No.0304 コミュニケーション | 社会・コミュニティ 『隣人祭り』 アタナーズ・ペリファン&南谷桂子著(ソトコト新書)

2011.03.28

 アマゾンに『隣人の時代』(三五館)の最初のレビューが入っています。

 その最後には、「折りしも東北関東大地震が発生し、連日被災地の光景をメディアを通じて目の当たりにしております。こんな時こその『有縁社会』 だと思います。この本にはこれからの時代の新しいご近所づきあいの形態や地域コミュニティーのヒントが多く書かれています。 ごく当り前の『縁』や『絆』を取り戻す為の現代社会におけるバイブルと言っても過言ではないと思いますよ。 皆で『隣人祭り』によって有縁社会を取り戻していきましょう」と書かれています。

 ありがたいレビューですが、レビュアーの方は「隣人祭り」に興味を持たれたようです。

 同書の帯には、「日本一”隣人祭り”を開催する 冠婚葬祭互助会社長が提案する解決策」とのコピーが記されています。

 わたしは、「隣人祭り」について『隣人祭り』アタナーズ・ペリファン&南谷桂子著(ソトコト新書)で勉強しました。これまで何度も本書を読み、新聞をはじめ各種のメディアで紹介してきましたが、『隣人の時代』を書く際にも大いに参考にさせていただきました。

 いよいよ被災者の方々の集団疎開がスタートします。

 新しい地域でコミュニティをつくっていくにあたって、「隣人祭り」の存在が非常に重要になるのではないかと思います。

 隣人祭りとは、地域の隣人たちが食べ物や飲み物を持ち寄って集い、食事をしながら語り合うことです。都会の集合住宅に暮らす人たちが年に一度、顔を合わせるのですが、いまやヨーロッパを中心に29カ国、800万人が参加するそうです。

 隣人祭りの発祥の地は、フランスのパリです。

 本書の著者の一人でパリ17区の助役であるアタナーズ・ペリファン氏が提唱者です。

 きっかけは、パリのアパートで一人暮らしの女性が孤独死し、1ヵ月後に発見されたことでした。ペリファン氏が駆けつけると、部屋には死後1ヵ月の臭気が満ち、老女の変わり果てた姿がありました。

 同じ階に住む住民に話を聞くと、「一度も姿を見かけたことがなかった」と答えました。

 大きなショックを受けたペリファン氏は、「もう少し住民の間に触れ合いがあれば、悲劇は起こらなかったのではないか」と考えました。

 そして、NPO活動を通じて1999年に隣人祭りを人々に呼びかけたのです。

 第1回目の隣人祭りは、悲劇の起こったアパートに住む青年が中庭でパーティーを開催し、多くの住民が参加し、語り合いました。そのとき初めて知り合い自己紹介をした男女が、その後、結婚するという素敵なエピソードも生まれました。

 最初の年は約1万人がフランス各地の隣人祭りに参加しましたが、2003年にはヨーロッパ全域に広がり、08年には約800万人が参加するまでに発展し、同年5月にはついに日本にも上陸。新宿御苑で2日間開催され、250人の人々が集まったそうです。

 日本でも孤独死は増えています。隣人祭りが発展した背景には、孤独死の問題はもちろん、多くの人々が行きすぎた個人主義に危機感を抱いていることを示しています。

 ペリファン氏とともに共著者であるフランス在住のジャーナリスト・南谷桂子氏は、「朝日新聞」2008年8月16日の朝刊で、「一度でも言葉を交わしていれば『感情公害』と呼ばれる近隣トラブルは減るし、いきなり刃物で刺すような事件もなくなるはず」と語っています。また、ペリファン氏は本書の「著者の言葉」で次のように述べています。

 「人間には、誰にでも潜在的に寛大さというものが備わっている。ではなぜ、それを覆っている殻を打ち破って寛大さを表に出さないのだろう。人は誰でも問題を抱えているものだ。その問題を解決するには、自分以外の誰かの善意がきっと役に立つはずだ。人間の良心だけが、人間を救える唯一のものだと僕は信じている」

 隣人祭りは、なぜ成功したのでしょうか。「日本経済新聞」08年8月30日夕刊にフランスでの成功のステップが4つにまとめられているので、紹介したいと思います。

1.人と出会い、知り合う。親しくなる。

2.近隣同士、ちょっとした助け合いをする(パンやバターの貸し借りなど)

3.相互扶助の関係をつくる(子どもが急に病気になったが仕事で休めないとき、預かってもらう環境をつくるなど)

4.より長期的な視野で相互扶助をする。(複数の住民で協力し、近所のホームレスや病人の面倒をみたりするなど)

 これを見ると、隣人祭りのキーワードは「助け合い」や「相互扶助」といった言葉のようです。それなら、多くの人は日本に存在する某組織のことを思い浮かべるのではないでしょうか。そう、互助会です。正しくは、冠婚葬祭互助会といいます。「互助」とは「相互扶助」を略したものなのです。わたしはフランスで起こった隣人祭りと日本の互助会の精神は非常に似ていると思っています。

 わが会社はまさに互助会であり、わたしは互助会の各種業界団体の役員を務めています。いまや全国で2000万人を超える互助会員のほとんどは高齢者であり、やはり孤独死をなくすことが互助会の大きなテーマとなっているのです。

 早速、互助会であるわが社では「隣人祭り」をはじめとした各種の隣人交流イベント開催のお手伝いを各地で行ってゆくことにしました。

 まずは、日本で最も高齢化が進行し、孤独死も増えている北九州市での隣人祭りのお手伝いをさせていただきました。現在は、NPO法人を通じて開催サポートしています。

 哲学者のアリストテレスが述べたように、人間とは、他人と触れ合わずにはいられない社会的動物なのです。

 ITが進歩するばかりでは、人類の心は悲鳴をあげて狂ってしまいます。

 ITの進歩とともに、人が集う機会がたくさんある社会でなければなりません。

 わたしは、これからも大いに隣人祭りを開催するお手伝いを続けていきたいです。

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