No.1625 人間学・ホスピタリティ 『面白いぞ人間学』 一条真也著(致知出版社)

2018.11.17

 「一条真也による一条本」をお届けします。23冊目となる今回は、『面白いぞ人間学』(致知出版社)。2007年10月17日に刊行された本です。サブタイトルは「人生の糧になる101冊の本」で、「101 Books to Enrich Your Life」という英文が添えられています。

面白いぞ人間学』(2007年10月17日刊行)

 表紙カバーには大平弘氏によるオブジェが使われ、帯には、「人間の真の力は、真の読書で培われる。真の良書は、その人の人生行路を決定する。人生の糧になる101冊の本」と書かれています。また帯の裏には、「本書は『人間学』を学ぶためのガイドブックである」と書かれています。

本書の帯

 本書の「目次」は、以下のようになっています。
「はじめに――人間学の森に遊ぶ」
第1章 帝王学入門
【1】80年前に書かれた『国家の品格』であり『女性の品格』  
『いかに生くべきか――東洋倫理概論』 安岡正篤 
【2】日本人の「こころ」の源流が明快に理解できる             
人生、道を求め徳を愛する生き方』 安岡正篤  
【3】若き安岡正篤の心の糧となり、魂の養分となった先哲たち         
日本精神の研究』 安岡正篤  
【4】安岡正篤を始めて読む人にはうってつけの入門書       
人物を修める』 安岡正篤  
【5】活きた学問をリーダーたちに伝授       
活学講話 東洋人物学』 安岡正篤  
【6】現代を知ろうと思えば、歴史と先哲に学ぶべし       
先哲講座』 安岡正篤  
【7】難解さゆえに広く読まれなかった『易経』をわかりやすく解説       
易と人生哲学』 安岡正篤  
【8】大いなる人生の参考書      
呻吟語を読む』 安岡正篤  
【9】感銘を受けた序章でふれた「心学」      
立命の書「陰騭録」を読む』 安岡正篤 
【10】現代のリーダーにとって必読の書       
佐藤一斎「重職心得箇条」を読む』 安岡正篤  
【11】現代の青年こそ本書を読むべき       
『青年の大成』 安岡正篤 
【12】まさに稀代の碩学・安岡正篤ここにあり!   
王道の研究――東洋政治哲学』 安岡正篤  
【13】指導者育成の歴史がわかる       
経世瑣言』 安岡正篤  
【14】自らは良き会社員として任を全うした哲人の子息       
『「為政三部書」に学ぶ』 安岡正泰  
【15】題名を聞いただけでも背筋が伸びる講義集      
「人に長たる者」の人間学』 伊與田覺  
【16】大いに使える、人間学を学ぶ大人の教科書     
「大学」を素読する』 伊與田覺  
【17】儒教の真髄を知るための新釈本       
孝経・大学・中庸新釈』 塩谷温・諸橋徹次・宇野哲人 
【18】わかりやすくて面白い陽明学の入門書       
王陽明と儒教』 井上新甫  
【19】日本でも珍しい本格的な秘書学       
上に立つ者の人間学』 渡邉五郎三郎  
【20】「人間、いかに生きるべきか」を説いた本       
人間の格』 芳村思風
第2章 先人に学ぶ
【21】人間学の宝庫『十八史略』を読み解く      
歴史は人を育てる』 渡部昇一 
【22】西郷隆盛の遺訓を読むための最高の解説書       
「南洲翁遺訓」を読む』 渡部昇一  
【23】日本の資本主義を育てた最大の功労者      
渋沢栄一 男の器量を磨く生き方』 渡部昇一  
【24】達人の幸福論を知る       
幸田露伴の語録に学ぶ自己修養法』 渡部昇一  
【25】「修養」を追求した新渡戸稲造       
運命を高めて生きる』 渡部昇一  
【26】講談社を創り上げた快男児・野間清治       
「仕事の達人」の哲学』 渡部昇一  
【27】本物の賢者による「自分の人生設計」のすすめ       
財運はこうしてつかめ』 渡部昇一  
【28】人生の達人ヒルティが説く幸福への道       
できる人になる生き方の習慣』 渡部昇一  
【29】巨大な2つの教養が火花を散らす       
知の愉しみ知の力』 白川静・渡部昇一  
【30】正しい歴史認識の必要性を訴える憂国の書     
子々孫々に語りつぎたい日本の歴史』 中條高德・渡部昇一  
【31】「近江聖人」中江藤樹を知る最高の書       
中江藤樹 人生百訓』 中江彰  
【32】著者独特の視点によるユニークな教育論、人生論       
中江藤樹』 久保田暁一  
【33】維新のヒーロー西郷隆盛の無私の生き方を熱く説く      
『南洲翁遺訓の人間学』 渡邉五郎三郎  
【34】第一人者が綴る洒脱で楽しいエピソードが満載       
伝記に学ぶ人間学』 小島直記  
【35】「悟りを開いた」覚者7人のインタビュー集       
『現代の覚者たち』 森信三・坂村真民・平澤興ほか  
【36】現代社会の人間行動を考えるユニークな本      
三国志の人間学』 城野宏  
【37】人間くさいドラマの面白さ       
十八史略に学ぶ人生の法則』 伊藤肇  
【38】異色の哲人・中村天風を求めて、自分探しの旅       
宇宙の響き――中村天風の世界』 神渡良平  
【39】万人が幸福になるための法則を追い求めた感動長編!       
一粒の麦――丸山敏雄の世界』 神渡良平
第3章 経営の王道
【40】人生と経営について考える、すべての人に贈る       
人生と経営』 稲盛和夫 
【41】4人の経営者の貴重な体験       
『社長の哲学』 青木定雄・鍵山秀三郎・鳥羽博道・矢野博丈
【42】松下政経塾の教育の根本を学べる1冊       
志のみ持参』 上甲晃  
【43】いよいよ志の時代がはじまる!      
志を教える』 上甲晃  
【44】「アサヒスーパードライ」をトップブランドに育て上げた男       
立志の経営』 中條高德  
【45】「日本一の洋菓子職人」の波乱万丈人生       
『仕事魂』 比屋根毅  
【46】経営者として成功するための道を示した好著       
理念経営のすすめ』 田舞徳太郎  
【47】経営のすべてが学べる贅沢な本       
『成功するまでやり続ける』 高井法博 
【48】阿蘇山中に暮らす陶芸家が説く商売繁盛の秘法       
繁栄の法則――戸が笑う』 北川八郎  
【49】働く意味を知り、意義のある人生を送るヒントが満載       
『何のために働くのか』 北尾吉孝
第4章 心ゆたかに生きる
【50】商人道の根幹と運をつかむコツを知る      
凡事徹底』 鍵山秀三郎  
【51】「自分からトイレ掃除をとると何も残らない」       
小さな実践の一歩から』 鍵山秀三郎  
【52】「苦労が顔に出なかったら勝ち」      
日々これ掃除』 鍵山秀三郎  
【53】実践者の言葉だけがもつ、絶対的な説得力       
掃除に学んだ人生の法則』 鍵山秀三郎  
【54】中学生に説く幸せになれる秘密       
あとからくる君たちへ伝えたいこと』 鍵山秀三郎  
【55】本物が発した箴言の数々を心ゆくまで味わえる本       
人間力を養う生き方』 鍵山秀三郎・山本一力  
【56】新たに示す「平成武士道」のすすめ     
いま、なぜ「武士道」か』 岬龍一郎  
【57】読むと、とにかく勇気が湧いてくる       
ただいま100歳』 曻地三郎  
【58】直筆の文字には心が宿る       
ハガキ道に生きる』 坂田道信  
【59】魔法の言葉「そ・わ・か」を説く       
宇宙を味方にする方程式』 小林正観  
【60】アンビリーバブルなすごい本       
宇宙を貫く幸せの法則』 小林正観  
【61】21世紀は「こころ」が最大の価値をもつ社会       
何のために生きるのか』 五木寛之・稲盛和夫  
【62】とにかくわかりやすい、禅の奥義      
義功和尚の臨済録』 小林義功  
【63】最高の自分になれる「zone」とは何か       
最高の自分を生きる』 丸山敏秋
第5章 人間らしく生きる
【64】目の前で哲人の講義を聞いているかのようだ       
修身教授録』 森信三  
【65】シンプルかつ実践的な家庭教育論      
真理は現実のただ中にあり』 森信三  
【66】哲人教育者は故郷の親父のような温かさをもっていた       
人生二度なし』 森信三  
【67】「自分の人生は自分次第なのだ」       
『13歳からの人間学』 石川洋  
【68】幕末の志士・橋本左内の魂のメッセージ       
君よ、志を持って生きてみないか』 石川洋  
【69】アジアの貧困地域に暮らす子どもたちの現実       
あなたの夢はなんですか?』 池間哲郎  
【70】モンゴルのマンホールチルドレンたちの現実       
あなたの夢はなんですか?(2)』 池間哲郎  
【71】小児がんの子どもたちから託された「いのちのメッセージ」       
いのちのバトンタッチ』 鈴木中人  
【72】チベット人歌手の心にふれて……
こんにちは バイマーヤンジンです。』 バイマーヤンジン  
【73】作家・三浦綾子が遺してくれたもの       
希望は失望に終わらず』 三浦光世  
【74】「私は本当の葬式ができる坊さんになりたい」       
輝いて生きる知恵』 松原泰道  
【75】体験に基づく幻の健康法       
健康への道』 二木謙三  
【76】ヘレン・ケラーが「私より不幸で偉大な人」と語った!        
四肢切断・中村久子先生の一生』 黒瀬曻次郎 
【77】世界に誇るべき日本の「奇跡の人」       
中村久子の生涯』 黒瀬曻次郎 編述  
【78】高校生への「日本人とは何か」という問いかけ       
日本のこころの教育』 境野勝悟  
【79】「戦争」と「日本」を知らない日本人必読の書       
おじいちゃん戦争のことを教えて』 中条高德  
【80】壮絶な捕虜生活体験者同士による対談       
獄中の人間学』 古海忠之・城野宏  
【81】「元気印の大島」と呼ばれる著者の凄まじい過去      
『人生逃げたらあかん』 大島修治  
【82】心の中に宇宙のエネルギーを引き入れる本       
あのね だいじょうぶ だいじょうぶ』 吉丸房江
第6章 言葉の宝石箱
【83】世界的思想家のすごみがあふれている       
二宮尊徳一日一言』 寺田一清 編  
【84】幕末の儒者はキーワードの達人       
佐藤一斎一日一言』 渡邉五郎三郎 監修  
【85】松陰の気概が伝わる       
吉田松陰一日一言』 川口雅昭 編  
【86】「いかに生くべきか」が伝わる130の名言       
吉田松陰名語録』 川口雅昭  
【87】こんなすごい読書論にふれたことがない       
安岡正篤一日一言』 安岡正泰 監修 
【88】昭和の哲人による珠玉の名言集       
照心語録』 安岡正篤 
【89】「大宇宙の法則」とその活用法を説く魂のガイドブック!       
中村天風の言葉』 神渡良平  
【90】現代日本人への痛烈なメッセージ       
西晋一郎語録 人倫の道』 寺田一清 編 
【91】「書物を読まなくなったら、精神的には死んでいる」       
森信三 教師のための一日一語』 寺田一清 編  
【92】「言葉に心魂が宿っている」       
坂村真民一日一言』 坂村真民  
【93】「自分は、西行、芭蕉の道を行く者だ」      
念に生きる』 坂村真民  
【94】日本一優しい憂国の書      
詩人の颯声を聴く』 坂村真民(聞き手・藤尾秀昭)  
【95】多くの「禅語」によって禅の魅力を説く      
人生を支える禅の名言』 境野勝悟  
【96】古今東西の偉人たちがオールスターで登場      
人生を創る言葉』 渡部昇一  
【97】日本にも『パンセ』が存在した!       
生きよう今日も喜んで』 平澤興  
【98】安岡正篤、大平正芳との出会いが圧巻       
わが人生に刻む30の言葉』 牛尾治朗  
【99】哲学とは行動に結びつくものでなくてはならない       
感奮語録』 行徳哲男  
【100】人間学の追求に半生をかけてきた著者による求道の記録     
『小さな人生論』 藤尾秀昭 
【101】「感動は人を変える。笑いは人を潤す。夢は人を豊かにする」   
『小さな人生論(2)』 藤尾秀昭

本書の帯の裏

 101冊のリストを見ると、同じ著者の本が何冊も入っています。「昭和の碩学」と呼ばれた安岡正篤などは14冊も入っていますが、今年の4月17日に亡くなられた渡部昇一先生の本も11冊入っています。すでに物故者であった安岡正篤と違い、当時の渡部先生はバリバリの現役だったわけですから、その数の多さは驚異的です。なお、致知出版社以外の出版社から刊行されたものも含め、わたしは渡部先生の著書のほとんどを読んでいます。詳しくは、一条真也の新ハートフル・ブログ「渡部昇一を読む」を御覧下さい。

 さて、本書『面白いぞ人間学』は、致知出版社の藤尾秀昭社長と博多の「稚加榮」という割烹で飲んだときに生まれた企画です。わたしが致知出版社の出版物を101冊読んで、その内容のダイジェストをまとめてガイドブックを作るという企画でした。本書で紹介した101冊の本は、今後の社会を生きる上での水先案内をしてくれるものばかりでした。 

 今後の社会とは、いかなる社会か。わたしは、「心の社会」だと思っています。「心の社会」とは、あらゆる人々が幸福になろうとし、思いやり、感謝、感動、癒し、そして共感といったものが何よりも価値を持つ社会です。人類はこれまで、農業化、工業化、情報化という三度の大きな社会変革を経験してきました。それらの変革はそれぞれ、農業革命、産業革命、情報革命と呼ばれます。三番目の情報革命とは、情報処理と情報通信の分野での科学技術の飛躍が引き金となったもので、変革のスピードはインターネットの普及によって、さらに加速する一方です。

 わたしたちの直接の祖先をクロマニョン人など後期石器時代に狩猟中心の生活をしていた人類とすれば、狩猟採集社会は数万年という単位で農業化社会に移行したことになります。そして、農業社会は数千年という単位で工業化社会に転換し、さらに工業社会は数百年という単位で20世紀の中頃に情報化社会へ転進したわけです。それぞれの社会革命ごとに持続する期間が1ケタずつ短縮しているわけで、すでに数十年を経過した情報社会が「第四の社会革命」を迎えようとしていると考えることは、きわめて自然だと言えます。わたしは、その第四の社会とは、人間の「心」というものが最大の価値を持つ「心の社会」であると考えました。

 社会とは何でしょうか。経営学の第一人者にして偉大な社会生態学者でもあったピーター・ドラッカーは言いました。人は生物的存在として生きるために呼吸する空気を必要とするように、社会的存在として生きるために機能する社会を必要とする。社会は、一人ひとりの人間に「位置づけ」と「役割」を与え、そこにある権力が「正統性」を持つとき、はじめて機能する、と。そして、人間の本質とその存在の目的についての理念、すなわち人間観が、社会の性格を定め、個人と社会の基本的な関係を定める、と。

 古代中国において、孔子の流れをくむ孟子は人間の本性を善なるものとする「性善説」を唱え、荀子は「性悪説」を唱えました。わたしは、人間の本性は善でもあり、悪でもあると考えます。そして来るべき「心の社会」においては、人間の持つ善も悪もそれぞれ巨大に増幅されてその姿を現すでしょう。ブッダやイエスのごとき存在も、ヒトラーやスターリンのような存在も、さらなるスケールの大きさをもって出現してくる土壌が「心の社会」にはあるのです。「心の社会」は、ハートフル・ソサエティにもハートレス・ソサエティにもなりうるのです。

 では、これからの社会をハートフル・ソサエティ、つまり「心ゆたかな社会」にするためには、わたしたちは何をすべきか。ずばり、人間学を学ばなければならないのです。かの安岡正篤の高弟にして7歳から80年以上にわたって『論語』を学び続けた伊與田覺氏によれば、「人」には二面があるといいます。いわゆる「個人としての人」、それから「社会人としての人」。個人のことを現在では「にんげん」と呼びますが、これは新しい読み方であって、元々は「じんかん」と呼んでいました。「人間(じんかん)」というのは「社会」または「社会人」という意味です。社会とは、社(やしろ)の前に会する、日本でいえば神社の前に会するという非常に敬虔な言葉なのです。

 伊與田氏は、人間には個人としての人と社会人としての人との二面があると言います。そして、その個人としての人間には「徳性」「知能」「技能」という大切な要素が3つあります。ものには必ず本末があります。木にも、根という本と、枝葉という末があります。人間の場合、その「本」になる部分が「徳性」であり、その徳性を育てる学を「本学」といいます。「末」になる部分は「知能」「技能」であり、これを育てる学を「末学」といいます。

 平たく言うと、社会人としての要素には道徳習慣と知識技術があり、前者を習得するのが本学、後者を習得するのが末学となります。そして、二つの学にはそれぞれ別名があります。すなわち、本学とは「人間学」であり、末学とは「時務学」と呼ばれるのです。伊與田氏の師である安岡正篤も「人間学」というものを提唱しました。彼は、広い意味において道徳的学問・人格学、これを総括して人間学というならば、この人間学が盛んにならなければ本当の文化は起こらず、民族も国家も栄えないと述べています。

 安岡正篤によれば、学問というものを分類すると、3つに分けることができます。1つは「知識の学問」です。これは今日の学問を代表するものと言ってよいですが、学問にはもっと根本的な「智慧の学問」というべきものがあります。知識の学問と智慧の学問では非常に違います。知識の学問は、わたしたちの理解力・記憶力・判断力・推理力など、つまり悟性の働きによって誰にもひと通りできるものです。子どもでも大人でもできる、善人でも悪人でもできる。程度の差こそあれ、誰でもできるのです。その意味では機械的な能力だと言えます。

 しかし、智慧の学問とは、もっと経験を積み、思索や反省を重ねて、わたしたちの人間としての体験の中からにじみ出てくるもっと直観的で人格的な学問を指します。ですから、知識の学問より智慧の学問になればなるほど、生活的・精神的・人格的になってくるのです。さらに智慧の学問を深めると、普通では容易に考えられない徳に根ざした、徳の表れである「徳慧の学問」になります。これは「聖賢の学」そのものであり、安岡正篤の言う「活学」にも通じるものです。

 このように「学び」にもいろいろな学び方がありますが、これを安岡正篤は「人間学」と「職業学」に大別しました。この2つが車の両輪になって初めて学問と言えるのです。「時務学」と呼ぼうが、「職業学」と呼ぼうが、わたしたちにとって真に必要なものが「人間学」であることに間違いはありません。その人間学というものを30年にわたって(当時)追求してきたのが『致知』という月刊誌であり、それが母体となって生み出してきたのが、ここに紹介する101冊の本たちなのでした。

 『論語』をはじめとした儒教関連書から、帝王学の古典、心ゆたかに人間らしく生きるために書かれた数々の名著、そして極限の人生を生き抜いた凄絶な体験記まで、ここには「人間」を知るためのすべてが揃っています。かつて、「人の心はお金で買える」といった人物がいましたが、もちろん人の心はお金では買えません。人の心を動かすことができるのは、人の心だけです。そして、101冊の本たちを読めば、人の心の謎を知り、人の心を動かす秘訣のようなものも見えてくるのではないでしょうか。

 読書習慣のある勉強熱心な経営者は多いですが、「書店で気になった本を次々に買って書棚に並べてみたら、偶然にも致知の本ばかりだった」といった話を、もう何度聞いたことかしれません。特にわたしも関係のあるサービス業や流通業関係者に致知の愛読者が多いように思います。業種的に人間の心を扱う仕事だから、当然といえば当然でしょう。

 本書は「人間学」を学ぶためのブックガイドです。しかし、人間学とは決して難しいものでも、堅苦しいものでもありません。そこのところを誤解しないでほしいと思いました。人間学とは、人間がいかに心ゆたかに生き生きと生きていくかを考えることです。ですから、人間学は楽しいし、面白いのです。なぜなら、わたしたちは人間だからです。人間にとって一番面白いものは人間に決まっているではないですか。

 この101冊の本は、101本の木です。中には見上げるような大木もあれば、細くとも凛として立つ1本もあります。本書は個性ゆたかな木々が生い茂る森なのであります。この森を散策することは、最高の遊びにほかなりません。わたし自身、致知の101冊に耽り、ひたすら人間学の森に遊ぶ毎日は至福の時間でした。もう二度と人生でこんな濃密で幸福な時間は持てないとも思いました。101冊を読破し、森から帰ってきたわたしは、以前より格段に「人間通」になったと自負しています。

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