No.1924 人生・仕事 | 人間学・ホスピタリティ | 経済・経営 『礼節と誠実は最強のリーダーシップです。』 園山征夫著(クロスメディア・パブリッシング)

2020.08.03

 『礼節と誠実は最強のリーダーシップです。』園山征夫著(クロスメディア・パブリッシング)を読みました。2014年5月に刊行された本で、「仕事と人間関係の参考書」というサブタイトルがついています。著者は1967年慶応義塾大学経済学部卒業後、三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。73年国際ロータリー財団奨学生として米国ニューメキシコ大学経営大学院に留学。84年CSKに入社。CSK創業者、故大川功会長より経営危機のベルシステム24の立て直しを託され、86年専務、87年43歳で同社社長に就任。94年店頭公開。99年には東証1部上場を果たし、テレマーケティング業界No.1の企業に成長させたそうです。

本書の帯 

 本書の帯には「リーダーは勤務時間の13%を部下の無礼な行動の後始末に費やしている。」と大書され、「43歳で社長に就任。倒産寸前、売上19億円の会社を、1,000億円を超える一部上場企業にしたプロ経営者が語る、ビジネスで大切なこと。」と書かれています。またカバー前そでには、「カリスマ性やテクニック的なものは長続きしない。」と書かれています。

 本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「はじめに」
第1章 礼節
第2章 部下指導
第3章 リーダーシップ
第4章 ビジネス
「おわりに」

 「はじめに」の冒頭を、著者は「ビジネスの善し悪しは、人と人との関係次第で決まります。ある調査報告では、企業のマネジャーや幹部は勤務時間の13%を、社員の人間関係の修復や無礼な行動の後始末に費やしていると述べています。それほど、生身の人間同士の関係は、マネジメントにとって重要な課題です」と書きだしています。

 また、著者は「部下のやる気を引き出すリーダーシップを持つには、上司のあなた自身が主体的に周囲の人に『礼節』と『誠実さ』をもって接することが大切です」と述べます。魅力あるリーダーは、この礼節と誠実さをビジネスマンとして理にかなった形式で備えているのをたくさん見てきたとして、著者は「礼節と誠実さは、優れたビジネスマンとしての骨格の部分に相当します。これに基づいたマインドと行動は、上司や部下、周囲の同僚や取引先から信用・信頼という最も大切なものを得るのに不可欠です。結果として、良き人間関係を構築でき、リーダーシップの源泉となるものです」と述べるのでした。

 さらに、リーダーのあるべき姿として、著者は「普段の行動の中で礼節と誠実さをもって人間関係をどう築いているかで、周囲の人たちの応援の姿勢がまったく違ってきます。そして、失敗から得た教訓と経験が、仕事への考え方、行動、姿勢、スタンスの変化につながり、周囲からの協力と応援を得て、リーダーとして職責を全うすることができるようになるのです」と訴えています。

 第1章「礼節」の01「誰からも褒められるあなたの会社、あなたの部下」では、良い雰囲気の会社では、会社内の権力構造とは関係なく、自由闊達でオープンなコミュニケーションができると指摘します。著者は、「それでいてその会社の上司や取引先のあなたたちに礼儀を失する発言や行動もありません。社員一人ひとりが自主性をもって発言し、しかも個人の能力をうまく会議全体に反映させようとするチームワークもあります」と述べます。

 「勝った」「負けた」に議論の力点を置くのでなく、良い企画に仕立てようとする参加者全員の意識がこの場の行動となって表れるといいます。つまり、礼儀、礼節ができているのです。著者は、「部下は上司であるあなた自身のモノの考え方と行動を、普段の仕事を通じて見ています。普段あなたが部下に指導するときの、礼節を通して生まれる良好な人間関係づくりが、あなたの部門全体の雰囲気づくりに影響しています」と述べるのでした。

 08「非常識だからこそ礼節を」では、「非常識」なことをするためには、普段から組織の中で、ビジネスマンとしての「礼節を守る」人間でなければ周囲のサポートが得られず、チャンスをものにできないことが指摘されます。単なる「変人」のレッテルを貼られる憂き目にあうのです。「革新する人」として一気に上方へ直線を引く成長を実現するには、周囲のたくさんの応援が不可欠で、著者は「少なくとも、普段のあなたの行動の中で、ビジネスマンとしての礼節を重んじ、信頼を勝ちとる仕事をすることが最低限要求されます。チャンスが来たら一気に非常識な路線に勝負を賭けて実行に移せるからです」と述べています。

 第4章「ビジネス」の46「ビジネスマンとしての成功とは何か」では、野望の変質の過程を経て、一番の成功をつかむ人もいるとして、「信頼される人」「誠実な人」になることが薦められます。著者は、「価値観の違いがあり、一概に、何が成功なのかと断定することはできません。しかし、ビジネスマンとして優れたリーダーシップを発揮している人で、周囲から『あの人は信頼できる』『誠実だ』と言われない人は少ないものです。稼いだ金銭の多寡など全く問題外です」と述べます。

 最終形として、信頼できる誠実な人になるのが成功だとすると、普段から誠実さを行動で示し、肩ひじ張らず、嘘をつかないで普通に生きることに尽きるとして、著者は「逆説的ですが、『普通に生きていない』からどんどん成功から遠ざかっているかもしれません。リーダーのあなたが意識して、一人でじっくり考えてみてください。一人だからじっくり考えるとも言えますが、考えて、考えて何かに気づくと思います。こんな成功こそ、あなたの最大の礼節です」と述べるのでした。

サンレーの社内イベントのようす

 第5章「マネジメント」の53「ユニークなイベントを仕組みに取り込み標準化する」では、人が賑わう場のイベントを仕組みとして標準化することを大事な役割であると指摘されます。なぜなら、イベントには、必ず人間が集まるからです。著者は、「運動会、社内バス旅行、感謝の会などいろいろなイベントがあり、部門の規模などによって多少態様が違うと思いますが、事の本質は変わりません。決まりきった儀式は、誰かがやるもの。例えば、入社式なら、どの会社でも標準化ができていると思います」と述べます。

サンレーの社内イベントのようす

 ところが、「こんな集まりがあったら、社員全員が元気になるのになあ」と誰かが思いつくことには、手を挙げてやる人がいるとは限らないとして、「どんなに良いものでも、これを仕組みとして標準化しない限り、継続するパワーにはなりにくいものです。そこで、儀式として標準化するあなたのエネルギーを投入する出番です」と述べています。この点、儀式そのものを商品とする「礼の社」であるわが社のイベント運営は他社にない独自性があると自負しています。

 55「まず形から入る」では、「まずは内側の形を整える」として、著者は「形から入ることで、徹底して実行を重ねた結果、内面の内容がついてきます」と述べます。著者が経営を託されたとき、社是、経営理念など会社の経営の根幹になる部分をまとめ、毎朝の朝礼や人の集まるところで必ず唱和する習慣づけをしていたそうです。最初は、「何だ、小学生みたいに」と皆、反発しましたが、数年これを唱和し続けると、「内容がわかるようになりました。これで部下に指導しやすくなります」という反応が表れるようになったそうです。

S2M」宣言を唱和するサンレーの式典 

 また、著者は「自分で会得した後は、部下指導にも熱が入ります。文字という形にした経営理念を唱和という形で唱えているうちに、自ずと部下の心に響くレベルへと理解度が増してくるのです」と述べています。わが社も、コロナ禍の前は毎朝の朝礼や総合朝礼や式典などで「経営理念」を唱和していました。わが社の大ミッションである「人間尊重」、小ミッションである「冠婚葬祭を通じて良い人間関係作りのお手伝いをする」に基づいて、「S2M」宣言というものを唱和します。まず、「私たち、サンレーグループ社員は、S2Mの精神をもって21世紀にチャレンジします」という前置きの後、以下のように続きます。

サンレーグループの「S2M宣言」

一.SUNRAY TO MEMBERS   
  会員様のお役に立てるサンレー
一.SYSTEM TO MONEY       
  財務力を強化するシステムの確立
一.SPEED TO MARKET       
  市場への迅速な対応
一.SKILL TO MAJOR         
  一流になるための技術の向上
一.SERVICE TO MIND        
  お客様の心に響くサービス
一.SMILE TO MANKIND       
  すべての人に笑顔を
一.SUPPORT TO MORAL       
  倫理・道徳 実践の支援
一.STRAIGHT TO MISSION    
  社会的使命の追求

 61「最後に凄味をもって臨む」では、著者は「生身の人間が悩みを抱きながら生きる。これが自然の姿だと思います。また、組織や体制などに逆らえない状況もわかります。『なんでこうなるの?』とやり方に憤慨しながらも、組織や体制、社員も全く無関係に変な方向にどんどん動いて、流されていく。礼儀を正し、礼節を重んじてビジネスをやってきた。しかし、自分を守ることすら大変な状態で、部下の成長に対して何とかしたくてもできない、というリーダーのあなたの心境もわかります」と述べます。しかし、どんな境遇になってもあきらめない覚悟があれば大丈夫で、「分限をわきまえ、信念をもって生きることです。裸の自分を信ずる力強ささえあれば、何があっても動ずることはありません」とも述べています。

 「おわりに」では、著者はこう述べるのでした。
「残念ながら、現在、礼節や誠実さをもとにした人間関係が少し軽んじられていることを、私は危惧しています。合理性と効率を前面に出した経営手法に追いやられすぎて、組織内外の人間の関係性も乾ききってしまい、かえって経営全体の効率を下げていると思います。ある因縁で一緒に仕事をすることになった部下の幸せのために、礼節をもって誠実に一生懸命経営していかなければならない、というこだわりを私は持っています。上司たるリーダーが少しでも周囲の人に礼節と誠実さの模範を示すことが、人材の育成と成長に役立ち、会社に付加価値をもたらしてくれるものと考えています」

 正直言って、「この本には当たり前のことしか書かれていないな」と思いました。しかし、それが大切なのです。なぜなら、世の中には「当たり前」のことがわかっていない経営者やリーダーが多いからです。メディアなどで持ち上げられるポット出の起業家には、傲慢で性格が悪いばかりか、礼儀正しくない人間が多いです。「この世には聖人君子などいない」ということを逆手にとって何でも欲望のままに行動する輩も多いです。しかし、そういう勘違いした連中は長続きしません。まさに、カリスマ性やテクニックでは長続きしないのであり、礼節と誠実こそが最強のリーダーシップなのです。

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