No.1636 哲学・思想・科学 『法則の法則』 一条真也著(三五館)

2018.12.09

 26冊目の「一条真也による一条本」は、『法則の法則』(三五館)を紹介したいと思います。「成功は『引き寄せ』られるか」というサブタイトルがついており、2008年7月8日に刊行されました。

 帯には、『聖書』『論語』『般若心経』『天球の回転について』『道徳感情論』『国富論』『人口論』『資本論』『種の起源』『人を動かす』など、本書で取り上げられる多くの書籍のタイトルの上に「本物はどれだ」と大書されています。

本書の帯

 帯の裏には「本物の法則とは何だろう?」「この不思議に答えられますか?」「『思いは実現する』『強い願いは、対象を引き寄せる』のであれば、世の中にガンで死ぬ人も、無実の罪で死刑になる人も、会社が倒産して自殺する経営者もいないはずです。(本書第13章より)」と書かれています。

本書の帯の裏

 本書のカバー前そでには、こう書かれています。
「なぜ、『法則』などというものが存在するのか?
そして、いったいどんな『法則』があるのか?
『法則』を知った者は、本当に仕事がうまくいき、
成功して、愛を得て、幸せになれるのか?」

 本書の「目次」は、以下のようになっています。
「はじめに――法則って何だろう?」
第1部 法則への招待
第1章  法則本ブーム
第2章  引き寄せの法則
第3章  マーフィーからマーフィーまで
第4章  経済も社会も法則で動く
第5章  歴史や文明にも法則があった
第2部 法則の正体
第6章  人間は法則を求める動物である
第7章  月と占星術と錬金術
第8章  法則の追求が科学を生んだ
第9章  法則王ニュートン
第10章 ニュートンからニューソートへ
第3部 法則の法則
第11章 キリスト教と無限なる欲望
第12章 仏教に近づく現代物理学
第13章 幸福になる法則
第14章 究極の成功法則
「おわりに――自分の法則を見つけよう」
「主要参考文献」

 わたしが本書を書くきっかけになったのは、世界的ベストセラーの『ザ・シークレット』に登場した「引き寄せの法則」というものに興味を抱いたからでした。これは、他の言葉を使えば、「思考は現実化する」ということです。 
「引き寄せの法則」の他にも、「法則」という言葉をよく目にしたり、耳にしたりします。書店に行っても「法則」の本がたくさん置かれていますし、どれもよく売れているようです。

 原因と結果の法則、正負の法則、鏡の法則、そ・わ・かの法則、幸せの法則、愛の法則、繁栄の法則、お金の法則、ツキの法則、成功の法則、仕事の法則、人間関係の法則……などなど、雑誌を開いても、テレビをつけても、とにかく「法則」がよく出てきます。どうやら、この世は「法則」にあふれているようです。いや、宇宙は「法則」に満ちているといったほうがよいのでしょうか。

 では、「法則」とは何でしょうか。それは、いつでも、またどこででも、一定の条件のもとに成立するところの普遍的・必然的関係です。ニュートンの「万有引力の法則」、ダーウィンの「適者生存の法則」、メンデルの「遺伝の法則」などがすぐに思い浮かぶ代表的な「法則」でしょうか。

 『広辞苑 第六版』で「法則」の項を引くと、「(1)必ず守らなければならない規範。おきて。(2)いつでも、またどこででも、一定の条件のもとに成立するところの普遍的・必然的関係。また、それを言い表したもの」と出ています。もちろん、本書では(2)の意味で、「法則」をとらえたいと思います。でも、これだけでは「法則」について何もわかりません。

 いろいろと「法則」の謎について考えたり、調べたりしていたら、本書が生まれました。マーフィーの法則とかランチェスターの法則などの個別の法則についてではなく、「法則」そのものについて書かれた、世界でもきわめて珍しい「法則」の本、それが本書です。「引き寄せの法則」のルーツが「ニューソート」というアメリカの新興宗教にあることも初めて明らかにした本です。

 「法則」本ブームには気になることがありました。それは、どうも「成功したい」とか「お金持ちになりたい」とか「異性にモテたい」といったような露骨な欲望をかなえる法則が流行していることです。いくら欲望を追求しても、人間は絶対に幸福にはなれません。なぜなら、欲望とは今の状態に満足していない「現状否定」であり、この宇宙を呪うことに他ならないからです。

 ならば、どうすれば良いのか。「現状肯定」して、さらには「感謝」の心を持つことです。そうすれば、心は落ち着きます。コップに半分入っている水を見て、「もう半分しかない」と思うのではなく、「まだ半分ある」と思うのです。さらには、そもそも水が与えられたこと自体に感謝するのです。  
 それでは、何に感謝すればよいか。それは、自分をこの世に生んでくれた両親に感謝することが最初のスタートでしょう。親に感謝すれば幸福になる! 意外にも超シンプルなところに、「幸福になる法則」は隠れていたのですね。

 また、本書では「究極の成功法則」についても紹介しました。「成功したい」という「夢」を多くの人が持っています。また、「夢」を持つことの大切さを、いろんな人が説いています。しかし、真の成功者はみな、世のため人のためという「志」という名の最終目標を持っていました。とにかく、「志」のある人物ほど、真の成功を収めやすい。なぜでしょうか。
 「夢」とは何よりも「欲望のかたち」です。「夢」だと、その本人だけの問題であり、他の人々は無関係です。でも、「志」とは他人を幸せにしたいわけですから、無関係ではすみません。自然と周囲の人々は応援者にならざるをえないわけです。

 「幸せになりたい」ではなく、「幸せにしたい」が大切なのです。いったん「志」を立てれば、それは必ず周囲に伝わり、社会を巻き込んでいき、結果としての成功につながるのではないでしょうか。企業もしかり。もっとこの商品を買ってほしいとか、もっと売上げを伸ばしたいとか、株式を上場したいなどというのは、すべて私的利益に向いた「夢」にすぎません。そこに公的利益はないのです。真の「志」は、あくまで世のため人のために立てるもの。そのとき、消費者という周囲の人々がその「志」に共鳴して、事を成せるように応援してくれるように思います。

 わたしは、古今東西のありとあらゆる法則を集め、それらの法則を貫くメタ法則を求めました。この世には数多くの「法則」が存在するとされています。あるアイデアが、とりあえず「仮説」として立てられる。その「仮説」から具体的・個別的な「命題」を導き出す。そして、その「命題」を観察および実験で検証し、有効性が検証されれば、ようやく「法則」に格上げされる。そのようにしてできた複数の「法則」を体系化したものが「理論」と呼ばれるものなのです。

 そうであれば、プロの科学者ならともかく、わたしのような素人には一生、「法則」など発見できそうにありません。でも、わたしにはいくつか自分なりの「法則」のようなものがあります。たとえば、本書の最後で、わたしは2つの究極の法則を示しました。それは、夢ではなく志を抱けば成功できるという「成功の法則」であり、親に感謝すれば幸福になれるという「幸福の法則」です。

 また、仕事においても「法則」らしきものが存在します。わたしの会社は冠婚葬祭互助会なのですが、「互助会募集の営業の成果は2年後に現れる」とか、「葬儀の発生は多い月も少ない月もあるが、3カ月平均でならすと同じになる」などの「法則」です。もちろん、業界的に何らかの意味はあっても、それ以外の人にはまったく縁のない「法則」です。それに、この2つだって「法則」というより、おそらく「経験則」の類でしょう。

 でも、わたしは、それでいいと思います。
 なぜなら、他の人々には意味がなくても、わたしには意味があるからです。ましてや、わが会社の社員たちがそれを信じてくれるなら、わたし1人の幻想を超えて、少しだけ市民権を得た「プチ法則」ということです。それを思うと、なんだか楽しくなって、幸せな気分になってきます。これらの「プチ法則」は、わたしが生きていく上で大切な支えとなっています。結局、「法則」は人間が生きていくために役に立つものでなければならないと、わたしは考えます。人間を幸せにするもの、人間を元気にするもの、人間を励ますもの、そんな「プチ法則」たちをこれからも見つけていきたいと思います。

 この世界に存在する数多くの「法則」は、たとえ本物の科学的法則であろうとも、それ単独では宇宙の全体像を明らかにすることはできません。「群盲象を撫でる」という言葉がありますが、これは、生まれつき目の不自由な人々がはじめて象に触れたときの様子を描いたインドの寓話に由来するそうです。象の頭に触れたものは「象は瓶のようだ」と感想を述べ、鼻に触れた者は「竿のようだ」、耳に触れた者は「団扇のようだ」、胴に触れた者は「穀倉のようだ」、脚に触れた者は「柱のようだ」、そして尾に触れた者は「箒のようだ」と語ったというのです。

 古代インド人が考えていた宇宙像では本当に象が出てきて宇宙を支えていますが、まさに宇宙そのものが一匹の巨大な象ではないかと、わたしは思います。その姿は、ある人にとっては象の鼻だったり、耳だったり、または脚や尾だったりするわけです。でも、象の身体の各部分は当然ながら象そのものではありません。この世に存在する多くの「法則」も、しょせんは宇宙という象の鼻や耳をとらえるのがやっとだと思います。

 ジグソーパズルのように、または児玉清のパネルクイズのように、それらをつなぎあわせていけば、少しずつ、その全体像が見えてくるのではないでしょうか。本書で紹介された数々の「法則」たちは、使えるジグソーのピースやパネルだと思います。本書を読めば、宇宙の真の姿を覗くパズルやクイズを楽しむことができます。もしかすると、最終的に宇宙の正体を明らかにする「アタック・チャンス」となる最後のピースやパネルは、あなたの「プチ法則」かもしれません。

 最後に、本書の企画は版元の三五館にもともと存在していました。同社の星山佳須也社長が「博覧強記の一条さんなら、法則の本を書くことができるでしょう」と、わたしを指名して下さったのです。担当編集者である中野長武さんが「世界の法則一覧」という資料ペーパーを渡してくれたことを記憶しています。最初は「法則」についてのガイドブックを作ろうという話だったのですが、わたしが「どうせなら、すべての法則に通じるメタ法則を示しませんか?」と提案したのです。それを星山社長と中野さんは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていましたが、2人とも「それは面白い!」と言ってくれました。あの数々のベストセラーを生み続けた三五館も今では存在しません。「栄枯盛衰」も世の法則ですね。

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