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古代の密儀』

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 No.1166

 

 ようやく、クリスマスが終わりました。わたしは扁桃腺を腫らして寝込みながらも、次回作の『儀式論』(仮題、弘文堂)のことで頭がいっぱいです。
 参考文献として、『古代の密儀』マンリー・P・ホール著、大沼忠弘・山田耕士・吉村正和訳(人文書院)を再読しました。これまで「秘儀」に関する本を紹介してきましたが、今回は「密儀」の本です。じつは、「秘儀」も「密儀」も、ともに「秘密儀式」の略語であり、同じ意味なのです。本書の初版は1928年で、何度も版を重ね、「密儀」研究の第一級資料となっています。著者は、米国薔薇十字会の最高幹部で、神秘哲学者として活躍した人物です。

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   本書の帯


 帯には「秘密裡に伝えられた祭儀や寓話の襞々に見え隠れする象徴哲学の系譜を辿り、あらゆる秘密教義を詳細に記述して、西欧近代文明をその奥処で支えてきた象徴体系を明らかにする」と書かれています。
 本書は『象徴哲学大系』の新版の第1巻です。このシリーズは全部で4巻ありますが、わたしは旧版をすでに読んでおり、じつに四半世紀ぶりに本書を再読しました。新版では、カラー図版が豊富に掲載されています。

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   わが書斎の「象徴哲学大系」


 本書の目次構成は、以下のようになっています。


「第十三版への序」
「序」
「序論」
古代密儀と秘密結社―近代フリーメーソンの象徴体系に及ぼした影響
古代密儀と秘密結社 第二部
古代密儀と秘密結社 第三部
アトランティスと古代の神々
トート・ヘルメス・トリスメギストスの生涯と作品
ピラミッドの密儀参入
イシス、世界の乙女
太陽、普遍的な神
ゾディアックと十二宮
イシスのベンバイン表
古代の七不思議
「訳者解説」
「全巻総目次」

 「序論」において、著者は「密儀」と「哲学」と「宗教」の関係について、次のように述べています。


 「哲学は古代の宗教『密儀』から生まれ、『密儀』の崩壊までは宗教と分離していなかったことは明らかである。従って哲学思想の深さを測ろうとする人は、神の啓示の最初の保管者と呼ばれる密儀に通じた祭司の教えに親しまなければならない。『密儀』は超越的な知識の守護者であると主張したが、その知識はあまりに深遠であるので高貴な知性の持主にのみ了解され、あまりに驚くべきものであるのでそれが明らかにされるのは、個人的な野心がなく人類のため無私の心で奉仕するために生きる人だけであった。この聖なる制度の尊厳と、普遍的知恵を持つという彼らの主張は、古代の著名な哲学者たちによって証明されている。彼らは自らその秘密の教義の深い思想に通じ、その有効性を証言しているのである」

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   本書のカラー図版


 著者によれば、「密儀」は秘密結社であり、加入者には絶対の秘密を要求しました。この聖なる義務を破った者は死に処せられました。著者は、「密儀」の本質について次のように述べています。


「象徴は『密儀』の言語である。事実、それは神秘主義と哲学の言語であるばかりでなく、全『自然』の言語でもある。宇宙的な手続きにおいて活動的なすべての法則と力は、象徴という媒体を通じて有限な人間の感覚に現わされるからである」

 さらに著者は、古代の密儀について以下のように述べています。


「古代の密儀に通じた人は物事をよく見ていた。彼らは民族の盛衰、帝国の興亡そして芸術、学問、理想主義の黄金時代の後には迷信の暗い時代が続くことを理解していた。後代の賢者たちを必要として、古代の賢者は自分たちの知識が維持されることを、考えられないほど極端にまで確実にしようとした。彼らは山の表面にそれを彫り込んだり、巨大な像の寸法にそれを隠したりしたが、そのいずれも幾何学的には驚異であった。化学と数学の知識は、無知な人が永続化するように神話に隠されたり、時間が完全には抹殺することのない寺院の径間やアーチに隠されたりした。彼らは人間の野蛮さも自然の無情さも完全には消滅させることのない記号で書いた。今日人々は、エジプトの砂漠に独り立つ巨大なメムノンや、ブランクの段階式のピラミッドを恐れと敬意の念をもって眺める。これらは古代の失われた技術と学問の物言わぬ証言である。この知恵は、人間が普遍的な言語すなわち『象徴体系』を学ぶまでは隠されたままなのである」

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   本書のカラー図版


 「古代密儀と秘密結社―近代フリーメーソンの象徴体系に及ぼした影響」において、著者は「密儀」について以下のように述べています。


「古代世界の都市ではどこでも、大衆の礼拝や献納のためのさまざまな神殿があった。また、どの社会にも『自然』の秘密に通暁している哲学者や神秘家がいた。これらの人々は、普通、一団をなして超俗的な哲学的・宗教的学派を形成していた。そのうち比較的重要な結社が密儀として知られていたのである。古代の偉大な知性の持主はほとんど、このような秘密結社に参入していた。その参入式は異様な神秘的儀式によって行なわれ、極めて残酷なものもあった。アレクサンダー・ワイルダーは『密儀』を『一定の時期に取り行なわれる神聖ドラマ』と定義している。『最も有名な密儀は、イシス、サバチウス、キュべレ、エレウシスの密儀であった。』入門を認められると、参入者は太古より伝わる秘密の知恵を授けられた。プラトンは、この種の神聖な結社の秘伝を受けたひとりだが、彼の書物のなかで『密儀』に関する数々の秘密の哲学的原理を大衆に打ち明けてしまったという理由で厳しく非難されている」

 著者は、古代の哲学者について以下のように述べています。


「古代の哲学者は『自然』についての基本的な知識とその法則を知らなければ、どんな人間も賢く生きることはできないと信じていた。人間は心から従うことができる前にまず理解していなければならない。『密儀』の使命は神の法則が地上的世界でどのように働いているかを教えることであった」


 また、自身が米国フリーメーソンの最高幹部であった著者は、秘密結社について以下のように述べています。


「古代世界では、ほとんどすべての秘密結社が哲学的・宗教的結社であった。中世期には、宗教的・政治的結社が主流を占め、哲学的な結社はごく僅かしかなかった。近代になると、ヨーロッパの秘密結社は大半が政治的、友愛的団体である。だがそのうち僅かであるが、フリーメーソンのように古代の宗教的・哲学的原理を護持している結社も存在する」

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   本書のカラー図版


 よく、人間には「神話と儀式」が不可欠であると言われます。わが「魂の義兄弟」である宗教哲学者の鎌田東二先生も常に口にされています。

 「古代密儀と秘密結社 第二部」には、その神話と儀式の関係が明確に述べられています。すなわち、「神話とはほとんどすべての場合、儀式の筋書きであり『密儀』の象徴体系である」というのです。このように、神話は儀式の筋書きであり、儀式は神話を再現することにほかなりません。

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   本書のカラー図版


「古代密儀と秘密結社 第三部」からは、具体的に古代密儀について語られます。まずは冒頭で、著者は以下のように述べています。
「古来の宗教密儀のうち最も有名なものは『エレウシス密儀』である。この儀式は五年毎にエレウシス市で行なわれた。祭神はケレス(デメテル、レア、イシス)とその娘ベルセフォネである。『エレウシス密儀』の導師たちはその見事な哲学的洞察力と日頃の生活のなかで発揮する道徳的水準の高さ故に、ギリシャ中にその名声が鳴り響いていた。彼らの秀れた能力のおかげでこの『密儀』はローマやブリテン島にまで広がり、後にはこの両地域においても密儀加入式が行なわれた。『エレウシスの密儀』という名は、この神聖ドラマが初めて催されたアッティカ地方の村にちなんで名付けられたものであり、一般には紀元前十四世紀頃エウモルポスによって始められたと信じられている。そしてプラトンの哲学体系を通して、その原理は現代まで伝えられているのである」

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   本書のカラー図版


 「密儀」は人類史において、どのような存在であったのでしょうか。
 「ピラミッドの密儀参入」の最後に著者は以下のように書いています。


「聖書によると、偉大な『バベルの塔』は、言葉を混乱させたが、泥で作った煉瓦と瀝青のモルタルでもって造られた。しかしながら、生命なき信条の冷たい灰のなかから古代『密儀』が不死鳥のように蘇るであろう。他のいかなる制度といえども、人類の宗教的な念願を『密儀』ほど完全に満足させたものはなかったのであって、それは、『密儀』の破滅以来プラトンなら賛成できたであろうような宗教上の法典があったためしがないからである。人間の霊性を説明することは天文学や医学、法学同様に精密科学である。元来、この目的を達成するために諸宗教が開かれたのであり、他ならぬ宗教から科学、哲学、論理学がこの神々しい目的を覚る方法として出て来たのである」

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   本書のカラー図版


 古代の「密儀」は太陽信仰と深く結びついていました。
 「太陽、普遍的な神」の冒頭で、著者は以下のように書いています。


「太陽信仰は、最も初期のそして最も自然な宗教的表現形式のひとつである。複雑な現代神学は、この単純な古代の信仰を単に複雑化し敷衍したものにすぎない。未開の精神の持主は、太陽の情深い力を認めて、それを『最高神』の代理として崇拝した。太陽崇拝の起源に関してアルバート・バイクは、『規律と教義』で次のように簡潔に述べている。『彼ら(古代人)にとって、太陽は物体固有の火、「自然」の火、「生命」、熱、燃焼の創造者であり、また生成の有効な原因でもあった。太陽なくしては、運動も存在も形体もありえないからである。彼らにとってそれは、巨大で分割されず、不滅にしてすべての場所に現われるものであった。すべての人は、太陽の光と創造的なエネルギーが必要であると感じており、太陽の不在ほど恐ろしいことはなかったのである。インド人の「ブラフマン」、ペルシア人の「ミトラス」、エジプト人の「アトム」、「アムン」、「フタ」、「オシリス」、カルデア人の「ベル」、フェニキア人の「アドナイ」、ギリシア人の「アドニス」、「アポロン」は、再生「原理」としての「太陽」を人格化したものであり、世界存在を永続化し活力を与える多産のイメージであった』」

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   本書のカラー図版


 続けて、著者は以下のように述べています。


「すべての古代民族のあいだでは、祭壇、塚、神殿は太陽崇拝に捧げられていた。これらの聖なる場所の廃墟は今なお残っており、そのうち著名なものに、ユカタンとエジプトのピラミッド、アメリカ・インディアンの蛇塚、バビロンとカルデアのジグラット、アイルランドの円塔、イギリスとノルマンディーの巨大な環状石がある。聖書によると人間が神にまで達するために建設されたという『バベルの塔』は、多分天文台であった。
異教とキリスト教の、初期の祭司と予言者の多くは、天文学と占星術に通じていた。彼らの著作は、古代科学に照らして読まれたとき最もよく理解される。天体の構成と周期性についての人間の知識が増すにつれ、天文学的な原理と用語は、その宗教体系に導入された。守護神たちは、惑星の座を与えられ、天体はそれに割り当てられた神の名で呼ばれた。恒星は、星座に分割され、この星座のあいだを太陽と、衛星を伴った惑星がさまよった」


 「訳者解説」には、古代哲学の研究者にしてイシス学院理事長の大沼忠弘氏によって、本書が描かれた時代背景が次のように述べられています。


「19世紀末、ヨーロッパでは幾つかの秘教結社が死闘を演じていた。その潮流を大別すると、ブラヴァツキー夫人の創唱した『神智学』運動と近代薔薇十字団運動の2つに帰することができる。この頃すでにフリーメーソン運動は市民の社交団体となり、秘教結社としては有名無実になっていた。当時の有能なオカルティストは、大抵この二派のいずれか、または双方に関わっている。たとえば、ルドルフ・シュタイナー(1861-1925)も例外ではない。彼は東洋的な神智学から独立し、西洋の伝統に則った『人智学』の一派を立てた。その熱心な弟子のひとりにマックス・グラスホークという人物がいた。彼は筆名をマックス・ハインデルといい、ドイツにおける伝説的薔薇十字団の加盟者だと自称し、その証拠として中世から伝わる薔薇十字魔法の図版類を多数所蔵していた。シュタイナーから圧倒的影響を受けた後、彼はアメリカに渡り、キャサリン・ティングリーの主宰する神智学の一分派に加わる。と同時にヨーロッパから厖大な秘密の文献をアメリカに持ち込んだ。アストロロジーをよくし、『薔薇十字的宇宙観』、『星のメッセージ』等の著作がある」

 そして、本書の著者であるマンリー・P・ホールについて、大沼氏は次のように書いています。


「マンリー・P・ホールはこのマックス・ハインデルの愛弟子である。彼は若くして師の創立した『カリフォルニア薔薇十字会』に入り、その組織力と博覧強記によりたちまち頭角を現わした。1919年、ハインデルが死ぬとき、ホールを後継者として指名したが、このとき彼はまだ20歳に満たない若輩であった。これを不満とした者がハインデルの妻、アウグスタ・フォス・ハインデルを擁立したので『協会』はたちまち分裂状態に陥った」

 その後、1939年にホールはロサンゼルスに「哲学探究協会」という非営利的財団を創設して、初代理事長となりました。ここにはハインデルから受け継いだ薔薇十字的図版・写本類を初めとするあらゆる時代、すべての民族の秘密知識が集積されているといいます。ホールの志とは、アレクサンドリアのムセイオンの再興にあったのです。本書は古今の秘教文献の「提要」となっており、本書を読めば、読者は秘教世界全体にわたる広く深い眺望を得ることができます。