No.1344 経済・経営 『百年企業、生き残るヒント』 久保田章市著(角川SSC新書)

2016.11.13

 『百年企業、生き残るヒント』久保田章市著(角川SSC新書)を再読。
 2010年1月24日に刊行された本ですが、わがサンレーの創立50周年がいよいよ近づいてきたので(11月18日)、さらなる永続企業となるヒントを探るべく読み返したのです。著者は1951年島根県生まれで、東京大学卒。現在は、法政大学大学院教授です。

   本書の帯

 本書の帯には「長寿企業に学ぶ!」「変わるもの」「変わらないもの」「変革と人を活かす経営を実践する」『元気な9社の実例』「東京商工リサーいの最新データ収録」と書かれています。

   本書の帯の裏

 またカバー裏には、以下の内容紹介があります。

「企業存続の秘訣は、伝統の継承と変革。9社の元気な長寿企業を取材し、それぞれの企業での取り組みを『変わるもの』と『変わらないもの』に分けてつぶさに分析。見えてきたことは、企業が生き残るために必要なのは、積極的な経営革新。それを行うための、人材の確保と育成、社員を大切にする経営。そして、将来、経営を引っ張っていく後継経営者の育成。長寿を願う企業にとって、元気で長生きするために知りたい『経営のヒント』が、必ず、本書の中にあります」

 本書の「目次」は、以下のような構成になっています。

「はじめに」
第1章
日本の長寿企業
第2章 長寿企業が生きてきた時代
第3章 更なる長寿企業に向けて
第4章
長寿企業に学ぶ
「あとがき」
「参考文献」

 「はじめに」の冒頭で、著者は「企業で、最も大切なことは『継続』することです」としながらも、「しかし、企業が『継続』することは容易ではありません」と述べています。
 わが国の企業の99.7%が中小企業であり、勤務者の約7割が中小企業に勤務していると紹介して、著者は以下のように述べます。

「『老舗』と聞くと、通常、百貨店、和菓子店、旅館など全国的に有名な誰もが知っている企業を思い浮かべます。ところが、わが国には、全国的にはほとんど知られていない『フツウ』の長寿企業がたくさんあります。『フツウ』の企業が、どのようにして長寿になったのか。『フツウ』の長寿企業では、今、何に取り組んでいるのか。こうした『フツウ』の企業を取り上げたいとの思いから、『長寿企業』という言葉を使います」

 第1章「日本の長寿企業」では、「世界一の長寿大国ニッポン」として、著者は以下のように述べています。

「世界最古の企業はどこにある、何という名前か知っていますか。答えは大阪にある建設会社の『金剛組』です。金剛組の創業は西暦578年、今から1430年以上も前。時代で言えば飛鳥時代です。聖徳太子の命を受けて、海の向こう朝鮮半島の百済から3人の工匠が寺院建築の技術を伝えるために招かれました。彼等は四天王像をまつる寺院創建につくしましたが、その工匠の1人が創業したのが金剛組です。金剛組は代々、難波の四天王寺の建築に携わるなど寺社建築を得意とし、現在も建築業を続けています(2006年に、(株)高松コンストラクショングループの一員になりました)」

 続けて、著者は以下のように述べています。

「また、世界最古のホテルとしてギネスブックに認定されたホテルもわが国にあります。石川県の粟津温泉にある温泉旅館『法師』です。法師の創業は西暦718年(養老2年)、今から1290年以上も前。この地で湯治宿を始めたのが最初です。当主は代々『法師善五郎』の名前を襲名し、現経営者は46代当主にあたります。法師は、『おもてなしの宿』として、一度は泊まってみたいと、今でも大変人気があります」

   日本最古の旅館「法師」のロビーにて

 わたしのブログ記事「法師」で紹介したように、わたしは日本最古の旅館に宿泊したことがあります。創業718年で、1300年以上も続いているのです。しかし、宿泊はしたものの、著者の言う「おもてなしの宿」と呼ばれる理由はよくわかりませんでした。わたしはもともと旅館・ホテルほど難しい商売はないと思っているので、「なぜ1300年も続く旅館が存在するのか」という大きな謎に挑んでみましたが、さらに謎は深まっただけでした。

   1300年続く旅館「法師」の客室にて

 さて、著者は目を世界に転じて、以下のように述べます。

「ヨーロッパや米国の長寿企業はどうでしょうか。ヨーロッパには、パリに本部のある「エノキアン協会」があります。この協会は、1981年、フランスのリキュールメーカーのマリー・ブリザール社が提唱してできた協会で、会の名称は旧約聖書に登場する人物で365年も長生きしたとされる『エノク』の名前に由来します。入会資格は厳しく、『創業200年以上の歴史があり、同族経営で、業績も良好』というもの。現在、世界で42社(欧州37社、日本5社)が加盟しています。そのうちヨーロッパで最も古い歴史があるのはイタリアのベネチア・グラスのバロビエ・トーゾ社の創業1295年。次いで古いのは同じくイタリアの金細工のトリーニ・フィレンツェ社で創業1369年。しかし、これらの企業でもせいぜい715年とか640年の歴史です」

 さらに、著者は米国について以下のように述べます。

「米国はどうでしょうか。そもそも米国は、独立宣言をしたのが1776年。建国して230年の歴史しか経っていない比較的新しい国です。米国で最も古い企業は、金庫製造から物流システムに展開したディーボールド社(1859年創業)。そのほか、ヘルスケアで有名なジョンソン・エンド・ジョンソン社(1886年創業)などがありますが、米国の長寿企業は古くてもせいぜい1850年代以降の創業です」

 続いて、著者はアジアについても以下のように述べます。

「それではアジアはどうでしょうか。拓殖大学教授野村進氏によると、お隣の韓国では、俗に『三代続く店はない』と言われ、100年以上続く企業や店舗はほとんどないそうです。台湾にはごく一部、地方銀行で100年超の企業がありますが、古い企業でもせいぜい半世紀程度の歴史。これらの企業の多くは、蔣介石の国民党軍と毛沢東の共産党軍の内戦のあと、共産化された中国大陸を逃れて台湾に来て創業したもので、もとはと言えば大陸にあった企業です」

 3「長寿の秘訣」では、「伝統の継承と革新~『変わらないもの』と『変わるもの』」として、著者は以下のように述べます。

「『従業員重視』。これはわが国の長寿企業の大きな特徴の1つです。『企業は人なり』と言いますが、昔から、わが国の企業は従業員を大切にし、人材育成に取り組んできました。江戸時代の商家では、10代前半の子供を『丁稚』として入店させ、丁稚の頃から育成に取り組んでいました。丁稚の主な仕事は雑用など、先輩の補助的な作業が中心。夜になると読み書き、算盤を教え、社会人としての基礎を教育しました。また、その上の『手代』になるとOJT教育で業務を教え、一人前の業務担当者になるように育てました。こうした従業員教育は、現在でも多くの長寿企業で時間と金をかけて行われています。また、花見、暑気払い、社員旅行、忘年会など、従業員同士の一体感を持たせるような取り組み、永年勤続者表彰といった長期勤務者に感謝するような行事も長寿企業では行われています」

 第3章「更なる長寿企業に向けて」では、更なる長寿企業になるために大切なこととして、以下の3つが挙げられます。

(1)経営革新に取り組む
(2)社員を大切にする経営
(3)後継経営者の育成

 著者は、「社員を大切にし、信頼関係を構築」として述べます。

「かつて、わが国の企業の多くは、『永年勤続表彰』という制度を持っていました。しかし、1990年代後半頃から相次いでこの制度が廃止されました。しかし、今回の調査で、多くの長寿企業では、今でも『永年勤続表彰制度』があることが分かりました。また、事例企業の中には、森光商店のように『従業員は家族。絶対、首は切らない』とか、西島のように『定年を設けない。働く意欲さえあれば、いくつまででも働ける』といったことを企業の経営方針にしている会社もありました。これらの会社では、社員研修にもしっかり取り組み、その成果も上がっています。従業員育成のためには、まず、経営のスタンスを『社員を大切にする経営』に置く必要があると思います」

 また、「後継経営者の役割」として、著者は以下のように述べています。

「後継経営者の育成では、先ず認識しておかなければならないのは『後継経営者の役割』です。後継経営者とはどんな役割を担うのか。そこがはっきりすれば、どんな知識、経験が必要か、育成方法が見えてきます」

 では、長寿企業における「後継経営者の役割」とは何か。
 著者はは、突き詰めると次の3点だといいます。

1.企業を潰さないこと(存続させること)
2.社員の力を結集させること
3.環境・市場等の変化を捉え、経営革新を行うこと」

 さらに著者は、後継経営者について以下のように述べます。

「後継経営者が『求心力』を確保するためには、先ずは『人柄』です。年上の社員もいるでしょうから、腰は低く、分からないことがあれば教えてもらう、相談するという態度で接するべきだと思います。そして『リーダーシップ』と『実績』。経営者は決断しなければなりませんが、その決断は結果的に正しいものでないといけません。もし、間違っていることに気づいたら、すぐに次の手を打つ必要があります。また、率先して営業に出かけるなどで業績を上げ、結果を出さなければなりません。こうしたことを積み重ね、『新社長についていけば大丈夫だ』と思われて、ようやく求心力が高まってくるのです」

 「あとがき」の冒頭を、著者は以下のように書き出しています。

「経営学の世界に『アンナ・カレーニナの法則』というのがあります。トルストイの名作『アンナ・カレーニナ』の始まりの有名な一文『幸せな家庭はみないちように似かよっているが、不幸な家庭はいずれも、とりどりに不幸である』(集英社。原久一郎訳)からとったもので、業界はいろいろだが、業績のよい企業には共通する特徴がある、というものです」

 そして、「元気な長寿企業」について調査を行った著者によれば、2つの共通する特徴があったそうです。その1つは、積極的に経営革新に取り組んでいることです。2つ目は、将来に必要な人材の確保と育成に積極的に取り組み、採用した人材を大切にしていることです。
 きわめて当たり前の話ではありますが、その当たり前のことができなくて倒産する企業も多いわけです。経営者は、基本を忘れずに、いつも謙虚な心を持たねばならない。本書を読み終えて、わたしはそのように思いました。
 サンレー創立50周年まで、あと5日!

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