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未来を読む』

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No.1620


未来を読む AIと格差は世界を滅ぼすか (PHP新書)

『未来を読む』ジャレド・ダイアモンド/ユヴァル・ノア・ハラリ/リンダ・グラットン/ダニエル・コーエン他著、大野和基インタビュー・編(PHP新書)を読みました。「AIと格差は世界を滅ぼすか」というサブタイトルがついていますが、さまざまな問題の本質を鋭く衝いた発言に満ちた刺激的な一冊でした。世界の知性たちへのインタビューを担当した大野氏は、1955年兵庫県生まれ。東京外国語大学英米学科卒業。1979年に渡米し、コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学びました。その後、現地でジャーナリストとしての活動を開始、国際情勢の裏側、医療問題から経済まで幅広い分野の取材・執筆を行なう。97年に帰国後も取材のため、頻繁に渡航。アメリカの最新事情に精通している人物です。

 カバー前そでには、以下の内容紹介が書かれています。
「AI(人工知能)による経済の地殻変動、グローバル資本主義で広がる格差、自壊を始めた民主主義......。激動を続ける世界は、この先どこへ向かうのか。本書は、国際ジャーナリスト・大野和基氏が、世界の『知の巨人』8人と対話した論考集である。登場するのは『銃・病原菌・鉄』のジャレド・ダイアモンド氏、『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ氏、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』のリンダ・グラットン氏など。進化生物学、歴史学、経済学など各分野の泰斗の目に、来るべき世界はどう映るのか。知の頂上から未来を見通す、知的興奮に溢れた1冊」

 本書の「目次」は、以下のような構成になっています。
「プロローグ」
Chapter1
ジャレド・ダイアモンド
資源を巡り、文明の崩壊が起きる
Chapter2
ユヴァル・ノア・ハラリ
「役立たず階級」が大量発生する
Chapter3
リンダ・グラットン
「人生100年時代」と都市集積が加速する
Chapter4
ニック・ボストロム
AI万能時代が訪れ、働き方は根本的に変革する
Chapter5
ダニエル・コーエン
デジタル経済では、人類はサイボーグと融合する
Chapter6
ウィリアム・J・ペリー
北朝鮮は核開発をあきらめない
Chapter7
ジョーン・C・ウィリアムズ
民主主義を揺るがす
「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々
Chapter8
ネル・アーヴィン・ペインター
アメリカは分極化の波にさらわれる
「エピローグ」


 Chapter1は、一条真也の読書館『銃・病原菌・鉄』で紹介した本の著者であるカリフォルニア大学教授のジャレド・ダイアモンドのインタビューです。まず、大野氏は以下のように書いています。「ユヴァル・ノア・ハラリ氏の『サピエンス全史』(上下巻・河出書房新社)が世界的なベストセラーとなったことからもわかるように、人類史を鳥瞰的に見るアプローチに世界中が関心を寄せている。ますます不確実性を増す世界において、巨視的な視点で歴史を捉え直し、そこから現状を鑑みる知性の在り方が必要とされているのかもしれない。
 ジャレド・ダイアモンド氏は『銃・病原菌・鉄』(上下巻・草思社)で、なぜ人類は5つの大陸で異なる発展をとげたのかという、人類史の壮大な謎を進化生物学、生物地理学、文化人類学、言語学など広範な知見を縦横に駆使して解き明かし、みごとピュリッツァー賞を受賞した。そうした意味で、ダイアモンド氏は現在起きている思想的な潮流の、いわば『総本山』と言っても過言ではないだろう」

 超高齢社会について、大野氏は「現在の日本のような超高齢化に直面していた社会は、人類史上ありましたか。また、超高齢化を迎えた日本が社会を維持するためにはどうすればよいのでしょうか」と質問します。それに対して、ダイアモンドは答えます。
「日本のように平均寿命が長い社会は人類史上ありませんでした。これは歴史的にユニークな発展です。また、高齢化を活用するのは、とても簡単なことです。高齢者が非常に優れていることもあれば、その逆もあります。もし1キロメートルを3分20秒で走って欲しかったり、400キロの荷物を持ち上げたりできる従業員が必要であれば、高齢者を雇っていては駄目です」

 続いて、ダイアモンドは以下のように述べます。
「一方、経営や管理の経験が豊富で、アドバイスをするのに長けている従業員がほしければ、若者ではなく高齢者を雇ったらいいのです。そうした高齢者は、すでに人生の目的をある程度達成していることが多いため、人を踏みにじる野心によって問題を起こすことは少ないと思います。若者にはエネルギーがあるものの、まだ人生の目標を達成していないため、自我が強い。日本の超高齢社会において重要なことは、すでに多数存在する高齢者を活用することです。日本には、60歳や65歳になれば会社を辞めなければならない定年制がありますね」

 さらに、ダイアモンドは日本の定年制について述べます。
「日本は世界で最も高齢者が多い国です。定年退職制という馬鹿げた制度を続けるのではなく、働き続けたいと思う高齢者の雇用機会を確保し、彼らを最大限に活用する方法を見つけるべきです。肉体労働で高齢者を雇うのではなく、管理者やアドバイザー、監督など、自我が仕事の妨げにならないところで高齢者の能力を活かせばいいのです」

 本書のメインテーマは「AI」と「格差」ですが、ダイアモンドは格差について、「格差は今世界で起きている最大の問題の1つです。国家間の格差でいうと、裕福な国より貧しい国の方が病人を多く抱えている現実があります。貧しい国は公衆衛生に投資することができないからです。最近では、エボラ出血熱やマールブルグ出血熱がアフリカで流行しましたし、1980年代に出現したエイズのような新しい感染症が今後出てくるかもしれません」と述べ、(1)感染症のリスク、(2)テロリズム、(3)他国への移住が止められないこと。以上が格差がもたらす3つの新たな脅威であると指摘します。

「先進諸国は格差問題を重く受け止める必要があるということですか」という質問に対しては、ダイアモンドは「もちろんです」と即答し、以下のように述べます。
「日本ではどう思われているかわかりませんが、アメリカで対外援助は慈善事業だと見なされています。アメリカ人が対外援助をするのは自分たちが高貴で素晴らしい国民で、利他的であるからだと思われているということです。しかし実際、アメリカが貧しい国に対外援助をするのは利己的な理由があるからです。新興感染症やテロリズム、移住を減少させる面において、自分たちのためでもあるのです」
 ちなみに、対外援助とは英語で「mutually beneficial(お互いにプラスになる)」ということです。

 最後に、「経済、文化、環境面を考えたときに、50年後、100年後の世界はどのような姿になっているでしょうか」として、「明日以降の世界」をどのように描いているかという質問に対して、ダイアモンドはこう答えるのでした。
「われわれが今問われていることは、『持続可能な経済をつくれるか』『世界中の生活水準が一定のレベルで平等を達成できるか』ということだと思います。(中略)われわれは環境を破壊し、資源を消費し尽くそうとしています。また、各国で消費量には格差があり、これを放置するかぎり、世界は不安定なままです。これからの30年でこの難題に対する答えを出すことができるか。もし成功しなければ、50年後、100年後の世界は『住む価値がない』ものになっているといっても過言ではないでしょう」

 Chapter2は、一条真也の読書館『サピエンス全史』で紹介した本を書いたユヴァル・ノア・ハラリのインタビューです。彼はオックスフォード大学で中世史、軍事史を研究し、現在はイスラエル・エルサレムにあるヘブライ大学歴史学部で終身雇用教授として教鞭をとっています。大野氏は以下のように書いています。
「歴史書を大別すると、二種類しかない。つまりそれは、歴史の見方が大きく分けて二種類あるとも言える。1つは年代別・地域別あるいは戦争や革命など、歴史の事象ごとに精細に分析・検証する手法である。もう1つは、長期的視点から歴史を大局的にみる手法だ。ユヴァル・ノア・ハラリ氏は後者に属する」

 また、大野氏は以下のようにも書いています。
「ハラリ氏は『現実は1つである』と言うが、その現実は人間が便宜上恣意的に異なる分野に分けただけであって、本当に何が起きているのかということを知るためには歴史学のみならず政治学、経済学、生物学、心理学、哲学などすべての分野について横断的な知見がなければならない。そのアプローチを使って、『認知革命』『農業革命』『科学革命』という3つの重要な革命を軸に謎を解き明かしたものが、前述の『サピエンス全史』である」

 ハラリの考え方のキーワードとして「虚構」があります。
 お金や国家、法人、人権といった「虚構」を信じる能力が、ホモ・サピエンスを今日の地位にまで押し上げたと指摘するハラリは、本書でも以下のように述べています。
「人間が長い時間の中で、目の前にあるものが現実なのか、それとも誰かが作ったストーリーなのか、区別する能力を失いました。結果、多くの人が、国家や会社や神という想像上のものに自分を捧げて戦争に行き、何百万人という人を殺戮したのです。こうした事態を回避するためには、まずは目の前にあるものが、現実か虚構なのかを区別し、その上で利用する方法を考えることです」

 ハラリが言う「虚構」とは、一条真也の読書館『共同幻想論』で紹介した吉本隆明の著書における「共同幻想」と限りなく近いように思いますが、どうしたら現実と虚構を区別できるのでしょうか。ハラリは、方法はいくつかあるとしながらも、ベストな方法として、「対象とするものが、苦痛を味わうだろうか」と考えることだと述べています。
 苦痛はこの世でもっともリアルなもの。しかし国は苦痛を感じません。自分の国が戦争に負けても、苦痛を感じるのは国ではなくそこに暮らす人々です。企業も苦痛を感じません。会社が大金を失っても、焦るのは会社ではなく、そこにいる経営者や社員であるとして、ハラリは「われわれ自身が作り出した虚構によって、われわれが苦痛を覚えるのはバカバカしくなってきます。われわれは虚構の奴隷にならないように注意して、それらを利用して利益を上げようとすればいいのです。そう考えるだけで、少しは苦痛を減らす助けにならないでしょうか」と述べています。

 もともと、ハラリの専門は軍事史です。戦争が人類の歴史に与えた影響について、彼は戦争に密接に関係する2つの要素に着目します。宗教とテクノロジーです。宗教とテクノロジーは、間違いなく歴史を動かしてきたといいます。その言動力となったのが戦争です。世界でもっとも普及したキリスト教について、ハラリは次のように述べます。
「普及した背景を読み解くと、『武力』の影響は無視できません。4世紀にローマ帝国の国教となったことで、帝国の政治的・軍事的サポートを獲得し、平和的に、ときには武力を使って、信者を増やしてきました。
 植民地支配の時代にはそれがエスカレートしました。スペイン、ポルトガル、イギリス、フランスなどのキリスト教国は、武力を使ってアメリカ大陸を植民地化しました。原住民を抑圧し、搾取し、キリスト教を無理やり受け入れさせたのです。今日、アラスカからチリまで、アメリカ大陸はほとんどがキリスト教です。これは軍事拡大が宗教や文化に対して影響を及ぼす一例です。世界で二番目に普及しているイスラム教についても、同じことが言えます」

 テロリズムについては、ハラリは「抽象的な概念」ととらえ、現在の世界が抱えている多くの問題の中で、テロリズムは比較的取るに足らない部類に入ると断言します。そして、以下のように述べています。
「平均的なアメリカ人は、アルカイダによる爆弾テロで死ぬよりも、マクドナルドのハンバーガーを食べすぎて死ぬ確率の方がはるかに高い。テロとの戦いにコストをかけるより、バランスが取れた食事に投資した方が自分のためです。同様に、歴史的観点から見れば、テロリズムよりも気候変動の方が、人類の繁栄や生き残りにとってははるかに大きな脅威です。アメリカや他の大国は、テロとの戦いに使っている年10億ドルものお金を、気候変動や地球温暖化への対策に投資した方がはるかにいいでしょう」

 AIが代替できない「第三の能力」は存在するのか。この興味深い問題について、ハラリは次のように述べています。
「人間には2つの基本的な能力があります。肉体的能力と認知能力です。かつて、機械が肉体的能力において人間を凌駕し、人間は、サービス業や翻訳家など、認知能力を必要とする仕事に移りました。今、コンピューターやAIが認知能力においてわれわれと競争しています。ところが、『肉体的能力や認知能力は機械に任せて、われわれはほかのことをする』というような、『第三の能力』はまだわかっていません。存在するのかどうかすら不明です」

「あなたは人生100年時代の到来を予測し、『人間には生涯を通じて、自分をどんどん変えていく能力が必要』と指摘しています。そのような能力はどのようにして身につけられるのですか」という質問に対しては、ハラリは「非常に難しい問題です」としながらも、以下のように答えます。
「現在、2つのプロセスが同時進行しています。1つは、人間の寿命の長期化。もう1つはテクノロジーによる変化スピードの加速化です。そのため、人生を生き抜く上では、絶えず新しいテクノロジーを学び続け、新しい経済状況・社会状況に対応しなければならない時代に入っています。しかしこれは、非常に難しい。なぜなら、人は本質的に変化を好まないからです」

 また、ハラリは以下のようにも述べています。
「従来の生活様式では、人生は2つの時期に分かれていました。最初は『学ぶ時期』、次に『学んだことを使う時期』です。最初の時期に安定したアイデンティティとスキルが確立され、あとはそれを使うだけでした。しかしこれは、21世紀では通用しません。われわれは絶えず学習し、自己革新をしなければならないのです。40歳、50歳になると、アイデンティティと専門性を築くのに相当のものを投資しているので、そこから人生を再出発するのは難しい。どうやってそれができるかはわかりません。30歳を超えると、ほとんどの人は新しいことを学ぶことがそれほど上手ではなくなります。また、ほとんどの人は変化を好みません。でも、やらなければなりません」

 Chapter3は、ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットンのインタビューです。
 一条真也の読書館『LIFE SHIFT』で紹介した本の著者であるグラットンは、来るべき長寿社会では「教育・仕事・引退」という「3ステージの人生」は終わりを告げ、「マルチステージの人生」が到来すると予言します。「人生100年時代」においては、年齢を重ねてからの「学び直し」が重要となると訴えます。『LIFE SHIFT』を書いて、2つの重要なメッセージが浮かんだとして、彼女はこう述べます。
「1つめは『"3ステージの人生"が終わった』ということです。既存の『教育・仕事・引退』という3ステージの人生設計はもはや時代遅れになりつつあります。フルタイムの仕事や定年退職という概念自体がなくなり、人々はさらに細かいステージを、年齢にとらわれることなく生きることになります。2つめは、『有形資産』と『無形資産』という2つの資産です。1つめに比べるとメディアに取り上げられる頻度は少なかったのですが、非常に重要です。『有形資産』とは、お金やモノのことを指しますが、それ以上に健康や仲間、変化への対応力といった『無形資産』が重要だと私は考えています」
 わたしが『人生の修め方』(日本経済新聞出版社)で提唱した「修生」においても、お金や不動産などの「有形資産」、思い出といった「無形資産」の両方が大切であると思いました。

 グラットンは「人生100年時代とは、共稼ぎの時代」として、「少し乱暴な議論になりますが、婚姻率や出生率が下がっているのも『結婚がいい取引ではない』という意識が強まった結果ではないでしょうか。『取引』が機能していない一因は、男性にかかるプレッシャーです。『家族全体が100歳になるまで、自分が養わないといけない』というプレッシャーは相当なものです。女性が働いていないということで、最大の損失をこうむるのは男性なのです。女性ではありません」と述べています。

「無形資産」について、グラットンは「変身資産」、「生産性資産」、「活力資産」の3つがあるといいます。この中で「生産資産」というのはスキルや知識、仲間、他人からの評判といったものですが、グラットンによれば、これは生産性を高めて仕事を成功させるための資産であるといいます。生産的であるためには、自分を指南する人、深く話をすることができる人との関係を形成する必要があるとして、「人間関係は無形資産の中でも最も重要な要素です。社会学の世界では『社会関係資本』と呼ばれています。社会関係資本をもつ者は、人脈が人脈を生み、スキルがスキルを生む。そして人生の新たなステージを切り開くことができる。この流れは昔から変わりません」と述べます。

 それから、未来の先進国では、ますます人口の都市集中が進むとして、グラットンは以下のように述べます。
「現実問題として、都市に住むメリットは大きい。人間関係の構築はもちろん、ほとんどの国で、田舎に住むより都会に住んだ方が高収入になる傾向があります。私が先週滞在していたコンゴ共和国でも、首都・ブラザビルへの人口集中が進んでいます。2010年ごろから加速した都市への人口集中は、今後も止まることはないでしょう。人々が都会に移住することを止めることはできません。ひょっとしたら何らかの出来事がきっかけで、逆のトレンドが発生し、人々が田舎に戻り始めるかもしれませんが、そのエビデンスはありません」

 Chapter4は、オックスフォード大学教授で「人類の未来研究所」所長のニック・ボストロムのインタビューです。「汎用人口知能ができれば、われわれは怠惰になるかもしれません」という大野氏の発言に対して、ボストロムは以下のように述べます。
「AIが何でも行ってくれる世界で、はたして人間は何をするのか、という問いが残ります。われわれの労働や努力が余剰になる世界において人間の役割は何か、ということです。ユートピア(理想郷)の中で人生の意義や目的をどうやって見つけるのでしょうか。この問題は現在進行中のことですが、一定の方向性はある、と私は楽観しています。一家の大黒柱になることや社会に貢献することで自尊心を得る今の人間の志向を、子どもが小さなことで喜びを得ることを奨励するような、娯楽文化を深める方向に変えていくのです。それは文化の根本的変革を意味しますが、探究すべき大きな可能性があると思います」

「AIにはわれわれの社会のすべてを変えるポテンシャルがあるということですね」という問いに対しては、「変えるのは社会だけではありません」として、ボストロムは以下のように述べます。
「人間を生物学上の有機体(生命体)と考えると、医学研究、生物学研究など、すべての研究が対象になります。テクノロジカルな成熟に達すると、われわれは世界の一部になり、その役割は一定の制限の中で何をするかにすぎなくなる。AIが成熟したポストヒューマンのシナリオでは、『人間とは何か』という根源的問題に揺さぶられるのです。今こそ基本に立ち戻って、本当にわれわれが欲するものは何かを考える必要があります。本当にわれわれが欲するものは何か、『すること自体が目的になっている』ことがなくなったとき、本当にしたいことは何か? こういうことは追究すべき興味深い問いだと思います」

 Chapter5は、「ル・モンド」論説委員、パリ高等師範学校経済学部長のダニエル・コーエンのインタビューです。彼には『経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える』というベストセラー著書がありますが、大野氏は以下のように書いています。
「経済成長と幸福の関係は、現代においては避けては通れないテーマである。高度成長期においては、経済が成長してテクノロジーが発達すれば、生活は便利で豊かになり、高揚感も増すと概ね考えられていた。だが現代では、経済成長に比例して幸福を感じることはできない。テクノロジーが発達しても幸福感がない。なぜだろうか。
 コーエン氏は、その理由について、テクノロジーが一部の人にしか恩恵をもたらさないからだ、と喝破する。テクノロジーは経済成長をもたらすが、その果実を甘受できるのは、ごく一部の人たちであり、富はそこに集中する。アメリカで格差が進んでいるのは、まさにテクノロジーによるものなのだ、と」

 続けて、大野氏は以下のように書いています。
「さらに、コーエン氏は、幸福の追求とは快楽の『ランニング・マシーン』のようなものだと言う。それに乗って走り出すと、足元のベルトコンベアは無限に動き続け、どんなに走り続けても常に出発点に位置し続ける。歴史を振り返ると経済成長は、幸福という目的を達成する手段ではないことがわかるというが、人が経済成長を求めるかぎり、成長は私たちの無限の欲望と化す」
このあたりは拙著『法則の法則]』(三五館)の中で述べた「幸福」の本質論にも通じる部分が多いです。

「テクノロジーの急速な発達にもかかわらず、なぜ経済成長が低迷していると思いますか」という質問に対して、コーエンは以下のようにアメリカの経済学者ロバート・ゴードンの考えを紹介します。
「1870年から1970年のあいだに、人々の生活には驚くべき変化が起きました。1870年には、人々はみな田舎に住み、馬がそこらじゅうにいました。そこに50年ほどで電気が通り、ラジオ、映画が発達し、自動車、飛行機が普及し、抗生物質が使用されるようになった。まさに怒涛の変化です。
 それに比べると、新しい消費社会がもたらしたのは、基本的にスマートフォンです。スマートフォンさえあれば、テレビを見たり、データを収集したり、人と話したり、ほとんど何でもできます。ただ、過去の偉大なイノベーションと比べると、それほど大きなものではありません。これがゴードン氏の考えです。この説で、経済成長が芳しくない理由をある程度理解できます。5年ごとに新車に買い替えると新しいテクノロジーを楽しめますが、このような歴史的なイノベーションと比べればそれほどの感動はありません」

 Chapter6は、元アメリカ国防長官でスタンフォード大学教授のウィリアム・J・ペリーのインタビューです。彼は著書『核戦争の瀬戸際で』の邦訳版(東京堂出版)に特別に「将来的に核戦争が起これば、それは死と破壊にとどまらず、文明の終焉をもたらす」と書いています。ペリーは以下のように述べています。「本を出版することで、少なくとも数千人を啓蒙することができます。また、啓蒙のためにはインターネットも役立ちます。本に書いたことをネットで拡散することで何百万人もの人を啓蒙できます。私は毎日、インターネットを通じて情報を拡散し、多くの人々を啓蒙する活動にほとんどのエネルギーを費やしています。たとえば、オンライン・クラスの講座では、最初の2回分を誰でも無料で見ることができます。このオンライン講座を世界中に広めるにはどうしたらいいか、いつも考えています」

 エピローグの冒頭に、大野氏は以下のように書いています。
「私はこれまで数千人にわたる海外識者に取材を重ねてきたが、本書で独占インタビューを敢行したのは、まさに世界の知性のオールスターとも言うべき人物たちである。とりわけジャレド・ダイアモンド氏、ユヴァル・ノア・ハラリ氏、ダニエル・コーエン氏、リンダ・グラットン氏はその著書が各国で翻訳されてベストセラーとなり、世界で最も注目されている人物だ。世界にそびえ立つ『知の頂上』から、彼らが一望する未来について語ったのが本書である」
 この言葉に偽りはないと思います。わずか260ページのコンパクトな新書ながら、本書には確実に人類の未来が語られています。それにしても、世界的なベストセラーを書く人の発言は説得力があるものだと感心しました。