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古事記ワンダーランド』

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No.0673

 

 『古事記ワンダーランド』鎌田東二(角川選書)を読みました。

 2013年は、20年に1度の伊勢神宮の式年遷宮、60年に1度の出雲大社の大遷宮が奇しくも重なります。神社や神道が大きなブームとなる予感がします。

 

 その神道の基本をなす書物こそ、『古事記』です。『古事記』は、よく『日本書紀』と並べられますね。ともに日本の神話が記されており、両書を総称して「記紀(きき)」といい、その神話を総称して記紀神話と呼びます。 古事記』は日本最古の歴史書であり、『日本書紀』は官撰による最古の歴史書とされます。記紀においては、神話が歴史の中に含められ、神々が姿を現して日本の国を整え、やがて人の歴史へと続く流れを一連の出来事として記載されているのです。
 

 『古事記』は、和銅五年(712年)に太安万侶を撰録者として成立したとされます。ということは、昨年2012年は、『古事記』1300年の記念すべき年だったのです。それで、『古事記』についてのさまざまなイベントが開催され、また関連書籍もたくさん出版されました。その中でも、特におススメしたいのが本書『古事記ワンダーランド』です。


 著者は日本を代表する宗教哲学者であり、京都大学こころの未来研究センター教授です。わたしは、大変親しくお付き合いさせていただいています。毎月、満月のたびに「シンとトニーのムーンサルトレター」というWeb書簡を交換しているのですが、もう90回(90カ月)以上になります。
 

 また、そのムーンサルトレターを収録した『満月交感 ムーンサルトレター』上・下(水曜社)という共著もあります。その本の中でも述べているのですが、著者は「神話と儀礼は人類にとって必要不可欠である」という持論を持たれており、わたしも深く共感しています。その必要な「神話」について、著者が縦横無尽に書かれたのが本書『古事記ワンダーランド』なのです。


 著者が初めて『古事記』に出合ったのは小学校5年生の時でした。小学校の図書館に置かれていた口語訳の『古事記』を読んだとき、突き抜けたような感覚、至福感が起こったそうです。そして鎌田少年は『古事記』に書かれている内容を「これは真実だ!」と直観し、我を忘れてしまうほど感激したとか。少年は、神話が持つ命、エネルギーに触れることによって、自分自身は渦の中に巻き込まれ、感動の頂点に達してしまったのでした。一種の神秘体験であろうと思います。


 少年時代にそのような神秘体験をしてしまった鎌田氏は、次のように述べます。


 「神話とは、壊れるものではない。簡単に壊れてしまった原子力発電所の『安全神話』なるものは、その意味で、神話の名に値しない。それは幻想であり、イデオロギーであり、詐術であった。イデオロギーは壊れ、変化する。しかし、神話は壊れることなく伝承されてきた。人類史を貫く根源的な感性や想像力のDNAが神話であり、それはいわばATGCのような塩基記号で書かれている原形的な表象である」

 

 そう、神話が壊れるときは人間が壊れるときであり、人類消滅のときは神話が壊れるのです。そして、『古事記』に書かれている日本神話が壊れるときは日本人が消滅するときなのです。


 著者は、「歌物語」としての『古事記』に注目します。確かに、『古事記』の中には多くの歌が登場します。命を言祝ぐ歌、愛しき人を恋い慕う歌、魂を鎮める歌・・・・・じつに112首の歌が『古事記』には収められています。
 

 著者は、これらの歌に改めて光を当て、『古事記』を歌謡劇として読み解きます。すると、神々の息吹(スピリット)が甦ってくるのでした。
 112首の歌は、古代の日本人たちによって繰り返し歌われ、語られつつ、口承されてきたものがベースになっています。
 

 著者は、「元の伝承は、神聖な雰囲気の儀礼的な場や、にぎにぎしい饗宴の席などで歌われ、朗詠され、唱えられたものであろう。その際には、舞も舞われたことだろう。私はそのような『歌物語』をその神髄として持つ『古事記』を、『新世紀エヴァンゲリオン(新世紀の福音の書)』ならぬ『新世紀神話詩』、ないし『新世紀叙事詩』であると位置づけたい」と述べています。


 『古事記ワンダーランド』を読んで、わたしが最も興味深く感じたのは、著者が『古事記』を「グリーフケア」の書だととらえていることでした。鎌田氏によれば、『古事記』には「女あるいは母の嘆きと哀切」があります。悲嘆する女あるいは母といえば、3人の女神の名前が浮かびます。


 第1に、イザナミノミコト。
 第2に、コノハナノサクヤビメ。
 そして第3に、トヨタマビメ。


 『古事記』は、物語ることによって、これらの女神たちの痛みと悲しみを癒す「鎮魂譜」や「グリーフケア」となっているというのです。最もグリーフケアの力を発揮するものこそ、歌です。歌は、自分の心を浄化し、鎮めるばかりでなく、相手の心をも揺り動かします。歌によって心が開き、身体も開き、そして「むすび」が訪れます。

 

 『古事記』には、あまりにも有名な「むすび」の場面があります。天の岩屋戸に隠れていた太陽神アマテラスが岩屋戸を開く場面です。アメノウズメのストリップ・ダンスによって、神々の大きな笑いが起こり、洞窟の中に閉じ籠っていたアマテラスは「わたしがいないのに、どうしてみんなはこんなに楽しそうに笑っているのか?」と疑問に思い、ついに岩屋戸を開いてしまうのです。
 『古事記』は、その神々の「笑い」を「咲ひ」と表記しています。この点に注目する著者は、次のように述べます。


 「神々の『笑い』とは、花が咲くような『咲ひ』であったのだ。それこそが〈生命の春=張る=膨る〉をもたらすムスビの力そのものである。この祭りを『むすび』の力の発言・発動と言わずして、何と言おうか」


 ところで、わが社の社名は「サンレー」といいます。これには、「SUN-RAY(太陽の光)」そして「産霊(むすび)」の意味がともにあります。
 最近、わが社は葬儀後の遺族の方々の悲しみを軽くするグリーフケアのサポートに力を注いでいるのですが、『古事記ワンダーランド』を読んで、それが必然であることに気づきました。
 

 なぜなら、グリーフケアとは、闇に光を射すことです。洞窟に閉じ籠っている人を明るい世界へ戻すことです。
 

 そして、それが「むすび」につながるのです。わたしは、「SUN-RAY(太陽の光)」と「産霊(むすび)」がグリーフケアを介することによって見事につながることに非常に驚くとともに安心しました。ちなみに、わが社の社歌は神道ソングライターでもある著者に作詞・作曲していただいています。


 なお、拙著『死が怖くなくなる読書』(現代書林)でも本書を取り上げています。