No.2021 グリーフケア | コミック 『葬送のフリーレン』 山田鐘人原作、アベツカサ作画(小学館)

2021.03.28

 『葬送のフリーレン』山田鐘人原作、アベツカサ作画(小学館)の第1巻~第4巻を読みました。2021年3月時点で累計発行部数は200万部を突破、「マンガ大賞2021」大賞を受賞したコミックです。「週刊少年サンデー」(小学館)にて、2020年22・23合併号より連載中の話題作で、魔王を倒した勇者一行のその後を描く後日譚(アフター)ファンタジーです。マンガ大賞を受賞した2021年3月現在、原作担当の山田氏と作画担当のアベ氏は一度も会ったことがないとか。いずれにしろ、タイトルに「葬送」とあれば、スルーはできません!

コミックの第1巻~第4巻

 Wikipedia「葬送のフリーレン」の「あらすじ」には、こう書かれています。
「魔王を倒して王都に凱旋した勇者ヒンメル、僧侶ハイター、戦士アイゼン、魔法使いフリーレンの勇者パーティ4人。10年間もの旅路を終え、感慨にふける彼らだが、1000年は軽く生きる長命種のエルフであるフリーレンにとっては、その旅はとても短いものであった。そして50年に一度降るという『半世紀エーラ流星』を見た4人は、次回もそれを見る約束をしてパーティを解散する。50年後、すっかり年老いたヒンメルと再会したフリーレンは、ハイターやアイゼンとも連れ立って再び流星群を観賞する。その後にヒンメルは亡くなるも、彼の葬儀でフリーレンは自分がヒンメルについて何も知らず、知ろうともしなかったことに気付いて涙する。その悲しみに困惑した彼女は、人間を”知る”旅に出るのだった」

コミック第1巻の帯

コミック第1巻のカバー裏

 コミック第1巻の帯には、「『このマンガがすごい!2021』(宝島社)【オトコ編】第2位!!!!!!!!」「大人気御礼!!大重版!!!」「勇者の死後も生き続ける、エルフの魔法使い。英雄たちの”生き様”を紡ぐ後日譚ファンタジー!」と書かれています。また、カバー裏表紙には、「魔王を倒した勇者一行の”その後”。魔法使いフリーレンはエルフであり、他の3人と違う部分があります。彼女が”後”の世界で生きること、感じること。そして、残った者たちが紡ぐ、葬送と祈りとは――物語は”冒険の終わり”から始まる。英雄たちの”生き様”を物語る、後日譚ファンタジー!」と書かれています。

コミック第2巻の帯

コミック第2巻のカバー裏

 コミック第2巻の帯には「魔王を倒した功績があるけれど、少しダメエルフ? 面倒をみてくれる弟子のフェルンと、新たな旅路です。英雄たちの”系譜”を紡ぐ後日譚ファンタジー!」「勇者の死後も生き続けるエルフの魔法使い。」と書かれ、カバー裏表紙には「長生きなエルフの魔法使い・フリーレン。弟子の魔法使い・フェルンと歩む旅の目的地は、再び魔王城。勇者たちの魂が眠るとされる地。この旅は、勇者たちとの冒険の足跡を辿ることでもあります。道中、戦士の弟子・シュタルクとの出会いも――物語は、追憶と共に新たな局面へと進む。英雄たちの”系譜”を紡ぐ後日譚ファンタジー!」とあります。

コミック第3巻の帯

コミック第3巻の裏

 コミック第3巻の帯には、「『このマンガがすごい!2021』(宝島社)オトコ編第2位!!!!!!!!」「普段はダメエルフだけど、勇者一行にいた魔法使い。彼女の実力と真価は、悠久の時の中に――英雄たちの”真実”を紡ぐ後日譚ファンタジー!」と書かれています。また、カバー裏表紙には「勇者一行にいた魔法使い・フリーレン。魔王軍の残党で大魔族でもある七崩賢・断頭台のアウラと衝突。その中で、フリーレンの史実が明かされていきます。悠久の時の中で、彼女が抱いた感情とは――物語は、現在と過去が交錯していく。英雄たちの”真実”を紡ぐ後日譚ファンタジー!」と書かれています。

コミック第4巻の帯 

コミック第4巻の裏

 最新刊であるコミック第4巻の帯には「いま一番読みたいマンガ!!」「マンガ対象2021大賞受賞!!」「魔王を倒した勇者の死後。エルフの魔法使いの”生き様”を紡ぐ。ずっと、エンディングが続いているような物語――」と書かれ、カバー裏表紙には「勇者の死後も生き続けるエルフの魔法使い・フリーレン。かつて勇者たちと冒険した旅路を、再び辿ります。昔も今も旅路を彩るのは、かけがえのない出会いと行事(イベント)の数々――物語は、勇者たちとの日常を思い起こしていく。英雄たちの”記憶”が繋がっていく後日譚ファンタジー!」とあります。 

 基本的には、魔族と戦士たちの戦闘の物語であり、鬼と鬼殺隊が闘いを繰り広げるブログ『鬼滅の刃』で紹介した大人気コミックに通じる部分があります。『鬼滅の刃』に登場する鬼のボス・鬼舞辻無惨は平安時代から1000年以上生きているという設定でしたが、『葬送のフリーレン』の主人公であるエルフの魔法使いのフリーレンも1000年以上生きていることになっています。「エルフ」とは、ゲルマン神話に起源を持つ、北ヨーロッパの民間伝承に登場する種族です。日本語では「妖精」あるいは「小妖精」と訳されることも多いですが、北欧神話における彼らは本来、自然と豊かさを司る小神族でした。 

 エルフはしばしば、とても美しく若々しい外見を持ち、森や泉、井戸や地下などに住むとされます。また彼らは不死あるいは長命であり、魔法の力を持っているとされます。J・R・R・トールキンの『指輪物語』では、賢明で半神的な種族としての「エルフ」が活躍しました。この作品は大成功し、トールキン風のエルフは現代のファンタジー作品における定番となりました。近年での日本のファンタジー作品では、「森の中で暮らす種族」としてのイメージが強く、漢字表記で「森人」と呼ばれることも多いとか。 

 1000年以上生きるエルフであるフリーレンは、当然ながら、長生きしても100年しか生きられない人間とは寿命が違います。しかし、その人間と交流し、ともに旅をし、ともに魔族と戦ったフリーレンは今は亡き人間たちに想いを馳せます。わたしは、臨死研究のパイオニアであるキューブラー・ロスの時間についての説を連想しました。ロスは、死および死後の世界においては時間など関係ないと主張しました。「死へのプロセス」を広く世に示した彼女は、晩年、死ぬ瞬間に起こるスピリチュアルな問題にまで立ち入りました。死ぬ瞬間には3つの段階がありますが、その第2段階では、誰も独りぼっちで死ぬことはないということがわかるそうです。そして、肉体から離れたとき、時間はもはやなくなるというのです。時間がなくなるということは、どういうことでしょうか。それは、先立って亡くなり、自分のことを愛し、大事にしてくれた人たちに会えるということです。

 そして、この段階では時間が存在しないために、20歳のときに子どもを亡くした人が99歳で亡くなっても、亡くしたときと同じ年齢のままの子どもに会うことができるのです。ロスの研究では、あの世の1分はこの世の時間100年にも相当するそうです。だから、たとえば夫婦や恋人が死に別れたとして、2人の死に数十年の時差があるとしても、あの世では一瞬のことにすぎません。どういうことかというと、あなたが、愛する人を残して死ぬとします。相手は、あなたの思い出を大切に心に抱いて生き続け、その30年後に亡くなるとします。でも、あなたが死んで、あの世に着いたと思ったら、そのすぐ直後に相手も出現するのです。あの世での再会にタイムラグはないのです。なんと、素晴らしいことでしょうか。ロスの考えが正しく、また人間だけでなくエルフにも通用するとすれば、フリーレンが亡くなった瞬間、なつかしい勇者ヒンメルに会えることになります。

銅像は何のためにあるのか? 

 そのヒンメルは自分のことを「イケメン」であると思っており、魔族を倒した町や村の人々から銅像を建立してもらうことを好みます。天下布礼日記「『銅像に学ぶ』開始!」にも書いたように、わたしは大の銅像好きですので、ヒンメルに親近感を抱きました。2巻第13話「解放祭」では、ありし日のヒンメルに向かって、フリーレンが「ヒンメルってよく像作ってもらっているよね」と言います。それに対して、ヒンメルは「皆に覚えていて欲しいと思ってね。僕達は君と違って長く生きるわけじゃないから。後世にしっかりと僕のイケメン振りを残しておかないと」と言うのですが、その後で「でも一番の理由は、君が未来で一人ぼっちにならないようにするためかな」と付け加えます。「何それ?」と問うフリーレンに向かって、ヒンメルは笑顔で「おとぎ話じゃない。僕達は確かに実在したんだ」と言うのでした。遺影や遺品や遺言状などが代表的ですが、後世の人が故人を忘れないためのものがあります。その最たるものが銅像かもしれません。それは、故人が残された人々の心に生き続けるためのメディアなのです。

愛する人を亡くした人へ』(現代書林)

 『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)に書きましたが、死者のことを思うことが、死者との結びつきを強めます。メーテルリンクの『青い鳥』には「思い出の国」が出てきます。自身が偉大な神秘主義者であったメーテルリンクは、死者を思い出すことによって、生者は死者と会えると主張しています。また、アフリカのある部族では、死者を2通りに分ける風習があるそうです。人が死んでも、生前について知る人が生きているうちは、死んだことにはなりません。生き残った者が心の中に呼び起こすことができるからです。しかし、記憶する人が死に絶えてしまったとき、死者は本当の死者になってしまうというのです。誰からも忘れ去られたとき、死者はもう一度死ぬのです。

諸国で魔法を収集するフリーレン

 『葬送のフリーレン』は魔法使いの物語ですが、彼女は諸国を周りながら、さまざまな魔法をコレクションします。それが、「銅像の錆を落とす魔法」や「カビを消滅させる魔法」や「しつこい油汚れを取る魔法」や「温かいお茶が出てくる魔法」といった科学薬品とか家電製品のような魔法が多いです。中には「花畑を出す魔法」とか「失くした宝飾品を見つける魔法」といったロマンティックな魔法も登場しますが、だいたいフリーレンが収集している魔法は、現代日本ならホームセンターで売っているような魔法が多いのです(笑)。もちろん、魔族を倒すためには、そんな魔法では間に合いません。フリーレンは歴史上、最も多くの魔族を死に至らしめた「葬送のフリーレン」と呼ばれた最強の魔法使いなのであり、戦闘の際にはすさまじい破壊力の魔法を駆使します。

法則の法則』(三五館)

 拙著『法則の法則』(三五館)で、わたしは魔法について書きました。魔法とは正しくは「魔術」といいます。魔術とは何か。それは、人間の意識つまり心のエネルギーを活用して、現実の世界に変化を及ぼすことです。そして、魔術には二種類あります。心のエネルギーを邪悪な方向に向ける「黒魔術」と、善良な方向に向ける「白魔術」です。そして、「黒魔術」で使われる心のエネルギーは「呪い」と呼ばれ、「白魔術」で使われる心のエネルギーは「祈り」と呼ばれます。4巻の第31話「混沌花」では、旅の仲間である僧侶のザインから「なあ、フリーレン。呪いってなんなんだ」と質問され、フリーレンは「魔物や魔族が使う魔法の中には人を眠らせたり石にしたりすものがあってね、その中でも人類が未だに解明できていない魔法を”呪い”と呼んでいるんだ。人類の魔法技術じゃ原理も解除方法もわからない」と答えています。

 面白いのは、この物語では、魔法使いの資格認定制度が登場することです。大陸魔法協会という組織があって、魔法使いの一級から五級までの試験を行って資格を認定しているのです。4巻の第37話「一級試験」で、フリーレンの仲間たちへの説明によれば、五級以上の魔法使いの総数は600人。見習いの六~九級を含めると全体で2000人。そのうち、一級は45人。一級試験は3年に一度で、オイサーストの北部支部と聖都シュトラールの本部の2か所で開催。合格者が出ない年も多く、当たり前のように死傷者も出ていると説明されています。一級魔法使いというのは、魔法使いの中でもほんの一握りの熟練者なのです。

「ふくおか経済」2020年12月号

 魔法使いの資格認定制度のくだりを読んだわたしは、全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)のグリーフケア・プロジェクトチームの座長として現在取り組んでいる「グリーフケア資格認定制度」を連想しました。この資格は一級から三級まであります。考えてみれば、グリーフケア士というのも魔法使いのような存在かもしれません。それは人々の悲嘆に寄り添い、「癒し」や「祈り」と深く関わる「白魔術師」という魔法使いです。そう、魔術の本質とは人間の心に影響を与えて現実を変えることであり、グリーフケアこそは白魔術ではないでしょうか。絵柄も優しく、死者への想いに満ちた『葬送のフリーレン』そのものがグリーフケアの物語であると言えるでしょう。今後の展開を楽しみにしています。それにしても、世の中、グリーフケアに満ちていますね!

 そのように思っていたら、当ブログ記事を読まれた上智大学グリーフケア研究所の島薗進所長から、「『葬送のフリーレン』のご紹介、興味深く拝見しました。このコミックも見てみたいです。ご紹介いただいただけでも、たいへん惹かれます。ありがとうございます。『鬼滅の刃』と同様、日本の慰霊の文化との関係がありそうですね。マックス・ウェーバーの『世界の魔術からの解放(脱呪術化)』という概念に対して、1980年代から批判が起こり、『世界の再魔術化(再呪術化)』という概念も定期されています。『魔術からの解放』はドイツ語のEntzauberungを英訳してdisenchantment、『再魔術化』はreenchantment ですが、『魔法の世界、夢の世界』に入っていくことと死の向こう側を感じとることはつながります。再魔術化とグリーフケアを結びつける議論はまだなされていないと思いますが、十分、可能な議論だと思います」という内容のメールが届きました。
 「再魔術化とグリーフケアを結びつける議論」、非常に興味があります。島薗所長、素晴らしいヒントを与えていただき、ありがとうございました!

Archives