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文化人類学入門』

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No.1185


 『文化人類学入門 増補改訂版』祖父江孝男著(中公新書)を読みました。

 著者は1926年東京生まれ、49年東京大学理学部人類学科卒、文化人類学専攻。その後、ハーバード大大学院に学び、明治大学政治経済学部教授。国立民族学博物館の創設に参画して、同博物館教授となりました。のち放送大教授、(日本民族学会(現・日本文化人類学会)会長、日本生活学会会長などを歴任。アラスカ先住民の研究が専門でしたが、文化人類学的な日本人論で知られ、『県民性―文化人類学的考察」』(中公新書)がベストセラーとなりました。2012年、86歳で死去しています。


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「人間には文化がある」と大書された本書の帯


 帯には「人間には文化がある」と大書され、「フィールド・ワークによる具体的、実証的な調査。豊かに展開した学問分野を知る最初の一冊」と書かれています。
 また、カバー前そでには以下のような内容紹介があります。


「文化人類学とは、社会・文化・経済・宗教をはじめ諸分野にわたって、またそれぞれに異なる世界の民族を比較検証する広範な研究対象を視野に収めた学問である。その方法論として、フィールド・ワークによる具体的でしかも忍耐強い実証的な調査が重視される。本書は、この多岐にわたる学問を系統的に要約整理した入門の書として、1979年刊行以来、多くの読者を得て版を重ねてきたものを増補改訂し、学界の新しい情報を提供する」


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本書の帯の裏


 本書の「目次」は以下のような構成になっています。


第一章 文化人類学の世界
第二章 人間は文化をもつ
第三章 文化の進化・文化の伝播
第四章 経済の技術・生活の技術
第五章 言語―その構造分析
第六章 婚姻・家族・親族
第七章 超自然の世界―宗教と儀礼
第八章 文化・心理・民族性
第九章 文化の変化がもたらすもの
第十章 残された諸問題
付録・文化人類学を学びたい方のために
参考文献
索引


 文化人類学は以前、「民族学」と呼ばれていた学問分野です。
 「民族学」といえば、同じ音をもつものに「民俗学」があります。
 実際、民族学と民俗学の学問領域は非常に似ています。
 第一章「文化人類学の世界」では、柳田國男による日本民俗学の創始について以下のように述べています。


「柳田は大学で政治学を学んでのちに、当時の農商務省に入った。はじめ国木田独歩や島崎藤村らと交わり、詩人として知られたが、やがて自分の専攻である農業政策の研究において、それまでのような『地主の立場』からではなく、むしろ『庶民・小作人の立場』から研究を進めることに没頭し、そのためみずからのアシで彼らの生活や風俗習慣を調べることを始め、この学問を『民俗学』とよんだのであった」

 また、著者は続けて次のように述べています。


「柳田がこうした研究を始めたのは、彼が大学を卒業して農商務省に入って10年近くたった明治40年代はじめのことであり、貴族院書記官長を経て、朝日新聞社論説委員となったが、のちに自分の邸に研究所をつくり、日本の村落の庶民のあいだに伝えられた風俗習慣、生活技術、伝承などについて膨大な資料を集めたのである」

 文化人類学のルーツについては、以下のように述べられています。


「ヨーロッパの人びとのあいだで、ヨーロッパ以外の土地に住む人間の風俗習慣についての興味が生まれたのは、15世紀におけるコロンブスのアメリカ発見と、それにつづく新しい島々の新発見をきっかけとする」


 こうして世界の人類に関する興味は18世紀に花を開きました。
 これがさらにまとまって、19世紀に1つの学問体系として根を下しました。
 フランスの哲学者であり、かつまた生物学者でもあったエドワールが「民族学」なる名のもとに新しい学問の必要性を提唱し、1839年に「パリ民族学会」が誕生したのです。

 著者は、「パリ民族学会」について以下のように述べています。


「この分野における学会としては、もちろん世界最初のものである。これに刺戟されて4年後の1843年には、英国でもロンドン民族学会が発足し、のちにはフランスをしだいに引き離してヨーロッパでの研究の中心地となり、1884年にはオックスフォード大学に民族学が開講された。大学にこの方面の講座がおかれたのはこれが世界で最初なのだが、英国ではその研究の中心はしだいに社会組織の比較分析におかれるにこととなり、その結果、民族学の名に代って『社会人類学』ということばのほうが用いられるようになっていったのだ」

 日本における文化人類学研究のルーツはどうなっているのでしょうか。
 この分野に関心を抱いた人びとが集まって人類学会が作られたのは意外に古く、1884年(明治17)年のことでした。
 著者は、以下のように述べています。


「ちょうどそのころ東京大学理学部で、動物学科の学生であった坪井正五郎が中心となって始めたもので、当初はわずか20余名であった会員が、数年後には200名を超えている。当時の彼らのいう人類学は、自然人類学のみならず、土器や土偶など考古学の分野から、日本伝統の婚礼習俗、年中行事、具体的にいえばオハグロとか呪符、呪具などの伝統的習慣、さらには当時の文明開化期における日本人の髪型や衣服、履物の急速な変遷についても関心をむけていたようで、日本における文化人類学の研究は、もともとはこの時期に始まったのだった」

 さて、著者によれば、文化人類学の諸分野には以下のものがあります。


1. フィールド・ワーク(実地調査)などの方法論、学説史
2. 民族史(エスノヒストリー ethnohistory)、民族文化史
3. 言語(言語の本質に対する理論、
     諸言語の比較、諸言語の系統論など)
4. 自然環境、生業(狩猟・漁撈・牧畜・農業)、
     衣食住、民具、技術、芸術など。
5. 婚姻制度や家族・親族の構造、社会・政治・経済の仕組み、
     人間関係、さまざまな集団の成り立ち、慣習と制度など。
6. 宗教・信仰・呪術・儀礼・祭礼など。
7. 神話・伝説・民話など。
8. 民謡・音楽・舞踊・劇など。
9. 都市における諸問題、都市文化や文明の影響による変化など。
10. しつけや教育のしかた、人格形成と民族、国民性の特色、
     文化の変化と心理的適応、精神衛生など。
11.その他。


 第二章「人間は文化をもつ」では、文化人類学における「文化」の意味が考察されます。文化人類学でいう文化とは、もっとも簡単にいえば「生活様式」という意味だとしながらも、著者はこれにいろいろな注釈を加えたさまざまな定義を紹介し、以下のように述べます。


「このなかでももっとも古く、もっとも古典的だが、やはりもっとも基本的なものとして、人類学の教科書ともなれば、かならずまっさきにあげられているのが、文化人類学の父と言われる19世紀英国の学者エドワード・タイラーによる定義で、『知識・信仰・芸術・法律・風習・その他、社会の成員としての人間によって獲得された、あらゆる能力や習慣を含む複合体の全体である』というもの」

 このほかにも、いろいろな定義が今日までに試みられており、著者は以下のように述べています。


「文化ということばをとくに『人間の生活様式』にかぎっているのがふつうであり、このため動物の生活様式と比較した際の特色を種々に記述して定義としているのが一般だといってよい。そうした目的からみた場合、私がもっとも適切ではないかと考えているのが、アメリカの人類学者クラックホーンと心理学者ケリーの2人によって1945年に作られた次のような定義である。
 『文化とは後天的・歴史的に形成された、外面的および内面的な生活様式の体系(system of explicit and implicit designs for living)であり、集団の全員または特定のメンバーにより共有されるものである』」

 第六章「婚姻・家族・親族」では、「一夫一婦制と一夫多妻制」の問題が取り上げられ、著者は次のように述べています。


「婚姻を分類するときもっとも基本となる規準は夫婦の数であって、まず単婚制または一夫一婦制(monogamy)と複婚制(polygamy)とを分ける。後者のなかは2つに分けられるが、その第1は一夫多妻制(polygyny)である。これは1人の夫と複数の妻が同時に結婚するもので、無文字社会の各地にみられる(現存する862の社会のうち83パーセントにあたる715社会でみとめられる)」

 続けて、著者は以下のような事実を紹介します。


「実をいうと、世界中どんな人種でも男女の出生比はほとんど1対1なのである(厳密には男105に対して女100)。ところが、社会が文化的に低いほど、そしてとくに狩猟など危険な生業をもっていればいるほど男の死亡率は高くなるし、戦争による死亡ということがこれに加わってくる。しかし文化的に低いところでは、女性が出産に際して死亡する場合も同時に多くなるので、男女の人口差がそれほど多くなるわけではない。それよりもむしろ重要なのは、女性のほうが男性よりも、若くして結婚するという事実であって、無文字社会では男女の適齢期の差が開いていて、男子25歳、女子15歳などというところがたいへん多い。ところが無文字社会では、15歳から25歳までのあいだに死亡するといったケースが多いのであり、かくて適齢期の女性の数は、適齢期の男性の数をずっと上まわり、これが多妻制の要因のひとつになってくるのである」

 第七章「超自然の世界―宗教と儀礼」として、「日本のシャーマニズム」について以下のように述べられています。


「東北地方はおなじ日本のなかでももっとも貧困であり、また衛生状態も悪く、そのために眼病になる者が多かった。こうして視力を失ったもっともめぐまれない女性たちを救う役割を果したのがイタコという制度であり、この地方でイタコが発達したことの背景には、こうした事情があったと言われている。なおイタコについて研究を行なった精神医学者の佐々木雄司氏らによると、イタコが修行期間中におぼえこむことのひとつは、「口寄せ」にあたって死霊のことばとして語るべきお告げのさまざまな基本型である。経済的に貧困な東北地方という土地においては、不幸な経験、とくに不幸なめぐまれない家族関係もその型がおよそ定まっており、したがって、あらかじめ用意された基本型のなかから選びだされたお告げが、個々のケースにぴったり対応し、死霊がほんとうにお告げをしているかのように信じられるという可能性を示唆している」

 このように本書は、文化人類学の概況について解説した入門書です。
 正直言って、内容には古いと感じる箇所もありますが、文化人類学の全体を見渡し、言語、婚姻・家族・親族、宗教などの大きな分野ごとに研究対象や手法も紹介されています。さらには、高校生向けに文化人類学の学べる大学の一覧も付いており、良心的な入門書であると思いました。