No.0992 グリーフケア | 死生観 『いのちのバトンタッチ』 鈴木中人(致知出版社)

2014.10.04

 『いのちのバトンタッチ』鈴木中人(致知出版社)を再読しました。
 「逆縁」という言葉があります。子どもに先立たれ、親が子どもを供養することで、この世で最も辛く悲しいことだとされます。著者は、ずっとこの逆縁に苦しんできました。小児がんで、6歳の長女を亡くしたのです。

 最愛の娘を救えず、生きる力をなくし、希望を見失い、涙を流してばかりいたといいます。そして、自分を世界一不幸な人間と思い込むのでした。

 著者は、長女の発病のきっかけに、闘病、死別、逆縁、小児がんの支援活動といった、社会の一隅で凄まじい生き様を貫く人々と出会ってきました。その毎日は、著者いわく「苦悩、悲しみ、怒り、自責、希望、覚醒、感動、感謝の日々」であったそうです。その1つひとつが不思議な縁で結ばれ、著者の人生に「きっかけ」と「気づき」を与えてくれました。

 そして、小児がんの子どもたち、凄まじい生き様の人々が、ともに著者に「いのちのメッセージ」を託してくれたのです。

 それは、この困難で限りある人生において、「生き抜く、支え合う、ありがとう」を、いのちの根っこにすることにより、生きる力をはぐくみ、幸せになれるということ。 

 著者は、それを確信したとき、新たな人生を歩み出すことができたそうです。そして、他人にも「たくさん涙を流した分だけきっと幸せになれる」と自然に言えるようになったといいます。

 本書は、愛する娘の死から実に8年を経て書き上げた「いのちの再生」の手記です。すべての「愛する人を亡くした人」に読んでほしいと心から願います。

 なお、本書は『面白いぞ人間学』(致知出版社)でも取り上げています。

Archives