No.2124 社会・コミュニティ | 経済・経営 『9割の社会問題はビジネスで解決できる』 田口一成著(PHP)

2022.04.17

 『9割の社会問題はビジネスで解決できる』田口一成著(PHP)を読みました。著者は、株式会社ボーダレス・ジャパン代表取締役社長。1980年生まれ。福岡県出身。大学2年時に発展途上国で栄養失調に苦しむ子どもの映像を見て、「これぞ自分が人生をかける価値がある」と決意。早稲田大学在学中に米国ワシントン大学へビジネス留学。卒業後、株式会社ミスミ(現・ミスミグループ本社)を経て25歳で独立し、ボーダレス・ジャパンを創業。現在、世界15カ国で40のソーシャルビジネスを展開し、従業員は約1500名、グループ年商は55億円を超える)(2021年4月現在)。

 2018年には、「社会起業家の数だけ社会問題が解決される」という考えのもと、社会起業家養成所ボーダレスアカデミーを開校。2020年には、誰もが参加できる地球温暖化対策として、自然エネルギーを広めていくための電力事業「ハチドリ電力」を自ら立ち上げ。次々と社会起業家を生み出すボーダレス・ジャパンの仕組みは、 「グッドデザイン賞(ビジネスモデル部門)」「日本でいちばん大切にしたい会社大賞・審査委員会特別賞」を受賞。また個人としても、日経ビジネス「世界を動かす日本人50」、ForbesJAPAN「日本のインパクト・アントレプレナー35」に選出。

本書のカバー表紙の下部

 本書のカバー表紙の下部には、著者の写真とともに、「推薦! 斎藤幸平 柳澤大輔 坂本光司 澁澤健 山口周」「貧困、難民、過疎化、人種差別、耕作放棄地、フードロス、地球温暖化・・・」「世界15カ国40社」「日本を代表する社会起業家の実践本」「日経ビジネス『世界を動かす日本人50』待望の初著書」「ソーシャルビジネスだけで売上55億円のすごい仕組み」と書かれています。

本書のカバー裏表紙

 カバー裏表紙には「豊かな脱成長経済へ」として、「これからのビジネスの条件にはすべてここに記されている。――斎藤幸平氏 経済思想家『人新世の「資本論」』著者」「誰もが『資本主義のハッカー』になれる。この本はそれを教えてくれます。――山口周氏 独立研究者『ビジネスの未来』著者」「彼らはビジネスのルールをすでに変えている。極めて地に足のついた実践に基づく持続可能なビジネスの教科書。――柳澤大輔氏 面白法人カヤック代表取締役CEO」「彼らの『恩送り経営』には幸せな社会を実現する大きな可能性がある。日本で、いや世界でいちばん大切にしたい会社だ。――坂本光司氏 経営学者『日本でいちばん大切にしたい会社』著者」「渋沢栄一は‟道徳経済合一”と唱えた。著者がつくる組織とビジネスはまさにそれを実践している。――澁澤健氏 渋沢栄一の玄孫 シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役」と書かれています。さらに、カバー前そでには「『誰一人取り残さない社会』をつくるために、いま、ビジネスが変わるとき。」と書かれています。

 本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「はじめに」
第1章 「社会問題を解決するビジネス」
    を次々と生み出す仕組み
第2章 この‟仕組み”がどうやって生まれたのか。
    その実験の歴史
 1.ソーシャルビジネスにたどり着くまで
 2.ソーシャルビジネスしかやらない会社へ
 3.社会起業家のプラットフォームへ
第3章 「社会問題を解決するビジネス」のつくり方
 1.ソーシャルコンセプトを考える
 2.制約条件を整理する
 3.ビジネスモデルを考える
第4章 ビジネス立ち上げ後の「成功の秘訣」
 終章 一人一人の小さなアクションで、
    世界は必ず良くなる

 「はじめに」の冒頭、「いったい何のために働いているんだろう?」「日々忙しく働いているけれど、自分の仕事は本当に社会を良くしているんだろうか?」といった問いを置いて、著者は「多くの人が、そんなモヤモヤを胸のどこかに抱えながら、日々仕事を頑張っているのではないでしょうか。『私の仕事は社会を良くしている』と胸を張って言える人のほうが珍しいと思います。一方で、世の中には様々な『社会問題』が存在しています。貧困問題、地球温暖化、人種差別、性差別、難民問題、限界集落、耕作放棄地……。あなたも日々、何かしらの問題を目にしたり耳にしたりしているはずです」と書きだしています。

 ボーダレスグループでは「1000人の社会起業家を生み出し、1000の社会問題を解決すること」を目標にしているそうですが、世の中にはもっとたくさんの社会問題があるとして、著者は「ボーダレスグループだけでできることは限られています。だから僕は、社会起業家の仲間、社会問題を解決するためにビジネスを始める人や企業が増えることを願っています。そこで、40の事業を立ち上げる中で培ってきた独自のプランニングメソッド『ソーシャルコンセプトから始める』など、社会問題をビジネスで解決するためのノウハウを紹介します」と述べています。

 このノウハウは社会起業家をめざす人はもちろんですが、一般の企業の新規事業でもきっと役立つはずだとして、著者は「今の会社に勤めながら、まずは副業として、2~3人の仲間とともに小さなマイプロジェクトを立ち上げる方法だってあります。みなさんが働いている業界や会社で、『これはおかしいな、社会にとって問題だな』と感じていることはないでしょうか。そうしたビジネスが引き起こしている問題を解決できるのも、またビジネスです。いま必要なのは、ビジネスを『リデザイン』することなのです」と述べます。

 企業の社会的責任が問われて久しく、本業とは別に社会貢献活動を行うCSR、そして最近ではSⅮGsに取り組む企業が増えてきたことについて、著者は「とてもいいことです。しかし、『利益を出し、雇用をつくり、経済を回すことが、一番の社会貢献だ』という言葉を盾に、売上・利益の最大化を目的とするビジネスの本質は変わることはありませんでした」と指摘します。

 そして、「衣食住足りて、不幸せ」になってしまってはいないだろうかと問う著者は、「人々の生活を豊かにしようとしたビジネス。いま改めてその目的に立ち返る時です。包丁は、愛する人においしい料理をつくるためにも使えれば、人を傷つけることにも使えるように、すべては使い方次第です。経済発展・効率の追求をするあまり、たくさんの人を置いてきぼりにしてきたビジネスを、今度は『誰一人取り残さない社会』をつくるために使う。ビジネスの使い方を変える時がきました」と述べるのでした。

 第1章「『社会問題を解決するビジネス』を次々と生み出す仕組み」の「そもそもソーシャルビジネスとは? 従来のビジネスと何が違う?」では、あらゆるビジネスは、社会の何らかの課題を解決するためにあると指摘し、著者は「すべての商品やサービスは、人々が感じる不満や不便などを解消していて、どの会社も社会に必要とされているから存在しているのです」と述べています。では、社会の「不」を解決するビジネスであれば、ソーシャルビジネスなのか。著者は違うと言います。

 従来のビジネスが対象とする「不」は、基本的にマーケットニーズがあるものだと指摘し、著者は「その不満や不便を解消してくれることに対して、十分なお金を払える人たちを対象としています。そうしたお金を払う準備がある『不』を解消するビジネスはある程度は儲かるので、いずれ誰かがやってくれます。一方、ソーシャルビジネスが取り扱うのは、『儲からない』とマーケットから放置されている社会問題です。たとえば、貧困、難民、過疎化、食品廃棄……。これらは見過ごすことのできない重大な問題ですが、儲かる分野ではないので誰も手を出そうとしません。こうしたマーケットから取り残されている社会問題にビジネスとして取り組むのがソーシャルビジネスなのです」と述べます。

「非効率を含めてビジネスをリデザインする」では、「こうした社会問題を解決するのは、政府や自治体、NPO、あるいは市民団体がやることではないか」と思っている人も多いかもしれないとした上で、著者は「もちろん、公的な支援や善意によるサポートはとても重要です。でもそれだけでは十分でなく、ビジネスパーソンこそがその解決に挑戦すべきだと考えています。なぜなら、非効率だからと置き去りにされた人や地域も含めた形でビジネスをデザインし直さなければ、根本的な解決にはならないからです」と述べています。

 どんな問題も、その本質的な原因に対して対策を講じなければ、根本的な解決にはならないことを指摘する著者は、「もし行政が問題の原因ならば行政に手を打つべきですし、法制度がそうならば法制度を変えることが対策になります。効率を追求するあまり、取り残されてしまう人や地域が出てくるというビジネスのあり方こそが原因なのであれば、そのビジネスにおいて対策を講じることが本質的な解決策です。すなわち、非効率をも含めて経済が成り立つようにビジネスをリデザインすることです」と述べます。

 「社会問題解決が『目的』、儲けることは『けじめ』」では、もともと「経済」という言葉は、「経世済民」を語源としていて、「世の中をよく治めて人々を苦しみから救うこと」という意味があることを紹介し、著者は「それならば、わざわざ『社会起業家』と区別しなくてもよさそうですが、この2つはスタート地点が少し違います。一般的なビジネスは、『マーケットニーズは何か、これから大きく成長する市場はどこか』を探して事業領域を決めていきます。つまり、マーケットニーズが起点です。それに対して社会起業家は、『マーケットニーズがあるからここでやる、ないからやらない』ではなく、解決すべき社会問題があるところで起業します。そのうえで、利益が出るように工夫していく。彼らがつくっているのは、社会ソリューションであって、あくまでも『ビジネス』は手段にすぎない。社会起業家は、ビジネスという手段を使った社会活動家なのです」と述べます。

 「『社会起業家のプラットフォーム』となる会社をつくろう」では、「どうすれば社会起業家の数を増やし、そして彼らのビジネスを成功させられるだろうか」と考えるうちに、「それなら世界に1つくらい社会起業家のための会社があってもいいのではないか」と思うようになり、著者が現在の仕組みをつくったことが紹介されます。ボーダレス・ジャパンは、社会起業家のためのプラットフォームであるとして、著者は「起業した頃の僕自身がまさに欲しかったサポートを集約し、仕組み化しました。ここでは起業や経営に必要なノウハウ、人材、資金などを共有しています。いわゆる一般的なホールディングス会社や親会社・子会社とは違って、上下関係や支配関係はありません。それぞれが独立した経営を行いながらも、社会起業家たちがお互いに助け合う相互扶助のシステムです」と述べます。

 「世界に広げていく仕組み①恩送りのエコシステム――余剰利益は共通のポケットに」では、自分が受けた恩を、次のチャレンジャーへ送る。これを「恩送り」と呼び、ボーダレスグループの相互扶助エコシステムの柱となっていることが紹介されます。この仕組みでは、仲間がたくさん集まり、成功する事業が増えるほど、より多くの余剰利益が共通のポケットに入ってきて、その分多くの社会起業家の誕生を支えることができるとして、「つまり、『仲間が増えるのはいいこと』になります。仲間が増えるほど、解決される社会問題も増えて、社会がより良くなっていく。だったらどんどん仲間を増やしていこう、という気持ちに自然となるエコシステム(生態系)なのです」と述べます。

 そして、著者は「誰かが開発したノウハウやアイデアが、仲間たちに共有され広がっていく。僕たちはそうやって、社会ソリューションを世界へ広げ、大きなソーシャルインパクトを出していこうとしています」と述べるのでした。本書には、ソーシャルビジネスの立ち上げ方や取り組み方が多くの実例とともに紹介されていますが、最後に著者は「生まれた時よりも、きれいな社会にして死んでいく」と自身のモットーを記しています。

「毎日新聞」2022年斎17日朝刊

 本書で最も興味深かったのは「恩送り」という考え方でした。これは、「相互扶助」というコンセプトと合致します。「相互扶助」をビジネスしたものが、わが社の事業である冠婚葬祭互助会です。わたしは、もともと終戦直後に誕生した冠婚葬祭互助会とは、「結婚式に娘に晴れ着が着せてやれない」「親の葬儀が出せない」といった深刻な社会的問題を解決するためのソーシャルビジネスだったと考えています。わが社の事業は冠婚葬祭サービスの提供以外にも「子ども食堂」の運営や、有縁社会再生として地域の高齢者らが集う「隣人祭り」を開くなど多岐にわたります。昨年からは児童養護施設で七五三や成人を迎えた入居者に対し、貸衣装やヘアメークもサービスし記念撮影をプレゼントする取り組みを始めました。震災や新型コロナなどの災禍が相次ぐ近年、葬儀におけるケアの重要性も増しています。力を入れているのが「グリーフケア」。家族などを亡くした遺族に寄り添って支援するものです。

ソーシャルビジネスとしてのわが社の取り組み

 わが社の一連の活動は、SDGsにも通じます。SDGsとは「持続可能な開発目標」という意味ですが、要するに社会を持続させるために必要なことを実行すること。そして、冠婚葬祭互助会は社会を持続させるシステムそのものであると考えます。結婚式は、夫婦を生み、子どもを産むことによって人口を維持する結婚を根底から支える儀式です。一方で葬儀は、儀式とグリーフケアによって死別の悲嘆によるうつ、自死などの負の連鎖を防ぐ儀式です。冠婚業も葬祭業も単なるサービス業ではありません。社会を安定させ、人類を存続させる文化装置です。そして、互助会の根本理念である「相互扶助」は、社会の持続性により深く関わります。貧困ゆえに入浴の習慣を知らない小学生がいるという。また、一日に一回しか食事ができない子どもがいるという。その事実を知り、「なんとかしなければ!」と強く思いました。「相互扶助」をコンセプトとする互助会こそはソーシャルビジネスであるべきです。

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