No.0995 人間学・ホスピタリティ | 評伝・自伝 『中村久子先生の生涯』 黒瀬曻次郎編述(致知出版社)

2014.10.07

 『中村久子の生涯』黒瀬曻次郎編述(致知出版社)を再読しました。
 この読書館でも『こころの手足 中村久子自伝』、 『四肢切断 中村久子先生の一生』を紹介しましたが、わたしは中村久子という方を心から尊敬しています。本書は、中村久子の自伝五冊に基づいて、その偉大な生涯を忠実に記録した本です。

 著者が中村久子の存在を知ったのは、テレビ番組によってだといいます。そこに映し出された僧侶が、「女性の身で、しかも両手両足を失いながら、国の援助を一切受けないで、これほどまで見事に人生を生きぬいた人はまァいないですね」と語ったそうです。そのひと言は著者の心をとらえ、大変な驚きを与えました。まさに、「ただごとならぬ人がいる」という一語に尽きたそうです。

 本書を読んだ人は誰でも、著者が初めて中村久子を知ったときと同じ衝撃と感動を受けるに違いありません。それぐらい、中村久子という人物は凄い人です。わたしも「人間界の奇跡」としか表現のしようがない人だと常々思っており、深く尊敬の念を抱いています。

 昭和36年に開催された厚生省主催の身体障害者福祉大会で、宮中参内した久子は天皇皇后両陛下に拝謁しました。その時、「アー若い時にあの扶持料というお金をいただかなくて本当によかった」としみじみ思ったとか。 

 お金を貰わなかったがゆえに、胸を張って両陛下の前に出られたというのです。久子は、「見世物小屋の芸人でも、働かしてもらったということは大きな幸せだった」と述べています。もちろん障害者が国からの援助を受けることはまったく間違ってはいません。それでも、久子はわたしたちに「働く」ことは「幸せ」なことなのだという大切なメッセージを伝えてくれます。

 世界に誇るべき日本の「奇跡の人」、中村久子。本書は、彼女をより深く知るための決定版だと言えるでしょう。

 なお、本書は『面白いぞ人間学』(致知出版社)でも取り上げています。

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