No.1492 帝王学・リーダーシップ 『龍馬とカエサル』 一条真也著(三五館)

2017.09.25

 今ほど、世界の指導者たちのリーダーシップが試されている時があるでしょうか。アメリカのドナルド・トランプ大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長のリーダーシップに人類の命運が託されていると言っても過言ではありません。しかし、両者の罵り合いには絶望的な気分になります。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、中国の習近平国家主席、韓国の文在寅大統領、そして、日本の安倍晋三首相にも重大な決断が迫られています。

   『龍馬とカエサル』(2007年7月3日刊行)

 ということで、世界平和への祈りを込めて、久々に「一条真也による一条本」をお届けいたします。今回は、『龍馬とカエサル』(三五館)で、2007年7月3日に刊行された本です。サブタイトルは「ハートフル・リーダーシップの研究」です。

 帯には、以下のように書かれています。

 「なぜあの人はモテるのか? この問いに、博覧強記の著者が説き明かす平成版『帝王学』入門!」「水五則、幸福三説、イノベーション・・・・・・、古今東西、不朽の行動哲学から読み解いた、時代の要請に応えた『人間的魅力』の研究」

   本書の帯

 また帯の裏には、以下のように書かれています。

 「究極の人生訓から見いだした、『リーダーシップの真髄』を徹底指南!」「『万人の幸福のため』に、思いを馳せたことはあるか?」「現場を見ないリーダーは、仲間を死なせる」「魔法の言葉『すべて私にお任せください』」「部下に仕える歯車であれ」「だらしない日常で、尊敬されたいとは図々しい」

   本書の帯の裏

 本書の「目次」は以下のようになっています。

はじめに―人間的魅力を探る

第1章 リーダーの理想
】「万人の幸福のため」に、思いを馳せたことがあるか?
】差別されたことがあるか。その汚い経験を味わえ 
】「志」を立て、では、何に心を注ぐべきか? 
】公益を念頭に、「夢」と「欲」を逆算せよ
】大いなる可能性を秘める「奇」を尊べ!
】「先を読む」とは、成果を得ることをいう  
】「自由」を手にするには、私心を捨てる 
】いかなる超人も、自分ひとりでは生きられまい
】情熱あふれる弁舌は、人の心を動かす
】直筆の手紙には、品性と言霊が宿る
】オシャレは、「精神の自己表現」である
】借金してでも心を肥やせ 
】下心のないプレゼント魔の凄味
】別れ際こそが大切である
】自分が変われば周りもおのずと変わる
】私には必ず実現させたいことがある! 
】横に跳ぶ創意が、大いなる事を成す
】ヒト・モノ・カネの以前に必要なチカラとは?
】無理にでも笑顔をつくる力を求む!
】現場を見ないリーダーは、仲間を死なせる
】私がリーダーに『論語』を薦めるワケ 
】現実世界に対する法律の影響力を知る

第2章 リーダーの資質
】哲学なきリーダーに「志」は宿らず 
】悪党の上手をいく知恵を絞り出せ
】その人の美しいところだけ、見つめてあげよう
】熱意の習慣化が成功の条件となる
】素直な心で自然の理法にしたがう
】指導者とは、つねに誠実でありたい 
】「愛嬌」と「可愛気」を備えもつ人物
】だらしない日常で、尊敬されたいとは図々しい  
】「恥の文化」を守り、日本人らしさを広める 
】知識は専門化してこそ意味を持つ 
】行動は知識を完成し、感情を生む
】「心」の偉大さに気づけば、何でもできる
】小事から大事が生まれることを知る
】ドラッカー提唱のイノベーションの真意
】古典はよむべし、必ず役に立つ 
】「道とはどういうものですか」 
】音楽好きだった孔子の「礼楽」の効用 
】鳴かぬなら 我が鳴こうか ほととぎす 
】組織の連帯感を編み出す一例 
】毛沢東も紹介した逸話「愚公、山を移す」 
】信念をもった「蛍」は光り続ける 
】幸田露伴の「幸福三説」 
】上杉鷹山の「思いやり」

第3章 リーダーの使命  
】心の中の火種を燃やす 
】リーダーは胸中のエゴイズムと闘え!
】不朽の文献「水五則」
】たとえ知恵があっても、まず汗を出せ
】嫉妬は狐色に焼いてみる
】部下に静かに、合掌することを勧める 
】いかにして真意を部下に伝えるか
】アリストテレスの質問作法 
】恩とはサーブ、感謝はレシーブ
】一期一会とは、真実の瞬間である
】「五交」か、「素交」か 
】真の知恵者は馬鹿のふりで現れる
】たやすく許すな、大きく許せ!
】疑うなら使うな、使ったら疑うな
】ダレた心を目覚めさせる方法
】先頭に立たなければ、人は動かない
】人望と展望に人は集まる
】共通の体験が強い共感を生む 
】役割を果たして、社会の役に立つこと
】相手の名前は、1回で覚えてあげたい
】認めよ、されば働かん
】部下に仕える歯車であれ

第4章 リーダーの条件 
】哀しき「ゆでガエル」
】お湯はなぜ突然、沸騰したのだろうか? 
】決断こそがリーダーの仕事である  
】最先端かつ最強の競争戦略理論 
】ハートフル・リーダーシップの真髄 
】数字は絶対にウソをつかない
】おもしろおかしく仕事を愉しむ! 
】「ゆとり」のなさは、部下に必ず伝染する
】清掃によって、人の心を美しくする
】なぜ、あの人はモテるのか?
】何のため、どうして、経済活動に励むのか
】選択せよ!そして、集中せよ!
】魔法の言葉「すべて私にお任せください」
】「死ぬ覚悟」の系譜
】「生きがい」という難問を克服する 
】長老の役割と大切さ
】人生に絶望なし!
】堂々と生きないことこそ不幸である
】ブッダに学ぶ究極の癒し
】誕生日は一緒に祝ってあげよう
】真のリーダーシップとは「晴朗」とも書く

おわりに―真説「M&A」戦略の時代へ
「引用・参考文献一覧」

   一条本の赤本と青本

 本書は、「ハートフル・マネジメント」をテーマとした『孔子とドラッカー』(三五館)に続く「人間の心を動かす法則集」です。テーマは「リーダーシップ」。一条本の読者の間で前作は「赤本」、本書は「青本」として親しまれたようです。

 世にリーダーシップについて語った本は多く、リーダー待望論は強いです。
 リーダーとは何でしょうか。まず、人を導く存在であり、それゆえ人を動かす存在であると言えます。では、どうやって人を動かすのか。それは、その人の心を動かすしかありません。ならば、どうやって人の心を動かすのでしょうか。
 かつて「人の心はお金で買える」と言った人物がいましたが、もちろん、人の心はお金では買えません。人の心を動かすことができるのは、人の心だけです。本書では、徹底的に「心」に焦点を当てて、リーダーシップについて考えてみました。

 その内容は、リーダーを目指すあらゆる人に当てはまると思います。
 わたし自身、千数百人を数える会社の社長を務めており、いつも「良きリーダーになりたい」と願っています。そのために、古今東西のリーダーシップに関する本を読み漁り、人の心を動かす究極のツボを「平」「道」「恩」など、キーワード別のエッセイ・テイストでまとめてみました。その中には、わたし自身の経験も含まれていますが、基本的には、わたしが一人前の経営者になるべく学んだ備忘録のようなものです。

 さて、リーダーシップについて考えはじめると、そのとたん理想の人間像を求める旅に出てしまうことに気づきます。経営者などという枠組みを超え、人間として「かく在りたい」「かく振る舞いたい」という理想が、自分にとっての究極のリーダー像をつくりあげるのです。そして、理想の人間、理想のリーダーというものに想いを馳せたとき、その本質は「人間的魅力」という一語に集約されてしまうことがわかります。意思の強さとか判断力とか包容力とか、リーダーシップに必要とされる要素をいくら列挙しようが、それらはしょせん、「人間的魅力」という曖昧にして圧倒的な価値の前では輝きを失うのです。

   真のリーダーとは?

 わたしにとって、たまらなく人間的魅力を持った人物が歴史上、二人います。坂本龍馬とユリウス・カエサルです。言わずと知れた、龍馬は幕末維新の志士であり、カエサルは古代ローマの政治家でした。ともに壮大な理想を追求し、志半ばにして暗殺された悲劇のヒーローです。
 この二人に魅力を感じるのはわたしだけではないらしく、龍馬は日本史の、カエサルは世界史の、それぞれ「人気ランキング」の首位を指定席としています。

 二人は大変な人気者ですが、そのバックボーンには、司馬遼太郎や塩野七生といった国民的人気作家の存在も大きく影響しています。
 司馬遼太郎の膨大な作品群は多くの日本人に読まれていますが、その中でも最も売れた作品が『竜馬がゆく』である。わたしが生まれた1963年に初版単行本が出版されて以来、単行本・文庫本合わせて累計2200万部以上が売れたといいます。この作品が書かれる前の坂本龍馬は、それほどの有名人ではありませんでした。わたしも含めて現在の日本人のほとんどは、龍馬に明るく愛嬌のあるイメージを抱いていますが、それはずばり、この作品の影響なのです。

 タイトルを「龍馬」ではなく「竜馬」とした理由については、司馬遼太郎自身が「自分は自分の竜馬を書きたい」「龍の字は画数が多い」などと語ったといいます。吉川英治の『宮本武蔵』が決して等身大の武蔵を描いたわけではないように、司馬遼太郎も自らの理想の人間像としての竜馬を描いたのです。しかし、『竜馬がゆく』には、日本人が理想とするリーダー像があますところなく魅力的に描かれています。

 またユリウス・カエサルは、昔からジュリアス・シーザーの名で『プルターク英雄伝』やシェイクスピアの戯曲に登場し、大きな人気を博してきました。もともとアレクサンダーやナポレオンと並んで世界史の人気者でしたが、作家の塩野七生氏の大著『ローマ人の物語』によって、一躍、最高の人気者にのぼりつめたのです。『ローマ人の物語』の中で活躍するカエサルは「こんなリーダーの下に仕えてみたい」と読者に思わせるほど、何ともいえぬ男の色気をふんだんに放っており、人間的魅力の塊とさえ言えます。

 歴史に対する見方は十人十色であり、それは龍馬やカエサルに対しても同様です。しかし、わたしは徹底して司馬史観、塩野史観に基づいて本書を書きました。もちろん本書はリーダーシップに関する本ですが、司馬作品と塩野作品のエッセンスが高密度で込められた本という性格も帯びることになりました。わたしは御両人の著書をほとんどすべて読みましたが、この二人の作品は、現代の日本における政治家や経営者といった現役のリーダーたちの最大の愛読書でもあります。

 龍馬とカエサル。この時空を超えた二人のリーダーの共通点は驚くほど多いです。結局は二人が巨大な「人間的魅力」の持ち主であったことに尽きるでしょう。その魅力は彼らの部下である男性のみならず、多くの女性たちをも虜にしました。実際、日本史上で最も女性にモテたのは龍馬であり、世界史上で最もモテたのはカエサルであると、わたしは思います。ですから、本書に紹介されている彼らの数々のエピソードを読めば、異性に好かれるコツのようなものがわかるかもしれません。

 「なんだ、結局はモテ本か!」と言うなかれ。人間的魅力の発露という点において、女性にモテることも、部下の男性から愛されることも、その根本は同じなのです。そして、人間的魅力とは天性のものばかりではありません。もちろん、生まれつき人に好かれるタイプの人間は実在しますが、人間的魅力を構成する大部分の要素は各人の努力によって、ある程度身につくものなのです。そんな、とっておきの人に愛される秘訣、そして人を動かす秘訣を多く紹介しました。

 本書では龍馬とカエサルの二人のみを取り上げたわけではありません。
 『孔子とドラッカー』同様、安岡正篤、中村天風、松下幸之助、稲盛和夫といった、わが「心の用心棒」たちが大活躍してくれました。太陽としての彼らのまばゆい光を、わたしは月として反射し、読者に届けたつもりです。

   青いカバーを外すと・・・・・・

 龍馬とカエサルはともに若くしてその生を閉じました。そのためか、彼らには常に「青春」のイメージがついてまわります。そして、そのイメージを色にするなら、絶対に青です。鮮やかで爽やかなブルーからは、龍馬が見つめた土佐の海、カエサルが渡ったルビコン河も連想されます。そのイメージは、本書のカバーを外すと眼前に現れるでしょう。
 わたしは、「はじめに―人間的魅力を探る」の最後に、「さあ、これから『ハートフル・リーダーシップ』という名の船(シップ)に乗って、ルビコン河を渡り、土佐の荒波を越えて行こう! 一緒に人間的魅力を求める大航海に出ようではないか!」と書きました。

   1項目に2ページで、3分間スピーチに最適!

 さて、前作『孔子とドラッカー』は幸いにして多くの読者を得ましたが、「スピーチに使える本だ」という感想が非常に多かったです。
 1項目が4ページだったのですが、それ5分間スピーチにちょうどよいというのです。本書は1項目に2ページを割り当て、なるべき多くの項目を紹介するようにしました。全部で末広がりの88項目ありますが、ちょうど3分間スピーチに使うのに最適でした。

 本書は「リーダーシップ」についての本ですが、中には「マネジメント」に関する内容もあります。「ハートフル・マネジメント」を副題とする『孔子とドラッカー』と同時期に書いた原稿を加えたという物理的な事情もありますが、何よりも「マネジメント」と「リーダーシップ」は密接にからみ合っており、この問題はマネジメント、これはリーダーシップの問題といったふうには単純に切り離せないからです。ともに、「人の心を動かす」ための車の両輪です。

 本書を書き終えて、いよいよ「M&A戦略」の時代がはじまると実感しました。龍馬とカエサルはリーダーとして持つべきものの多くを持っていたと思いますが、特に感じるのが二人は大いなる「M&A」の人だったということです。「M&A」といっても、企業の合併・買収のことではありません。「M」とはMission(ミッション)であり、「A」とはAmbition(アンビション)のこと。
 すなわち、わが平成心学で言う「M&A」とは、「使命と志」のことなのです。

 リーダーには何より「ミッション」が大切です。もともとキリスト教の布教を任務として外国に派遣される人々を意味する言葉でしたが、現在はより一般的に「社会的使命」や「使命感」を意味するようになってきています。ミッション経営とは、社会について考えながら仕事をすることであると同時に、顧客のための仕事を通して社会に貢献すること。すなわち、顧客の背後には社会があるという意識を持たなくてはなりません。
 経営者としてのわたしに多大な影響を与えた経営学者のピーター・ドラッカーは、「仕事に価値を与えよ」と力説しましたが、これはとりもなおさず、その仕事の持つミッションに気づくということでしょう。わたしどもの会社は冠婚葬祭業を営みますが、わたしはこの仕事くらい社会的に価値のある仕事はないと心の底から思っています。

 そして、ミッションと並んでリーダーにとって不可欠なものが、アンビション、つまり「志」です。わたしは、志というのは何よりも「無私」であってこそ、その呼び名に値すると思っています。こよなく尊敬する吉田松陰に「志なき者は、虫(無志)である」という言葉がありますが、これをもじれば、「志ある者は、無私である」と言えるでしょう。よく混同されますが、夢と志は違います。「自分が幸せになりたい」というのは夢であり、「世の多くの人々を幸せにしたい」というのが志です。夢は私、志は公に通じているのです。自分ではなく、世の多くの人々です。「幸せになりたい」ではなく、「幸せにしたい」です。この違いがとても重要なのです。

 わたしは1人の経営者として、ミッション(使命)とアンビション(志)の2つを真の「M&A」として大切にしていきたいと思います。冠婚葬祭業界においても、ハード戦略、つまり施設の展開競争も、もう終わり。
 これからは、「ハード」よりも「ハート」、つまりその会社の思いや理念を見て、顧客が選別する時代に入ると確信しています。そのときに、最大の武器であり資産となるものがM&Aなのです。もちろん冠婚葬祭業やサービス業に限らず、今後はすべてのビジネスシーンにおいて新しいM&A戦略が効力を発揮してゆくでしょう。

   『ハートフル・ソサエティ』と『ハートフル・カンパニー』(ともに三五館)

 なぜなら、これから到来する社会とは人間の心が最大の価値を持つ「心の社会」としてのハートフル・ソサエティだからです。人はかならず、心に向かいます。そして、顧客はかならず、使命と志をしっかりと抱いた企業を選択するのです。リーダーにとって、使命を果たすことは義務であり、志を果たすことは責任です。本書を読み、大いなる使命と志を胸に抱いたハートフル・リーダーたちが、人の心を動かすハートフル・マネジメントによって、自社をハートフル・カンパニーとし、ハートフル・ソサエティを呼び込む原動力となってくれることを祈りつつ、わたしは『龍馬とカエサル』を上梓しました。

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