No.0371 コミック 『変人偏屈列伝』 荒木飛呂彦、鬼窪浩久著(集英社)

2011.07.04

 わたしは九州の人間ですけん、ちょっと語気が荒かったりして、すんません(笑)。傷つけたということがあれば、おわびを申しあげたいという風に思っております。

 まあ、詳しいコメントは控えますが、困ったもんですな・・・・・。九州では「困った人」のことを「へんこたれ」とか言います。まあ、「変人」とか「偏屈」といったような意味ですね。ということで、『変人偏屈列伝』荒木飛呂彦、鬼窪浩久著(集英社)を読みました。

 ここに登場する人々は、ちょっと待たされたぐらいでキレるような小物とは違います。筋金入りの「変人偏屈」で鳴らした大物ばかりが揃っています。

 そう、本書は数奇な運命を辿った人々の生涯を描く伝記漫画です。じつに愛すべき6人の変人偏屈たちが取り上げられています。

 ハードカバーの函入りという豪華版で、価格は1714円と少し高めです。

 かつて、『栄光なき天才たち』森田慎吾、伊藤智義著(集英社)という伝記漫画シリーズがあり、愛読していました。「ヤング・ジャンプ」に連載されていたものです。

 本書『変人偏屈列伝』の収録作品は同じ集英社の「ウルトラ・ジャンプ」に連載されていたものです。両者は、同系統の作品であると言えると思います。

 さて本書には、次の6人の伝記漫画が収められています。

「タイ・カッブ~史上最高! 強打製造機」
「康芳夫~オリバー君を仕掛けた世紀の興行師」
「腸チフスのメアリー~実在した究極の選択」
「ウィンチェスター・ミステリー・ハウス~未亡人が増築しつづけた謎の館」
「コリヤー兄弟~誰も知らない兄弟」
「ニコラ・テスラ~エジソンを震えあがらせた大天才」

 いずれも奇妙ですが勇気に満ちた足跡を送った人々です。

 最後の「ニコラ・テスラ」がじつは1作目で、その後、なんと15年も経過してから他の作品が描かれたそうです。すべてが荒木飛呂彦氏の手によるものではなく、荒木氏が作画まで担当したのは2作だけだとか。

 その他は、荒木氏のアシスタントであった鬼窪浩久氏の手によるものです。そのあたりの事情は、「あとがき」に詳しく描かれています。

 しかし、どれも荒木飛呂彦の作品であるような印象を受けました。

 6人とも過剰そのものというか、正真正銘の「変人偏屈」そのものです。本書の「前書き」によれば、荒木氏は子どもの頃、次のように考えていたそうです。

 「人間」ていったい何者なのか?
 そして、「愚かな得にもならない行為」をする人々に、なにか「希望」とか「勇気」とか奇妙な「共感」だとかを感じずにはいられなかったそうです。荒木氏は述べます。
 「自分だって動機不明の行動や、理由も分らず失敗したなあ~と思う事がしょっちゅう。奇人偏屈の人々の人生には、偉人伝と何ら変わる事のない『人間讃歌』が存在するのだ。それがこの列伝を描こうと思った動機である」

 この列伝は事実を基に構成されているそうです。そこには当然ながら、選考基準というものも存在します。

 荒木氏はいろんな本を読み、いろいろ鎖がして描く人物を決めたそうですが、なかなか選考基準を満たす人はいなかったとか。荒木氏いわく、「選考基準」イコール「人間讃歌基準」だというのですが、その厳正なる選考基準は以下の通りでした。

ハードル(1)変人偏屈な人は、その行為が人々に「希望」と「安心」を与える魅力がなくてはならない(たとえば犯罪者だとかはダメである)。

ハードル(2)変人偏屈な人は、その行為を一生やり続けていなくてはならない(一時の目立とう精神や、人生の途中でやめた人は本物でなくニセ奇人なので、尊敬に値しない)。つまり彼(彼女)たちは自然体なのだ。

ハードル(3)変人偏屈な人は、敵に勝利している(勝利にはいろいろな解釈があるけれど、とにかく敵に勝っている事)。

 この3点を満たしている人々が、本書の収録基準だというわけです。そこには「発明家」「スポーツ選手」「日本人」「女性」「兄弟」など、さまざまなタイプがいて、キャラクターが片寄ることはありませんでした。「前書き」の最後で、荒木氏は次のように訴えます。

 「彼らを見習えという事ではありません。彼らは決して社会の異端とかではなく、人並みはずれた情熱を持った唯一無二の人々であり、これからの人間の未来に生きる『希望』と『安心』を与えてくれる『存在』なのです」

 実際読んでみると、非常に興味深い伝記漫画ばかりでした。個人的には、「サルか人か」と騒がれたオリバー君を日本に連れてきた興行師の康芳夫の話が面白かったです。彼は、石原慎太郎を隊長とした「ネッシー探検隊」や、猪木とアリが闘った「格闘技世界一決定戦」を仕掛けた稀代のプロデューサーでした。

 ガウディもびっくりの増築し続ける屋敷「ウィンチェスター・ミステリー・ハウス」の物語にも惹かれました。それにしても、人間って本当に変てこで、愛すべき存在ですね!

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