No.1325 人生・仕事 | 読書論・読書術 『読書を仕事につなげる技術』 山口周著(KADOKAWA)

2016.10.04

 『外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術』山口周著(KADOKAWA)を読みました。電通からBCGに転職する際、経営学を独学するため1000冊以上の本を読破した著者が、「戦略読書マップ」をつくり上げた体験をもとに、完全独学可能、かつ必ず成果に結びつける技術を伝授するという本です。

    本書の帯

 本書の帯には「成果は『どう読むか』で9割変わる。」と大書され、さらに「多読、速読は必要ない」「本をノートだと思って書き込む」「『私の履歴書』と子どもの図鑑は必読書」「MBAに行かず、独学だけで外資系に転職した著者のメソッド、全公開!」と書かれています。

    本書の帯の裏

 本書の「目次」は、以下のような構成になっています。

「はじめに」
第1章 「仕事につなげる読書」6つの大原則
第2章 【ビジネス書×何を読むか】
     ビジネス書は「これだけ」読めばいい
第3章 【ビジネス書×どう読むか】
     古典には読む「順番」がある
第4章 【教養書×何を読むか】
     好きな本を読んで「ライバルと差別化」する
第5章 【教養書×どう読むか】
     情報の「イケス」をつくれ
第6章 「書店を散歩する」技術
第7章 「本棚」で読書を仕事につなげる
特別付録「これだけ読めばいい!『ビジネス書マンダラ』」

 「はじめに」の冒頭には、「すべてのことは『独学』で学べる」として、以下のように書かれています。

「本書の目的は、『読書はそれなりにしているのに、読書で得られた知識や感性を、うまく仕事に活かせていないなあ』と感じている人に、『読書を仕事につなげる』技術について、筆者がこれまでに実践してきたことをお伝えすることです」 また、「仕事につながるかは『読んだ後』が勝負」として、著者は読書量について以下のように述べています。 「『量は必要条件ではあるけど、十分条件ではない』と思っています。ある程度の量の読書をしているという人の集団の中にも、知的生産性には大きな差が生まれます。どうしてでしょうか? 結論から言えば、読書で得た知識や感性を仕事に活かそうとした場合、大事なのは『読んだ後』なのです」

 第1章「『仕事につなげる読書』6つの大原則」では、以下の6つの原則が紹介されます。

原則1 成果を出すには「2種類の読書」が必要
原則2 本は「2割だけ」読めばいい
原則3 読書は「株式投資」である
原則4 「忘れる」ことを前提に読む
原則5 5冊読むより「1冊を5回」読む
原則6 読書の「アイドルタイム」を極小化せよ

 原則1「成果を出すには『2種類の読書』が必要」では、著者は以下のように述べます。

「ビジネスパーソンが継続的に高い知的生産性を上げるためには、2種類の読書が必要だろうと考えています。それはビジネス書の名著をしっかり読む、いわばビジネスパーソンとしての基礎体力をつくるための読書と、リベラルアーツ=教養に関連する本を読む、いわばビジネスパーソンとしての個性を形成するための読書の2種類です」

 原則3「読者は『株式投資』と考える」では、著者は以下のように述べます。

「読書という行為は、自分の時間といくばくかのお金を投資することで人生における豊かさを回収するという投資行為です。カギになるのは、投入する時間と得られる豊かさのバランスです。これ以上時間を投入しても、追加で得られる豊かさは増えないと判断された時点で、その本と付き合うのは終わりにしましょう」

 原則4「『忘れる』ことを前提に読む」では、「記憶に頼らない」ことが重要であるとして、以下のように述べます。

「『インプットした情報をストックする』と聞けば、多くの人は『インプットされた情報を脳内に記憶する』ことをイメージするでしょう。しかし、これは大きな勘違いです。脳内の記憶だけに頼って知的生産を行うと、アウトプットはとても貧弱なものになってしまいます」

 また、「記憶力に頼ってはいけない」として、著者は以下のように述べます。

「記憶力に頼らず、情報をストックするにはどうしたらよいのでしょうか。情報を『魚』、世界を『海』にたとえて考えてみましょう。本から情報をインプットし、それを脳内に記憶させる。これは、いわば世界から釣りあげた情報という魚を、脳という小さな冷蔵庫にしまい込んでしまうのと同じことです。一時的に保存しておくのであれば、確かに手軽で使い勝手はよいでしょう。しかし、冷蔵庫に貯蔵できる材料は、種類も量も限られます。結果、その材料から出来上がる料理=知的生産物には広がりも驚きもありません。脳内ストックに知的生産の材料を頼ってしまうと、文脈に応じて柔軟な知的生産を行うことは難しいでしょう」

 さらに「情報の『イケス』をつくれ!」で、著者は述べます。

「お勧めしたいのが、イケスをつくってそこで情報という魚を放し飼いする、というアプローチです。世界という海から必要に応じて最適な魚=情報を拾い上げ、それを海のなかにつくったバーチャルなイケスに『生きたまま』泳がせておき、状況に応じて調達する。具体的には、重要と思われる箇所をデジタルデータとして保存しておきます。必要な情報はイケスのなかにあるわけですから、詳細まで全部記憶する必要はありません。安心して忘れることができるのです」

 原則5「5冊読むより『1冊を5回』読む」では、「半年間何もせずに同じ本を読み続ける」として、著者は以下のように述べます。

「1冊の本を何度も繰り返し深く読むことでユニークな知的生産を行った人の典型に、アラン・ケイがいます。ケイは、個人が個人的な知的生産を行うために用いるコンピューター、つまり『パーソナルコンピューター』という概念を歴史上最初に打ち立てた人物です。1970年代のことでした」

 そのアラン・ケイは、このパーソナルコンピューターという概念に行き着く契機として、ある1冊の本を挙げているそうです。その1冊の本とはマーシャル・マクルーハンの『グーテンベルクの銀河系』です。

 この『グーテンベルクの銀河系』について、著者の山口氏は述べます。

「恐ろしく難解、というよりも不可解な本で、筆者自身も何度か挑戦したものの、率直に言って何が言いたいのか、何を言おうとしているのかよくわからずに挫折したままになっているのですが、アラン・ケイはこの難解な本を他になにもせずに半年間ひたすら何度も読み返し、『コンピューターはやがて計算機というよりもメディアに近いものになる』という天啓を得たと述懐しています」

 第3章【ビジネス書×どう読むか】「古典には読む『順番』がある」では、「ポーターだけを読んで戦略論を語るな」として、著者は述べます。

「経営戦略の大家といえば、まずはハーバード・ビジネス・スクールのM・E・ポーター先生ということになります。しかしこのポーター先生の論考というのは大変に偏向していて、一言でまとめれば「企業の収益性はその会社の能力よりも置かれている状況=ポジショニングによって決まる」という、非常に極端なスタンスを取っています」

 続けて、著者はバーニーの名前を出して、以下のように述べます。

「一方で、このポーターの主張に対して明確に反対のスタンスを取っている著名な経営学者も大勢います。典型例はJ・B・バーニーでしょう。彼のスタンスはポーターとは真逆で、『企業の収益性は置かれている状況よりも企業内部に蓄積された能力=リソースによって大きく左右される』というものです。これら2つの考え方は、お互いを論難し合ってすでに30年以上のあいだ水と油の様相を呈しています」

 第4章【教養書×何を読むか】「好きな本を読んで『ライバルと差別化』する」では、「何を読むか? 教養書、7つのカテゴリー」として、以下の7つの分野を紹介しています。

 (1)哲学(近・現代思想)
 (2)歴史(世界史・日本史)
 (3)心理学(認知・社会・教育)
 (4)医学・生理学・脳科学
 (5)工学(含コンピューターサインス)
 (6)生物学
 (7)文化人類学

 また、「『自分をプロデュースする』つもりでテーマを決める」では、「プロデュース」について述べられます。著者は、プロデュースするというのは「掛け算をつくる」ということであるとして、以下のような例を示します。

 ・アメリカ発祥のロックンロール×イギリス風のコスチューム=ビートルズ
 ・デザイン×コンビューターテクノロジー=アップル社
 ・日本の食材×フランスの料理法=ピエール・ガニェール
 ・男性服の素材×女性服=シャネル

 このユニークな考え方について、著者は以下のように述べます。

「この掛け算という考え方は、読書だけでなくキャリア形成の領域においてもとても大事なポイントです。なぜなら、世の中の課題の多くは『つなぎ目』にこそ現れるからです。 航空用語に『魔の11分』という言葉がありますよね。これは『航空事故の70%は離陸後の3分、着陸前の8分のあいだに発生している』という経験則から生まれたものですが、これはそのまま『つなぎ目』が危ないということを示しています。航空機の場合、空中にある場合と地上を走る場合では、属している系=システムが替わります。この『属しているシステム』を切り替えるところに脆弱性がある、ということです」

 第5章【教養書×どう読むか】「情報の『イケス』をつくれ」では、「リベラルアーツの読書を仕事の成果につなげるために、やらなければならないこと。それは『抽象化』です。リベラルアーツの読書で得られる『知識』は、ビジネス書で得られる知識とは違い、そのままビジネスの世界に活用することはできません」と述べられます。まったく同感です。 では、「抽象化」とは何か。著者は、以下のように説明します。

「抽象化とは、細かい要素を捨ててしまってミソを抜き出すこと、『要するに○○だ』とまとめてしまうこと。モノゴトがどのように動いているか、その仕組み=基本的なメカニズムを抜き出すことです。経済学の世界ではこれを『モデル化する』と言います」

 また、「忘れてもよい『仕組み』をつくれ」では、「魚(情報)を泳がせるイケスをつくる」として、著者は以下のように具体的に述べています。

「本を読んで重要だと思われた箇所をデジタルデータとして転記し、いつでも検索して確認できるようにしておくのです。このアプローチは、おそらくの20年ほど前までは多くの人にとって現実的ではなかったと思います。高精度の検索技術を利用できる人がそれほどいなかったからです。しかし、デジタル技術が非常に低廉化したことで、現在は高精度の検索を個人的な目的のために利用することが可能になりました。このような世界において、わざわざキャパシティの小さい自宅の冷蔵庫=脳に情報という魚をしまっておくのは、料理のレパートリーを狭めるだけでデメリットのほうが大きいと言わざるをえません」

 さらに、「何度でも、何度でも、再読する」では、著者は「本の活用方法には2つしかありません。ひとつは、重要と思われる箇所を転記して必要に応じていつでもアクセスできるようにすること。もうひとつは、折に触れて再読することです」と述べています。 そして、第6章「『書店を散歩する』技術」では、「名著は”カテゴリーを超えている”」として、著者は以下のように述べるのでした。

「名著であればあるほど、書かれていることが刺激的であればあるほど、こういう『カテゴリーをひとつに決められない』という本が多いのです。なぜかというと、おもしろい本というのは、往々にして領域横断的になるからです。ということで、こういった『面白かった本』を起点にして次々に面白い本を見つけていくというのが、『面白い本を見つけるテクニック』のひとつになります」

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