No.0329 経済・経営 『ビジョナリー・カンパニー』 ジェームズ・C・コリンズ&ジェリー・I・ポラス著、山岡洋一訳(日経BP出版センター)

2011.05.19

 『ビジョナリー・カンパニー』ジェームズ・C・コリンズ&ジェリー・I・ポラス著、山岡洋一訳(日経BP出版センター)を再読しました。

 読書好きの経営者で、本書の存在を知らない人は少ないという有名な本です。

 今日は、午後からサンレーの来年度採用者の最終選考が松柏園ホテルで行われます。毎年、わが社に面接に来る学生さんの中には、わたしの著書を読んでいる人もいます。そのためか、経営理念について質問したり意見を述べる人が増えてきました。わたしは、非常に喜ばしいことだと思っています。

 なぜなら、その会社に入社するかどうかを決める最大の鍵は、経営理念だからです。もちろん、業務内容や給与や福利厚生や昇進システムなども重要ですが、最も重要なものこそ経営理念であると思います。

 日本の企業は「基本理念」が苦手であると言われます。そんな場当たり的で対処型の業務運営に陥りがちな多くの日本企業に大きな示唆を与えた本こそ、ジェームズ・C・コリンズとジェリー・I・ポラスという2人のスタンフォード大学教授によって書かれた本書『ビジョナリー・カンパニー』なのです。

 ビジョナリー・カンパニーとは何か。それは、文字通りにビジョンを持っている企業であり、業界で卓越した企業、同業他社のあいだで広く尊敬を集め、大きなインパクトを世界に与え続けてきた企業のことです。

 重要な点は、ビジョナリー・カンパニーが組織であること。個人としてのリーダーはいかにカリスマ性があっても、いかに優れたビジョンを持っていても、いつかはこの世を去ります。しかし、ビジョナリー・カンパニーは、個人の活躍できる時間を超え、ずっと繁栄し続ける企業なのです。

 本書では、GE、HP、IBM、3M、アメリカン・エクスプレス、ウォルマート、ディズニーなど、時代を超えて際立った存在であり続ける18社を選びだし、設立以来現在に至る歴史全体を徹底的に調査し、ライバル企業と比較検討して、永続の源泉が「基本理念」にあると説きます。基本理念とは、戦略とは違います。

 たとえ一時的な不利益を招いても、企業が守り続けていくものが基本理念です。この基本理念を持っている企業こそが、利益だけを追求している企業よりも結果的に収益率が高く、永続的な繁栄を続けていくことができると分析します。

 わたしは基本的に本書のメッセージには賛同します。しかし、少々物足らないところがあるのも事実です。

 本書は1994年に刊行された本であり、すでに18年が経過していることもあって、選ばれた18社がすべて順調に発展しているわけではありません。そして、何よりも本書がアメリカの学者によって書かれたという点が重要だと思います。

 つまり、本書の経営論には東洋的な思考が欠落しているのです。わたしは、経営理念を語るならば、「命」および「志」といった東洋的思想、あえて言えば儒教的思想が必要ではないかと思います。

 基本理念の「理」とは何でしょうか。一口に理、ことわりと言うと、まず思い浮かぶのは「論理」でしょう。この論理という語に対して、古来より「情理」という語があります。単なる知識の理ではなくて、情というものを含んだ理です。

 「パスカルの原理」で知られるフランスの哲学者パスカルは、頭の論理に対して胸の情理を力説しましたが、「感情というものは心の論理である」との名言を残しています。論理より情理に入って、さらに、わたしたちの人生の理というべきものがあります。すなわち、「実理」「真理」「道理」といったものです。

 安岡正篤は、物識りよりも物分りが大事であると述べました。物識りというのは、単なる論理やいろんなことを知っているだけです。情理や実理、真理、道理など本当の理を解することを物分りといいます

 そして、この「本当の理」は「この世の中で自分は何をすべきか」という使命感や、さらに「何をすれば世の中を良くできるか」という志につながっていきます。

 経営者が使命感や志を抱いていれば、企業にも必ず影響があります。なぜなら、企業とは経営者や社員の気がそのまま反映する「気業」だからです。

 ある意味で、企業に「理念」があるのは当然で、その先に「使命感」や「志」というものが求められます。ですから、この世に存在するすべての企業は理念ある「ビジョナリー・カンパニー」を超えて、強い使命感を抱く「ミッショナリー・カンパニー」や高い志のある「アンビショナリー・カンパニー」にならなくてはなりません。

 ちなみに、わが社は理念・使命感・志をもちろんのこと重視し、さらには何よりも「心ゆたかな」企業としての「ハートフル・カンパニー」を目指してきました。

 株式会社サンレーが創業40周年を迎えた5年前、わたしは『ハートフル・カンパニー』(三五館)を佐久間庸和の本名で上梓しました。そしてサンレーが45周年を迎える今、「思いやり」企業としての「ホスピタリティ・カンパニー」を目標にしています。

 今秋、『ホスピタリティ・カンパニー』(三五館)をやはり本名で上梓する予定です。

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