No.1925 人生・仕事 | 幸福・ハートフル | 芸術・芸能・映画 『笑顔まんてんタビ好キ的生き方のススメ』 前川清著(中央公論新社)

2020.08.07

『笑顔まんてんタビ好キ的生き方のススメ』前川清著(中央公論新社)を読みました。一条真也の新ハートフル・ブログ「前川清さんにお会いしました!」で紹介したように、このたび、日本を代表する歌手の1人である前川さんにわが社のCMキャラクターをお願いすることになりました。
また、九州朝日放送の人気番組「前川清の笑顔まんてん旅好キ」を提供させていただくことになったので、2015年11月25日に刊行された本書を読んだのですが、わたしが想像していた以上に面白く、また考えさせられる内容でした。好著です!

著者の前川清さんと

著者は、1948年長崎県生まれ。68年「内山田洋とクール・ファイブ」のヴォーカルとして活動開始。69年「長崎は今日も雨だった」でメジャーデビューし、「そして、神戸」「東京砂漠」などのヒットで「NHK紅白歌合戦」に29回出場。サザンオールスターズの桑田佳祐が「最もリスペクトする歌手」として挙げていることは有名。歌手としてだけでなく、「8時だョ!全員集合」や「欽ドン!」といったバラエティーでも活躍。現在は、「前川清の笑顔まんてんタビ好キ」ほか、テレビ、コンサート、舞台、CMと幅広く活躍されています。

本書の帯

本書のカバー表紙には、「笑顔まんてん旅好キ」で放送された数々の名場面の写真が使われ、帯には「日本もまだまだ捨てたもんじゃない!?」「『歌手・前川清』を変えた『タビ好キ』とは、いったいどんな番組なのか? そして『タビ好キ』では言えなかったこと……」「『前川清の笑顔まんてんタビ好キ』絶賛放映中! 毎週日曜 正午~0:55(九州朝日放送)」と書かれています。

本書の帯の裏

アマゾンの「内容紹介」には、こう書かれています。
いまやテレビ業界で‟高視聴率男”と呼ばれる
前川清が自身の番組『タビ好キ』を語る!
大物演歌歌手が「俺ってこんなキャラだったっけ?」と呟いてしまう、超人気ローカル番組の裏側とは?
前川清の思いがたっぷり詰まった一冊です。

また、「内容紹介」にはこうも書かれています。
「国民的テレビ番組がずらりと並ぶ、日曜正午。他エリアとはやや事情が違い、九州では『前川清の笑顔まんてんタビ好キ』(九州朝日放送)が圧倒的な視聴率で他局を上回っています。歴代最高視聴率14.3%を叩きだし、今なお快進撃を続ける地方のオバケ番組の裏側とは!? そこには大物演歌歌手・前川清さんの知られざる熱い思いがありました。番組のことはもちろん、家族への思い、人生論等、多岐にわたって前川さんが語ります」

さらに、「出版社からのコメント」として、「KBCで始まった九州・沖縄をめぐるタビ番組が、どんどん視聴率を上げ、全国ネットに。その立役者ともいえる前川清さんに、番組の成り立ちや悲喜こもごもを聞きました。また、故・藤圭子さんやご家族のことなど、初めて語る内容も!『笑顔まんてんタビ好キ』の魅力と、前川さんの本音が詰まった、元気が出る1冊です!」と書かれています。

放送400回を超えた人気長寿番組!

本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「プロローグ」
第一章 『タビ好キ』ができるまで
第二章 視聴率も好調なり
第三章 番組で出会った素敵な人々
第四章 僕ってこういうキャラだっけ!?
第五章 歌手という仕事
第六章 家庭人として
第七章 僕のまんてん流日常

「タビ好キ」とはいかなる番組か?

国民的番組の「NHKのど自慢」も放映される日曜日の正午という最激戦区で常に高視聴率をキープし続ける「前川清の笑顔まんてんタビ好キ」とは、果たしていかなる番組か? 第一章「『タビ好キ』ができるまで」では、「やらせなしのドキュメンタリー」として、著者は以下のように述べています。
「僕がやりたかったのはバラエティー色を極力省いた、ドキュメンタリーの旅番組でした。旅の中で僕が出会う人々を、そのままカメラで追ってほしいと思いました。主役は、あくまでも地元に暮らすごく普通のお年寄りたちです。奥さんに先立たれて独り暮らしをしているおじいちゃん。子どもが都会に出て行って、今は二人で支え合って生きているご夫婦。趣味を大いに謳歌しているおばあちゃん――。そういう方たちから、それぞれの人生の話をちょっとだけでも聞けたらいいなという思いでした。お笑いも、特別な感動も、あえて追求しない。ただ、ありのままのお年寄りたちがそこにいてくれれば良い」

何の変哲もない田舎町を行く!

また、「グルメも行列店もパス」として、「『タビ好キ』の町歩きの基本テーマは、『地元に暮らしている人々との出会い』ですから、人がわんさか集まるような観光名所などは、まず歩きません。表通りを避けて、できるだけ裏へ裏へと行く。人がいないところばかり歩きながら、人との出会いを求めるという不思議な旅です。商店街でも、お客さんで賑わっているところではなく、シャッターが下りかけているようなさびれたところばかり狙って歩いています」と述べています。

高齢者の話に耳を傾ける

「人見知りの僕が人と出会う仕事を」として、著者は、以前いきなり訪問したお宅に、足が悪くて寝たきりのおじいちゃんが1人で暮らしていたことに触れ、「身寄りがないと聞いて、『おばあちゃん(奥さん)はどうしたの?』とサラッと聞きました。独居のおじいちゃんに、家族の話を聞いちゃ気の毒だという方もいるでしょうね。だけど僕は、単純に抱いた疑問をそのまま素直にぶつけました。それが人と人との普通の会話だと思ったから。おじいちゃんは僕の言葉を自然に受け止めてくれて、そこから、奥さんや他の家族が亡くなった話になっていきました。『そりゃ、おじいちゃんも辛かったねぇ』と相づちを打ちながら、心の距離がすごく近づいていくのを感じました。相手の心に寄り添い、その時々に抱いた素直な気持ちで向き合えば、人は警戒せずに話してくれるものだと実感しました」と述べています。

高齢者の生き方に学ぶ

著者が出会う多くの高齢者には、配偶者を亡くされた方が少なくありません。その中には、亡き奥さんを想ってずっと海を見つめている漁師のおじいさんや、奥さんが亡くなった事実を受け止めきれずに酒びたりになっている還暦の男性、撮影が終わってもずっと撮影クルーの後をついていくる一人暮らしのおばあさんなどがいます。みんな心の中に悲しみや寂しさを抱えて生きているのですが、著者は彼らに寄り添って「そりゃ、辛かったねえ」とさりげなく声をかけるのです。どれほど悲嘆と共に生きている高齢者たちの心は慰められることでしょうか! わたしは、著者は素晴らしいグリーフケア・カウンセラーであると思いました。

まさに一期一会の番組 !

著者は、お年寄りと会話をしながら、ときどき「あぁ、こうして今は楽しくお話ししているけれど、もう二度と会えないかもしれない。これが、この方と交わす最後の会話になるのかな」と思うそうです。まさに一期一会の番組ですが、多くの高齢者と語り合ううちに、著者は、人生の幕の引き方というのを考えさせられるようになったそうです。「何事も、始まりがあれば、終わりがある――。人間、何かを始める時はいいけれど、辞めるのは大変ですよね。辞める時は、始める時の何倍も勇気が必要です」と述べています。

「修め方」に想いを馳せる

また、辞めるのが大変なのは著者が生きる芸能の世界でも同じであるとし、次のように述べています。
「たとえば、1ヵ月の舞台で座長を務めることになれば、歌って 、お芝居をして、共演者やスタッフを引っ張って行かなければならない。相当な体力、気力が要求されます。80歳でそれを務め上げられるかというと、ちょっと無理でしょうね。では、いつが幕引きのタイミングなのか。誰かが判断して引いてくれるのに任せるのか。自分自身で区切りをつけるのか。それが大事になってくる。難しい課題ですが、僕はやっぱり、人に言われる前に、自分自身でよく考えて決断するのがベストだと考えています」

本書は、著者の「番組に対する想い」だけでなく、著者の「人生観」というものが見事に書かれています。結婚についても言及していますが、「スターもノッている時に結婚するのが、絶対にいいんですよ。ファンも離れない。周りから見ると、今は人気のピーク時なんだから、結婚なんてもう少し待てばいいのに……と思うでしょうけれど、実はそうじゃない。ピークだからこそ、踏み切っちゃったほうがいいんです。よく見てごらんなさい、売れてる人はいい時に手を打っていますから。スターは結婚すると人気が下がると思いがちだけど、下がらないんですよ。逆に、ちょっと人気が下降してきて……言い方は悪いけど、落ちぶれたイメージになったあたりで結婚なんかすると、ファンがさぁっと離れていく。不思議ですが、そういうマイナスの相乗効果というものがあるんですよね」と述べます。自身が人気の絶頂にあった1971年に、これまた人気絶頂だった藤圭子さんと結婚された著者ならではの重みのある言葉ですね。

歌手としての著者の偉大さは改めて言うまでもないでしょう。そんな著者のことをリスペクトする人々は多く、「1人で活動するようになってから、坂本龍一さん作曲、糸井重里さん作詞という、才能の塊のようなコンビにソロとしての曲『雪列車』を書いていただいて以来、素晴らしいアーティストの方々に数々の楽曲を提供していただきました。福山雅治さんが作詞作曲してくれた『ひまわり』も、『雪列車』同様、それまでの僕の殻を破り、新たな面を引き出してくれた歌です」と述べています。

また、著者は「僕に、それまでの独特な歌唱をやめさせて、新たなイメージを押し出そうとしてくれたのは、坂本さんと福山さんのお二人でした。今や日本を代表するアーティストの方たちですから、僕は本当にラッキーとしか言いようがありません。当時、連絡先を交換しましたが、お忙しい方々ですからやはり遠慮してしまいます。気楽に連絡できる相手ではありません。そんな中、糸井さんは、僕のコンサートを今でも度々観に来てくださいます。それもちゃんとチケットを自分で買ってです。ありがたいことです」

さらに、著者は「福山さんもさることながら、桑田佳祐さんもご自分のコンサートで、クール・ファイブ時代の歌を度々カバーして歌っていただいています。桑田さんがカバーしてくれるおかげで、新聞もデカデカと話題に取り上げてくれるので嬉しい限りです。僕も、桑田さんの『真夏の果実』を自分のCⅮでカバーしていますし、コンサートで何曲か歌わせてもらっています」と述べています。桑田佳祐氏が大の前川清ファンであることは有名で、「ひとり紅白歌合戦」などで何度もクール・ファイブのヒットナンバーを歌っています。著者も桑田氏の才能・楽曲を認めており、「真夏の果実」の他にも「TSUNAMI」「SEA SIDE WOMAN BLUES」などのカヴァーに挑戦しています。これがまた素晴らしい!

さて、わたしは大きな誤解をしていました。
歌手・前川清が偉大であることはよく理解できますが、クール・ファイブ時代のバックコーラスの5人のことを軽視していました。「コーラスするだけでテレビに出られて、楽でいいよなあ」と思っていたのです。しかし、本書を読んで、その考えを改めました。というのも、著者は「クール・ファイブのすごさというのは、わかる人にはわかると思いますが、一般の人にはわかりにくいのかもしれません。僕の後ろで、おじさんたちが、ただ『ワワワワ』とか『ルルルル』とか言っているだけのように見えるでしょ? でも、実は、和音の組合せが他のグループと全然違うんです。みんな、もともとジャズの演奏家ですから、ジャズのコードがしっかり体に入っていて、それぞれが絶妙な音でコーラスを組み立てていて、決して単調なコーラスではない。演歌のバックコーラスにジャズの感覚を持ち込んだ、結構すごい人たちなんです」と述べているのです。

著者の話には含蓄があります

最後に、著者はよく「どんな人生が理想ですか」と聞かれることがあるそうですが、「僕にはもともと理想というものがありません。あるとすれば、とにかく『安心して食っていける人生』ですかね。昔も今もそれは変わりません。まずは仕事が途切れずにあることが、一番の理想かも。日々仕事があって、『ああ忙しい。たまには休みたいなぁ』と思って過ごしている中に、やっと一日休みがある。そんな暮らし向きが、一番しあわせだと思っています」
これはシンプルなようで深い幸福観であると思います。本書には、著者の人生観、結婚観、家族観、仕事観、死生観などもふんだんに語られています。そのどれもがハートフルで、本書そのものが優れた幸福論になっています。それにしても、素晴らしい方にわが社のCMキャラクターになっていただきました。前川清さん、今後ともよろしくお願いいたします!

今後ともよろしくお願いします!

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