No.0526 人間学・ホスピタリティ 『中江藤樹 人生百訓』 中江彰著(致知出版社)

2012.01.10

 『中江藤樹 人生百訓』中江彰著(致知出版社)を再読しました。

 「近江聖人」とまで呼ばれた中江藤樹。彼は、まるで隠者のごとく四十余年のすこぶる短い人生を送りました。それにもかかわらず、今なお多くの人から親しまれる理由はどこにあるのか。著者は、藤樹を学び、また人に藤樹を語るに際して、いつもこのことを問い続けたそうです。

 著者はまた、藤樹が「日本陽明学の祖」ということから「知行合一」を説き、知識よりも実行を重んじたという偏ったイメージが先行していることに危惧の念を抱いたそうです。このような著者の問いに答え、危惧を払拭するために本書は生まれました。藤樹の主著『翁問答』や『鑑草(かがみぐさ)』をはじめ、さまざまな書に出てくる珠玉の言葉を選び出しています。

 本書に掲げられた「百訓」すなわち100のメッセージは、400年前の古典としての知識ではなく、混迷の世を生きる現代人の大きな指針になるものばかりです。特にわたしが心を惹かれたのは、藤樹の和歌です。藤樹の和歌は本当に素晴らしく、しかも、わたしの大好きな月を詠んだものが多いのです。

 「ふしおがむ社(やしろ)の神は月なれや 心の水のすめばうつれる」

 「いかで我(わが)こころの月をあらわして やみにまどえる人をてらさん」

 「偽(いつわり)のなき身なりせば古里の 月の光もさやかならまし」

 この他にも、藤樹は月の歌を詠んでいます。「こころの月」とは彼が生涯追及した「明徳」に他なりません。藤樹は、夜空の月に人間の心の理想を重ね合わせていたのですね。今夜の満月を見上げながら、わたしは「こころの月」を想いました。

 中江藤樹といえば、「親孝行」の代名詞でもあります。なにしろ、27歳のとき病弱な母の世話を理由に官を辞するが許されず、やむなく脱藩して帰郷したほどです。

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