No.1379 コミュニケーション | 人生・仕事 | 評伝・自伝 『ノッポさんの「小さい人」となかよくできるかな?』 高見のっぽ著(小学館)

2017.01.15

 『ノッポさんの「小さい人」となかよくできるかな?』高見のっぽ著(小学館)を読みました。「ノッポ流人生の極意」というサブタイトルがついています。「大きい人(大人)」である著者が「小さい人(子ども)」との接し方を、自身の幼少期の記憶や経験から語るハートフルな一冊です。巻末には、著者のオリジナル童話である「こうまははながすき」が掲載されています。

    カバー前そでの「著者プロフィール」

 著者は1934年京都府太秦生まれの俳優・作家です。 1967年から20年以上にわたって、NHK教育テレビで放送された「なにしてあそぼう」~「できるかな」では、一言もしゃべらずに鮮やかに工作を生み出す”ノッポさん”として出演しました。同時に、作家・高見映として多くの児童書、絵本、エッセイなどを発表しています。82歳になった現在も、俳優・作家・歌手として幅広く活躍中です。

    本書の帯

 本書のカバー表紙には著者の全身写真(身長181cm)が使われ、帯には「NHK教育テレビ『出来るかな』のノッポさんが綴るきらめきのメッセージ」「『小さい人』だったあの頃、どんな人もみんなきれいで、賢い存在でした。あなたは自分の中の『小さい人』を大切にしていますか・・・?」と書かれています。

    本書の帯の裏

 また帯の裏には、「子どもの頃、夢中になって『できるかな』を観ていたみなさまへ―」として、以下のように書かれています。

「もう私たちも立派な大人になりました・・・いつのまにか大きくなってしまった私たちに、82歳になったノッポさんがこの度、いろんなことをお話ししてくれました。ノッポさんがずうっと考えてきたこと、そして今考えていること、未来について考えていること・・・全てがつまった一冊です。今一度、あの頃のように、子ども・・・いや小さい人になってノッポさんのぬくもりに触れてみませんか?」

 ここ数年、わたしは著者のことを非常に意識していました。 というのも、「河合吉成、王貞治、ノッポさん、桑原武夫、一条真也(5・10生)の名言から考える『志』」というネット記事を見つけ、世界の王貞治氏などとともにノッポさんが5月10日生まれであることを知ったからです。わたしは子どもの頃に「できるかな」をいつも観ていて、ノッポさんが大好きでした。それはもう、彼の相棒のゴン太君になりたいくらいでした。

 それから、著者がバッタの老人に扮したNHK「みんなのうた」の「グラスホッパー物語」の動画をYouTubeで発見し、何度も繰り返して観ました。一度聴いたら耳に残る歌、シュールな映像にも魅了されましたが、何よりもすでに老人の域に達していた著者の華麗なタップが強く印象に残りました。 本書を読むと、著者はフレッド・アステアをリスペクトしていたそうです。「踊らん哉」「トップハット」「有頂天時代」「艦隊を追って」などのミュージカル映画に主演し、見事なタップで世界中の映画ファンを楽しませたハリウッド・スターです。著者は中学1年生のとき、アステアの作品を観て以来、ずっと大好きで、アステアを目標にタップの練習をしたそうです。 ちなみに著者の父は俳優の柳妻麗三郎で、チャップリンの物まねを得意としました。ハリウッド俳優に憧れるのは父譲りだったということになります。

 前置きが長くなりました。本書の「もくじ」は以下の通りです。

「ごあいさつ」
第1章 「小さい人」とのつきあい方
第2章 「大きい人」とのつきあい方
第3章 ノッポさんが「小さい人」だった頃のお話
第4章 ノッポさんとおしゃべり 「こうまははながすき」

 著者は「子ども」ではなく、「小さい人」という呼び方をします。 その理由について、「子どもだからといって、”経験も浅い、物事をよくわかっていない存在”とは、これぽっちも思っていないからですよ」「小さい人たちというのは、実にいろいろなことが分かっているのです。大人が思うよりも、いやおそらく大人よりも、ずっとずっと賢いんですから」と述べます。 著者によれば、「小さい人」は大人に接するとき、「この人は、自分をごまかそうとしていないな」とか、「自分の気持ちを分かっているな」とか思うそうです。そして、そう思ったら、ちゃんと心を開いてくるし、おチビさんなりの誠意を示してくれるというのです。

 著者には幼少時代に沁み込んだ「心得の条」というのがあるそうです。 それは、幼い頃に長屋に住んでいたときに母親から教わったもので、以下の4つです。

 1.ヒトのものは盗ってはならぬ!
 2.ヒトにケガをさせてはならぬ!
 3.みんなのいるところでは静かにしなさい!
 4.先生の言うことはよく聞く!

 大人いや「大きな人」となった著者は、さらに「身内には多少の迷惑をかけてもいいが、通りすがりの他人に対しては丁寧に」という信条を述べます。「え? それって逆じゃないんですか? 通りすがりの人にいくら気を遣っても、もう会うこともないでしょう?」という質問者に対し、著者は答えます。

「あなた、分かっちゃいませんねぇ。もう会うこともないかもしれないからこそ、ですよ。みんながそう思えば、どんなにか社会全体がもっと気持ちがよくなることか。身内には迷惑をかけても挽回が出来るけど、通りすがりの人にはそうはいかない」

 また、著者は「大きい人」に対して、決して「小さい人」の前で赤信号を渡るなどのルール違反を犯してはならないと厳しく戒めます。

 また、著者が「大きい人」に声を大にして訴えることがあります。 それは、著者の父がいつもわが子の長所を認めて、褒め続けた一方で、母は余計なことを言ってわが子を委縮させたことに起因します。歌が大好きな少年だった著者は、いつも歌っていましたが、変声期のときに調子っ外れで歌ったことがありました。あのとき、母は「音痴! うちの恥だわよ!!」と叫んだのです。その後、30年というもの、著者は人前で楽しく歌えなくなりました。でも、NHK「みんなのうた」の「グラスホッパー物語」では、著者は3曲も歌を披露しているのです。「あ~あ、あのひと言さえなけりゃ、名歌手になれたかもしれないなあ」と嘆く著者は、「大人の余計な『そのひと言』で、小さい人たちは瞬時に心を閉ざします。ですからみなさん、気を付けて下さいね、お願いします!」と述べています。

 著者は、「小さい人」が好きで好きでたまらないのです。 自身の人間としての黄金時代は「5歳のとき」と言い放つぐらいです。 著者は、「小さい人」について、以下のように述べています。

「もちろん、幼さゆえのわがままはあります。でも、そういうところばかり見ていると、小さい人の本質は分からないと思います。だって、小さい人たちの洞察力の鋭さたるや、大人の比ではないですから。私はね、人間のずるさに対する正義感とか、物事に対してフェアであろうとする気持ちなんかは、大人より子どもの方が絶対に上だと思っているんです」

 最後に、著者は「小さい人」にも「大きい人」にも「いい本をたくさん、いっぱい読んでください」と訴えます。本というのは、そもそも「賢い人」が書いているから読んだほうがいいというのです。 著者は、読書の大切さについて、以下のように述べています。

「最近は活字離れなんて言われて久しいようですけれど、やっぱり本はいいものです。多読乱読でいいから、自分で選んだものを出来るだけたくさん読んでほしいものですな。人から言われて読んだものはすぐ忘れちゃうけど、自分で選んだものは、ちゃんと栄養になりますから。老婆心ながら、コレ(スマホ)をいじるばっかりじゃなくて、本はぜひたくさん読みましょう。そのことは、やっぱりお伝えしておきたいですな」

 巻末に掲載されている著者オリジナルの童話「こうまははながすき」も心温まるストーリーで、昔のディズニーの短編映画の原作みたいでした。 「できるかな」で大好きだったノッポさんが82歳となった現在でも活躍しているという事実に、わたしの胸は熱くなりました。 わたしが小さい人だった頃の著者は見上げるような「巨人」でしたが、今の著者は「人生の巨人」であると思いました。

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