。大半の業界紙の記事や自称カスタマーエクスペリエンスの権威によるプレゼンテーションとはまるで正反対の、驚きの結論だ。それがコンタクトセンターや他のサービス組織、さらには企業全体のマネジメント方法にどのような意味を持つかについて考えてみよう。大多数の顧客の期待を常に満たしているのなら、あなたは最大限経済的価値の高いことをすでに実行していることになる」

 次に、企業は顧客の期待を上回ることから得られるロイヤルティのメリットをたいそう過大評価する傾向があるとして、以下のように述べられています。
「ロイヤルティの向上を目指して、常に期待を超えるためにどんなリソース、エネルギー、予算などを新たに投入しようと、それに見合った経済的な利益はいっさいもたらされないことが判明している。この事実は明らかにカスタマーサービス・リーダーにとっては衝撃が大きく、社会通念に対抗する挑発的な見解とみなされている。期待の上をいく――顧客を『感動させる』――ことが顧客のロイヤルティの向上につながらない。なぜそんなことが起きるのか? その考え自体意味をなさないように思えるのに、まさしくそれが膨大な数のカスタマーサービス・インタラクションを分析して見つけた結論なのだ」

 さらには、以下のように述べられています。
「データがもの語るのは、顧客の観点からすると、何か問題が起きたときに心を支配しているのは、解決に力を貸してほしいという感情だということ。感動させる必要などないから、とにかく問題を解決してそれまでやっていたことを再びできるようにしてほしい。比類なき喜びを生み出し、期待を超えるサービスがほめたたえられる企業で一人前になったカスタマーサービスのリーダーには、 ハッとさせられる話だ」

 そして、「喜びにはめったにお目にかかれない。顧客調査によると、期待を上回ったケースはわずか16%。84%という圧倒的多数の顧客は期待以上のサービスを受けていない(それどころか、期待が満たされないこともしょっちゅうだ)。喜びはいつも達成するのは難しい目標で、届かないのがふつうである。極めて非凡なものゆえに強く記憶に残るのだ」と指摘され、「しかしながら、結局は基本的能力、プロとしてのサービス、基本を正しく実践すること……こうしたことが何より重要である。おそらく、私たち自身が信じているよりもはるかに」と述べられるのでした。

 また、「結論その3 カスタマーサービス・インタラクションは、ロイヤルティではなくディスロイヤルティを促す可能性が高い」として、以下のように述べられています。
「よい製品エクスペリエンスの場合、口コミはたいていお勧めの形をとる。『この前、こんなおしゃれな新しいガジェットを買ったんだよ!』、『素敵な新しいレストラン/ホテル(あるいは優秀な新しい会社)を見つけたんだ!』。この点は基本的な心理学で説明がつく。何かすばらしいものを知ったとき、人はそれを自分の賢さの証として他の人たちに話したくなる。たとえばもし私があなたに新しくできたおいしいレストランを勧めて、あなたが実際にそこを訪れたとしたら、きっとあなたは私を探してお礼を言うはずだ。手柄は私がほぼ独り占めするようなものである。自分が料理を作るわけでもないのに、どうしてだか私は、あなたがそのレストランを好きになったのは自分のおかげだと考える」

 続いて、以下のように述べられています。
「対照的に、カスタマーサービスに関しては、かなりの確率で人は嫌な経験しか言葉にしない。心理レベルでは、サービス・インタラクションで不快な思いをしたとき、それを人に話すのは主として相手に同情してもらいたいからだ。『私は犠牲者だ』。『失礼な態度をとられた』。『私は賢い人間なのに、あの担当者は私を愚か者扱いした!』。友人や家族ならすぐさま助けにきてくれる。『そんな目にあうなんて大変だったわね。あなたはもっと丁重に扱われていいはずよ! かわいそうに』」

 調査から得られたデータによると、企業に対してよい経験をした人のうちでそれを3人以下に話したという人が45%だったのに対し、嫌な経験を10人以上に話したと答えた人は48%でした。加えて、ウェブやソーシャルメディアは顧客にとって自分の意見を主張するとても手軽な手段だという厳しい現実があると指摘され、「ブログ、ツイッター、フェイスブック、LinkedIn……。これらは例外なく、顧客が声高に何百、何千、いや何百万ものあなたの現在の顧客や潜在顧客に働きかけることを可能にする。有名企業のフェイスブックのページを見てみれば、やたら目につくはずだ。サービスの悪さについて書かれたコメントだらけである。企業の不当な扱いを受けたと感じれば、顧客は世間にその事実をぶちまけて知ってもらおうとする」と述べられています。

 さらに、「私たちは製品を理由に企業を選びながら、サービスの失敗のせいでその企業から離反することがたびたびあるのだ」として、以下のように述べられています。
「何だか気が滅入るような話に聞こえるかもしれないが、実はこれは戦略を練り直すときに活用すべき、非常に価値のある情報である。客観的に見て、カスタマーサービスはディスロイヤルティを著しく促す要因であり、カスタマーサービスが招きがちな悪いエクスペリエンスは、公の場で発表されるとそのマイナス面が増幅される。したがって明らかに、カスタマーサービスの役割は顧客を喜ばせてロイヤルティを向上させることではなく、顧客のディスロイヤルティを緩和することだ」

 第1章の「まとめ」として、以下のことが書かれています。
「サービスチャネルで顧客を喜ばせることは割に合わない。期待を上回るサービスをされた顧客のロイヤルティは、期待が満たされただけの顧客のそれよりほんのわずか高い程度」
「カスタマーサービスが促すのはロイヤルティではなくディスロイヤルティ。平均的なサービス・インタラクションが顧客のロイヤルティを下げる可能性は、ロイヤルティを高める可能性の4倍ある」
「ディスロイヤルティ緩和のカギは顧客努力の低減である。企業は、問題を解決するために顧客に課される作業量を減らし、喜びを与えるサービスではなくより手間のかからないサービスに注力すべきだ。これには、情報の繰り返しや再問い合わせの必要性、チャネル転換、転送、画一的な対応の回避が含まれる」

 第2章「なぜ顧客はあなたと話したがらないのか?」の冒頭には、以下のように書かれています。
「ほとんどの人が何度か似たような体験をしていると思う。空港に到着すると、カスタマーサービス担当者が立っているのが目に入る。だが、ためらうことなくセルフサービスの自動発券機(キオスク)に向かい、席を変更し、搭乗券を印刷する。あるいは、こういう場合。銀行のなかで窓口係が客を待っているのはよくわかっているのに、ATMの列に並ぶ。たいていの顧客がセルフサービスを好むだけでなく、わざわざセルフサービスを使う同様のケースは数えきれない。サービスを受けることや会社とのかかわり方に対する顧客の意識は、この10年で大きく変化した。問題は、大半のサービス戦略がそれに追いつけていないことだ。そのせいで顧客ロイヤルティは低下し、運営コストは増加して、会社は一度ならず損害を受けている」

 続けて、セルフサービスがこれほど顧客にとって魅力的なのには、さまざまな理由があるとして、以下のように書かれています。
「まず、セルフサービスは効率がよい。発券係員よりキオスクのほうが、用事が早く片づく。また、スマホを使えば簡単にできることをカスタマーサービスに頼むのは賢明ではないという方向へ、社会通念も変化した。最近は、空港で列に並んでいるのを人に見られたら恥ずかしいとさえ思うようになった。『こんな旅慣れないやつらと一緒に列に並ぶなんて、ごめんだよ』」

 また著者は、「顧客が必要な情報を見つけられなかった」ケースとして、「選択のパラドックス」に言及し、以下のように述べています。
「『選択のパラドックス』とは、ある決断に対し選択肢が多ければ多いほど、よい決断をする能力は損なわれるという現象だ。スタンフォード大学の研究者が実施した有名な研究が、その影響を立証している。さまざまな味のジャムを顧客の前に並べて、選択肢の数が増えるとどのような選択をするかを観察した。ほぼすべてのケースで、顧客の前に並べたジャムの種類が増えるほど、ジャムの売り上げ総数は減り、ジャムの種類を減らすと、売り上げは伸びたのである。あるケースでは、消費者製品大手のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)がヘッドアンドショルダー・ブランドの種類を約半分に減らすと、売り上げはたちまち10%以上も増加したと記録されている。ここから得られるのは、選択肢が増えると決断に多大な努力を要することになり、顧客にとっても企業にとっても悪い結果を招くという教訓だ。顧客の前に多くの選択肢を並べると、チャネル転換の問題は間違いなく悪化する」

 さらに、著者は以下のように述べるのでした。
「特定の問題を解決するために顧客が利用できる選択肢、すなわちウェブ、Eメール、FA Xがあったとして、顧客が抱えている問題をふまえて、正しい(低努力の)選択をするとどうして期待できるだろう。問題のなかには、ウェブのセルフサービスを使えば、極めて迅速かつ容易に解決できるものもあるだろう。また、非常に複雑で、顧客ができるだけ努力を要さずに解決するには、カスタマーサービス担当者との直接のやりとりが必要なものもあるだろう。どのタイプの問題にもベストなチャネルはない。しかし、大半の企業は、顧客は努力いらずのエクスペリエンスより選択肢が多いほうを好むと信じて、顧客の選択に任せてしまっている」

 第3章「カスタマーサービス担当者がしがちな最悪の質問」では、著者は以下のように述べています。
「顧客は自分が何をわかっていないかをわかっていない。一方で企業のほうは、サービスを提供する相手である顧客よりも問題についての知識はずっと豊富だ。だから、顧客に問題は完全に解決したかたずねるのはフェアではない。だいたい、顧客はどこまでわかっているのだろう? 確かに、彼らが電話をかけてくる顕在化した原因は解決できたように思えるが、関連する問題や二次的な問題、その他のあいまいな問題が残っている場合が多い。顧客はこのような潜在的な問題があるとはわからないので、必ず電話をかけ直すことになる。間違いなく、その頻度は企業が考えているよりはるかに多い」

 第4章「できることが何もないように思えても、できることは必ずある」では、ホスピタリティ企業のなかには、ゲストに応対する際の思考プロセスを見直し、すべてを肯定的な用語で考える方法を社員に教えている企業もあるとして、以下のように書かれています。
「伝説によれば(少なくともカスタマーサービスの伝説によれば)、ディズニー・ワールドでは、すべての『キャストメンバー』(どんな職種にも単なる「従業員」は存在しない。グーフィーの衣装を着た出演者のみならず、バスの運転手やアトラクション係、ファンネルケーキ〈訳注:生地を漏斗に入れて油に流し込んで揚げるお菓子。ディズニー・ワールド内の店舗で販売されている〉の製造係だって、全員が大きなショーを構成するキャストの1人だ)は肯定的な言葉を使う術を学ぶ。このスキルは『パークは何時に閉園するか』という質問の答えを見ればよくわかる。キャストメンバーは、最も単純な質問であってもできる限り前向きな答え方をするよう求められる。肯定的な言葉を使った対応に初めて挑戦するときは、誰もが苦労する」

 続けて、以下のように書かれています。
「『あー、パークの閉園時間は魔法が解けたときです(間違い。実際の閉園時刻は8時)』『お客様がお帰りになるときが閉園時間です(間違い。8時1分にまだ園内にいたら、おそらくディズニー式の追い出しを食らうだろう)』
正解は『パークは夜8時まで開園しております。そして、楽しいことをもっとお届けできるよう、明日は朝9時に開園します。明日またお会いしましょう』という内容の、いくつかのバージョンである。これにネガティブな反応をする人がいるだろうか」
 著者によれば、これは「顧客に提供できないものを告げるのではなく、提供できるものを告げよ」という昔からのサービスに関する教訓を別の形で表現しているだけであるといいます。

 第8章「コンタクトセンター以外での努力」では、章の「まとめ」として、「優れた企業は、努力がそれほどいらない経験を顧客に提供している。トップブランドは、製品設計から販売経験にいたるまでのビジネスのあらゆる側面に努力のいらない経験の原則を取り入れている。このような企業は、あたりまえになっている現状にも容赦なく異論を唱える。顧客は商品を買うのに列に並ぶべきか? ワクワクするような新しい商品を買ったのに、使う前に1時間もかけてマニュアルを読むべきなのだろうか? 優秀な企業なら、そんなことは断じて理不尽だと主張する」と書かれています。

 「監修者あとがき」では、神田氏は「差別化は『引き算』の時代へ」として、GAFAに言及し、以下のように述べます。
「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれるグローバル4強はいずれもサービスを簡素化、合理化することで、顧客努力の軽減を実現している。いずれの商品・サービスにも説明書は存在しなくてもすぐに商品に馴染むことができ、いつの間にか自在に操ることができるようになっている。顧客満足度は足し算の時代から引き算の時代へとシフトしているのだ。サービスのデジタル化ともいうべきこの事象により、サービスはシンプルで合理的な方向性へと変貌を遂げており、減らすことが他社との差を分けるものとなった。産業構造が第三次産業(サービス業)から第四次産業(情報産業)に移行していく中で、あらためて情報化社会におけるサービスのあり方を捉え直す必要があるということなのだろう」

 また、「『おもてなし神話』における不都合な真実」として、神田氏は「おもてなし精神は脈々と息づいてきた日本が誇るべき文化である。『顧客志向』や『顧客第一主義』を理念に掲げている日本企業は枚挙に暇がなく、多くの企業において企業文化として根付いている。それこそが日本の発展を支えてきたことに疑いの余地もない」と指摘し、さらには以下のように述べます。
「書店の営業コーナーに積まれた本を手にとってみると、ほとんどの内容がトップセールスの神格化された顧客満足対応エピソードである。デジタルネイティブである20代部下たちはそのような上司の武勇伝を聞きながらもしかしたら冷ややかに受け流しているかもしれない。おもてなしをこのように論ずること自体がタブーのように受け止められる一方、日本が誇るもう1つの文化である『ものづくり』の現場においては、ねじを1本増やすことについても徹底的に論議される。であるならば、サービスにもエンジニアリングの視点をあてはめることで、1つ1つ見直すことができるのではないだろうか」

 神田氏は「このサービスエンジニアリングの発想こそ、昨今の働き方改革を成功させるための切り札であると考える。つまり、『顧客満足度向上』という大義名分のもとに聖域化された顧客対応に踏み込み、リエンジニアリングすることで、日本の生産性は著しく向上できる」と述べます。これはその通りだと思いますが、わたしは冠婚葬祭業やホテル業の経営者なので、「おもてなし」はやはり重要なコンセプトであると思うとともに、本書における「おもてなし」の定義は狭いのではないかと感じました。

決定版 おもてなし入門』(実業之日本社)

 わたしには、『決定版 おもてなし入門』という著書がありますが、奇しくも本書『おもてなし幻想』と同じ実業之日本社から刊行されています。わたしは、日本人の”こころ”は、神道・仏教・儒教の三つの宗教によって支えられており、「おもてなし」にもそれらの教えが入り込んでいると考えています。「おもてなし」は、日本文化そのものです。ジャパニーズ・ホスピタリティとしての「おもてなし」こそは、人類が21世紀において平和で幸福な社会をつくるための最大のキーワードであると言えるでしょう。そして、その中心的役割を担うのは日本人であると信じています。

 しかしながら、本書『おもてなし幻想』の著者はアメリカ人であり、そのような思想からは離れたところで「おもてなし」をとらえていると感じました。たしかに、タクシーや美容院でやたらと話しかけられるのは鬱陶しいです。しかしながら、「おもてなし」はもっと深く、豊かな世界を持っています。本書はサービス業関係者というより、Webサイトや電話で顧客とコミュニケーションを図っている担当者や上司にとって、業種を問わず参考になる情報が満載です。ハードカバーで400ページ以上の大著ですが、図表も多く、思ったよりもずっと読みやすい本でした。

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