No.1041 宗教・精神世界 | 心霊・スピリチュアル 『量子論から解き明かす「心の世界」と「あの世」』 岸根卓郎著(PHP研究所)

2015.02.13

 『量子論から解き明かす「心の世界」と「あの世」』(PHP研究所)を紹介いたします。
 とにかくスケールが大きくて内容が深く、知的刺激に満ちています。わたしが昨年読んだ本の中でも最も衝撃を受けた一冊です。「物心二元論を超える究極の科学」というサブタイトルがついており、著者は京都大学名誉教授の岸根卓郎氏です。

   本書の表紙カバー

 表紙カバーには雲の中から光を放つ満月の写真が使われ、裏には「誰も見ていない月は存在しない 月は人が見たときはじめて存在する」という言葉が記されており、これだけでもう、月狂いのわたしにはたまりません!

   本書の帯

  帯には、「人は何のために生まれ、何のために死ぬのか」「人は何処より来たりて、何処より去るのか」「見えない世界が見えてくる、人類究極の命題への挑戦の書」と書かれています。また、カバー前そでには、以下のような内容紹介があります。

 「心の世界はあるのか。あるとすれば、それは科学的に証明できるのか?
 人は何処より来たりて、何処へ去るのか?
 人はなぜ生きているうちは見えるのに、死ねば見えなくなるのか?
 心の世界のあの世と、物の世界のこの世はつながっているのか?
 つながっているとすれば、どちらが実像でどちらが虚像なのか?
 人の心なくして、この世(宇宙)は存在しないのはなぜか?
 祈りは願いを実現するのか?・・・・・・・・・・・・・・等々、本書は、それらの『人類の究極の謎』を量子論から科学的に解き明かす」

   帯の裏では「目次」を紹介

 本書の「目次」は、以下のような構成になっています。

第一部 見えない宇宙の探索
   一 見えない宇宙の探索はなぜ必要なのか
   二 量子論的唯我論―コペンハーゲン解釈が説く、驚くべき世界観
   三 物心二元論の古典的な科学館を超克する

第二部 量子論が解明する心の世界
   一 量子論の誕生
   二 量子論を理解するための五つの基礎理論
   三 量子論への反論―コペンハーゲン解釈に対する反論
   四 量子論への支持―コペンハーゲン解釈に対する支持
   五 量子論が解き明かす不思議な世界

第三部 あの世とこの世の関係
   一 あの世とこの世の相補性(その1)
   二 あの世とこの世の相補性(その2)
   三 東洋神秘思想と相対性理論と量子論の関係
   四 宇宙の意思の伝達媒体としての波動の理論

第四部 進化する量子論―物質世界の解明
   一 量子論が指向する未来科学、ナノテクノロジーの世界
   二 量子論が解き明かす真の宇宙像

第五部 量子論の明日への期待―心の世界の解明
   一 多重宇宙説の研究こそが新たな真理の扉を開く
   二 人間の生物的時間と宇宙時間
   三 心の時間をいかに生きるか
   四 幸福とは何か
   五 人類の果てしなき夢を叶えてくれるもの

補論 タイムトラベルは可能か
   一 光速とタイムトラベルの関係
     ―相対性理論の観点から
   二 素粒子の重さと速度とタイムトラベルの関係
     ―量子論の観点から
   三 因果律は崩壊しない?
     ―タイムトラベルの観点から
   四 タイムトラベルは人類の夢

「参考文献」

 正直言って、本書を読むのには根気が必要です。もともと読書が好きで、どんな本でも面白く読めると自負しているわたしでさえ、本書を読了するのには難儀しました。なぜか。そこに書かれている内容は非常に興味深いのですが、文章が独特で読みにくいのです。はっきり言って、くどい。「その意味は~である」「ということは、~である」「とすれば、~ということにもなる」「よりわかりやすくいえば、~ということである」といったように同じ結論を延々と違った表現で言い直し、繋いでいくのです。中には、10回近くも言い直されている言葉もあり、読んでいてクラクラしてきました。

 しかし、本書に書かれてある内容はあまりにも重要です。数式や難しい理論ではなく、くどい言い回しながらも言葉で量子論を説明することに成功した画期的な名著だと思います。「人は何のために生まれ、何のために死ぬのか」「人は何処より来たりて、何処より去るのか」といった最も重要で根源的な問題を、量子論を通して考えてゆくと、意外な事実が明らかになってきて、ワクワクします。

 たとえば、表紙カバーの裏にある「誰も見ていない月は存在しない 月は人が見たときはじめて存在する」という言葉は、量子論のコペンハーゲン解釈に基づきます。コペンハーゲン解釈とは「私たち人間は、単なる宇宙の観察者ではなく、宇宙への〈関与者〉でもある」という考えを打ち出した考えで、最近の量子論では「素粒子の実験において、これまでは観察者と呼んでいた実験者のことを、公式に〈関与者〉と呼ぶことに改めた」といわれています。著者は、このコペンハーゲン解釈の立場から「私たち〈人間〉は単なる宇宙の観察者であるばかりか、〈宇宙の創造者〉でもあり、しかもその〈宇宙〉はまた私たち〈人間〉に依存している」と述べます。

 さらに、このことを著者は以下のように言い換えます。

 「宇宙の〈万物〉や宇宙で起こるさまざまな〈出来事〉は、すべて〈潜在的に存在〉していて、私たち〈人間〉がそれを観察しないうちは実質的な存在(実在)ではないが、〈観察〉すると突然〈実質的な存在〉(実在)になる」

 「宇宙の〈万物〉や宇宙で起こるさまざまな〈出来事〉はつねに潜在しているが、それを観察する私たち〈人間の心〉がないかぎり決して〈実在〉しえない」

 著者によれば、これを科学的に最もよく比喩したのが量子論を象徴する以下の言葉だそうです。

 「月は人間(その心)が見たときはじめて存在する。人間(その心)が見ていない月は存在しない」

 これを思弁的に比喩しているのが法然上人の次の歌だといいます。

 「月かげの いたらぬ里は なけれども 眺むる人の 心にぞ住む」

 さらに著者は、これを以下のように言い換えるのでした。

 「宇宙は人間の心によってのみ存在する」
 「〈宇宙〉は、〈人間による認知〉を待っている」
 「〈人間〉こそは、森羅万象を決定する〈宇宙の最高位の存在〉である」

 いかがですか? このような考えを宗教家とか頭のイカれた自称・脳機能学者が語るのなら、まだわかります。しかし、著者は紛れもない一流の科学者なのです。京都大学では、湯川秀樹、朝永振一郎といったノーベル賞受賞者の師であり、日本数学会の草分けとして知られる数学者、園正造の最後の弟子として、数学、数理経済学、哲学の薫陶を受けた人なのです。既存の学問の枠組みにとらわれることなく、統計学、数理経済学、情報論、文明論、教育論、環境論、森林政策学、食糧経済学、国土政策学から、哲学・宗教に至るまで幅広い領域において造詣の深い学際学者として知られているそうです。世の中には、すごい人がいるものですね。まるで空海のようではありませんか! 実際、本書の内容も空海の深遠な思想に通じているような観があります。

 さて、本書では延々と量子論が解き明かす不思議な世界、特にコペンハーゲン解釈について述べられていますが、第二部「量子論が解明する心の世界」の最後に、以下のように要点が箇条書きにされています。

(1) この世が存在するかぎり、必ずあの世も存在する
   (自然の二重性原理と相補性原理)
(2) あの世とこの世はつながっていて、しかもあの世がこの世へ投影されている
  (自然の二重性原理と相補性原理、ベルの定理とアスぺの実験)
(3) この世とあの世は、その境界領域において互いに干渉し合っている
  (ベルの定理とアスぺの実験)
(4) この世が虚像で、あの世が実像である
  (自然の二重性原理と相補性原理)
(5) 物質世界のこの世が空間世界のあの世に変わり、空間世界のあの世が物質世界のこの世に
   変わる
  (状態の共存性と相補性原理)
(6) 人間はなぜ生きているうちは見えるのに、死ねば見えなくなるのか
  (自然の二重性原理と相補性原理)
(7) 人間にとって、あの世の宿命は、この世の運命である
  (相補性原理)
(8) 人間の意識がこの世(現実の事象)を創造する
  (波束の収縮性原理)
(9) 万物は空間に同化した存在である
  (波動性と粒子性、および同化の原理)
(10)空間のほうが物質よりも真の実体であり、空間こそが万物を生滅させる母体である
  (波動性と粒子性、および同化の原理)
(11)万物は観測されるまでは実在ではない
  (波動の原理)
(12)未来が現在に影響を及ぼす
  (共役波動の原理)
(13)素粒子はあらゆる形状や現象を生み出す素因である
  (波動の原理)
(14)この世はすべてエネルギーの変形である
  (ディラックの原理と波動の原理)
(15)宇宙の意思が波動を通じて万物を形成する
  (波動の原理)
(16)祈りは願いを実現する
  (波動の原理と波束の収縮性原理)

 さて、わたしは自身のブログ記事「インターステラ―」に書いたように、本書を読了した直後に映画「インターステラー」を鑑賞しました。もともと執筆予定の『永遠葬』(仮題)のための参考文献として本書を読んだのですが、宇宙の仕組みそのものと人間の意識の本質を解明しており、まさに映画「インターステラー」を理解するための解説書と言ってもよい内容でした。まるでシンクロ二シティですが、「こんな偶然があるのか!」と自分でも驚いた次第です。

 「インターステラー」は、SF映画の金字塔である「2001年宇宙の旅」と同じく哲学的内容にまで踏み込んだSF映画の名作です。タイトルの「インターステラー」とは「惑星間移動」という意味です。一種のSF用語とも言えますが、この他にも、この映画には「ワームホール(時の道穴)」とかタイム・ダイレーション(ある星での2年は地球の23年に相当する)といった専門用語がガンガン出てきます。多くのレビューには「量子論や相対性理論が理解できないと、この映画の本当の面白さはわからない」などと書かれています。

 本書の第二部「量子論が解明する心の世界」の「光速を超えると、あの世へも瞬時に行ける」という章の冒頭には以下のように書かれています。

 「アインシュタインの特殊相対性理論によれば、この世ではどんなに速い物質も決して光速を超えることはできないという。ところが、量子論によるとミクロの世界では、『波束の収縮』にもみるように、『超光速』は普通に起こる現象であるという。そればかりか、そのような、『超光速の世界では、時間も空間も自由になる』という。その意味は、『光速を超えると、過去へも未来へも自由に行けるし、宇宙のどこへでも瞬時に行ける。それゆえ〈光速を超える〉と、時間も空間も〈双方向〉になって、どこへでも〈瞬時〉に行ける』ということである」
 さらに、著者の岸根氏は「光速を超えると、生前の世界(過去の世界)へも、死後の世界(未来の世界)への瞬時に行ける」「光速を超えると、宇宙の中のすべての点が自分の家になる」「時間や空間にとらわれない、〈自由自在〉な〈タイムトラベル〉の実現をも意味することになる」と述べています。

 また、第五部「量子論の明日への期待」の「人類の果てしなき夢を与えてくれるもの」という章では、以下のように書かれています。

 「SF作家のジュール・ヴェルヌは、『誰かによって想像できることは、別の誰かによって、いつかは必ず実現できる』といったが、そのことを、本書の課題とする『心の世界の解明』にまで敷衍していえば、私見では、『人類の〈誰か〉によって想像できる、人類にとっての〈究極の夢〉の〈心の世界の解明〉もまた、人類の〈誰か〉によって〈いつかは〉は必ず〈実現〉できる』ということになろう」

 これは、まさに「インターステラー」の主人公クーパーが実現すべきだった〈夢〉を他の〈誰か〉が代わりに果たしたことについて述べています。その〈誰か〉とは意外な人物でしたが、ネタバレになるので書きません。

 「人類の果てしなき夢を与えてくれるもの」には、人類の〈誰か〉によって想像できる、人類にとっての〈究極の夢〉の〈心の世界の解明〉もまた、人類の〈誰か〉によって〈いつかは〉は必ず〈実現〉できる」ことに理由が以下のように述べられています。

 「ハイデガーによれば、〈人類は根源的に宇宙の時間的存在である〉からであるし、またアウグスティヌスによれば、『その宇宙の時間は、人類の心の中だけにある』からである。とすれば、私が本書を通じて希求してきた、『〈人類究極の夢〉である〈心の世界の解明〉もまた、〈宇宙の時間的存在〉であり、しかもその〈宇宙の時間〉を唯一〈心の中〉に持つ人類の〈誰か〉によって、〈いつかは必ず実現〉できる』ということになろう。そうであれば、結局、『人類の〈果てしなき夢〉の〈心の世界の解明〉を叶えてくれるものもまた、〈時間〉をおいて外にない』といえよう」

 では、著者にとっての〈人類の夢〉は何でしょうか。著者は同書の「補論 タイムトラベルは可能か」で、「人類は〈量子コンピュータの開発〉によって、その〈積年の夢〉であり、〈積年の願い〉でもある〈亡くなった愛しい人たちに会いたい〉といった〈心の旅路〉を、〈映像〉によって叶えることができる」と述べています。この〈亡くなった愛しい人たちに会いたい〉というのは、たしかに人類最大の夢かもしれません。同書の最後には「私事ではあるが、私の本書の執筆もまた、最近、亡くした愛しい娘に会いたいとの私の『切なる想い』が、その動機である」と書かれています。これを読んで、わたしの胸が熱くなりました。わたしは、すべての人類が生んだ文化の根源には「亡くなった愛する人と再会したい」「死者と交流したい」という人間の願いがあると考えており、いつの日か『唯葬論』(仮題)という本を書きたいと思っているのですが、科学の根源にもその願いがあるのかもしれません。

 結局、科学も宗教も「宇宙の法則」を求めるものであり、究極的には人間の「心」に向かいます。わたしが『ハートフル・ソサエティ』および『法則の法則』で論じたこともまったく同じでした。本書『量子論から解き明かす「心の世界」と「あの世」』を読むと、科学と宗教が歩み寄り、量子コンピュータが今世紀中に心の謎を解き明かすかもしれないと思えてきます。

 本書の扱うテーマは科学と哲学と宗教を横断しており、非常に総合的です。わたしは、その総合性において、この読書館でも紹介した『黎明』を連想しました。内容的にも、本書は『黎明』と共通点が多いと思います。『黎明』を高く評価しておられる、「勇気の人」こと矢作直樹先生、「未来医師イナバ」こと稲葉俊郎先生の東大病院師弟コンビにも、ぜひ本書を読んでいただき、感想をお聞きしたいですね。

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