No.1800 エッセイ・コラム 『サメに襲われたら鼻の頭を叩け』 鉄人社編集部編(鉄人文庫)

2019.12.05

 『サメに襲われたら鼻の頭を叩け』鉄人社編集部編(鉄人文庫)を読みました。「最悪の状況を乗り切る100の解決策」というサブタイトルがついています。わたしは日々、多くの本を読みますが、本書ほど多大なインパクトを受けた本はなかなかありません。ものすごい名著だと思いました。今年の「一条賞」の有力候補です! 

本書の帯

 本書のカバー表紙には海の中で巨大なサメが女性スイマーに襲いかかろうとするイラストが描かれています。帯には「チケット紛失 ラブホ満室 婚約破棄 ビル火災 通り魔 心肺停止 パワハラ 遭難 巨大地震襲来 旅客船沈没」「『知識』は必ず『ピンチ』を救う」と書かれています。

本書の帯の裏

 また、帯の裏には以下のように書かれています。
「連帯保証人になってくれと泣きつかれた」
「ギャンブルにハマり借金地獄。自己破産したい」
「交通事故の加害者が保険に入っていない」
「知らぬ間に覚醒剤の運び屋にされていた」
「我が子が学校でイジメを受けている」
「スカイダイビングでパラシュートが開かない」
「遊泳中、足がつって溺れそうだ」
「駅のホームから転落した and more」

 カバー裏表紙には、以下の内容紹介があります。
「SNSで一方的に誹謗中傷された。走行中、急に車のブレーキが効かなくなった。クレジットカードが不正に使われた。目の前で人が心肺停止に陥った。乗った飛行機が今にも墜落しそうだ ――。人間生きていると、様々な危機に遭遇する。予期せぬトラブルに襲われたとき、果たしてどう対応するのが正解なのだろう。本書は、我々が直面してもおかしくない100のシチュエーションと、そこを乗り切るための術とヒントを解説した1冊である。決してあきらめてはいけない。『知識』は必ず『ピンチ』を救う」

 本書の「目次」は、以下の通りです。
ごくごく身近な「ヤバい」
寝坊したときの、使える「遅刻の言い訳」
電車に乗っていたら強烈な便意が襲来
公衆トイレで便をしたらペーパーがない
「トイレつまり」で業者を呼んで、目が飛び出るような作業代を請求された件
バス酔いで、吐き気を催したら
あがり症なのに、突然人前でスピーチを頼まれた
鍵を閉め忘れた「かも」のときは大抵閉めている
楽しみにしていたコンサートのチケットを紛失してしまった
宿側のミスで部屋の予約が取れていなかった
部屋に鍵を置いたままゴミ出しに。オートロックだから入れない
近隣住人の騒音が我慢できない。殺意を抱く前に取るべき行動は?
高速道路で渋滞に巻き込まれたら
居酒屋でショボい「お通し」が出てきたら、断っていい
窓のないトイレに閉じ込められた。誰か助けてくれ~!
運転免許の学科試験を何度受けても合格できない
警官に横柄な職務質問を受けた。納得できん!
映画や音楽を違法にダウンロードしまくってるんだが大丈夫?
お金まわりの「困った」
知り合いに貸した3万円が返ってこない
「連帯保証人になってくれ」と泣きつかれた
金に困ったら消費者金融ではなく、
まずは市役所へGO!
初めてのキャッシング。親バレ会社バレが怖い
「過払い金請求」を弁護士に頼んで信用できるのか?
ギャンブルや浪費が原因で借金地獄に陥っても「自己破産」できる
「生活保護」の条件を満たしているのに申請すら受理されない
NHK受信料の回収員がやって来た
大家が、次回の更新から家賃を値上げしたいと言ってきた
交通事故の加害者が保険に入っていなかったら?
クレジットカードが不正に使用された
詐欺通販サイトに金を振り込んでしまった
パソコン、スマホに突然アダルトサイトの請求画面が現れた
歌舞伎町のぼったくりキャバクラに入ってしまったら
駐車違反の取り締まりに遭ったら、警察に出頭せず反則金だけ払え
男と女の一大事
彼女が俺のスマホを勝手にチェックしてるっぽい
思わず中に出してしまった!妊娠したらシャレにならん
どうしても意中の相手と付き合いたい
離婚歴を気づかれずに再婚したい
結婚を前提に付き合っていた相手から一方的に別れを告げられた
不倫相手の配偶者から高額の慰謝料を請求されて夜も眠れない
リベンジポルノに遭ったら
ストーカー被害で警察に動いてもらうには?
出会い系サイトで知り合い、セックスしたら女性が未成年だった
せっかくのチャンスなのに、どのラブホテルも満室。困った!
人生初の大ピンチ! さぁどーする?
ツイッターやフェイスブックに誹謗中傷の書き込みや画像をアップされた
アルバイト先の店長から突然「明日から来なくていいよ」と言われた
職場で上司から、許しがたいパワハラ被害を受けている
我が子がイジメに遭っている
電車内で痴漢に間違えられた
酔って殴りかかってきた相手にケガを負わせてしまった
万が一逮捕された際に覚えておくべく2つの重要事項
夜に帰宅途中、誰かが後を付けてくる
空き巣被害に遭った。どう対応すれば?
暴力団、ヤンキーの車にぶつけてしまった
覚せい剤と知らず「運び屋」になってしまった
エイズ検査で陽性反応が出た
その応急処置が命を救う
餅を喉に詰まらせた
どうしても、しゃっくりが止まらない
遊泳中に足がつったら
耳の中に異物が入ったら
目に異物が入った、刺さった、打撲した
安心して良い鼻血、危険な鼻血
子供が誤って異物を飲んでしまった
ハチに刺されてしまった
周りの人が感電したら
衣服に火が燃え移ったら
マムシやハブなどの毒蛇に噛まれたら
熱湯を被ってしまった
胸や腹部を強打したら
頭部をぶつけた際にできること、疑うべきこと
突然、嘔吐したら
突然、家族や知り合いが血を吐いたら
突然、痙攣を起こしたら
必ず覚えておきたい「心肺蘇生法」の手順
誤って指を切断したら
絶体絶命! でもあきらめるな
駅のホームから線路に転落したら
運転中、車のブレーキが効かなくなった
レイプされそうになったら
車に拉致されそうになった、連れ込まれた
屋外で「通り魔」に遭遇した
海で「離岸流」に巻き込まれ沖に流されたら
登山中、道を見失った。遭難か!?
サメに襲われたら鼻の頭を叩け
山中でクマにバッタリ出くわしてしまった
山中で雪崩が発生、巻き込まれた
巨大な竜巻に襲われた
台風や豪雨で大洪水に巻き込まれた
登山中に火山が噴火した
ビルで火災に遭遇した
スカイダイビングの最中、パラシュートが開かなくなった
車ごと海に転落してしまった
もし、突然エレベータが落下したら
大型旅客船が沈没しそうだ
乗った飛行機が今にも墜落しそうだ
渡航先でテロ・銃撃戦に巻き込まれたら
巨大地震に襲われたら
屋内編
屋外編
乗り物編
郊外編
覆された常識①
安全なのは「机の下」か「三角スポット」か
覆された常識②
火を消すのは原則、揺れが収まってから
覆された常識③
被災直後は誰も助けてくれない
覆された常識④
生死を分けると言われる「72時間の壁」を信じるな

 本書はとにかく、「役に立つ知識」「使える情報」の宝庫なのですが、まず、わたしが感心したのは「電車に乗っていたら強烈な便意が襲来」という項目でした。本書には以下のように書かれています。
「便意を抑える直接的な行動としては、反時計回りにお腹を5分ほど撫でる(腸の動きを抑制でき、腹痛が和らぐ可能性あり)などの方法があるが、最も効果的なのは尻の括約筋を締めることだ。ずっと力を入れるのではなく、便意の波が来た、ここぞというときに集中的に力を込める。治まれば緩める。これを繰り返せば、しばらくは持つ」

 また、「公衆トイレで便をしたらペーパーがない」という項目には感心しました。まずはトイレットペーパーの芯を破って使え」とアドバイスしますが、最近は芯なしのトイレットペーパーが多いとした上で、以下のように書いています。
「靴下やブリーフやランニングシャツを紙の代用品にするのだ。言うまでもなく、靴下は肛門に優しい布製。面積もそこそこあるので十分に目的は果たせる。ブリーフやシャツも同様だ。その際、代用品の衣類は使用前に水で湿らせておくといいだろう。洗浄力がアップするだけでなく、肛門をリズミカルに押し拭くと、肛門に当たるヒンヤリとした感覚が実に気持ちいい」

 これだけではありません。さらに以下のように続きます。
「衣類を使えない事情があった場合は、財布の中を確認してみよう。レシート、名刺などなど、代わりになりそうなものがあるはずだ。究極は1千円札、5千円札、1万円札などの紙幣を使う方法だ。そんなもったいないことできないと思うのは早計。紙幣を丸ごとではなく、一部を破るのだ。ちぎれた札は全体の3分の2以上が残っていれば、銀行で満額交換してもらえる(残りが5分の2以上で半額交換、残りが5分の2未満ではまったく交換できない)」
 「ここまで懇切丁寧にアドバイスしてくれるとは!」と、わたしは感動しました。そして、危機管理の実践例として会社の役員会でこの話をしたところ、参加者はみな絶句していました。(笑)

 「鍵を閉め忘れた『かも』のときは大抵閉めている」も勉強になりました。最新の心理学の知見に基づいて、以下のように書かれています。
「人間の心理は不思議なもので、『かもしれない』と感じたときは、大抵間違っている。本当に忘れた場合は『かも』とは思わず、明確に『し忘れた』ことが脳裏に刻まれる。逆に、完全に忘れていたときには『かも』などと思うことすらなく、帰ってから初めて気づくのがパターンだ。極端なケースで言えば、1週間ほど旅行で家を留守にして戻ってみたら、ストーブが付けっぱなしだったということもある。これを旅行中に仮に思い出したら居てもたってもいられないが、人間は”都合良く”思い出さない」

 「近隣住人の騒音が我慢できない。殺意を抱く前に取るべき行動は?」は、役員会後の懇親会で、わが社の沖縄本部を担当している某役員から相談された案件ずばりそのものでした。その答えは、以下のように書かれています。
「騒音の発生源がわかる、わからないにかかわらず、実際にトラブルに巻き込まれてしまった際は、相手に直接文句を言うのは御法度(壁ドンなども厳禁)。警察に連絡するのもNGだ。恨みを買ったり、自分の怒りがエスカレートし、前記のような惨事に巻き込まれかねない。連絡すべきは、大家もしくは管理会社だ。マンションの場合、管理会社には、住民間で発生するトラブルに対して適切に対応する義務がある。担当者に事情を話し、騒音源の住人に直接注意してもらうか、エントランスなどに張り紙を出してくれるよう促す。ただし、事態を悪化させないよう、苦情を申し立てた当人が何号室の住人かわからないようにしておかなければならない」

 ここまでは、まあ常識の範囲内ですが、ここから先が本書の凄いところです。以下のように書かれています。
「それでも騒音が収まらなければ、選択肢は2つ。賃貸物件なら、『転居』を考えよう。なぜ被害者の自分が越さなければ? と思われるかもしれないが、そこに住み続けるストレスと、最悪の事態を想定した場合、早々に決断するのが賢明だ。また、簡単に越せない分譲物件の場合は、損害賠償請求の裁判を起こすのも手だ」
 ちなみに、沖縄の某役員は騒音の原因となっているマンションの住民に「もう少し静かにしてくれませんか」とお願いに行ったところ、相手がキレて「じゃあ他に移るから、引っ越し代を出せ」と言われたそうです。それを聞いたわたしは、本書のアドバイスのように「理不尽のように思っても自分が引っ越した方がいい。このままストレスが限界を超えて殺人事件にでもなったら、会社が困りますよ」と某役員を説得しました。

 「高速道路で渋滞に巻き込まれたら」も良かったです。
 じつに実践的なアドバイスが以下のように書かれています。
「大型トラックの運転席は一般車よりもかなり高く、見晴らしが利くため、空いている車線を見つけやすい。ドライバーは当然そちらの車線に移動するので、自分もその後を付けるのが賢明。また大型バスの場合は、運転席は大型トラックほど高くないケースが多いものの、無線で本部や他のバスと連絡を取り合っていることが多く、比較的早く渋滞を抜けるための情報を持っている(トラックも同様)ので、こちらも後ろに付けて損はない」
「一番左の車線から時々サービスエリアに入って、すぐに抜け出ることで、30台から70台ほどを追い抜くことができる」
 これを聞いたある人物が「みんながそれを知ってしまえば、同じ行動に出るので、効果はなくなる」と言っていました。確かにそうかもしれませんが、余計なことを言って盛り上がっている場を白けさせることもないのにねぇ。(笑)

 「窓のないトイレに閉じ込められた。誰か助けてくれ~!」では、現実に起こったトイレ閉じ込め事件を例にして、以下のように書かれています。
「やれることは何か。ドアを蹴破れたら問題ない。運良くスマホを持っていたら助けの電話をかければ良いし、窓があれば思いきり叫べばいい。窓がない場合もあきらめず、換気口、あるいは便器に向かって大声を出そう。集合住宅の場合は、配管によって声が反響し、意外な場所まで届くこともある。上下の階からわずかでもトイレの水を流す音が聞こえてくるようなら望みは小さくない」

 「歌舞伎町のぼったくりキャバクラに入ってしまったら」では、こう書かれています。
「小便が漏れそうなほど脅されるに違いない。両サイドに屈強な男に座られるかもしれない。ここで恐怖のあまり、110番に電話をかけ助けを求めても何の解決にもならない。警察には民事不介入の原則があり、お金に関するトラブルにはタッチできないのだ。これは仮に交番に店の人間と行っても同じ。お巡りさんは驚くほど冷たく『当事者でよく話しあってよ』と言うのが関の山だ」

 ここまでは当たり前。ここから先が実践的です。
「そこで、店内においては、勇気を持って強引に帰ろうとする。それを遮るように腕を引っ張られたり、手を出されたら、こちらの思うツボ。暴行罪が成立するからだ。ここで初めて、警察に通報だ。監禁・脅迫・暴行など事件性の高い内容を伝えたら警察は動かないわけにはいかない。場所を交番に移動しても、料金トラブルの話には極力触れず、頭を押された、蹴りを入れられたなど具体的な被害状況を伝える。これで間違いなく解放されるが、怒りが収まらなければ、首が痛いと医者にかかり診断書を手に被害届けを出すのも良いだろう。場合によっては、示談金をせしめることも可能だ」

 「酔って殴りかかってきた相手にケガを負わせてしまった」では、こう書かれています。
「『喧嘩両成敗』という言葉があるとおり、自分も殴られたのだから、一方的に罪に問われるのは納得できないかもしれない。が、自分が無傷なのに、相手がケガを負っていれば、立場は不利。飲み屋での喧嘩となれば店側が110番通報し、そのまま警察署に連行されてしまう」
「この手の事件では、裁判所へ送致される前に被害者との示談が必要不可欠だ。成立すれば不起訴となる可能性が高く、暴行罪の場合は10~30万円、傷害罪は20~50万円が相場だ。初犯だから起訴猶予になる、相手が殴りかかってきたのだから『正当防衛』だと裁判に持ち込むのは賢明ではない」
「ちなみに、正当防衛が認められるのは、生命や身体を守るためにやむを得ず応戦したとき。自分の攻撃が相手の攻撃と同程度であることも重要で、攻撃し過ぎれば過剰防衛に問われてしまう可能性もあることをお忘れなく」
 うーん、小倉生まれで玄海育ちのわたしも気性が荒く、若い頃は酒場で喧嘩したこともありますが、くれぐれも気をつけなければいけませんね。

 「万が一逮捕された際に覚えておくべく2つの重要事項」も役に立ちます。以下のように書かれています。
「万が一に備え必ず知っておかねばならないことが2つある。1つは『黙秘権』だ。刑事訴訟法に『あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要が無い旨を告げなければならない』と定められているように、警察官は黙秘権を被疑者に告知する義務がある。つまり、話したくないことは話さなくても良いというわけだ」
「もう1つの重要事項は、弁護士の助けだ。警察官の中には『1度は弁護士を呼べるが、2回目以降は高い費用がかかる』と言う者がいる。が、これは全くのデタラメ。金銭に余裕がなくとも、当番弁護士を無料で呼べるし、2回目以降も、日本弁護士連盟の法律援助事業の中の『刑事被疑者弁護援助』という制度を使うと、日弁連が費用を負担し、弁護士を派遣してくれる」

 本書のタイトルにもなっている「サメに襲われたら鼻の頭を叩け」では、以下のように書かれています。
「サメの鼻先はロレンチニ器官というセンサーを持った敏感な部位で、ここをしつこく叩けば、急に力が抜けたように大人しくなる場合もある。仮に硬い石や金属などで攻撃すれば、サメは食べられないと瞬時に判断し退散するだろう。もっとも、サメと遭遇して戦いを挑むのはあまりにリスキー。サメを見かけたら、脅かさず静かに浮上するか、岩陰などに隠れるのが賢明だ。万が一の場合は、鼻か、目を攻撃すべし。これまたオーストラリアの例だが、頭から上半身を食われかけた男性が辛うじて伸ばした手の先に、テニスボールくらいのサメの目玉があったので、これを力一杯握り潰したところ、サメが思わずアゴを緩めて口を開け、その隙に逃れたことがあったという」

 海にサメあれば、山にクマあり!
「山中でクマにバッタリ出くわしてしまった」では、木に登るとか死んだフリをするなどの俗説を一刀両断に退けた上で、以下のように書かれています。
「クマが理由なく襲うことはないので、落ち着いて話しかけ、静かに後ずさりしながら臨界の外に出る。それでも近づいてくるようなら、覚悟を決め、目を睨み付け、唸り声を上げ、徐々に声の音量を上げていく。石の上に立って両手を挙げて自分を大きく見せるなどしてクマが怯むまで全力を尽くす。万が一、飛びかかってきたら、致命傷になるのは後頭部から頚部への打撃なので、体を団子虫のように丸め、両手を後ろに組んで後頭部から頚部、腹部を守る。クマの攻撃は1分以内と言われているので、この時間を耐え切ろう」

 「山中で雪崩が発生、巻き込まれた」では、こう書かれています。
「もし雪崩が自分の所に来るまで猶予があるなら、横方向に逃げるのが基本。間に合わず、巻き込まれてしまったら、体から荷物を外して、立ち泳ぎやバタフライの要領で、雪の流れに乗って泳ぐように雪崩の表面に浮かび上がることを心がける。そして、雪の動きが止まりそうになったら窒息しないよう、ひじや手を三角形にして、口の周りに空間を作ろう」

 「巨大な竜巻に襲われた」では、以下のように書かれています。
「竜巻が遠くに見えるレベルなら車で逃げるのもいいが、竜巻の移動スピードは場合によっては時速100キロを超える。車ごと吹き飛ばされないよう、車外に出て避難場所を探す方が賢明だ。ただし、高架下は風速が増し、通過する際には逆風になることもある。実際、アメリカでは高架下に避難するとケガや死亡のリスクが増大するとの統計結果が出ているので要注意だ」

 「台風や豪雨で大洪水に巻き込まれた」では、こう書かれています。
「こうした場合、基本は『浮いて待つ』ことだ。靴やクロックス、サンダルの素材には空気が含まれているため、履いたまま水に浮き、体を水平に保っておこう。水面に顔を出そうとしたり、手を上げて助けを呼ぼうとしたら、体が垂直になることで沈みやすくなり、溺れる可能性が高まる」
「ちなみに、車に乗っていた場合の対応はケースバイケース。救助がすぐ来るようなら車に乗ったままの方が安全だが、そうでなければ車内に閉じ込められ、確実に水没する。流されたとわかったらすぐに車外に出た方が生存率は高い」

 「ビルで火災に遭遇した」では、以下のように書かれています。
「ビル火災で最も恐いのは、炎より煙である。出火により発生した煙は最初は白く、徐々に黄色くなり、最後には真っ黒になって視界を遮る。よって、煙の色が白いうちに屋外に脱出することが重要だ」
「エレベータは、いつ止まってしまうかわからないので使用は厳禁。万が一、閉じ込められたら逃げられず問答無用で煙に巻かれてしまう。焦る気持ちを抑えながら非常階段などで下に逃げよう。ただし、自分がいるより下の階で火災が発生し、脱出が困難な場合は、上に登り屋上などで救援を待つのが賢明だろう」

 「車ごと海に転落してしまった」では、こう書かれています。
「まず覚えておきたいのは(車種によっても異なるが)車は水中に転落しても数分間は浮いていること。その間に窓から脱出するのが一番だ(ドアは水圧で開かない)。パワーウィンドウなら、電気系統がショートするまでの猶予はほんの1~2分。一刻も速い行動が肝心である。窓ガラスが開かなければ叩き割るしかない。とはいえ、素手では不可能なので、何かしらの固い道具が必要。JAF(日本自動車連盟)が女性を被験者に行った実験によれば、ヘッドレスト、小銭を入れたビニール袋、スマートフォン、ビニール傘、車のキーなど、車内にありそうなモノでは、いくら強く叩きつけてもガラスは割れなかったが、緊急脱出用ハンマーを使えば、いとも簡単に粉々になったそうだ」

 「もし、突然エレベータが落下したら」では、こう書かれています。
「有効なのは、エレベータの中央部に腹ばいになり、できるだけ全身を平らに伸ばすことだ。これで衝撃の負荷が体全体に分散する。後は、落下の衝撃で天井から物が落ちてくるかも知れないので、顔や頭を手や荷物で覆って落下物が直接当たらないよう注意するくらいしか、乗客にできることはない。ちなみに、現在の大半のエレベータには、万が一の落下に備え、衝撃を吸収するスプリングが設置されている。その効力を信じて、天命を待つしかないだろう」

 タイタニック号やセウォル号の悲劇を連想させる「大型旅客船が沈没しそうだ」では、こう書かれています。
「万が一、逃げ遅れて船内に取り残された場合、助かる可能性は、『空気だまり』と呼ばれる空間を探せるかどうかにかかってくる。水没していない部屋をあきらめずにチェックしよう。ちなみに2013年5月、ナイジェリアで沈没した船の料理人だった男性は、水面下の船の中、『空気だまり』を見つけ3日近く生存、無事に救助されている」

 覆された常識④「生死を分けると言われる『72時間の壁』を信じるな」では、以下のように書かれています。
「もし、地震で押しつぶされてしまった家屋の中に閉じ込められても、生き延びる方法はある。まずは、顔の周りにわずかでもいいから空間を作って、空気を取り込むのが第一だ。落ち着いたら、唾を垂らすなどして、どちらの方向が上か見極める。もし、自分の上に乗っているガレキがかき分けられそうなら、顔や手だけでも外に出す。しかし、天井や大きな家具がのしかかってとても動かせない場合は、無理をして体力を消耗するより、持久戦を覚悟で助けを待とう」
「ガレキの中で一番役立つのは、笛だ。都合よく首にかかっていればいいが、なければ音の出る物を探す。音の出る家電があればそれでも良し、調理道具を叩いてもいいだろう。とにかく、『絶対に助かってみせる』という気力が72時間の壁を突き破るのだ」

 ここで紹介した項目は本書のほんの一部です。これら以外にも、本書にはたくさんのトラブルやピンチ、そして最悪の状況の事例と解決策が書かれていますので、ぜひ実物を買ってお読み下さい。それにしても、本書を一読して本当に感動しました。『あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)という著書のあるわたしですが、この世には出版するに値しない本が多いことをよく知っています。それに比べて、本書のような本こそ「出版されるべき本」であると心の底から思いました。かつて平凡社を創設した下中弥三郎は、1914年に『ポケット顧問 や,此は便利だ』という自著を出版しました。これが思いもかけぬ大ベストセラーとなり、平凡社のヒット商品である『大百科事典』につながっていきます。同書は『や便』と称されて広く国民に愛されましたが、本書『サメに襲われたら鼻の頭を叩け』こそは現代の『や便』であると思います。

 現在、わたしたちはIT社会のただ中にあります。何かトラブルに遭ったり、ピンチに陥ったときは、多くの人はスマホで検索するでしょう。しかし、本書のアマゾン・レビューには「わたしは『困ったらスマホでググる』が習慣づいているのですが、この本を読んでいると『こういう状況のときはググれないよなあ……そもそも検索ワードがわからないよなあ……』と、改めて事前の知識の大切さを感じます」という意見がありました。たしかに、洪水や雪崩で流されていたり、車ごと海中に落ちた際にスマホは使えません。

 また、アマゾン・レビューの中には、「トラブルにあった時、自分の想像のおよぶ範囲の出来事だったり、聞いたことのある話だったら少しは冷静さを取り戻せるものも、全く思いもよらないものだった場合、思考停止に陥って諦めてしまいそうだが、少しでも知っていれば行動をおこすきっかけになると本書を読んでいて強く感じた」という意見もありました。わたし自身、本書の「駅のホームから線路に転落したら」という項目を読んで、「線路脇の『退避スペース』に転がれ」ということを知りました。今までは「退避スペース」などというものの存在自体を知りませんでしたので、大変心強く感じました。もう、これからは駅のホームから線路に落ちることなど怖くありません。本書の帯にもあるように、「知識」は必ず「ピンチ」を救うのです。本書は個人的に大量購入して、片っ端から周囲の人々に配りたいぐらいの名著であります。

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