No.0714 書評・ブックガイド 『土井英司の「超」ビジネス書講義』 土井英司著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

2013.04.22

 『土井英司の「超」ビジネス書講義』土井英司著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を読みました。「これからのビジネスに必要なことはすべてビジネス書が教えてくれる」というサブタイトルがついています。また帯には、「業界で最も影響力がある書評メルマガ「ビジネスブックマラソン」編集長にして、17000冊読んできた日本随一のビジネス書の目利きが語りつくす」「この先10年サバイブするために いかに選び、読み、活用するか?」「Biz-Tai 歴代ビジネス書大賞ランキングも収録!」と書かれています。

 著者は元アマゾンのカリスマ・バイヤーで、現在はビジネス本の出版プロデューサーとして活躍しています。書評メルマガ「ビジネスブックマラソン」の編集長でもあります。拙著『最短で一流のビジネスマンになる! ドラッカー思考』(フォレスト出版)も、かつて「ビジネスブックマラソン」で取り上げていただきました。

 本書の構成は、以下のようになっています。

「ビジネス書年間ベストセラー(1995/2011)」
「ビジネス書大賞総合ランキング(2010~2012)」

◎第1章:「時代の振り子」はこうして揺れ動いてきた
    基本原理は『自由からの逃走』にある
    バブルで動いた「ビジネス書の振り子」
    21世紀、「拝金主義という海賊」が攻めてきた!
    リーマン・ショック前夜のキーワードは「ツール・スキル・時間」
    ファンタジーとしてのビジネス書

◎第2章:ビジネス書のトレンドから「時代の潮目」を読む
    これからのトレンドの話をしよう
    潮目の変化をわかりやすく知る方法
    2010年代、時代の振り子はどう動くか

◎第3章:テーマ別トレンドと「今が旬」のお薦め本紹介
    「ロールモデル不在時代」の働き方
    キャリアプランに役立つ必読ビジネス書
    鉄板と旬に注目! ビジネスモデルのつくり方
    「思考力」こそ、これからのビジネスパーソンの武器
    復習すべき「ビジネスパーソンの五教科」
    それでも心配な人のおまけ―新しい観点の時間管理とモチベーション

◎第4章:コモディティから抜け出すためのビジネス書の選び方・読み方
    書店に行こう!差をつけるビジネス書の選び方
    戦略的に読め! ビジネス書のニッチな読み方

◎付録:人生の定番本をつくろう――土井英司が「著者買い」する11人

 そして本書には、以下のようなビジネス書が紹介されています。

 『道をひらく』(松下幸之助)、『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー)、『佐藤可士和の超整理術』(佐藤可士和)、『憂鬱でなければ、仕事じゃない』(藤田晋+見城徹)、『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(出町譲)、『これからの「正義」の話をしよう』(マイケル・サンデル)、『スティーブ・ジョブズ』(ウォルター・アイザックソン)、『2022―これから10年、活躍できる人の条件』(神田昌典)、『会社四季報 業界地図』(東洋経済新報社編)、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(岩崎夏海)、『ビジネスモデル・ジェネレーション』(アレックス・オスターワルダー、イヴ・ピニュール)『稲盛和夫の実学』(稲盛和夫)

 以上はアマゾンにも紹介されている、本書で取り上げる本の一部です。

 本書の「まえがき」の冒頭で、著者は「この本は、毎年およそ5000冊出されているビジネス書の約2割、1000冊を読んでいる僕が、ビジネス書を使って『時代の潮目を読む』技術を紹介した本です」と宣言しています。さらに、著者は次のように述べています。

 「僕はこの技術を使って、アマゾン在籍時代には、第1回カンパニーアワードを受賞し、独立後はリーマン・ショックや東日本大震災があったにもかかわらず、7年連続で増収増益。出版プロデュース事業では、10万部を超すベストセラーを毎年最低1冊は出しています。昨年2011年は、主宰する「ベストセラークラブ」から、ミリオンセラーがひとつ生まれています。これで会員さんのミリオンセラー達成は2人目です」

 いま、「厳しい時代」と言われています。こんな時代に、著者はなぜ業績を上げられるのか。それは以下の3つを実行しているからだそうです。

 1.時代の波に逆らわない
 2.人々のニーズを冷静に見極める
 3.誰も提供できていないサービスを「逆張り」で提供する

 著者いわく「要するに、時代を読め」ということ。さらに言えば、この3つが実行できている人は、どんな時代にあっても「食いっぱぐれない」人になれるのだとか。
 では、どうやって「時代を読む」のかというと、その鍵を「ビジネス書」が握っているというのです。「しかるべきビジネス書を、しかるべき読み方で読む。そうすることで、ビジネスチャンスはいくらでも見えてきます」と、著者は断言します。

 しかし、ビジネス書の内容は時間の経過とともに劣化します。著者によれば、ビジネス書のほとんどが陳腐化するのは、その役割を考えれば、ごく当然のことだそうです。なぜなら、ビジネス書とは時代を映すものだからです。著者は、ビジネス書を比喩的に言えば「食品」のようなものだとして、次のように述べます。

 「旬がある。鮮度が命。いいものであればあるほど、『腐って当然』です。旬で鮮度のいい食品は、栄養価が高くて味がいい。一瞬をとらえて消費していくのが食品であり、『高いお金を出して買った旬の魚なのに、二年ほど寝かせたら腐って食べられなくなっていた』と不満に思う人はいないでしょう。ビジネス書にも同じことが言えます」

 著者によれば、時代の先端で生きて、働いて、もがいている人のためにビジネス書はあります。そして、「ビジネスパーソンという名の”実務家”として、時代の変化にどう適応するか?」「自分自身、あるいは携わっているビジネスを成長させるのは何をすべきか?」の答えを書いたものがビジネス書なのです。

 さらにビジネス書の本質について、著者は次のように述べます。

 「セネカは紀元前1年頃、アリストテレスは紀元前384年頃の生まれですが、彼らの本は今でも文庫で気軽に読むことができ、読めば大いに学びがあります。こうした哲学書が”長生き”なのは、真の事象が抽象化されているためです。
 『本は抽象と具象のバランスでジャンルが決まる』というのが僕の考えですが、ビジネス書は圧倒的に具象の割合が高い。
 ”抽象成分90%以上”の本を哲学書とするなら、”具象成分75%以上”でないと、ビジネス書とは言えないでしょう。
 なぜなら抽象成分というのは、内容を我がものとするためには、自分で解釈する多くのプロセスを必要とします。セネカやアリストテレスが大多数の人にとっては”すいすい読めちゃう面白本”ではないのもそのためです」

 わたしは、このセネカやアリストテレスのくだりを読んで感心しました。じつによく、ビジネス書の本質を衝いています。比較の対象として、哲学書を持ち出したところも鋭い。著者は、非常に説明能力の高い人であると思いました。ダテに17000冊を読んできたわけではないことがよくわかりますね。

 著者が書いた本では『成功読書術~ビジネスに生かす名著の読み方』(ゴマブックス)も読みましたが、こちらも好著でした。ビジネス書以外の名著も取り上げています。版元が倒産して絶版になっているのが惜しまれますね。

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