No.0234 児童書・絵本 | 死生観 『マッチ売りの少女』 矢崎源九郎訳(新潮文庫)

2010.12.31

今日は、12月31日。いよいよ大晦日です。大晦日の物語といえば、何といってもアンデルセンの「マッチ売りの少女」です。知らない人はいないくらい、とても有名な童話の名作ですね。わたしは、矢崎源九郎訳(新潮文庫)で再読しました。

アンデルセンの2つのメッセージとは

雪の降る大晦日の晩、街をさ迷うみすぼらしい身なりのマッチ売りの少女がいました。少女は寒さのあまり、一本も売れなかったマッチをともして暖をとろうとします。マッチをともすたびに、きれいな部屋、ごちそう、クリスマスツリーなどの不思議な光景が浮かんできます。そして最後には、亡くなったはずの懐かしいおばあさんの姿が浮かんできました。翌朝、街の人々は少女の亡骸を目にします。

最後には、こう書かれています。

「この子は暖まろうとしたんだね。と、人々は言いました。けれども、少女がどんなに美しいものを見たかということも、また、どんな光につつまれて、おばあさんといっしょに、うれしい新年をむかえに、天国にのぼっていったかということも、だれひとり知っている人はありませんでした」

この短い童話は、いろんなことをわたしたちに教えてくれます。
まず、「死は決して不孝な出来事ではない」ということ。伝統的なキリスト教の教えではありますが、「マッチ売りの少女」は、「死とは、新しい世界への旅立ちである」ことを気づかせてくれます。

さらに、この物語には2つのメッセージが込められています。

1つは、「マッチはいかがですか? マッチを買ってください!」と、幼い少女が必死で懇願したとき、通りかかった大人はマッチを買ってあげなければならなかったということ。
少女の「マッチを買ってください」とは「わたしの命を助けてください」を意味しました。これがアンデルセンの第1のメッセージでしょう。

第2のメッセージは、少女の亡骸を弔ってあげなければならないということ。行き倒れの遺体を見て見ぬふりをして通りすぎることは人として許されません。死者を弔うことは人として当然です。このように、「生者の命を助けること」「死者を弔うこと」の2つこそ、国や民族や宗教を超えた人類普遍の「人の道」なのです。

わたしは、拙著『涙は世界で一番小さな海』(三五館)においても、そのことを書きました。

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