No.0593 児童書・絵本 『昭和ちびっこ未来画報』 初見健一著(青幻舎)

2012.05.05

 今日は、「子どもの日」ですね。かつては、「子どもの日」に2人の娘たちをどこかに連れて行くのが習慣でした。でも、長女は大学生、次女は中学生で、もうそんな時代は過ぎ去ってしまいました。

 わたしは、自分の子ども時代を思い出すような本を読みました。『昭和ちびっこ未来画報』初見健一著(青幻舎)という本です。東京は神保町の「書泉グランデ」の店頭で見つけた本なのです。文庫本なのですが、1200円という値段がついています。

 それもそのはず、本書にはオールカラーで美しいイラストが満載されているのです。そして、そのイラストとは「少年マガジン」をはじめとした各種の子ども向けメディアに掲載された夢あふれる「未来予想図」ばかりなのです。本書では、「暮らし」「交通」「ロボット」「コンピューター」「宇宙」「終末」の6つのジャンルでレトロ・フューチャー、すなわち「なつかしい未来」が紹介されています。

 本書の表紙カバー裏には、以下のような内容紹介があります。

 「『地球大脱出』『2061年の東京』『夜のないせかい 人工たいよう』『コンピューターが人間製造』・・・、本書には1950~70年代の間に、さまざまな子供向けのメディアに掲載された《未来予想図》が収録されています。当時、21世紀を図解した記事はその大半が空想、夢想、妄想に基づいた荒唐無稽のトンデモ未来観のオンパレードでした。本書は、小松崎茂、石原豪人をはじめとする空想科学イラストの巨匠たちが描いた未来画を暮らし、交通、ロボット、コンピューター、宇宙、終末の六項目に分けて紹介。当時の少年少女たちに大人気の定番コンテンツだった『21世紀はこうなるっ!』を図解した記事は、媒体である雑誌そのものが大量消費とともに破棄されたこともあり、その殆どは当時の読者の記憶の中だけで生きつづけてきました。現実の21世紀に暮らす『未来人』となった今、当時の大人たちが心血注いで創造した『消えてしまった21世紀』―夢や希望に満ちたユートピアもあれば、絶望的な光景が描きだされるデストピアも―をめぐる時間旅行に出かけましょう。当時の少年少女にとって最大の関心ごとであり、 わくわく の源でもあった『未来』。 ぎっしりと詰まった想像遺産の数々をお楽しみ下さい」

 小学生のとき、「21世紀の北九州市」というテーマで絵画コンテストがありました。たしか、わたしはモノレールを中心に小倉駅周辺のパノラマを描いたような気がしますが、その絵は最優秀賞を貰ったように記憶しています。今では、モノレールなど当たり前の日常的光景であり、隔世の感がありますね。

 本書には「モノレール」とか「瀬戸大橋」とか「コンピューター授業」といった将来確実に実現しそうな未来図も多く含まれています。おそらくは「宇宙ステーション」とか「海底牧場」なども、その実現可能なジャンルに含まれていたように思います。

 それにしても、「未来予想」とは、どれだけ的中、いや実現できるものなのか。

 かつて、ブームとなった「未来学」というものがありました。科学的方法によって未来社会予測のための定量的情報を得ようとする研究です。1960年代に提唱されましたが、その方法や理論はまだ明確になっていません。わたしたちの未来は、どうなるか? それを考える前に、過去の未来予測(なんだか変な表現ですが)について考えてみましょう。

 1901年の「報知新聞」では、100年後の日本の姿を予想しています。それによると、たとえば「7日間で世界一周」、これはもう実現しています。「機械で温度調節した空気を送り出す」、これも冷暖房で実現していますね。他に実現できていないものでは、「動物と会話ができて、犬がお使いに行く」、「蚊やノミが絶滅する」というのもありました。

 伊藤忠商事の元会長で、現在は中国大使である丹羽宇一郎氏は、21世紀でも、今「こうなったらいいな」と思うことの70パーセントは実現できると述べられています。マスコミなどが、今世紀に何が起きてほしいかというアンケート調査をすると、車が空を飛ぶようになる、ゴミが資源になる、太陽エネルギーで、宇宙からコードレスで伝記を取る、自動翻訳機ができて言葉の壁がなくなる、などなどの意見が多いようです。それらの70パーセントが実現できる可能性があるというのです。

 本書を読んで思ったのは、原子力が無条件に賞賛されていた時代があったということ。月面に基地を建設するために、なんと「とりあえず月に原爆を打ち込もう」という驚愕の計画も紹介されています。まったく、トンデモない計画ですね!

 そして、最後の「終末」のイメージのバリエーションが最も豊富で、読み応えがあること。

 「恐怖! 地球の7大終末」と題されたページには、「気温の変化」「いん石の衝突」「気候の変化」「地殻の変化」「伝染病の大流行」「宇宙船や排気ガス」「第3次世界大戦」といったSF画の巨匠・小松崎茂の絵が掲載されています。

 小松崎茂といえば、地球上の生物たちが宇宙船で地球から脱出するという「地球大脱出」の絵も掲載されています。いわば「近未来版ノアの箱舟」です。わたしは、この小松崎茂の絵が昔から大好きでした。実際の「ノアの箱舟」を描いた各種の絵画にも感じるのですが、滅亡する地から舟に乗り込む様子には哀しみとロマンの両方があります。

 本書の最後に登場するのは、1970年大阪万博の「三菱未来館」です。これは、当時の最先端の映像技術などを駆使して、50年後(すなわち2020年)の日本の空・海・陸を体感できるというパビリオンです。特撮監督を円谷英二、音楽を伊福部昭が担当していました。

 著者いわく、「未来予想」とは戦後に誕生した子ども文化でした。それは経済の成長とともに盛んになり、未来への想像力が結集された大阪万博においてブームはピークを迎えたといいます。著者は、次のように書いています。

 「ある意味で大阪万博は、戦後復興と同時にスタートした『21世紀』への夢の到達点を示しながら、その終焉をも宣言した祭典だった。これを境に『未来予想』は大きく変質し、子どもたちの『未来』への好奇心も形を変えていく。『三菱未来館』が提示したのは、『ぼくらの21世紀』という『幻』の最後の輝きだったのかもしれない」

 わたしも、7歳のときに両親に大阪万博に連れて行ってもらいました。「三菱未来館」は、あまりに待ち時間が長いので断念しました。でも、万博の公式ガイドブックに掲載されている「三菱未来館」や「太陽の塔」の内部を紹介した図解を穴があくほど見つめた記憶があります。あの頃、子どもたちにとって「未来」はキラキラ輝いていました。

 今の子どもたちにとって、「未来」はどのような存在なのでしょうか。

 今朝の「朝日新聞」の「天声人語」に、『福島の子どもたちからの手紙』(朝日新聞出版)という本が紹介されています。同書には、ある女子高生が「思い続ける3つのこと」として、「不安、悲しい、腹立たしい。体への影響の心配、何故こんなことが起きてしまったのか、何故ここなのか」と書いています。

 科学技術を無邪気に信奉する時代は、終わりました。わたしの子どもたちは成長しつつありますが、今度は孫の世代です。いつの日か、わたしも孫を持つ爺さんになるかもしれません。

 わたしたちの孫は、果たしてどんな「未来」を夢見ることができるのか? 「子どもの日」の昼下がり、スタバのフレンチローストを飲みながら、そんなことを考えました。

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