No.0906 冠婚葬祭 | 神話・儀礼 『決定版 冠婚葬祭入門』 一条真也著 日本儀礼文化協会監修(実業之日本社)

2014.04.10

 『決定版 冠婚葬祭入門』(実業之日本社)の見本がついに出ました。
 表紙には「基本マナーと最新情報を網羅!」「これ1冊で安心!」と書かれています。

 わたしは、これまで「遊び」「リゾート」「死生観」「宗教」「神話」「ファンタジー」、そして「経営」など、さまざまなジャンルの本を書いてきました。しかし、わたしの最大の縁門テーマは「冠婚葬祭」です。ずっと、あらゆる年代の人々が実際に活用できる冠婚葬祭の入門書が書きたいと思ってきましたので、感無量です。

   7ページにわたって「目次」を掲載

 監修は、日本儀礼文化協会の専門家の方々にお願いしました。日本の伝統文化である儀礼・儀式を見つめ直し、先人の伝統的知恵をふまえ、人を敬い・人を思いやり・人を大切にする精神を養い育て、日本人の美しい心を取り戻すことを目的に昭和54年5月に設立、儀礼文化の啓蒙および普及活動に努めています。平成13年7月、「特定非営利活動法人」化されました。

   あらゆるルールとマナーを網羅しました

 「冠婚葬祭」とは何か。「冠婚+葬祭」として、結婚式と葬儀のことだと思っている人も多いようです。たしかに婚礼と葬礼は人生の二大儀礼ではありますが、「冠婚葬祭」のすべてではありません。「冠婚+葬祭」ではなく、あくまで「冠+婚+葬+祭」なのです。

   「冠」は、誕生から成人までのさまざまな成長行事

 「冠」はもともと元服のことで、15歳前後で行われる男子の成人の式の際、貴族は冠を、武家は烏帽子(えぼし)を被ることに由来します。現在では、誕生から成人までのさまざまな成長行事を「冠」とします。  

   「祭」は、先祖の祭祀&年中行事です

 「祭」は先祖の祭祀です。三回忌などの追善供養、春と秋の彼岸や盆、さらには正月、節句、中元、歳暮など、日本の季節行事の多くは先祖を偲び、神を祀る日でした。現在では、正月から大晦日までの年中行事を「祭」とします。

   結婚の準備について

 そして、「婚」と「葬」があります。結婚式ならびに葬儀の形式は、国により、民族によって、きわめて著しく差異があります。これは世界各国のセレモニーというものが、その国の長年培われた宗教的伝統あるいは民族的慣習といったものが、人々の心の支えともいうべき「民族的よりどころ」となって反映しているからです。

   葬儀の準備について

 日本には、茶の湯・生け花・能・歌舞伎・相撲といった、さまざまな伝統文化があります。そして、それらの伝統文化の根幹にはいずれも「儀式」というものが厳然として存在しています。儀式なくして文化はありえず、ある意味で儀式とは「文化の核」であると言えるでしょう。

 結婚式ならびに葬儀に表れたわが国の儀式の源は、小笠原流礼法に代表される武家礼法に基づきますが、その武家礼法の源は『古事記』に代表される日本的よりどころなのです。すなわち、『古事記』に描かれたイザナギ、イザナミのめぐり会いに代表される陰陽両儀式のパターンこそ、後醍醐天皇の室町期以降、今日の日本的儀式の基調となって継承されてきました。

 現在の日本社会は「無縁社会」などと呼ばれています。しかし、この世に無縁の人などいません。どんな人だって、必ず血縁や地縁があります。そして、多くの人は学校や職場や趣味などでその他にもさまざまな縁を得ていきます。この世には、最初から多くの「縁」で満ちているのです。ただ、それに多くの人々は気づかないだけなのです。わたしは、「縁」という目に見えないものを実体化して見えるようにするものこそ冠婚葬祭だと思います。

 結婚式や葬儀、七五三や成人式や法事・法要のときほど、縁というものが強く意識されることはありません。冠婚葬祭が行われるとき、「縁」という抽象的概念が実体化され、可視化されるのではないでしょうか。そもそも人間とは「儀礼的動物」であり、社会を再生産するもの「儀礼的なもの」であると思います。

   「礼」を形にしたものが「儀式」です

 わたしは、冠婚葬祭互助会を経営しながら、大学で孔子の思想などを教えています。講義では、特に孔子が説いた「礼」について重点的に説明します。「礼」は儀式すなわち冠婚葬祭の中核をなす思想ですが、平たく言うと「人間尊重」であると思います。そして、「礼」を形にしたものが「儀式」です。

 孔子は「社会の中で人間がどう幸せに生きるか」ということを追求した方ですが、その答えとして儀式の重視がありました。人間は儀式を行うことによって不安定な「こころ」を安定させ、幸せになれるのです。その意味で、儀式とは、幸福になるためのテクノロジーです。そう、カタチにはチカラがあるのです!

 さらに、儀式の果たす主な役割について考えてみましょう。それは、まず「時間を生み出すこと」にあります。日本における儀式あるいは儀礼は、「人生儀礼」(冠婚葬)と「年中行事」(祭)の二種類に大別できますが、これらの儀式は「時間を生み出す」役割を持っていました。わたしは、「時間を生み出す」という儀式の役割は「時間を楽しむ」に通じるのではないかと思います。「時間を愛でる」と言ってもいいでしょう。日本には「春夏秋冬」の四季があります。わたしは、儀式というものは「人生の季節」のようなものだと思います。七五三や成人式、長寿祝いといった人生儀礼とは人生の季節、人生の駅なのです。わたしたちは、季語のある俳句という文化のように、儀式によって人生という時間を愛でているのかもしれません。それはそのまま、人生を肯定することにつながります。 そう、儀式とは人生を肯定することなのです。

 冠婚葬祭とは、すべてのものに感謝する機会でもあります。七五三・成人式・長寿祝いなどに共通することは、基本的に「無事に生きられたことを神に感謝する儀式である」ということ。ですから、いずれも神社や神殿での神事が欠かせません。わたしは、「おめでとう」という言葉は心のサーブで、「ありがとう」という言葉は心のレシーブであると思っています。これまでの成長を見守ってきたくれた神仏・先祖・両親・そして地域の方々へ「ありがとうございます」という感謝を伝える(レシーブ)場を持つことが、人生を豊かに過ごしていくことにつながるのではないでしょうか。

 最後に、冠婚葬祭のルールは変わりませんが、マナーは時代によって変化していきます。最近、情報機器の世界では「アップデート」という言葉をよく聞きます。アップデートによって新しい機能が追加されたり、不具合が解消されたりするわけです。冠婚葬祭にもアップデートが求められます。基本となるルールが「初期設定」なら、マナーは「アップデート」です。本書は、現代日本の冠婚葬祭における「初期設定」と「アップデート」の両方がわかる解説書だと言えるでしょう。

 本書を読んだ方々が、冠婚葬祭の持つ豊かな世界を知っていただき、少しでも心豊かになっていただければ、監修者としてこれほど嬉しいことはありません。

  (本書は全国の書店で4月17日に発売されます)

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