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ししりばの家』

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No.1642


『ししりばの家』澤村伊智著(角川書店)を読みました。いま最も注目を集めるエンタメ界の鬼才・澤村伊智が放つノンストップホラーで、一条真也の読書館『ぼぎわんが、来る』『ずうのめ人形』で紹介した本に続く比嘉姉妹シリーズの長編第3弾です。
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本書の帯

 本書の帯には、「シリーズ第1弾『ぼぎわんが、来る』映画化決定!」の案内とともに、「この家は、そもそもおかしい。」「砂にまみれた家から脱出せよ。比嘉琴子、はじまりの事件。」と書かれています。
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本書の帯の裏

 また帯の裏には、比嘉姉妹シリーズの紹介とともに、「この家に関わったら最後、元のあなたには戻れない――。」として、以下のように書かれています。
「夫の転勤先の東京で幼馴染の平岩と再会した果歩。しかし招かれた平岩家は、不気味な砂が散る家だった。怪異の存在を訴える果歩に異常はないと断言する平岩。一方、平岩家を監視し続ける男はかつてこの家に関わったせいで砂に脳を侵蝕され続けていた。はたして本当に、この家に『怪異』は存在するのか――」

 本書は、いわゆる「幽霊屋敷もの」、「家の怪談」です。レビューを眺めると、わたしは読んだことがないのですが、三津田信三氏の小説を連想したという人が多いようです。本書の最後にある参考文献にも三津田氏の『どこの家にも怖いものはいる』が入っていました。未読なので同書の影響についてはなんとも言えませんが、Jホラーの名作「呪怨」シリーズや一条真也の新ハートフル・ブログ「残穢――住んではいけない部屋―--」で紹介したホラー映画の影響を感じました。

 特定の家や場所を舞台にしたホラー小説は、これまで無数に書かれてきました。場所には「良い場所」「悪い場所」があるといいます。一般に「イヤシロチ」「ケガレチ」などと呼ばれます。イヤシロチの代表は、なんといっても神社です。いま、若い人たちの間で、神社が「パワースポット」として熱い注目を浴びています。いわゆる生命エネルギーを与えてくれる「聖地」とされる場所ですね。「バク転神道ソングライター」こと宗教哲学者の鎌田東二先生によれば、空間とはデカルトがいうような「延長」的均質空間ではありません。世界中の各地に、神界や霊界やさまざまな異界とアクセスし、ワープする空間があるというのです。ということは、世界は聖地というブラックホール、あるいはホワイトホールによって多層的に通じ、穴を開けられた多孔体なのです。

 本書『ししりばの家』は、ケガレチのようで、イヤシロチのようにも思えます。というのは、この家には神様が宿っているのです。その神は家人を守り、外敵を攻撃する「霊的ホームセキュリテイ」のような存在です。「霊的ホームセキュリテイ」という言葉は、そのまま本書にも登場するのですが、一般には仏壇がその機能を果たします。拙著『なぜ、一流の人はご先祖さまを大切にするのか?』(すばる舎)に仏壇のことを書いたところ、かなりの反響がありました。最近は仏壇を置く家がすっかり少なくなりましたが、わたしは「仏壇ほどすごいものはない」と思っています。
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「サンデー毎日」2018年2月18号

 仏壇は家の中の寺院であり、抽象的で難解だった仏教の「見える化」を成功させた画期的なツールです。仏壇の中には仏像が安置されています。仏像の横には、儒教をルーツとする先祖の位牌があり、その仏壇そのものが最も活躍するのは神道の先祖祭りもルーツとするお盆です。つまり、この不思議な函は、神道にも仏教にも儒教にもアクセスしているマルチ宗教メディアなのです。何よりも、仏壇はご先祖さまが子孫を守ってくれる最強のホーム・セキュリティーです。こんなすごい函が、世界のどこにあるでしょうか。仏壇をつくった日本人のセンスも、本当にすごいと思います。ちなみに、「ししりばの家」には仏壇がないようです。

「ししりば」というのは家を守る神様なのですが、まあ化け物や妖怪の類と見られても仕方のない存在する。この「ししりば」の由来を述べた部分はなかなか興味深いのですが、ちょっと消化不良でした。もう少し怪異の由来を詳しく書けば、怪奇小説としての密度が濃くなったと思います。
 それから、怪異バスターとしての霊能者・比嘉琴子ですが、とても魅力的に描かれています。今回は『ぼぎわんが、来る』以前の物語であり、琴子の小学生時代の描写もあるのが嬉しいですね。ぜひ、本書も映画化してほしいものです。

 これまでの著者の小説と同様に、本書の語り口は巧妙で、物語構成も高いです。文章にもリズムがあるので一気に読めます。同じく怪異や化け物をテーマにした小説で知られる京極夏彦氏の作品と比べて、ずっと読みやすいです。ある意味で、ラノベと呼べるかもしれません。ページを繰る手が止まらなくなるほど面白いのですが、惜しいのは前作同様に中盤くらいからリズムが崩れてきて、ラストが尻つぼみの印象があります。著者の作品はいずれも冒頭部分が圧倒的に面白いので、最後まで集中力を絶やさずに書き切れば、日本を代表するホラー作家になるのではないでしょうか。ネタバレにならないように書くと、「犬」のくだりはグッド・アイデアでした。