No.1623 マーケティング・イノベーション | 経済・経営 『amazon』 成毛眞著(ダイヤモンド社)

2018.11.12

 『amazon』成毛眞著(ダイヤモンド社)を読みました。「世界先端の戦略がわかる」というサブタイトルがついています。
 著者は、1955年北海道生まれ。中央大学商学部卒業。元マイクロソフト代表取締役社長で、現在は書評サイト「HONZ」代表です。一条真也の読書館『実践!多読術』『面白い本』『本棚にもルールがある』、『情報の「捨て方」』で紹介した本の著者でもあります。

本書の帯

 一条真也の読書館『the four GAFA』で紹介した本では、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの「四騎士」が取り上げられました。しかし、本ではアマゾンだけです。本書の帯には「この1社さえ知ればいい」と書かれています。明らかに他のGAFA3社を意識したコピーですね。

本書の帯の裏

 また帯の裏には、「『何が勝って、負けるのか』ビジネスの基礎知識も身につく!」として、以下のように書かれています。
●赤字でも株価が下がらない仕組み
●「物流」とはサービス
●採算を度外視してサービス過多なのは、他企業をつぶすため
●「品揃えが豊富で、安い」を実現するには何をやっているのか
●勝つビジネスモデル、負けるビジネスモデルとは何か
「資金」「会員サービスの仕組み」「M&A」「物流」「新業界でのシェアの取り方」「小売り」「テクノロジー」「AWS」「組織論」

 さらに、アマゾンの「内容紹介」には「アマゾン1社さえ分かれば、最新のビジネス感覚が身につく」として、以下のように書かれています。
「アマゾンという企業を研究することは、これからの最新の経営学を学ぶことと同じです。『ビジネスモデル』『キャッシュフロー』『AI技術』『会員サービス』など、ありとあらゆる革命がこの企業にはつまっています。

 アマゾンは、あっという間にさまざまな業界に入り込み、それぞれの大企業を脅かす存在になりました。いったい、それはどうしてなのか。アマゾンは何をしているのか。この本では、『小売り』『資金』『クラウド』『会員サービス』『M&A』『物流』『テクノロジー』『組織』などの面から、元マイクロソフトの社長である成毛眞氏が徹底解説。この1社さえ押さえておけば、世界で今何が起こっているのか、現代のビジネスマンや企業家が知っておくべき最新のビジネス感覚を身に着けることができます」

 本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「はじめに」
序章 アマゾンがなかったら生活できないかも
第1章 「品揃えが大量で、安い」を実現する仕組みとは
第2章 キャッシュがあるから失敗できる
第3章 アマゾンで一番利益をあげているAWS
第4章 アマゾンの「プライム会員」とは何なのか
第5章 アマゾンから、効率のいいM&Aを知る
第6章 巨大な倉庫と配送力で物流を制す
第7章 プラットフォームの主になるには
第8章 アマゾンを底ざさえするのがテクノロジー
第9章 アマゾンという組織
「おわりに」
「参考文献」

 「はじめに」の冒頭には「私たちは、もはやだれもアマゾンと無関係に暮らすことはできない」として、著者は以下のようにアマゾンのすごさを語ります。
「アマゾンが営業を開始したのは1995年だ。以来、爆発的な成長をつづけている。まず、アマゾンの株価は、上場した時よりも1252倍に上昇している。
 2015年6月から3年間の株価の推移を見てみると、アップル、グーグル、フェイスブックはそれぞれ2倍程度上げたのだが、アマゾンだけは4倍も伸びた。
 その株価を支えているのは『キャッシュフロー経営』である。キャッシュフローとは、企業活動を通じて自由に使える現金のことだ。普通、企業は、この中から設備投資をし、借金を返し、利益を計上する。しかし、長期間、アマゾンは利益を計上せず、ほとんど設備投資にばかり回した。極論すると、アマゾンは毎年数千億円も費やして、超大型の物流倉庫や小売店を次々と建設しつづけたことになる」

 また、著者は以下のようにも述べています。
「アマゾンは、自前の空輸、海運手段を用意し、蓄積した買い物データをもとに、最適な商品のおすすめをする。『今日買って、明日届く』物流は、アマゾンにとっての最大のサービスであり、他社が持てない武器だ。
 アマゾンの特異性はその規模や構造だけではない。ネット店舗で万引きはできない。アマゾンにとって万引きロス率はゼロだ。日本だけでもざっと年間300億円の利益が、リアルの店舗を持たないということだけで生まれていることになる」

 そして、「はじめに」の最後、著者はこう述べるのでした。
「数年内に、アマゾンの商品はドローンで配達されることだろう。ドローンの基地を空に作ることを計画し、特許まで出願している。配達の際、人の姿はなく、ドローンがアマゾンの箱を目の前で降ろして、再び飛び立つ光景が目に浮かぶ。
 アマゾンは、顧客の望みを叶えるために、テクノロジーでインフラを整えてきた。いまや、AI、自動運転、顔認証や翻訳システムにまで投資している。アマゾンの投資先を知れば、この先の世界がわかるといってもいい。
 繰り返すが、アマゾンは『帝国』を築きつつある。そして、アマゾンの今を知ることは、ビジネスの最先端を知ることであり、未来の社会を知ることと同義なのだ」

 序章「アマゾンがなかったら生活できないかも」では、「アマゾンは、何がすごいのか」として、以下のように書かれています。
「2015年頃から米国の株式市場で流行語になった言葉がある。GAFA(ガーファ)だ。グーグルのG、アップルのA、フェイスブックのF、そしてアマゾンのAの頭文字を取った造語だ。これに、マイクロソフトのMを加えてGAFA+M、別名ビッグ5と呼ばれることもある。この5社は新興企業で、時価総額が大きい」
 GAFA+Mの2018年の時価総額は、1位がアップル、2位がアマゾン、3位がグーグルの親会社であるアルファベット、4位がマイクロソフト、5位がフェイスブックとなっています。

 これがどれくらい、すごいのか。著者は述べます。
「日本企業で時価総額が最も大きいのがトヨタ自動車だが、それは5位のフェイスブックの半分ほどだ。その次にNTT,NTTドコモ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ソフトバンクと続く。これら日本の上位5社をすべて足しても、アマゾンの時価総額7777億ドル(約78兆円)に及ばないのだ。
 ちなみに、日本でアマゾンの競合と見なされている楽天は1・1兆円、アマゾンの当日配送から撤退したヤマトホールディングスは1・2兆円と、アマゾンから見れば吹けば飛ぶような金額である。規模がまったく違うのだ。
 GAFA+Mを合計すると、3兆6699億ドルに達する。これは、GDP世界4位のドイツをも凌ぐ規模になる。この5社がいかにアメリカ経済をけん引しているかを理解できるだろう」

 日本では、生活や仕事で必要なものはアマゾンで大概買えます。
 第1章「『品揃えが大量で、安い』を実現する仕組みとはでは、「圧倒的な商品数と安い値段がどうして可能になるのか」として、以下のように書かれています。
「アマゾンでは、通常はネットでは買わないと思えるものさえ売られている。たとえば自動車だ。自動車用品ではない。自動車そのものもアマゾンは扱っているのだ。新車のみならず、中古車も購入可能だ。しかも、中古車の消耗部品はすべて新品に交換している。配送も、通常のアマゾンでの販売と同じく日本全国どこでも届けてくれる。返品も可能だ。車に対してすらも、ネットで消費者が買うという心理的な障壁を低くしている。
 また、価格体系の不透明なものまで売ることもある。僧侶を派遣する「『お坊さん便』なども一時期話題になった」
 最後の「お坊さん便」に関しては、わたしは疑問を持っています。しかし、「アマゾンはそこまでやるのか!」と、その凄みを痛感したのは事実です。

 「もうアマゾンには、絶対に勝てないのだろうか?」と読者に問いかける著者は、「地域に密着する」として、以下のように述べています。
「高齢化を見越して、より地域に密着した生き残り策もある。たとえば電気店なら、『街の便利屋』になることで、顧客と密な関係を作り、家電の買い換えや日用品の購入につなげるのだ。すでに大型電気店の一部でみられるが、販売よりもサポートを重視することも、アマゾンとの差別化には有効だろう。家電の修理はもちろん、水漏れなど日常生活の困りごとにも対応する」

 また、「高齢者」や「買い物難民」を対象としたビジネス、たとえば高齢者の見守りも兼ねた移動販売や買い物代行もひとつの策だろうとして、著者は「買い物難民は、食料品など日常の買い物が困難な人を指し、一般に最寄りの食料品店まで500メートル以上離れ、車の運転免許を持たない人と定義されている。経済産業省が2014年に推計したところ、その当時ですでに全国に700万人いたことがわかっている。さらに増えていることは確実だ。若者ならば『アマゾンで頼めばいい』で済むだろうが、現実にはネット通販を使いこなせないアマゾン経済圏から漏れた消費者が存在するのだ」と述べています。
 この高齢者の見守りも兼ねた移動販売や買い物代行は、冠婚葬祭互助会などに適した活動であると思います。すでに、わが社も北九州市で実施するべく動き始めています。

 第7章「プラットフォームの主になるのは」では、「業界で打って出るにはプラットフォーマーになることがなにより第一」として、以下のように書かれています。
「グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンらGAFAの、社会に対する影響力はすさまじいものがある。新興のテクノロジー会社というくくりだけでなく、4社に共通するのは『プラットフォーマー』と呼ばれる企業であることだ。プラットフォーマーの本来の定義は『第3者がビジネスを行うための基盤(プラットフォーム)を提供する企業のこと』だが、強いプラットフォーマーは、高い市場シェアを握ることによって、業界のルールを自らが決めることができる」

 アマゾンはもともとネット書店としてスタートしました。
 「『卸の中抜き』は安値の基本――出版業界」として、著者は以下のように述べます。
「出版業界の凋落が止まらない。出版科学研究所の調査によれば、2018年における日本の出版物の販売金額は、1996年の約50%まで縮小するらしい。なかでも雑誌はとくに深刻で、20年連続前年割れである。
 この状況下では大手出版社も背に腹を変えられなくなった。
 日本の出版物は、卸である『取次会社』を通して書店に流通されるのが伝統である。しかし、アマゾンは日本では取次会社を介さずに本を出版社から仕入れる『直接取引』を拡大する方針に舵を切っている。いわゆる取次を省略する『中抜き』だ」
 アマゾンが現在の日本の出版業界に大きな影響力を持っていることは言うまでもありませんが、これからはPOD(プリント・オン・デマンド)などを通して、日本の出版文化にとって強力な用心棒となってくれることを願っています。

 「おわりに」では、著者の以下の言葉に驚きました。
「今回、編集では中野亜海さんにお世話になった。彼女は普段、女性向けのメイクや洋服の着まわし術といった本を作り、重版を叩き出す敏腕編集者だ。良いものを作るために、徹底的にこだわる彼女なら、本書もすばらしい本にしてくれるだろうと、お願いした」

 中野亜海さんといえば、わが監修書である『140字でつぶやく哲学』、および拙著『図解でわかる!ブッダの考え方』(中経の文庫)の担当編集者だった方ではないですか! 中経出版(KADOKAWA)からダイヤモンド社に移られていたのですね。たしかに、中野さんなら、徹底的にこだわる人でした。中野さん、お元気ですか? このたびは、本書がベストセラーになり、誠におめでとうございます。これからも、ぜひ、アマゾンともども日本の出版文化を盛り上げて下さい!

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